第34話 《劣火竜》
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誠に申し訳ねぇ……
襲い来るモンスター達を拳で打ち抜き、大剣を振るい薙ぎ払いながら、遠目に見えた炎を纏った蜥蜴目掛けて走るリクルスとアッシュ。
しかしーー
「クッ!リクルス!先行け!」
「兄貴は!?」
「俺はお前より足が遅せぇ!後で必ず追い付くから行ってくれ!」
リクルスは前線でちょこまかするためにSTRと同じくらいAGIにポイントを降っている。しかしアッシュはほぼSTRにガン振りで他には申し訳程度に多少振っているだけなので、本職であるリクルスのAGIには遠くおよばない。
そもそもがアッシュはソロプレイヤーではなく、β時代からの仲間とパーティを組んで《EBO》をプレイしている。今回のイベントもパーティメンバーと参加したのだが、色々あって孤立してしまっている。しかし、本来のパーティでは前線で敵に張り付いて、大ダメージを与え続けるダメージディーラーの役割を担ってるのだ。
そのため、アッシュに移動を合わせると必然的にリクルスは時間をロスする事になってしまう。そう判断したアッシュはリクルスに先に行くように指示を出し、リクルスは一瞬迷った末にその提案に乗ることを選んだ。
「了解っす!でも早く来ないと先に倒しちゃうっすよ!」
「はっ!ほざけ!せいぜい俺にいいとこ取りされない様に頑張れよ!」
「あはは……いいとこ取りにはいい思い出が無いのでされないように先に行かしてもらうっす」
カレットにいいとこ取りされた岩蜥蜴戦を思い出しながら乾いた笑みを浮かべ、炎を纏った蜥蜴に向かって一気に加速していくリクルス。
モンスターの合間を器用に通り抜け、その姿は既に小さくなっている。
「俺は俺で自分のペースで行かせて貰うとするか……なッ!」
リクルスの様にモンスターの合間を縫って進むのではなく、進行方向にいるモンスター達を問答無用で薙ぎ払い無理矢理に道を作りながら進んで行く。
どこぞの神官を彷彿とさせるが、彼は空を跳んだり辺り一帯を消し飛ばしたりはまだ出来ないので運営の胃へのダメージは少なくて済んでいる。
「フンッ!【豪斬波】ッ!」
アッシュが振るった大剣から斬撃が波動となって直線的にモンスターの群れの中を突き進んでいく。【豪斬波】は『剣術』のレベルを10にする事で派生させられる『大剣術』のアーツで、その名の通り、『豪』快な『斬』撃の『波』動を飛ばす、『剣術』のアーツ【斬撃波】の強化されたもので、近接武器スキルの数少ない遠距離攻撃が可能なアーツである。
もちろん遠くへ行くほどその威力は下がっていくが、大剣が持っている元々の破壊力に加え、体の捻りなどを全力で利用した一撃は10m程に無人地帯の作成に成功する。
アッシュは大剣を振り抜いてすぐに、戦果を示すウィンドウすら確認せず残光が舞う光の道を全速力で駆け抜ける。
◇◇◇◇
「おぉおぉ、燃えてんなぁ」
火蜥蜴が暴れ回っている地点に到達したリクルスは開口一番にそう呟く。彼の視線の先には、各々の得物を振りかざすプレイヤー達と燃え盛る体でそれらを撃退していく、火蜥蜴の姿がある。
「あっ?名前見えんじゃん」
全体像を確認しようとリクルスが視線を上の方に移すと、普段は《???》となっているモンスターネームが今回だけは見る事ができるようになっていた。
そこに記載されていた名前は《劣火竜》。
言わずもがな有名なモンスターである。
「おぉ!こいつぁ強敵だな!」
強そうな敵の出現に瞳をキラッキラに輝かせたリクルスは蜥蜴鉄甲を打ち鳴らし、背後から《劣火竜》に急接近する。
「オラッ!【破豪】ッ!」
《劣火竜》に近付き、これ以上近寄ったらさすがに気付かれる、と言う地点で『縮地』と『跳躍』の合わせ技を発動。
《劣火竜》の上空に転移したリクルスは落下の勢いを乗せて無防備な背中に【破豪】をぶち込む。
『グガァァァァァァッ!?』
突然の襲撃に《劣火竜》は相当驚いた様でその巨体を捩り、暴れ回る。近くにいた不幸なプレイヤーが《劣火竜》に踏み潰され、死んでいく中、背中にしがみついたリクルスは振り落とされない様に、サブ装備として装備していた蜥蜴鉄剣を《劣火竜》の背中に突き刺し、自身の体を固定した。
『グガァァァァァッ!?』
背中に剣を突き刺されると言う滅多に経験しえない痛みにより、《劣火竜》はさらにその身を捩り背中の上の敵を振り落とそうと必死になっている。
しかしリクルスも負けじと踏ん張っているため、身を捩れば捩るほど激痛が背中に走ると言うジレンマに陥った《劣火竜》は振り落とす事を諦め、その場で転がり始める。
「シャァ!今ッ!」
