第3話 路地裏の少女
幼馴染みと銘打ってる癖に幼馴染み達との合流には少しかかります。
目を開けるとそこはもうゲームの世界だった。
辺りを見渡せば石畳の町並みと正式リリースを今か今かと待ち構えていたプレイヤー達、そして俺と同じように辺りを見回す者や町へ駆け出す者がたくさんいる。
「とりあえずあいつらと合流しな……うおっと!」
あの2人を探そうと立ち止まろうとするが人の波に流されてしまい初期地からどんどん離れていってしまった。
「満足に動けないな……とりあえず安全地帯に行かないと」
人の波を躱しつつ路地裏へ逃げ込む。流石に路地裏には人がおらずようやく落ち着ける。
「ふぅー、ようやく一息つける。しかしこの路地裏結構入り組んでるな……よしっ探検してみるか」
男子特有の冒険心を刺激された俺は路地裏を進みながらステータスを呼び出す。
『トーカ』
ジョブ:神官
サブ:狩人
Lv. 1
HP:100/100
MP:150/150
STR:5
VIT:0
AGI:5
DEX:15
INT:10
MND:0
LUK:10
SP:0
【パッシブ】
なし
【スキル】
『棍術Lv.1』 『弓術 Lv.1』 『罠術Lv.1』
『回復魔法Lv.1』『付与魔法Lv.1』
【称号】
なし
【装備】
メイン
『なし』
サブ
『なし』
頭
『なし』
上半身
『ただのシャツ』
下半身
『ただのズボン』
腕
『なし』
足
『ただの靴』
アクセサリー
『なし』
『なし』
『なし』
『なし』
キャラメイクの時と違い装備欄も増えている。特に何の効果もないあるだけの装備だったが。
後はアイテムボックスに初期装備と思われる装備が2組
『初心者の弓』『初心者の短剣』
『初心者のメイス』『初心者の杖』
『見習い狩人の服(上)』『見習い狩人の服(下)』
『見習い神官の服(上)』『見習い神官の服(下)』
があった。とりあえず左手装備に『初心者の短剣』右手装備に『初心者の弓』を装備し服装も見習い狩人の服に変える。
すると服が瞬時に切り替わる。上手く表現出来ないが一目で狩人と分かる装備だ。そして今まで着ていたズボンとシャツはアイテム欄に無いので恐らく装備を着ていない時にだけ出てくる一種の限定品なんだろう。そして腰に短剣が背中に弓が現れた。短剣は服のベルト部分に鞘が付いていて弓は背中に背負っている状態だ。
「おぉ、俄然ゲーム感が出てきたな」
ステータスウィンドウにある装備フィギュアで自分の姿を見ながら呟く。
ただの服から普段は着ないような狩人風の服装になることでゲームをやってるという実感がだんだん湧いてきた。
「さてそろそろ合流しないとな」
まだゲーム内での連絡手段は無いし、待ち合わせ場所も決めていなかったし、町の広場に行くか。広場にある噴水が目立つし合流するならそこに行けば見つかるだろう。
そう考え大通りに出ようと路地裏を歩き出す。そして……
「やっべ、迷った……」
盛大に迷子になった。
やべぇやらかした。考え事しながら適当に歩いてたせいでどこから来たか完全に分からなくなった。
「どうすっかな……ってあれは……」
そのままうろうろ歩いていると少し開けた場所に出た。そしてそこには蹲って泣いている7〜8歳位の少女がいた。
「こんなところに俺以外のプレイヤーが来るとは思えないし……NPCか?」
よく見ると頭上に何も表記が出ていないのでプレイヤーでは無いな。となるとNPCだがこんな所にいるもんか?
