第53話 イベント結果発表(ようやく)
間に合っ……た……(がくっ)
「まにあっ、たぁッ!」
膝立ちになり両手を上げながら上を向いて叫ぶ人物に、周囲の人々が怪奇の視線を向けるが、その人物の発した言葉と現在の時間を確認してなにか納得した様で、すぐに視線を外す。
現在時刻は午後6時57分、結果発表開始時刻の3分前である。
後にホームページで結果は確認できるとはいえ、大々的に発表されるのを見逃したくはないと言う気持ちは今ここに集まっている人達にはよく理解出来た。
だからこそその人物の行動に特に言葉はかけなかったし、何人かの人間は同じ様なパターンだったのか、仲間を見るような目をしていた。
2〜3秒程そのままの姿勢で硬直していた人物……リクルスは「ふぅ」と息を付きながら立ち上がり気分の問題だろう膝をパンパンと叩く。
そして後ろを振り向いてようやく気付いた様だ、いつもならリクルスの奇行にツッコミを入れてくれる幼馴染みの姿が見当たらない事に。
「あれっ?2人ともどこ行った?」
リクルスは気付いていない、と言うか考えていなかった。
軽戦士と重戦士の2つのジョブを取っているとは言えメインは軽戦士であり、それ故にAGIを育て『疾走』のレベルも高い自分と、前衛で戦えるどころか過剰な火力を持つとは言え、称号の効果もありINTをメインで伸ばしているトーカや、最初こそ軽戦士を取っていた関係で少しだけAGIに割り振ったとは言え最近はもっぱら魔道士としてのステ振りをしていたカレットとのAGIの違いを。
「うーん……まぁここにいれば合流出来るだろ」
リクルスが選んだのは待機だった。変に動くよりはここで待っていた方がいいだろう。そう考えたリクルスは、壁に寄り掛かり2人を待つことにした。
◇◇◇◇
「リクルスェ……」
トーカとカレットは現在路地裏をまだ駆けていた。距離的にはそこまで遠くは無いので間に合いはするだろうが、AGIの差で置いていかれてしまっている。
初日こそレベル差もありトーカの方が早かったが、リクルスは軽戦士をメインにしているので、AGIも相当伸ばしている。逆に、トーカもカレットもAGIはあまり伸ばしておらず、特にカレットは軽戦士をサブに持っていながらも魔道士としてのプレイスタイルが確立されているので、どうしてもカレットに合わせると遅くなってしまう。
「うぅ……トーカ、すまない……」
「まぁしょうがないさ、ゲームの中はステータス差はほぼ絶対だからな」
自分のせいで遅れてしまっている事に後ろめたさを感じているのか、カレットはいつもよりしおらしくなってしまっている。
そんなしょぼんとしたカレットを見ていると、少し調子が狂うな……そもそも現実ではカレットが1番足が早いしな。
そんな事を考えながらチラッと現在時刻を確認すると、結果発表まで残り2分を切っていた。裏道で入り組んでいる事もあり、普段よりも移動に時間がかかってしまう事もあり、結構時間を食ってしまっている。
直線距離なら300mも無いのに入り組んでいるせいで遠回りせざるを得ない……こうなったらしょうがない!
「カレットッ!跳ぶぞ!」
「了解だ!って……え?跳ぶってな」
言葉の意味を理解出来ずに混乱してるカレットを抱えて『跳躍』と『空歩』で空を駆ける。抱き抱えられたカレットがぬひゃぁぁッ!と叫んでいるが、カレットは絶叫好きだから大丈夫だろう(暴論)
数回跳躍を重ねた所で空から跳んでくるのは色んな意味で目立ってしまうのではなかろうかと考え、急遽中央広場広場に面している建物の数件奥の建物の屋根に着地する。
「おおっ!なんだ今のは!?凄いぞ!もう1回だ!」
「はいはい後でな、屋根伝いに行けば間に合うだろ、行くぞ」
「絶対だぞ!すごい楽しかったぞ!」
なんかカレットがハマってしまった様だが気にせず行こう。
そして中央広場に面した建物の屋根に到着した時には残り1分と言うぎりぎりな時間になったが、なんとか間に合わせる事が出来た。
「ふぅ、なんとか間に合ったな。後は降りるだけだ」
「いや、ここからでもいいんじゃないか?」
そう言って屋根から飛び降りようとする俺にカレットが待ったをかける。
「なんでだ?」
「だってあれだろう?ここに集めたと言う事はイベント発表の時みたいに空に出てくるんじゃないのか?だったら下に降りるよりもこっちの方が見やすいと思ってな」
確かにカレットの言う通りだな、高い場所から見る方が見やすいだろうだが……
「それリクルスどうすんだ?」
「………………まぁ、それは……その、なんだ、勝手に1人で行ってしまった罰と言うことでどうだ?」
「……………………そうだな」