それを待っていたかのように、いや、実際に待っていたのだろう、
《劣火竜》が体を回転させ、柔らかい腹を晒す瞬間を。
《劣火竜》がひっくり返える直前に『跳躍』で飛び跳ね、《劣火竜》の巨体に押し潰される未来を回避したリクルスは、そのまま【連衝拳】で《劣火竜》の腹を殴り続ける。
「【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝……アッチャァッ!?」
その延々と殴り続けると思われたリクルスだったが、《劣火竜》が纏う炎にはダメージ判定があったらしく、それを至近距離で浴び続けたリクルスが熱さに耐えきれなくなり、慌てて退避する。
今のリクルスの一連の攻撃で《劣火竜》のHPは1割ほど削れており、事前に他のプレイヤーが削っていた分と合わせてそろそろ残り7割を切りそうだ。
さぁもっかいぶっ放すぞ!と駆け出そうとして、足に力を入れた瞬間。
《東エリアのイベントボスが討伐されました》
《以降は東エリアに新モンスターが出現します》
東エリアのボスが討伐されたと言う旨のインフォメーションがフィールドに鳴り響く。
プレイヤー達は一瞬惚けるも、さすがは北に来るレベルのプレイヤー達、脳内に浮かんだであろう疑問を瞬時に頭の片隅に押しやり、ならば2番目に討伐してやる!と息巻いて《劣火竜》を睨み据える。
「「「「「ウオォォォォォォォォッ!」」」」」
何人、何十人のプレイヤーがそれぞれお互いに干渉しない様に注意を払いながら《劣火竜》に対して猛攻撃を加えていく。
大剣で叩き斬るプレイヤーもいれば、短剣で身体中に傷を作るプレイヤーもいる。魔法で遠距離から一方的に攻撃するプレイヤーもいれば『咆哮』やその派生の『挑発』を使い、《劣火竜》のヘイトを自身に集めているプレイヤーもいる。
ここにいるほぼ全てのプレイヤーが初対面、またはパーティを組んだ事はない人たちばかりの中、各々が自身のプレイスタイルやスキル構成から己のやるべき事を見つけ、それを実行していく中で、即興のレイドパーティが完成いてた。
「『挑発』持ちの人!タンク勢の方にヘイトまとめてくれ!」
「見たまんま弱点は水だ!使えるやつはそっち使ってくれ!」
「『風魔法』はあかん!纏ってる炎の勢いが強くなっちまう!」
「『軽業』もってる奴らで出来る奴はさっきの奴みたいによじ登ってくれ!」
そんな感じで辺りから指示やアドバイスが飛び交い、確実な速度で《劣火竜》のHPが削れていく。リクルスは先程同様によじ登る側に回り、先程の経験から得た情報を伝えるために声を張り上げる。
「纏ってる炎にもダメージ判定あるから登んなら気を付けてくれ!」
すると『軽業』で《劣火竜》に登る組から
「「「「「「オウッ!」」」」」」
と、返事があり、何人かのプレイヤーがこれまで鍛えてきた『軽業』を駆使し、《劣火竜》によじ登る。
巨体とは言え一体の背中に何人もよじ登ったらさすがに乗るスペースが無くなってしまうのだが、そこは北に来るプレイヤー達。
誰かが声を掛けずとも1回に乗るのは3〜5人程度に自然と抑えられ、誰かが振り落とされたらすぐに新しいプレイヤーが上に乗り、常に《劣火竜》の上に何人かのプレイヤーがいる状態を作り出している。
「ッ!転がるぞォォォッ!避けろォォォッ!」
実際に乗ってる最中に転がられた経験から、《劣火竜》が転がろうとしているのを察知して声を張り上げながら『跳躍』で飛び退くリクルス。
それに習って出来るプレイヤーはリクルスの様に『跳躍』で空中に回避、自信が無いプレイヤーは遠くに飛び退き、結果《劣火竜》の転がりで犠牲になったプレイヤーは居ない。
「「「【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】!【衝拳】ッ!」」」
使えるプレイヤーが一斉に【連衝拳】を放ち、《劣火竜》のHPをガリガリと削って行く、他にも大剣や弓などの様々な武器もしっかりとHPを削って行くが……
「「「アッチッィィ!」」」
【連衝拳】を放っていたプレイヤー達が耐えきれなくなり一斉に飛び退く、そのタイミングを狙って後方の魔道士達が一斉に『水魔法』を放ち、《劣火竜》が絶叫を上げる。
「5割切ったぞ!パターン変更に注意!」
「「「オウッ!」」」
こう言った即興レイドパーティでも自然とリーダー役をやり始めるプレイヤーが出てくるわけで、そのプレイヤーの指示を元にしっかりと連携をする事が出来るようになって来ている。
『グガァァァァァァァァァァァァァァッ!』
そんな結束を高めて来たプレイヤー達の前に、その瞳に明らかな殺意と憤怒を滾らせた《劣火竜》が咆哮を迸らせ、自身の纏う炎をより一層燃え上がらせる。




