第282話 『蠱毒・2日目《不条理な二択》』
八つ当たり因果応報に多くの人が戦いているようで、これがヒャッハー……!とにやにやしてた作者でございます
そんなヒャッハーの本拠地に入った哀れな挑戦者の戦いをお楽しみください
城の外で桜色が吹き荒れた、まさにその時。【巨城ネフィリム】内部では。
「ん……?今なんか揺れなかったか?」
『……えぇ、微かにですが揺れましたね。さて、どんな凶悪な仕掛けが蠢いているのか……。それに、この城内部も。話に聞いてはいましたが、なるほどこれは厄介ですね』
「でござろう?」
レオの足止めによって先へと進んだ【対神楽連合】は、城の中でさ迷っていた。
当然、無策で進んでいる訳では無い。リアルタイムでマッピングをしているし、スコーピオや【御庭番衆】のメンバーを始めとした斥候達が危険を承知で先に進んで情報を集めながら進んでいる。
だが、順調とは言い難い状況だった。
『出て行った斥候の2割は未帰還、帰ってきた斥候の得た情報も6割近くがもう使えない情報ですか……』
この城にはフィローが潜入した時にもその片鱗を見せたように、内部構造を切り替え続け侵入者を迷わせる機構が備わっている。
帰って来れない斥候は未だに迷い続けているのか、既に始末された後か。
得た情報の6割近くが役立たずと言うのがまたいやらしい点で、裏を返せば4割程は正確な、そして未だに有用な情報なのだ。
結果、下手に切り捨てる訳にも行かずハズレを踏む前提で全ての情報を精査していかなければならなくなっている。
さらに、だいぶさ迷わされたのかかなり遅れて帰還した斥候の持っていた情報が重要なものであったり、何の役にも立たないものであったり。定刻通りに帰ってきた斥候の情報も重要だったりと、情報の真偽に規則性が無く翻弄され続けている。
『まったく、意図的に斥候の帰還を制御しているのならこれを指示している人物は相当に悪辣な頭脳をしていることでしょうね……』
「しかしその悪意が我々を阻む強固な城壁となっている……と、言うわけでござる。今のところ、斥候以外への直接的な分断や襲撃が無いのは逆に不気味でござるな」
慎重に歩を進めつつ、ヴァルゴとフィローはお互いの意見を出し合い、状況を見定めている。
斥候としても優秀なフィローがなぜこの場にいるのか。その理由は単純だ。優秀が故に、切り所を見誤っては行けない。その一点に尽きる。
特に、フィローは1度この城の恐ろしさを体験している。言わば生きた案内人だ。そのアドバンテージを捨ててまで他の斥候と足並みを合わせる理由はない。
「しかし、不気味と言えばお主らもそうでござるな。こんな大規模な同盟を企画し、実現させ、運営する。そして本人たちも強いと来た。の割には以前の噂がまるで聞こえてこない。ぽっと湧いた妖のような集団でござるなぁ」
『いくら予想しか立てられない状況に飽きたからと言って話題が雑過ぎませんか?まぁ実際、我々は無名も無名、今回のイベントだってこのように無茶をしなければ誰の記憶にも残らずひっそりと消えて行ったであろう集団ですからね』
悪手ともとれる露骨な疑問に、ヴァルゴは小さく笑いながら受け流すように答えを返す。
敵地にいるとはまた別の理由で空気がピリついていた。
『まぁ警戒するのも当然です。我々はあくまで利害の一致で手を取ったツギハギの同盟、どうあっても先に待つのは敵対です。だからこそ、私はあなたのその言葉にこう返しましょう。ご想像におまかせします、と』
「ははは、確かにそうでござる。猛者は目立つばかりではなく息を潜める事もある。それが我らの目を掻い潜っていたのは驚きでござるが……まぁ、そういう事にしておくでござるよ。今は、まだ」
『えぇ。そうしておきましょう。今は。と、露骨な分かれ道ですね』
一触即発、という程ではない、しかし朗らかには程遠い会話を遮ったのは、ヴァルゴの言うようにいっそ露骨なまでに鎮座する二又の分かれ道。
片や上に登る階段に、片や下へ降る坂道になっている。
『ふむ……手分け、いやこの状況で戦力の分断は危険ですかね。さてどちらに進みましょうか。ライブラ、君の天秤に任せます』
『嗚呼我が天秤にその定めを乗せるというのか。ならばよろしい。当たりか外れか、右か左か。均衡は崩れ道を示す』
ヴァルゴに指名されたのは、【アルガK】に所属する天秤のレリーフを背に刻んだ全身鎧の人物、ライブラだった。
彼はそっと前に出るとその手を前にかざし、しばしの間沈黙を保つ。
「彼、でいいのかはわからんでござるが、任せていいのでござるか?」
『えぇ。これまでは中途半端に頼れる情報を元に進んで来ましたが、この分かれ道の先はどちらも完全に情報がありません。二手に分ける事も考えましたが、戦力の分断は悪手でしょう。よって、我々の中でも二者択一なら随一の彼に任せることにしました』
「ライブラ……天秤でござるか。確かに二つに一つが得意そうな名でござるな。しかし、どう判断するのでござる?」
『それは……おや、始まりましたね。見ていれば分かりますよ』
そういう彼らの前で、ライブラの掌に黄金色の厚みを持った円盤……言ってしまえばコインが出現する。
『嗚呼我が天秤よ、歩むべき道を指し示し給え!』
ライブラはそう叫ぶと、キンッ!と小気味よい音を立ててコインを弾く。そして、パッとそのコインを左手の甲と右手のひらで挟み込んだ。
『さぁ審判者よ、選べ。表と裏。当たれば上へ外れれば下へ。運命の天秤は傾くだろう』
「バリバリコインキャッチで決めてるでござるよ!?」