ちなみにプレイヤーだと頭の上の辺りにプレイヤーネームが見える。これは設定で不可視にも出来るがHP・MPバーは見える。
「キミ、どうしたの?」
NPCとは言え小さい子供が1人でこんな所にいるのを放置するのは気まずいので声をかけてみる。
「ひっく……えっぐ……お兄ちゃんだれ?」
「あぁ、俺はまも……トーカだ」
「ひっく……カノンは……えっくカノンだよ」
あぶないあぶない。危うく現実での名前を言ってしまう所だった……現実との名前の違いにも慣れないとな。
「えっぐ……あのね、お父さんがね、ひっく……怪我しちゃってね、お薬が必要なの。でもねお薬の材料がね、町の外にいる怖い魔物からしか取れないんだって……」
子供特有のたどたどしい言い方に加え泣いているので聞き取りづらかったが、要約すると少女の父親が怪我をしてしまい、それを治すための薬の素材がモンスターからしか取れないって事らしい。
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シークレットクエスト《カノンのお願い》
必要素材
綺麗な水(0/5)
上質な薬草(0/5)
ウサギの角(0/5)
亀の苔(0/1)
クエストを受けますか?yes/no
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「うおっ!」
「えっく……どうしたの?」
「あ、あぁ何でもないよ」
突如目の前に現れたウィンドウに驚いたら泣いていた少女ーーカノンと言うらしいーーに心配されてしまった。ウィンドウはNPCには見えない様でキョトンとしている。
シークレットと言うくらいだから相当レアなクエストなんだろう。受けて損は無いし受けるとするか。それに泣いている女の子のお願いを無下にするのも躊躇われる。
yesを押してカノンに声をかける。
「えっとカノンちゃん、それ俺が取ってきてあげるよ」
「ほんとっ!?ありがとうお兄ちゃん!」
了承の意を示すと先程まで泣いていた少女が嬉しそうにお礼を言ってくる。本当にお父さんが心配だったんだろうな、これは失敗出来ない。
「ところでカノンちゃん、何でこんな所にいたんだ?」
気になっていた事を聞いてみる。小さい女の子1人でこんな所にいる事が少し不自然に思えてずっと気になっていたのだ。
「えっとね、ここはカノンが見つけたカノンの秘密の場所なんだよ!」
「そうなのか、じゃあ俺も内緒にしないとな」
「うんっ!約束だよ!」
俺も秘密基地とか作ったっけ……懐かしいな。確か瞬と明楽と3人で作ったな。結構本気でやり込んだ記憶がある。
確かホームセンターで木材買ってきて柱作ったり、近所の畳屋でご自由にお取りくださいの茣蓙を簀子の上に敷いたり、竹を編んで屋根を作ってみたり、そこら辺の土で見かけだけの竈作ってみたり、瞬が親父さんの工具勝手に持ってきてそれ使ったり、とか色々作ったな(まぁその後親父さんに工具持ち出した事がバレた瞬はこっぴどく怒られた様だが)。
作った秘密基地は確か小学校卒業の時に仲の良かった5年生達に譲ったんだっけな。あの時の後輩達の喜び様と言ったら凄かったな。
風の噂では今でもあの秘密基地は残っていてその年の6年生が改良して仲のいい5年生に譲るのが伝統になってるとかどうとか……
1度学校側がやめさせようとして生徒が猛反発して学年崩壊が起こりかけたとか……まぁ噂だから色々誇張されてるんだろうけど。
ってそれより、これって俺が素材持って来るまでずっとここにいるって事か?それはゲームとは言えどうなんだ……?
「えっとね、カノンいつもはお父さんのお店のお手伝いしてるんだ」
あぁなるほど、クエスト開始時だけここにいるってことか……あれ?それって俺しかクエスト受けられないって事じゃね?まぁいいか、シークレットだし。
「へぇー偉いな。じゃあ薬の材料はお店に持ってけばいいのかな?」
「うんっ!お父さんは道具屋さんなんだよ!今は怪我してるからお母さんが頑張ってるんだよ」
「じゃぁ早く持ってってあげないとな」
「うんっ!お兄ちゃんありがとう!」
さて、早く素材を取ってきてやらないとな。さしあたってはどうやってここから出よう……
「じゃぁカノンお店に戻るねっ!」
「あっカノンちゃん。俺さ、今迷子なんだ……道教えて貰ってもいいかな?」
何とも情けないが道が分からないのだからしょうがない。駆け出そうとした少女の背中に声をかける。
「あははっ、お兄ちゃん迷子だったの?カノンも最初はよく迷子になったんだよ」
「ここ来たのは初めてだったからね……」
少女の悪意の無い言葉が胸に刺さる……。
その後はカノンに案内してもらい何とか路地裏から抜け出すことが出来た。なんだこの路地裏、下手な迷路より入り組んでたぞ。何であの子はスイスイ進めるんだ……
その後はカノンのお父さんが営んでいると言う道具屋で水の確保用のビンを5個500トラン(トランはこの世界のお金の名前)で買った。初期所持金の実に半分持ってかれたがこれから稼げばいい。
必要な素材は『綺麗な水』が5個『上質な薬草』が5個『ウサギの角』が5個『亀の苔』が1個。
『上質な薬草』『ウサギの角』『亀の苔』の3つは大体どこで取れるのかは分かる。薬草は採取で角と苔はモンスターからのドロップだろう。特に必要な個数の少ない苔は恐らくレアドロップなのだろう。まぁただの予想だから違うかもしれないけど。
よく分からないのは水だ『綺麗な』と付くぐらいだし適当な所で採った水じゃダメだろう。恐らく湧き水とかを探さなきゃいけないんだろう。
うーん、水ね……もしかして噴水の水とかって採取出来んのかな……いやそれだったらカノンちゃんでも採取出来るだろうし……いや、物は試しだって言うしやってみよう。
結果から言うと採取は出来た。ただ『綺麗な』水になるのはランダムらしくビンを5個使って入手出来たのは『綺麗な水』が2個『水』が2個『聖水』が1個だった。
……………………聖水?
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします。
一話の時点でブクマしてくれた方ありがとうございます!