第39話 たとえゲームだとしても
トーカだと思った?残念!新キャラでした!
「ウォォォォッ!!喰らえッ!【ブレイクランス】ッ!」
心が折れ、絶望に顔を染めているプレイヤー達の中、1人のプレイヤーが必死の雄叫びを上げながら槍を構え、《劣地竜》に突撃する。
彼が使ったのは『槍術Lv.5』で使用可能になるアーツ【ブレイクランス】。単純な破壊力もさる事ながら、攻撃後に初発のダメージの半分の威力の衝撃波が追撃すると言う、釘パ〇チの様なアーツである。
ズガンッ!ズドンッ!
二重に響く衝撃音が辺りに響き渡り、その攻撃の威力の高さを否応なく連想させた。しかし、それを受けた《劣地竜》のHPバーは1%程しか減っていなかった。
現在の《劣地竜》のHPはまだ9割以上残っており、それから考えると相当量削った方だろう。しかし、その結果はプレイヤー達に更なる絶望を与えるものでしか無かった。
今【ブレイクランス】を放った彼の装備は、傍から見ても相当良いものだと分かるような装備で、無駄に着飾った豪華さは無けれど、その質の良さは一目で分かる代物だった。
そんな彼の一撃ですら、《劣地竜》のHPバーを1%削る事しか出来なかったのだ。
とは言え、イベントボスが異常に硬く、また攻撃力もバカ高い程度で心が折れるプレイヤーはいないだろう。
では何が彼らの心を折っているのか?それは簡単、《劣地竜》は自己回復する事が出来るからだ。
ボス出現のアナウンスから、実際にボスが出現するまでには数秒から数分のタイムラグが発生している。その中で《劣地竜》はアナウンスから一番早く出現し、戦闘を開始していた。
そしてあまりの硬さと攻撃力にひーひー言いながらもHPを8割がた削った時だった、《劣地竜》が頭部を隠すようにとぐろを巻き、動かなくなったのだ。
何事かと疑問符を浮かべていたプレイヤー達の目の前でソレは起こった。《劣地竜》のHPがどんどん回復して行くではないか。
やっとこさ8割がた削ったHPがものの数秒で完全に回復してしまうと言う現象にプレイヤー達は絶望を覚え、それでもと挑み続け、必死の思いで削ったHPはいとも簡単に回復されてしまう。
それはプレイヤー達の心を折るには充分な絶望だった。
それは今【ブレイクランス】を放った彼も充分分かっている事だろう、しかし彼は一歩も引かない。その瞳には何かを絶対に守ろうとする必死さが滲み出ていた。
彼の名はリベット。親友と一緒に《EBO》を始めた初日組のプレイヤーである。
リベットは色々なゲームを親友と2人で渡り歩いており、大体はリベットが前衛職、彼の親友は後衛職か生産職を生業としているプレイヤーだった。
そして今回の《EBO》で彼の親友は生産職を選んだ。
生産職を選んだ彼の親友は自身の工房を持ちたい!と初日から必死に資金集めに奔走し、リベットもそれを手伝っていた。親友は色々なアイテムを作ってはプレイヤーやNPCに販売し、リベットはレベル上げも兼ねて色々なフィールドに出向いてはクエストをこなしたり素材集めをしたり、使うお金は最小限にしたりして、二人揃って必死に資金集めをしていたのだ。
そしてイベント告知がある数日前にようやく資金が集まり、彼の親友は東門の近くに個人工房を買う事が出来た。
工房と言ってもそこまで立派なものではなく、せいぜい鍛冶をする為の金床やポーションやらを作る為の調合場所などがある程度の小さな工房だ。
されども必死に資金集めに奔走しようやく持てたマイホーム(ホームでは無いが)だ。その時の親友の心底嬉しそうな顔は今でもリベットの脳裏に焼き付いている。
リベットは念願のマイ工房を持つ事が出来てより一層生産に没頭している親友のサポートをしながらも、これまでの慌ただしさと打って変わって穏やかな生活を送っていた。
その穏やかな生活が3日ほど続いた頃、町襲撃イベントの告知が行われ、それは1週間後にこの町は襲撃されると言うものだった。そしてその時の口振りから襲撃イベントで破壊された物は自動復旧はされないだろうと理解させられた。
その時の親友の絶望した様な顔は、マイ工房に初めて入った時の嬉しそうな顔とセットで脳裏に焼き付いている。親友の工房は東門からほど近い場所に位置しており、町が蹂躙される際には真っ先に破壊されるエリアにあるのだ。
幸せの絶頂から地獄の底に叩き落とされた様な、人間ここまで両極端な表情が作れるのかと言うほどの親友の表情の落差を見たリベットは、親友の大切な工房を絶対に守り抜いて見せると固く決意した。
そして彼は北エリアに行ける実力があるにも関わらず、何人かのフレンドの誘いを丁重に断り、東エリアを選択したのだ。
