第40話 死者の声は届かない
リベットの勇姿を目の当たりにし、リーダー役に発破かけられた事もあって、立ち尽くしていたプレイヤー達はやる気を取り戻していた。
「オオッ!【エリアアタックアップ】!」
「食らえッ!【ディープスラッシュ】ッ!」
「ウオラァァァァッ!【破豪】ッ!」
「ハァァァァァッ!【ランスショット】ッ!」
『付与魔法Lv.5』で使用可能になるエリア系の強化によって一気に複数人のプレイヤーのSTRが強化される、そして強化されたSTRに物を言わせたアーツラッシュが絶望の根源たる《劣地竜》に無数に打ち込まれていく、
《劣地竜》もただやられるだけではなく尻尾の薙ぎ払いによってプレイヤーを吹き飛ばそうとしているのだが、【エリアディフェンスアップ】によって強化されたタンクのプレイヤー達にその攻撃を防がれ、減らしたタンクのHPはすぐさま神官によって回復される。
一度絶望し、そこから這い上がってきたプレイヤー達の結束は固く、先程まではてんでバラバラに攻撃していたプレイヤー達は、リーダー役の指示の元、連携を取って《劣地竜》を攻撃していく。
すると先程までとは比べ物にならないペースで《劣地竜》のHPが削れていき、遂にHPが8割を切る。
『シュァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
その瞬間、《劣地竜》は先程まではとは質の違う鋭い咆哮を上げ、尾を振り回す。突然の行動に既に数回見ているはずのプレイヤー達も反応しきれず、タンクをしていたプレイヤー達もたまらず吹き飛ばされてしまう。
幸いにもその行動の攻撃力自体はあまり高くない様で、それで死亡するプレイヤーは居なかったものの、《劣地竜》と距離が空いてしまう。
そして駆け寄ろうとするプレイヤーよりも早く《劣地竜》はとぐろを巻き始める。自己回復のモーションだ。
「やべぇ!早く止めないと!」
「いや!待つんだ!」
数人のプレイヤーが焦って止めに行こうとするが、それを静止するようにリーダー役の声がかけられる。
その声に苛立った様に反論しようとした駆け出したプレイヤー達だが、その声が発せられる前にリーダー役は言葉を続ける。
「みんながバラバラに攻撃してもきっとダメだ!ならタイミングを合わせて一斉に強攻撃をするんだ!」
「ッ……!」
正論だと思ったのか、反論しようしていたプレイヤーは口を閉ざし、素直に指示に従う体勢を見せる。それを見て満足したように頷いたリーダー役は同じ事をもう1度他のプレイヤー達にも伝え、《劣地竜》を包囲する様な陣形を作っていく。
《劣地竜》の自己回復はとぐろを巻くモーションをってからきっかり2分後に自己回復が開始し、1分程で回復しきる。そしてまだ、回復は始まっていない。
「みんな準備はいいか!?神官の人はバフを頼む!行くぞっ!」
「「「「「オオッ!!」」」」」
「【エリアアタックアップ】!」
「【エリアアジリティアップ】!」
「【ライトニングランス】ッ!」
「【デュアリングエッジ】ッ!」
「【破豪】ッ!」
「【アースクラッシュ】!」
大量のプレイヤーが一斉に己が使える最強のアーツを繰り出したことにより、ズガガガガガンッ!ズドガンっ!ズガッ!ズドンッ!と様々なアーツが織り成す多重奏が草原を震わせる。
そして
『シュァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
今まさに回復しようとしていた《劣地竜》がたまらずと言った様に悲鳴にも似た咆哮を上げ、跳ね起きる。
「「「「「ッ!シャァァァァァァァッ!」」」」」
忌々しい《劣地竜》の自己回復を阻止できた喜びの声が《劣地竜》の咆哮と重なりプレイヤー達から放たれる。
そして回復を妨害された《劣地竜》は、瞳に怒りと宿し咆哮を上げながら暴れ狂う。たまらずプレイヤー達は少し遠くに避難するが、その顔はとても晴れ晴れとしていた。
それもそうだろう、自身に絶望を突き付けていた自己回復はキャンセル出来ると判明したのだ。
もちろん本来ならキャンセル出来るはずではあるが、「もしかしたら東エリアは負けイベントなのではないか?」と言う疑問を払拭出来ずにいたのだ。それを自身の手で違うと証明する事が出来たのだ。
プレイヤー達は再び闘志を奮い立たせ、より強まった結束で《劣地竜》への攻撃を繰り出す。
自己回復は破った!さぁ、ここからは俺達のターンだ!
