第43話 飾りも充分大切です
修正したけどまだ『呪術魔法』が強すぎるとの意見がちらほら……パワーバランスって難しい
STRを失ったリベットが、半ば絶望に心を飲まれかけたように、しかしそれでもなお攻撃してこようとしている《劣地竜》を迎撃しようと槍を構えている横で、同じ状態異常にかかっているはずのトーカは何故か余裕そうな笑みを浮かべて亀甲棍を振りかぶり、1歩踏み出した。
「ハァッ!【アースクラッシュ】ッ!」
踏み込みと同時に発動した『縮地』で《劣地竜》の死角ーー頭部の下に移動したトーカは、思いっ切り亀甲棍を振り上げ、《劣地竜》の下顎に【アースクラッシュ】を打ち込む。
STRがゼロにされ、『亀甲棍』や『???の短剣』などの装備により、普通より多くの補正がかかってるとはいえ、その程度では《劣地竜》には大したダメージは与えられないだろう。
しかし、結果は違った。
ドゴォォンッ!
『キシュァァァァァッ!?』
死角から振り上げられた【アースクラッシュ】に反応出来なかった《劣地竜》はとても素のステータスのSTR値がゼロとは思えない攻撃力を持った一撃に吹き飛ばされ、そのHPを5%ほど削られ、またしても草原に仰向けに転がされてしまう。
「ふぅ……よし、割と大丈夫だったな」
大丈夫だろうとは思っていたが、万が一という事があるので少しばかり不安だったが、しっかりとダメージを与える事が出来たようで何よりだ。
え?何でSTRゼロにされてるのにそんな火力が出るのかって?
ハッハッハ、それは単純。前に取得した、今の俺の火力の大部分を支えてくれている称号、『撲殺神官』のおかげだ!
その効果がこちら!
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『撲殺神官』
神官なのに撲殺し続けた証
打撃系武器装備時、INTの値をSTRに加算する
ねぇ、あなた聖職者だよね?
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この称号によって神官に必要なINTを上げると同時に、攻撃力に直結するSTRを条件付きとはいえ同時にカバー出来るのだ!そして加算されるという事は素のステータスをゼロにしても影響が出ないという事だ。
俺の現在のSTRは60、INTは140ある。『ジャイアントキリング』の効果でステータスが1.5倍になっているのでINTが210になり、装備品での上乗せが『戦神官の服』の上下で30、『白狐面』で15の合計で45あるので、それと合わせて255。装備によるSTRの上乗せが『亀甲棍』が30、『???の短剣』が50、『戦神官の服』の上下で20で合計100なので、255+100で355のSTRがあると言う事になる。
この数値なら並のプレイヤーのSTRよりは多いだろう。更に言えば『外道』や『不意打ち』の効果でダメージ量も増えているので、素のSTRがゼロにされていても相当な威力が出るのだ。
しかもこれでもフルでは無いのだ。今は2対1でこちらの方が多いし、そもそも相手が1体なので、『蹂躙せし者』が発動していないし、STRがゼロになってしまっているので『打撃好き』の効果も意味をなしていない。もしこれらが全て発動すれば、最終的なSTRは622と言う馬鹿みたいな数値になる。
この数値をSTRにSPを振る事だけで行こうとしたら、43レベルまでSTRに全てのポイントを振ってようやく到達できる数値になっている。
まぁ実際は装備などでの補正がかかるのでもう少し早く到達出来るだろうとは思うが、そこまでするプレイヤーなんて、なかなかいないだろう。
と、長々と語ったが何が言いたいかと言うとーー
「素のSTRなんて飾りです、偉い人にはそれがわからんのです」
「いや、前衛職に取っては最も重要なステータスの一つだぞ?」
有名なセリフのオマージュ(決してパクリでは無い、いいね?)を《劣地竜》に向けて言葉にすると、理解不能が一周してむしろ冷静になったリベットに突っ込まれてしまった。
「はは……トーカ、お前は何者なんだ?まさかチーター……とか言わないよな?」
もはや理解不能な存在であるトーカに、乾いた笑いを浮かべリベットが問いかける。その質問に対しトーカは苦笑いで言葉を返す。
「チートなんかしてないぞ、称号の効果だな。名前と効果が少しおかしいのが何個も何個も掛け合わされて……まぁ、あれだ、塵も積もれば山となるってやつだな」
「山となる……ね。その山って富士山か?それともエベレストか?」
「さぁ?マウナ・ケア山辺りじゃないか?」
「それ段々沈んでくヤツじゃないか……」
軽いやり取りを交わしてから俺は《劣地竜》に向かっていく。リベットは流石にSTRが無いと戦いにならないと悔しそうに、俺に「頼む、アイツを倒してくれ」と言って邪魔にならない位置まで移動していった。
囮としてでも戦いたかった様だが、先程までの戦いを見てどう足掻いても邪魔にしかならないと判断した様だ。本当に、それはもう本当に悔しそうに俺に《劣地竜》の討伐を託して下がって行った。
リベットの思いに報いる為にも《劣地竜》は絶対に倒さないとな。まぁ元々負ける気はさらさら無いが。勝てるかどうかは別として負けるつもりで挑む奴は居ないだろう。
『シュァァァァッ!』
何度も殴り飛ばされればどんな奴でもその相手に殺意の一つや二つ抱くだろう。《劣地竜》は最初に見た時よりも数段階も深く煮えたぎった怒りと殺意を込めて俺を睨み付けてくる。
「そっちはもう瀕死、こっちは紙防御だし1発でも喰らえばお陀仏だろう。ははっ、お互いすぐ死にそうだな?」
どうしたんだろう、普段の俺なら言わない様な言葉が、思考がポロポロと溢れ出てくる。イベント熱にでも当てられたのだろうか。
いや、違うな……当てられたのはリベットの本気の熱にだろう。さっきまでもコイツは倒したかったしそれより前もイベント云々は抜きにしてモンスターを倒す事を楽しんでいた。
けど今は何より純粋にコイツを倒したい。
「だったら……どっちが先に死ぬか、だ」
『キシュァァァァァァァァァァッ!』
俺の言葉が通じていたのかは分からないが、俺が言葉を言い切ると同時に《劣地竜》が飛びかかってくる。
その速度は先程までよりも格段に素早くなっており、それがHPの減少によるステータスの上昇なのか、はたまたそれ以外の要因なのかは分からない。
ただ《劣地竜》の動きが先程よりも素早く、加えて言えば俺の体も先程までよりも素早く動く事は確かだ。
「シッ!【インパクトショット】ッ!【スマッシュ】【ハイスマッ…シュ】ッ!【プッシュメ……イス】ッ!」
『シュァッ!?シュァァァァッ!』
『縮地』で真後ろに回り込み、『棍術』アーツによる三連撃を《劣地竜》の背中に打ち付け、反撃の尻尾による殴打に【プッシュメイス】をぶつける事で、なんとか衝撃を相殺する。
しかし完璧に相殺し切れず、少なく無い量のダメージを受け、少し吹き飛ばされる。だがすぐに【ヒール】を発動しHPを回復する。
自分が受けたダメージを自分で回復させられると言う大きな利点があるのに神官で前衛をしている奴を見かけないのは何でなんだ?
