第44話 お前にはガッカリだよ
最近コメント欄で指摘されだしたパワーバランスの件……どうしても作者がインフレ大好き思考なのでそっち方面に偏ってしまうんですよね……
どうにかしようとは思ってもなかなか治らないと言う、そんな悪癖持ちの作者でございます
そしてその悪癖が今回も……
HPが残り1割を切り瀕死となった《劣地竜》。そしてその《劣地竜》が呼び出した10匹の蛇達。
呼び出された蛇達は全員土色をしており、《劣地竜》との違いは体の大きさと額に紋章が無いと言う違いだけだ。おそらくあの蛇達も相当に強いのだろう。自己回復に毒液に確定スタンなどの様々な困難を打開し、ようやく残り1割にまでHPを削ったのに敵の数が一気に増える。
確かにそれは辛いだろう。軽く心が折れ、その場に立ち尽くすしかなくなるかもしれない。
しかしトーカは運営の意図せぬ感情によって動きを封じられていた。いや、封じられていたと言うのは語弊があるか。あまりのショックに動けずにいるだけで、動こうと思えば簡単に動けるのだから。
(は?いやいやいや、それはダメでしょ……)
思わず体から力が抜ける。立っていられないという訳では無いが、先程までの身を焦がすような荒ぶる感情は完全になりを潜めていた。
(最後の最後で敵数が増える。確かにキツイだろうが……それは悪手だろ……)
それどころかトーカの心はどんどん冷えきっていく。身を焦がすほどに荒れ狂っていた闘争心は元から無かったように掻き消え、超えるべき壁、あるいは好敵手を見る様だったその瞳は、もはやゴミを見る様な冷たい瞳になっており、その瞳は動揺に揺れていた。
「別に1対1の戦いが義務って訳じゃないが……マジかよ……」
心が冷えきっていくと同時に冷静さを取り戻して来た頭が、現状を把握していく。結果、頭がはじき出した結論は純粋な一つの感情。すなわちーー『失望』だった。
その失望は自身の頭数を増やし、トーカの持つ称号、『蹂躪せし者』を発動させてしまった事に対する失望だった。
ボスとは言えモンスターにプレイヤーの称号を考えて行動しろ、なんてのは無理な話だとは頭でも分かっていても、心が納得出来ない。
「うわぁ……マジかぁ……」
《スキル『失望』を習得しました》
はは、システムも失望したってよ。効果は……
もはや冷えきったトーカの感情は《劣地竜》を特別なものと捉えておらず、敵の目の前であるにも関わらず今入手したばかりのスキルの効果を確認していく。
『『シュァァァァッ!』』
トーカが目を離したタイミングを見計らって生み出された子蛇(子供かは知らんが)が2匹、飛びかかってくる。
「【インパクトショット】、【ハイスマッシュ】」
飛びかかってきた2匹をトーカは一瞥しただけで視線をウィンドウに戻し、次の瞬間には子蛇の後ろに『縮地』で回り込み、2匹の後頭部に不意打ちを1発ずつ打ち込む。
それだけでHPを全て削り取られた子蛇2匹は、地面に顔を叩き付けられたせいで断末魔の叫びすらあげられずに光となり、書き消えていった。
その残光を見る事すらせずにそこに記された内容に目を走らせる。
そこに記された『失望』の効果は以下の通りだ。
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『失望』
失望し、戦う価値すら見いだせなくなった
敵へのダメージが3倍になる
お前にはガッカリだよ……
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すげぇ、今までで最大のダメージ倍率じゃねぇか。
テメェには興味無いからさっさとくたばれって事かな?