……………………とはならなかった。
《劣地竜》の動きは先程よりも更に機敏になり、攻撃力や防御力も上昇しているのか、先程よりも明らかに受けるダメージは大きくなっているし、与えるダメージは小さくなっている。
回復を妨害された鬱憤を晴らす様に暴れ回る《劣地竜》にタンクは吹き飛ばされ、そうでないプレイヤーは簡単にやられていく。
先程とはまた違う意味でプレイヤー達の心を折りに来ているが、一度は絶望から這い上がってきた来たプレイヤー達は、リベットやリーダー役を軸として必死に暴れ回る《劣地竜》に抗っていく。
『シュロロロロロッ!』
苛立った様に尾を振り回す《劣地竜》は自身が段々と押され始めている事に気が付いているのか、その瞳には若干の焦りが見え始めてきている。
そして遂に《劣地竜》が新たな手札を切る。
『シュロロロッ!ロブォッ!』
「なんだこ、わぷッ!?」
「うわっ!?毒だ!毒撒き始めたぞ!」
毒々しい紫色の紋章を輝かせ《劣地竜》が口から紫色の液体ーー毒液を撒き散らし始める。
毒液自体にダメージは無いものの、喰らうと強力な毒状態になってしまう上に、ステータスも低下させられてしまうと言う凶悪なものとなっている。
「ッ!毒喰らった人達は下がって!神官は解『シュァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
リーダー役の指示に被せる様に《劣地竜》の咆哮が響き渡る。それは《劣風竜》も使ってきた相手をスタンさせる効果を持った咆哮で、しかも厄介な事に毒を喰らっているプレイヤーには必中なのか、毒状態のプレイヤー全員とそうでないプレイヤー数人がスタンさせられてしまう。
「体が……動か……グァァッ!」
「助けっ……うわぁぁぁッ!」
そしてその隙を《劣地竜》が逃すはずも無く、他のプレイヤーへのヘイトをまるで無視した様な動きで、スタンで動けないプレイヤー達を尻尾で薙ぎ払い、あるいは噛み殺していく。
「クソッ!毒液は絶対に浴びないように!」
リーダー役の焦った様な指示に他のプレイヤー達も慌てた様に《劣地竜》から距離を取り、武器を構えてはいるが、先程の毒液からの咆哮のコンボを見せられ、迂闊に動けない様で攻め込めずにいる。
プレイヤー達が手を出しあぐねている事に気が付いた《劣地竜》はチラッとプレイヤー達を見ると、こちらを嘲笑う様に短く一声、『シュロッ!』鳴くと、悠々と町へと歩みを進める。
町への侵攻を阻止しようと数人のプレイヤーが追いかけるが、毒液からの咆哮コンボで動きを封じられ、簡単に叩き潰されてしまう。
その光景を見せられたプレイヤー達は、《劣地竜》を追いかける事も出来ずにその場に立ち尽くしてしまう。
「クソォォォォッ!絶対に行かせるかァァァッ!」
他のプレイヤー達が動けずにいる中、またしても1人飛び出したのはやはりリベットだ。プレイヤー達に背を向けた《劣地竜》に向かって雄叫びを上げながら飛び掛り、【ライトニングランス】を打ち込む。
『シュロロロロッ、シュロッ!』
背中への不意打ちを受けた《劣地竜》は一瞬体勢を崩すものの、物凄い反応速度でカウンターの噛み付きを放ってくる。
「危ねぇッ!これでも喰らえっ!【ブレイクランス】ッ!」
『シャァァァァァァァッ!?』
《劣地竜》の噛み付きを既の所で回避したリベットは、間近に迫っていた《劣地竜》の眼球に【ブレイクランス】で槍を突き刺す。
眼球に槍を突き刺されては流石の《劣地竜》もたまらず悲鳴を上げ、しっちゃかめっちゃかに身をよじり尾を振り回す。
『シャァァァァァァァッ!!!』
「なッ!?ぐぁッ!」
そしてめちゃくちゃに振り回された尾の一撃が運悪く、離脱しようとしていたリベットの背中を捉えてしまう。自身の瞳に槍を突き刺してきた相手の位置を今の一撃で把握した《劣地竜》は、吹き飛ばされ転がっているリベットに向かって尾を何度も、何度も何度も執拗に振り下ろす。
ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!「ぐぁッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!「ぐはッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!「うぐッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!「がぁッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!「が……はっ……」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!
