第291話 『蠱毒・2日目《あの手この手》』
ほんっっっとうに牛歩更新で申し訳ないです……
ちまちまと進めて行きますのでゆったりとお付き合いください……!
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「おいおいおい! ライブラの奴すげぇじゃねぇか……!」
「マジで防ぎ切っちまうのか!? こりゃ見えたぜ、光明がよォ!」
黄金のベールの内側。見えざる騎士の存在は未だ露見せず、ただ彼らは異質な脅威と相対する戦士に、彼が齎した光明に、興奮を昂らせていた。
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「ライブラの旦那ァ! あのバリアはどんくらい持つ!?」
『限界まで踏ん張ってあと10分、と言ったところか。だが次は無いぞ!』
「はっ、頼もしいや、一服する時間すらあんじゃねぇか」
「だねぇ。こんな攻撃が何時までも持つ訳が無い。参謀さんの作戦通り、止まった瞬間一気に叩こうか」
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「さぁんぼぉうさぁん。タァイミィングゥはぁ」
「お前は伝達に向いてねぇから自己バフしとけ!」
「言い方キツイよぅ。まぁ一理あるけど。ってことで参謀さん、タイミングは任せていい?」
比較的大きな防壁の裏に隠れ、食器をもした武器を持つカトラリートリオが全体を代表してヴァルゴに問いかける。
確かに彼らはあくまで『敵の敵』の間柄。仲良しこよしでおててをつないで一緒にゴール。なんてことをする関係では無いが、それでもここまで共に戦ってきた同盟者としての信頼くらいはある。
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だからこそ、これまで通りにヴァルゴに音頭を取って貰おうとした。それは、少なくともこの場にいる【対神楽連合】プレイヤーの総意だろう。
しかし、ヴァルゴからの返答が返って来る事は無かった。
「あん? すまねぇ、なんか言ったなら聞き取れなかった! もう1回頼んでいいか!?」
まさか彼らも既にヴァルゴが死亡しているとは思いもしない。ライブラの防壁がもしも今すぐに破られても対応できるよう前方に注意を向けていたため、返事が来ない事を自分達が聴き逃したのだと考えたようだ。
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だが、再びの問いにも返答は沈黙。これは流石におかしいと感じ、カトラリートリオのひとりが振り返る。
「わり、前頼む。おーい、参謀さ……お、ぁ」
振り向いた瞬間。喉に違和感。次いで、視界が閉ざされる。驚きと歴戦の経験から咄嗟に飛び退こうとして、身体が動かない事に気が付く。
(なんだ!? 目が見えねぇ!? しかも声が……いや、身体が動かねぇ!? どういう……あ? 麻痺アイコン? どういうこった? HPが減ってやがる、攻撃を喰らったか? だが、敵は向こう側。こっちにいるのもぶっ倒した。それ以前に攻撃される直前まで気付かねぇなんてさすがに有り得ねぇ。何が起こってやがる……!?)
そのまま、彼は身動ぎ1つ出来ず、思考を巡らせる。
背後の2人に異常を伝えなくては、いや、声が止まった時点で気付くか? そんな思考は、視界の端に映るパーティメンバーである2人のHPバーの横にも同様に麻痺アイコンが浮かんでいる事で吹き飛んだ。
(っ、嘘だろ!? やべぇ、こっちに何か……ナニカが居やがる! 他の奴らは気付いてんのか……!? 気付いてくれ、このままじゃ……)
視界の端で、仲間のHPバーが空になる。
そして、軽い衝撃を頭部に感じた直後。彼自身のHPバーもまた、その中身を溶かし尽くした。
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最期まで、彼は何が起こったのかを正確に把握する事は無かった。
◇◇◇◇◇
「ありゃ、限界だ」
悪魔が猛威を振るい初めて15分は経っただろうか。ライブラが【制限解除】を使用してからは5分ほど。対抗するようにギアを上げた"時雨"は終ぞ黄金を食い破る事は叶わず、鋼鉄の躯体は弾を吐き出し尽くし沈黙する。
今回使用された全ての弾丸は火薬として、火属性宝石と風属性宝石の粉末、そしてその他少量の鉱石粉末を調合した物が用いられている。
いかにロッ君や【島】、《秘境鉱床》から宝石類は半無限に回収出来るとは言え、弾丸にするにはある程度の過程を経る必要がある。故に、残弾数はこの兵器の明確な弱点であった。
更に、あまりの暴威は自身をも蝕むのか、弾切れから数秒して銃身が耐久全損で光の粒と消え、残されたパーツもバラバラに崩れ落ちる。オーバーヒートする銃身を無理やりに冷却することで長時間の連続使用を可能にした“時雨”だが、その反動かその耐久限界はサーマルショックによる破壊という形で現れる。
その余りにも淡い光と同時、黄金のベールとその奥に掲げられた黄金の小天秤もまた、その輝きを失い虚空に溶け消えて逝く。
終ぞ悪魔は黄金を食い破ることが叶わなかった。
余りに傾いた比重は黄金のベールに莫大な力を与え、更には彼の技量によって、砕けること無くその全てを防ぎ切ったのだ。
否。
全てを懸けた黄金のベールはもう少しであればその存在を維持し続けただろう。それ程までに、彼の持つ天秤の力は強大だった。
だが、その全てを前方に、黒鉄の悪魔を食い止めるために費やした彼には、背後からの攻撃に対応するだけの余裕が無かったのだ。