運営もいい趣味してるじゃないか。まぁ普段はほぼ発動しなさそうなスキルではあるがな。
ついでに言うと『失望』はパッシブスキルでレベルとかは無かった。
「これはあれだな、もうアイツ早く殺せって運営からのメッセージだな」
「ちげぇよ!」「急にどうしたのよ……って私のバジちゃんがぁぁぁ!ちょっとアンタどうしてくれるのよ!」「俺は知らん!誰だこんなスキル作ったやつ!」「テメェらうるせぇよ、殺すぞ」「「すいませんでしたッ!」」
丁度トーカがそう呟いたとき、どこかの部屋からこんな会話が響いたそうだが……まぁ関係ない事だろう。
「はぁ、一気に萎えたな……」
《劣地竜》の打った最後の一手は盛大にやらかしたらしい。トーカに失望され、彼に新たな力を与えることになってしまった。
「もういいや……すぐ終わらせよう」
そう呟くと《劣地竜》と8匹に減った子蛇に向かって駆け出す。それに反応して迎撃に来る勇敢な子蛇をアーツや素の連撃を叩き込んで光に変え、《劣地竜》の前まで到達する時には子蛇もその数を半分の4匹にまで減らしていた。
「ハッ!【スマッシュ】【チェインボム】!」
流石に『棍術Lv.1』のアーツである【スマッシュ】では子蛇を一撃では倒せないが、HPは6割方削れるので、続けて【チェインボム】を放てばあら不思議、子蛇のHPを6割近く削り取る蛇爆弾が『爆弾魔』で強化されて爆発するではありませんか。
その爆発に巻き込まれた子蛇達と《劣地竜》だが、《劣地竜》には全然効いておらず、せいぜいHPの1%削れてるかどうかと言った程度だろう。
「フッ!【チェインボム】!」
そして二発目の【チェインボム】。一発目で既に死にかけていた子蛇2匹を爆殺し、僅かばかりのダメージを《劣地竜》に与える。
『キシュァァァァァァァァァァッ!』
子蛇があっという間に全てやられてしまい、また単独に戻った《劣地竜》。だが『蹂躪せし者』の効果は一度発動すると戦闘終了まで効果は切れないのだ。最後の一体をしとめるまでが蹂躪という事だろうか。
「うるさい」
もはや《劣地竜》に何の興味も無くなったトーカは《劣地竜》の咆哮を下顎を亀甲棍で殴り上げることで無理やり中断させる。
かち上げられた頭部を地面に叩き付ける様に《劣地竜》が反撃するが、そこには既にトーカは居ない。
「【ハイヒーリング】、砕け散れ、【グラビトンウェーブ】」
かち上げの直後に『縮地』と『跳躍』のコンボで《劣地竜》の頭上に移動し、『空歩』で3回ほど空中で飛び上がり、仕上げとばかりに地面、正確には《劣地竜》の頭部目掛けて空を蹴り(もちろん『跳躍』を発動して)、亀甲棍をガラ空きの頭部に打ち付ける。
落下ダメージに備えて自身のHPを継続的に回復させる【ハイヒーリング】を発動しておく。
ドゴォォォンッ!
半径5m程にとてつもない衝撃が走り、地面が《劣地竜》の頭部越しに陥没する。その衝撃は残り少なかった《劣地竜》のHPをいとも簡単に吹き飛ばし、土煙と衝撃波の中に光の彩を加えた。
中にはこう思う人もいるかもしれない。あれ?半径5mは被害が小さ過ぎないか?と。そんな人はもうトーカに毒されてしまっています!
そして何故こんなに小規模なのかと言うと、モンスター達を『峰打ち』で殺さない様にしながら『飛ばし屋』と『威圧』を合わせて大量に1箇所に集め、兎爆弾で爆破するという遊びをしている時に入手した『手加減』と言うスキルのお陰だ。
ちなみにこの遊び中は『外道』が常時発動してました。
この『手加減』と言うスキルは『峰打ち』と似て非なるもので、『峰打ち』が任意で敵のHPを1残す事が出来るスキル。そして『手加減』は攻撃の威力を調整出来るスキルだ。
例えば、HPが100のモンスターに1000のダメージを与える際に『峰打ち』を使うと、与えるダメージに関わらず相手のHPが1残るので、HP1と言う瀕死の状態にする事が出来る。
一方『手加減』は、与えるダメージの方を100ダメージや50ダメージ等に調節出来ると言うスキルだ。
そしてこのスキルは結構融通が聞くので、今回は《劣地竜》に与えるダメージはいじらずに、環境ーーつまりはフィールドに与えるダメージを最低限に調整したのだ。