《劣地竜》による尾の振り下ろしはリベットのHPを余さず消し飛ばし、その器が光となって掻き消えた後も何発も打ち込まれ続ける。
『シュロロッ!』
そしてようやく満足したのか短く一声鳴くと今度こそ町へ向かって這いだし始める《劣地竜》を他のプレイヤー達は追うことも出来ずに傍観しているしか出来なかった。
突然だが《EBO》におけるプレイヤーの死後の話を少しさせて貰いたい。《EBO》にはプレイヤーの蘇生手段が幾つか用意されている。それは、死亡してから蘇生可能時間の間にその蘇生手段を取るとデスペナルティ無しでその場に復活出来るというものだ。
例えば、『回復魔法Lv.5』で使用可能になる【リヴァイブ】は対象をHP1で蘇生させる事が出来る。他にも、現段階では手に入らないが、『命の宝玉』や『世界樹の葉』と言ったアイテムでも蘇生させる事は可能だ。
え?『世界樹の葉』は見た事あるって?
ハハッ、ソレハキノセイデショ
……ゴホンッ!それでは気を取り直して、《EBO》では死亡したプレイヤーの死体はその場に残らず、モンスターと同じように光となって掻き消える設定になっている。
ところが、実はそのタイミングで町へと強制送還させられているのではなく、死亡してプレイヤーの体が消えた後に、霊体とでも言うべき存在となって1分から3分程度の時間、その場に留まり続ける。
残留時間はLUKにすら左右されない完全にランダムになっており、どうあがいてもプレイヤーが残留時間を決める事は出来ないのであしからず。
そして、その霊体は蘇生手段を持っている(蘇生魔法を使えるか蘇生アイテムを持っている)プレイヤー以外には視認も出来なければ触れる事も、声をかける事も出来ないのだ。
そして蘇生手段を持っているプレイヤーにも声は届かず、せいぜい身振り手振りを視認してもらう程度しか出来ない。
つまり、何が言いたいのかと言うと……
『クソッ!待てッ!待てよッ!待ってくれよ……!』
今この場で死んでしまったリベットには《劣地竜》をどうする事も出来ないと言う事だ。
戦って足止めする事も、早く町へ戻り再び戦場へ駆けつける事も。
透けた体になり、その場に立ち尽くすしかないリベットは段々と遠ざかっていく《劣地竜》の背に手を伸ばし、悔しそうに、懇願する様に《劣地竜》の背中に声を投げかける事しか出来なかった。
しかしその声は決して《劣地竜》に届く事は無い。彼はもう既に死んでしまい、その声は命ある者には届く事は無いのだから。
《劣地竜》戦は長くなりますが(話数的に)短いです(経過時間的に)
やはり主人公サイドの話は筆が進む
主人公まだ出て来てないけど……
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