『仕込んで、いたか……。む、ねん……』
どさり。
ライブラがその身を横たえ、数瞬後には光の粒となって溶け消える。
前門の虎後門の狼とはよく言ったものである。彼は、彼らは、虎に気を取られるあまり、背後から迫る狼へ対処する事が出来なかったのだ。
もっとも、その狼は透明であり、存在を悟らせない悪辣さを持っているせいで警戒していても対処出来たかは怪しいが……少なくとも、異常に気付くのはもう少し早くなったことだろう。
「さて、何人残ってるかな〜?」
黄金とその主は絶え、彼女と彼らを隔てるものが無くなる。
乱立する土壁に視線が遮られ、メイの視界には生存者の姿は映っていない。
だが、彼女は確信を持っていた。これで終わったわけでは無いと。ここまで来るような人達が、この程度で壊滅するはずは無いと。
ただ無邪気に、友を基準にした物差しでこの程度は序の口だと、そう信じている。
そして、その信頼に彼らは応えた。
「ライブラの奴もやられたのか……!」
「けどガトリングも止んでる、今しかない!」
「クソッ、こんなの理不尽過ぎるだろ……!」
生存者は8名。
とある3人は互いに背中を預け合い、全方位を警戒し続けている。
とある4人は全方位を覆う土のかまくらに籠り、防御姿勢を取っている。
そして、残った1人は。
『みんなの仇ィ!』
全身鎧に身を包んだ騎士の最後の生き残り。小柄な彼女はメイへと猛ダッシュで接近する。
不可視の脅威を察知する前から、そしてその後はより一層、彼女は高速で動き続ける事でうなり続ける悪魔はもちろんの事、ベールのこちら側にも銃口が現れるかもしれないと言うか可能性に抵抗し続けていた。
連続移動で温まったエンジンのまま、まるで空間を切り取ったような程に黒い艶消しの双剣を手にメイへと、仲間の仇へと向かう。
『駆けろ! 《天淵殺し》!』
彼我の距離は10mはあるだろう。だが、そこで彼女は短剣を振るう。
短剣を振るうには余りにも遠い距離を、しかし。その斬撃は事も無に埋めて見せた。
そして。
「あははっ。凄いねぇ」
パキンッ。と音を立て、メイの身に着けていた小さなイヤーカフが砕け散る。
それは、1度だけ致死性のダメージを肩代わりしてくれる身代わりのアクセサリーアイテムであり、すなわち今の一撃はメイの命を刈り取るのに十分である事を示していた。
「やっぱりだめかぁ。飛ぶ斬撃、みたいな純粋な遠距離攻撃なら《空の殻》を展開してるから防げるはずなんだけど……。視点に発生するタイプの攻撃だと通っちゃうよね。ソレ、距離把握結構大変でしょ?よく使いこなしてるね」
『物知り顔に言ってくれちゃって! 気に入らない!』
つらつらと自身を襲った不可思議を解説してみせるメイにジェミニβは不快を隠さず、斬撃を飛ばし続ける。
「でも、なら対策は簡単だよね。《蜃気楼膜》起動」
瞬間、ぐにゃりとメイの姿が歪む。
正確には、メイを包むように展開された空気の殻が陽炎のように、あるいは蜃気楼のように空間を歪ませるたのだ。
それはあくまで視覚的に歪んでいるに過ぎないが、距離感の把握が重要となる《天淵殺し》にとっては天敵のような効果である。
感覚を歪まされた斬撃は哀れにもメイの蜃気楼を引き裂くに留まった。
「うぉぉおぉ! あんなちっこいのが漢気魅せてんだ、ビビってちゃ漢が廃るってもんよ!」
「違ぇねぇ! 俺らだってむざむざ殺されに来たんじゃねぇんだ! 【カグラ】を叩き潰すために来てんだよォ!」
ジェミニβの突撃はガトリングガンと不可視の暗殺者と言う無法に怖気付き、防御寄りの思考になっていた彼らを再び奮い立たせるには十分だったようだ。
彼らは皆一様にそれぞれの武器を掲げ、この期に及んで優雅に玉座に腰掛けるメイに目にものを見せてやると目掛け一斉攻撃を仕掛ける。
「おぉう。そうなんだよねぇ。小細工で誤魔化してるけど、こういう風に真正面から来られるのが1番ボクとしては怖いんだよね」
だから、真正面から叩き潰す用意もしているよ。
そう言葉を続け、小柄な少女がパチンと指を鳴らす。
『『【双核機構】起動』』
その音に、二重の電子音声が応えた。
それは既に乗り越えた障害。多勢に無勢の果てに機能を停止し、四肢を砕かれた白と黒の騎士。
サラサラと、砂鉄のような粒子がわかたれたパーツを繋ぎ合わせ、ふらりと立ち上がる。そして寄り添う。
前も後ろもなく、横並びに。そして白騎士が左手を、黒騎士が右手を水平に掲げ、その手のひらを重ね合わせる。
ドロリ。例えるならそれは同じカップに注がれた色水がマーブル模様を描く様に。触れ合わせた端から騎士達の身体が融解し、混ざり合う。
そして、2つの人影が完全に重なった。
「識別符号《灰騎士》」
巨大なハルバードとタワーシールドを軽々と持ち上げ、全身を重厚な鎧に包んだ灰色の巨漢。
彼等は預かり知らぬ事ではあるが、通常はゴーレム一体につき1つしか使われていない核を2つ宿したソレは出力、耐久共に単核のゴーレムを遥かに凌ぐ。
そんな《灰騎士》はハルバードを棒切れのように軽々と振り回し、酷くノイズの走った電子音声で作られた声音で雄叫びをあげた。
「別に物語でもあるまいし、変身中に攻撃してくれてもよかったのに」
2体の騎士の融合を見届け、律儀に手も出さず、あるいは警戒して動けなかった【対神楽連合】の生き残りにメイが呟く。
「だって、こっちはやってるんだし」
次の瞬間、生き残りの半数……4人が籠っている土のかまくらが内側から爆ぜる。
それが号砲だった。
双核の騎士人形、《灰騎士》が動き出した。