しかし、蓋を開けてみれば東エリアには《劣地竜》と他のボスとは一線を画す最悪のボスが君臨した。
彼も一度は絶望に心を飲まれかけた、しかしあの日の決意を、親友のようやく手にした幸せを壊させる訳には行かないと、イベント前日に親友が泣きそうな顔で「お願いだ……僕にはどうする事も出来ない、だから頼む……」と言って手渡してきた親友が作れる最高の装備を手に、彼は心を奮い立たせ、《劣地竜》へと挑み続ける。
無謀だと分かっていながら、折れる訳には行かなかった。
なぜなら、リベットは知っているから、親友がどれだけ必死に資金集めに奔走していたのかを。
人によってはたかがゲームの出来事と鼻で笑うかもしれない、しかし親友に取っては何よりも大切な場所なのだ。それを知っているからこそ、彼は《劣地竜》と言う絶望にも立ち向かっていけるのだ。
「ぜっ……に、絶対に!行かせるかァァァァッ!【スピアラッシュ】ッ!【ライトニングランス】ッ!」
それぞれ、『槍術Lv.3』と『槍術Lv.6』で使用可能になるアーツで連撃を決める。【スピアラッシュ】は現在の『槍術』のレベルと同じ数だけ連撃を繰り出すと言うアーツで、今リベットの『槍術』はLv.6なので六連撃を繰り出した事になる。
【ライトニングランス】は稲妻の様な速度とエフェクトで高威力の突きを繰り出す、ダメージ計算にSTRだけでなくAGIも換算されると言う特殊な効果を持っているアーツだ。
鋭い槍の六連撃が《劣地竜》の土色の鱗を穿ち、六連撃の中でほんの僅かに出来た傷跡目掛けて【ライトニングランス】が打ち込まれる。リベットはSTRとAGIをメインで上げている為、彼の【ライトニングランス】は相当な威力となっている。
激しい炸裂音と眩いエフェクトが辺りに撒き散らされる。その一撃は並大抵のモンスターなら一撃で沈むレベルの威力を孕んだ一撃となり、《劣地竜》の身体を穿つ。
そして、激しいエフェクトが収まり現れた《劣地竜》はHPを5%程減らし、さすがに鬱陶しくなってきたのか町への進行を止め、リベットを夏の夜にいざ寝ようとした時に見つけた蚊を見る様な瞳で見据えていた。
『シュロロロ……』
「っ……オラッ!ようやくこっち見たか!」
その無機質な瞳に一瞬気圧される様に後ずさるが、すぐに槍を構え直し《劣地竜》に向き直る。
『シュロロォォッ!』
「くぬあッ!」
《劣地竜》の尻尾による打ち払いを槍を駆使して受け流す。実際にスキルの『受け流し』が発動しているのだが、それでもリベットのHPが確かな量持っていかれる。
「ハッ!ハッ!ハァァッ!!」
アーツ頼るだけでは無い、確かなプレイヤースキルを感じさせる鋭い三連撃を受け流してすぐに体勢を立て直し打ち込む。
『シュロロロロロッ!』
《劣地竜》の尾による薙ぎ払いを事前に察知したリベットは槍をまるで棒高跳びの棒の様に地面に打ち付け飛び上がり回避する。
「オラッ!【ランススタンプ】ッ!」
空中から打ち付ける様に発動された『槍術Lv.4』で使用可能になるアーツ、【ランススタンプ】。
このアーツは『槍術』にしては珍しく、と言うよりは異端なアーツで、鋒先ではなく石突で突く、刺突属性ではなく打撃属性を持っているのだ。
ズガァァァンッ!
激しい音と共に打ち付けられた石突から発生した衝撃波に打ち付けられた《劣地竜》は大したダメージは無いものの、少し体勢を崩す事となった。
『シュロロッ!』
「ぬあラァッ!【スピアラッシュ】ッ!」
体勢を崩した《劣地竜》目掛けて放たれた【スピアラッシュ】はズガッ!ズガッ!ズガッ!ズガッ!ズガッ!ズガッ!と連続して六つの刺突音を響かせ、僅かな、けれども確かな量のHPを削り取る。
「ッ……!みんな!彼だけに任せていて良いのか!?意地を見せてやろうぜ!」
リベットの勇姿に感化され、リーダー役を務めていたプレイヤーがただ呆然と立ち尽くしていたプレイヤー達に声をかける。
その言葉にハッとさせられた者も居たようで、目に再び闘志を宿らせ、各々の武器を構え始めた。
彼等彼女等にも意地はある、それを再び奮い立たせ、リーダー役の号令の元、《劣地竜》へと駆け寄り裂帛の気合いを迸らせながら攻撃を再開する。
なんか《劣地竜》戦が無茶苦茶長くなってるのだが……作中の時間的には一番短いはずなのに……何故だろう
この度、感想欄で散々言われてきた「神官サブだろ」と言うご指摘を受け、作者自身もいつの間にか神官がメインだと思い込んでいた事もあり、トーカのジョブのメインとサブを入れ替えました。
トーカの神官推しに違和感を拭えなかったと言う方達、本当にすいませんでした。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