黒い笑みを浮かべて頷き合うトーカとカレット。しょうがないとは思いつつも置いていかれた事を根に持っている様だ。
一応リクルスには『なんとか間に合った、合流は無理そうだから後で泣鹿亭で』とメッセージを飛ばしておく。
カレットと2人で屋根に腰掛け、インベントリから焼き兎を取り出しカレットに渡す。焼き兎やヘビの串焼きなどを『泣鹿亭』で雑談しながら焼き貯めていたのだ。
「んぐんぐ……んまいっ!やはり私はあっさり塩味が好きだ!」
手渡された焼き兎をカレットが美味しそうに頬張るのを見ながら作ったかいがあったなぁと思うトーカであった。
ついでにリクルスはタレの方が好きだったよな……本当にこの2人は味の好みがあべこべだよなぁ。
チャラララ〜♪チャララ〜♪ララ〜♪
カレットが二本目の焼き兎を半分ほど食べた所でそんな音楽がなり響き、空中に2つの人影が現れる。
1つは黄髪に緑の瞳を持ち、どこかヤンチャ坊主と言った印象を与えてくる見た目10歳程の少年。
もう1つは15cm程の小さい身体に、若干緑色を帯びた透き通った羽を生やし、けれど羽ばたくこと無くぷかぷか浮いていてる、緑の瞳と黄色の髪をポニーテールにした耳の尖った少女。
イベント発表も担当したエボ君と妖精ちゃんのコンビである。
『やぁみんな!久しぶり!エボ君と〜』
『妖精ちゃんことリーリアで〜す!』
「「「うぉぉぉぉぉッ!」」」
一部のプレイヤー達が妖精ちゃんの登場に沸き立ち雄叫びを上げる。なんかもうしっかり妖精ちゃんがアイドルしてるようです。
『みんなイベントお疲れ様〜それではこれからお待ちかねの〜』
そこでエボ君はわざとらしく間を開ける。先程まで沸き立ち、ざわざわしていたプレイヤー達もしーんと静まり……
『イベン『イベント結果発表の開幕〜!』
エボ君の宣言に妖精ちゃんが被せる。一部のノリのいいプレイヤー達はわざとらしくずっこけ(ちなみにエボ君もずっこけてた)妖精ちゃんはちろっと舌を出し、いかにもイタズラ成功!と言った感じで笑っている。
『え、え〜それでは、これから結果発表を開始します!』
復活したエボ君が妖精ちゃんにジト目を送りながら改めて開幕を宣言する。
『それでは最初に防衛率の発表です!』
エボ君が言うと、ドゥルルルルルル……とドラムロールがどこからとも無く鳴り響……あ、妖精ちゃんがエボ君の横でドラム叩いてる。
ドラムロールが鳴り響き、ジャンッ!と言う音と共にエボ君の頭上に大きなウィンドウが現れる(妖精ちゃんはしっかりジャンッ!も合わせてました)
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総合防衛率【77%】……防衛成功
東エリア防衛率【82%】……防衛成功
西エリア防衛率【76%】……防衛成功
南エリア防衛率【64%】……防衛成功
北エリア防衛率【86%】……防衛成功
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『おめでとうっ!みんなのおかげで町は守られたよ!』
ウィンドウを確認し、エボ君の言葉を聞いてプレイヤー達から「よっしゃっ!」や「よかったぁ〜」と言ったか声が漏れる。
防衛成功条件は防衛率が50%を上回る事なので、全てのエリアが達成出来た様だ。とは言え総合的な被害は全体の23%か……現実では1つの都市がテロで23%も破壊されたらとてつもない被害な様な気もしなくはないが……実は今回ログインした時に運営からのお知らせがあり、今回の防衛率と言うのは町を囲む壁の受けたダメージで算出されているらしいので、実際に町への被害は無いそうだ。
例えば、今回の総合的な被害は23%だが、それは町を囲む壁の耐久値を100とした場合の受けたダメージの割合だそうだ。
『さぁ!結果発表終わった事だし、お次は〜』
またしてもわざとらしく間を開けるエボ君、そして被せを虎視眈々と狙う妖精ちゃん……
『ランキ『ラ『ランキング発表ッ!』
今回の勝者はエボ君の様だ。被せて来た妖精ちゃんの言葉に更に被せることで、セリフ被せの仕返しをしつつしっかりと自分で言い切ることが出来た。
妖精ちゃんはあからさまに悔しがっており、エボ君はガッツポーズをしている。そしてそんな姿を微笑ましげに眺めるプレイヤー達。
そんな一幕の後、復活したエボ君と妖精ちゃんによるセリフの取り合いをしつつのランキング発表が始まった。
やりたい事と、やるべき事と、やらなければならない事と、やりたくない事が多すぎて大変どす……
次回も早三日遅五日最悪一週間で投稿するとです
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