そしてこのスキルは運営(主に山田)がトーカに、半ば無理矢理取らせた……と言うかトーカのスキルの中にねじ込んだものなのだが、それは知る由もない事である。
《東エリアのイベントボスが討伐されました》
《以降は東エリアに新モンスターが出現します》
《劣地竜》の残光が未だに舞うクレーターに、スタっと音を立ててトーカが着地する。
落下ダメージでHPは減っていくのだが、【ハイヒーリング】の効果で減るはしから回復していくので死ぬ事は無かった。
「へぇ、ボスって討伐されるとアナウンスが流れるのか……って事はここがボス討伐一番乗りか、そりゃ良かった。これでリクルスとカレットに自慢出来るな」
悪そうな顔で(下半分しか出てないが)ニヤッと笑ったトーカは、だが次の瞬間に足元に目をやり、表情を曇らせる。
「釈然としねぇぇぇぇぇぇッ!」
そして感情のまま思いっ切り叫ぶ。《劣地竜》を倒した事に気が付き、近付こうとして来ていたリベットが突然大声をあげたトーカにビクッ!としているのが視界の隅に映る。が、トーカは止まらない。
「最後の最後で相手を強化するような事するか!?普通!」
何を隠そうトーカは「さあ!回復してやろう!全力でかかってくるがよい!」的な行動をするキャラが嫌いなのだ。
戦いの前に相手を回復してやる?確かに正々堂々戦おうという素晴らしい行動だ。しかし同時にこう思ってしまう「バカじゃねぇの?」と。
しかし、それだけならまだいい、「バカじゃねぇの?」程度で済むし、何より先程言ったように正々堂々戦おうという素晴らしい態度には好感が持てる。
ただし、『戦闘中にこっちにバフかけてくる奴』テメーはダメだ。戦闘前に回復してくれるならともかく、戦闘中に相手を強化するとか頭沸いてんじゃねぇの?それともおちょくってるのか?
と考えてしまう人種なのだ。
そんな思いを抱えていたせいで、いつの間にかその様な行動をするキャラが嫌いになったのだ。
「しかも呼んだのが揃いも揃って雑魚ばっか!バカにしてんか!?」
「ちょ……と、トーカ落ち着けよ」
「……はっ!リベットか。すまんちょっと暴走してた」
おっかなびっくりと声をかけてきたリベットにようやく正気に戻ったトーカが頭をぽりぽりかきながら反応を返す。
「トーカ、ありがとう。アイツを倒してくれて」
「あぁ、気にすんなよ。俺だって元々ボスを倒そうと思ってこっちに来たんだから」
「それでもお礼を言わせて欲しい。トーカがいなかったら……」
「そう……か。じゃあ素直にお礼を受け取っておくかな」
「あぁ、そうしてくれ」
そう言ってトーカとリベットは軽く笑い合った。
その後、リベットとフレンド交換をしてから、《劣地竜》戦を立ち尽くして見ているだけだったプレイヤー達が寄って来たので、トーカは『跳躍』と『空歩』を駆使して東エリアを後にした。
「危ない、危ない」
先程までの場所から遠ざかった空中で、トーカはふぅと一息漏らすと、そう呟いた。
トーカが他のプレイヤー達が来る前に撤退したのは面倒事の気配を感じたからだ。流石に自分の火力がおかしい事になっているのは自覚しているので、その事について言及されるのが目に見える。
トーカは出来るだけそう言った情報は秘匿したい派なので、根掘り葉掘り聞かれるのを避けるために、誰も追っては来れないであろう空中へ避難することにした。
どうせこちらが何も答えなかったら勝手にヒートアップしてそのうち「もうチートや、チーターやろそんなん!」だとか言い出す奴が出てくるに違いない。そんなのはゴメンだ。
「この後はどうすっかな……」
最後に不満は残れどボスは討伐出来たしな、現在時刻は8時30分、イベント終わるまでは……確かイベントが最長で四時間……つまり午後10時までなので後一時間以上ある。
確かボス出現のアナウンスがあったのが8時で俺がボスと遭遇したのが15分頃だったから……俺ボスと15分位しか戦ってないのか。
ボス戦は不完全燃焼だったし、時間はまだあるし、さしあたってこれからの目標は新モンスターとやらを狩るってとこかな。
本来ならスカッとぶっ飛ばすはずだったのにどうしてこうなった……もう行くところまで逝ってしまおうか……
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