『シュァァァァァァァァァァァッ!』
「っと危ねぇッ!」
【プッシュメイス】の反動を利用して距離をとったはずだったが、一瞬で距離を詰めてきた《劣地竜》の尾による薙ぎ払いの強打を、思考を中断してギリギリで後ろ向きに倒れ込むように回避する。
「考え事なんかしてる余裕はねぇよな!【アースクラッシュ】ッ!」
倒れた体勢のまま、真上にあった《劣地竜》の尻尾を【アースクラッシュ】で思いっ切り打ち上げる。
体勢が悪く上手く力を乗せられなかったので、大したダメージにはなっていないだろう。しかしそれでも『飛ばし屋』の効果か《劣地竜》の尾は打ち上げられる。
その隙に、『疾走』と『隠密』を発動して《劣地竜》の尾の下から駆け出る。短い時間だったが、尾の下にいる間はずっと『威圧』を発動していたので、存在感のギャップで気付きにくくなっているだろう。明るい光のそばにある弱い光は見えにくいのと同じ原理だ。いや、ちょっと違うか?
この技の効果はイベントの雑魚モンスター達で実践済みで、しっかりとまどわされてくれたので、《劣地竜》にどのくらい効くかは分からないが多少は効果があるだろう。
どうやらその通りだったようで、《劣地竜》は俺を見失いキョロキョロとし出す。そしてすぐに俺を見つけたが……数秒の隙さえあれば充分だ。
「ハァッ!【グラビトンウェーブ】ッ!」
《劣地竜》の胴体の中程までの距離を走り、『跳躍』を発動して前方に跳ぶ。何も『跳躍』は真上にしか跳べない訳では無い。立ち幅跳びの様に前に跳躍する事だって充分可能だ。
そして空中で体勢を整え、三角飛びの要領で《劣地竜》の頭部の真後ろに回り込む。
現在の《劣地竜》は尻尾と頭を同じ方向に向けている……つまりはU字磁石の様な体勢で、主に尻尾の辺りを見渡して既に居ない俺を探している。
すると当然いきなりの頭部への攻撃は『不意打ち』扱いになり、最近気が付いたのだが、『不意打ち』が発動すると必ずセットで『外道』が発動している。どうやら《EBO》は不意打ちは外道だと言いたいらしい。運営は不意打ちに恨みでもあるのだろうか。
『シュァァァァァァァッ!?』
後頭部を思いっ切り殴り付けられた《劣地竜》は盛大に顔面を地面に打ち付け、大きな悲鳴をあげる。
『空歩』と『跳躍』の合わせ技により加速された勢いの乗った【グラビトンウェーブ】は、《劣地竜》に打ち込んだ初発ほどの威力は無かったが、それでもしっかりと《劣地竜》のHPを5%程吹き飛ばす。
『キシュ、キ……シュァァァァァァァァァァァァァッ!』
HPが残り1割を切った《劣地竜》は、今までとは比べ物にならない程の音量の咆哮を放つ。その咆哮によってHPがガリガリ削られていくので、慌てて飛び退き、【ハイヒーリング】を自身にかける。すると咆哮のスリップダメージよりも、【ハイヒーリング】の回復量の方が多かった様で、ゆっくりとだが削られたHPが回復していく。
「あっぶねぇ、危ねぇ」
一時的に2割を切るまでに減らされたHPに冷や汗をかきながらも、無意識に口角を吊り上げ、《劣地竜》の次の動きを見逃さない様にしっかりと見据える。
その視線の先では、《劣地竜》の咆哮に呼応する様に地面が盛り上がり、《劣地竜》を三回りくらい小さくした様な蛇たちが、いち、に、さん……計10匹這い出てきていた。
「……はっ?」
『撲殺神官』の効果に付いては、コメント欄でネーミングを聞いて(見て?)ハッと思い付き実装したらトーカの火力が一気にインフレしたという諸悪の根源です(酷い言いがかり)
でも後悔はしてません!あい らぶ いんふれ!
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