『えぇ、彼はそういう奴なので……。さて、誰でもいいです、表が裏か誰か選んでください』
つっこむフィローとは対照的に、ヴァルゴは慣れたように背後に控える同盟者達へ問いかける。
なお、この場でヴァルゴと同じような反応をしているのは【アルガK】の仲間たちだけであった。
「え、あ、じゃあ裏!」
そして、急に水を向けられた集団の中から誰かがそう答えた。
『その選択、聞き届けた。では運命の箱を開けるとしよう。底に残るものが、確かな希望であると信じて』
ライブラはそう仰々しく言うと、ゆっくりとその手をどける。そこにあったコインには……。
『あぁ、審判者よ。汝が答えは確かに運命を傾けた。故に我らが進む先も定まれり』
分かりやすくするためだろうか。デカデカと刻まれた文字は、確かに『裏』だった。
「えっと?つまり……」
『コイントスの予想が当たったので上方向ですね。さて、行きましょうか』
「いや、待つでござる」
『どうかしましたか?』
「せっかく決めたところを悪いでござるが、いくらか戦力を切り分けてでも両方同時に行くべきだと考えるでござる。無論、主力は上でいいでござる」
『愚かなる者よ、天秤の思し召しに異を唱えるか。その先に待つはただ破滅のみなるぞ』
フィローの言葉、それを面白く思わなかったのは、自身信条を軽んじられた(と思った)ライブラだ。
ずいっと前に出ると、妙な圧を放ちながらも変わらぬ無機質な声でフィローを問い詰める。
『いえ、落ち着いてくださいライブラ。確かに多少戦力を分けることに否定的になりすぎていた点は否めません』
が、それを止めたのは彼の同胞であるヴァルゴだった。
『それに、勝手に決められても困る事もあるでしょう。分かりました。ではフィロー戦力の分配はあなたに任せます、下方面をお願いします』
「……うむ。では任されたでござる。ちなみに、下方面に行きたいというものはいるでござるか?」
「あー、なら俺らはそっちにしようか。破滅なんて言われちゃその方が面白そうだ」
そう名乗り出たのは、盾と剣を装備した模範的とも言える騎士装備の青年。逆立てた茶髪を揺らしながら、楽しげな表情で『破滅』を拝みに行くと言ってのけたのだ。
「ふむ……たしかお主は【ネオンテトラ】の者ござるな。1人だけという訳にはいかんでごさろう。仲間の同意はあるのでござるか?」
「細かいところを気にしてくれるなよ忍者のあんちゃん。俺ら【ネオンテトラ】はいつもひとつ、楽しそうなところになら突っ走るんだよ」
「そうでござるか、ではお主らと我ら【御庭番衆】から何名かで締めでござるな」
ふてぶてしく笑う青年と、彼らの仲間であろう何人かの声にフィローは頷くと、部下に指示を出し下方面組の編成を手早く終えた。
『あぁ、ウチからも2人出しましょう。ジェミニα、サジタリウス、行ってください』
『あっしでやんすか?了解でやす。ってな訳でフィローの旦那、短い間でやすがよろしく頼むでやんす』
『えー、βと一緒じゃないのー?僕らは2人でジェミニなのにー』
『そうだよヴァルゴー。私も一緒に行きたいわ。αだけじゃ不安だもの』
ヴァルゴに言われ、まるでスナイパーライフルのようなクロスボウを背負った全身鎧の人物サジタリウスと子供ほどの背丈の全身鎧の片割れ、ジェミニαが下方面組に合流する。
ジェミニ達が多少ぐずったが、ヴァルゴの『今回はあなた達は分かれていなくてはダメでしょう。ジェミニ、あなた達だけの特権を存分に振るう時です』と言う説得に渋々ながら従った形で編成分けは決着した。
『さて、ではフィロー。そちらは任せました』
「任されたでござる。そちらも武運を祈るでござるよ」
そう行って、【対神楽連合】は本隊と分隊に分かれそれぞれの道を行く。
◇◇◇◇◇
弧を描き、螺旋状に降りていく坂道をフィロー達は降りていく。
一本道の下り坂は、迷わずに済むという安堵よりもこの先に何かあるいう予感を強く放っていた。
そして、ついにその時が訪れた。
フィローを始めとした【御庭番衆】の1部と【ネオンテトラ】、そしてサジタリウスとジェミニα。
嘘か誠かライブラの天秤に逆らい、『破滅』とやらに進んだ彼らを待ち受けていたのは。
「お、来た来た。待った甲斐があるってもんね!やっと戦えるわ!」
「あんまはしゃぎ過ぎるなよ……っても無理だよなぁ。なにせ、俺だってそろそろ戦いたかったんだ」
「あはは、お兄さんは特にそうだよねぇ。その分カレットちゃんが暴れ回ってたけど」
今か今かと戦いの時を待っていたヒャッハー達。
リーシャとトーカのコンビであった。
はい、これが『破滅』です
上?上は……まぁ、ね?
次にこれをどん!
という訳で、3巻が発売します!!!!!
書影公開&予約開始は本日から!
そして発売は6/10から!
最強のイラストに触発されて色々進化したヒャッハー達の勇姿をその目で確かめろください!
いやしかし、このイラストやばくないです???
もうね、どいつもこいつも楽しそうでヤバそうでも最高
しかも、勘のいい読者の方ならお気づきでしょうが……トーカが新装備になっています!
そして3巻目にしてやっと表紙に出てこれたリーシャ……ナガカッタ
ついに戦場に現れたヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版1巻&2巻が発売中!3巻は6/10発売!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!




