第279話 『蠱毒・2日目《あからさまな罠だとしても》』
あけましておめでとうございます!(超大遅刻)
いやはや……大変お待たせ致しました
モチベ消失期に突入していてしばらく執筆サボってました、地雷酒(2022年の姿)でございます
そろそろ更新再開して行く所存ですのでよろしくお願いいたします
「こりゃ、また……」
「なんて言うか、流れるプールLv.100みたいな……」
罠と刺客蔓延る森を力技で切り拓いた【対神楽連合】達の前に立ち塞がる第2関門。
それは、幅100m程のドーナツ状の荒れ狂う運河。
事前に渡ったフィローの報告により、その存在は周知されていた。だが、その猛威は想像以上だった。
『ふむ……。まるで渦潮……。しかも細かい礫や木片等が巻かれている。もはやミキサーですね。泳いで渡ろうなんて冗談でも言えません』
「しかも……見ろよ参謀。今流れてったのは抜き身の剣だぜ。自然物じゃねぇ。意図的に凶器を流してやがる」
『んー。最悪、ガッチガチに固めたタウラスに河底を歩いて向こうに行ってもらって……みたいな事考えてたけど無理そうだなこりゃ』
『……!?』
森を拓き【カグラ】のコアを守る関門のひとつを打ち破り上がっていた士気が気圧されるように落ちていくのが感じ取れる。
それもそうだろう。入れば一瞬でミンチに転生出来そうな地獄の運河が100m近くにわたり横たわっているのだ。『空歩』のレベルを最大にしているプレイヤーですらも、1歩で10m近くの跳躍を要求される。
船を用意しようにも、浮かべた端から粉砕されていくのが関の山だろう。
『さて……どうしたもんか……』
『身軽な人達なら、あっしが縄付きの矢をあの城に射って縄の道を作れば対岸に渡れそうでやんすけどねぇ』
「それじゃ時間がかかる上にメンツを選ぶな……。渡ってる最中に縄が外れたり、あるいは切られでもしたら目もあてらんねぇ」
『でやすよねぇ……』
「あまり騒がしいのもオススメしないでござるよ。今回は城の背面方向から森を突っ切ったでござるが、正面には桜色の鎧を着た門番がいるでござる。直立不動だったゆえ案山子か中身入りかは分からんでござるが……」
『気付かれるどうこうなら森を拓いた段階でアウトな気もしますが、悠長に渡るのを待っててくれる保証はありませんからね……』
立ち塞がる第2関門に【対神楽連合】は足止めを余儀なくされる。
『凍らせて……いや、現状氷系統の魔法はノルシィさんのしか確認されていないんでしたか。さて……どうしましょうか』
「橋をかける……にしても時間も資材も技術も足りないし仮に出来たとて生半可な橋じゃ耐えられなさそうだもんねぇ……」
『……ん?地面が、揺れてる……?』
どうしたものかと悩んでいると、レオがそんな事を呟き這い蹲る。
「アンタんとこのリーダーさんどったん?狂った?」
『いえ、さすがにこんな時にふざける人では無いはずですが……』
『っ!やっぱりだ!地面が揺れて……いや、何かがせり出して来てやがる!』
「『「はぁ!?」』」
驚いた様子の【対神楽連合】の前で、レオが感じ取った揺れは次第に大きくなり、誰もが察知できる程に膨れ上がる。
それは正しく、地中から何かがせり出してきているようで……。
「何が来やがるってんだ!モグラのバケモンか!?【カグラ】の罠か!?」
『落ち着いてください!みなさんも、足元警戒!ただし人員を半分に分けて周囲の警戒も怠らずに!』
「「「おう!」」」
襲撃の他にも罠、あるいは誘導の可能性も疑い、周囲への警戒を強める。そんな、人々の思惑など関係ないとばかりに揺れは激しくなり続け、ついにその正体を表す。
しかし、それはこの場の誰もが予想しえないものだった。誰の顔にも理解不能の色が浮かぶ。
『これは……橋?』
「どういうつもりだ……?」
彼等の前に現れたのは、地中からせり上がった石造りの頑丈な橋。荒れ狂う波を何するものぞと屹立するアーチ型の石橋。
磨き上げられたソレは、芸術品としての価値すらあるだろうと思わせる。対岸に渡れないと困っていたところだ。まさに渡りに船、ならぬ渡りに橋。
これならば対岸に行くことも容易いだろう。
「なんて思うわけねぇじゃん?」
「あぁ、明らかに罠だろコレ」
「罠じゃなかったら逆に怖いわ」
『ふむ……』
突如として現れた、怪しさしかない石橋を前にして【対神楽連合】は当然の様に渡ろうとしない。
しかし、それでは話が進まないのも事実。参謀を務めるヴァルゴは顎に手を当て、少し考える様子を見せると静かに振り返る。
『ダメ元で聞きますが、この中で人柱になってやるって気概の人はいますか?出来れば身軽な人と重装備な人の2人が欲しいんですが』
そして、ド直球に生贄を求めた。
「「「………………」」」
当然だが、このグループは共通の敵を見据えた同盟とはいえ真の意味で味方ではなく、むしろ敵同士と言える。
わざわざここで不利を背負いに行く者はいなかった。
『まぁ、ですよね。なのでウチから出しましょう。タウラス、スコーピオ。お願いします』
『…………』
『りょりょっ!承りー』
だからこそ、ヴァルゴは身内から人柱を選出する。指名したのは、森の開墾に一役買った寡黙な巨漢のタウラス。そして、この場で初めて名の上がる人物、スコーピオ。
声に従い現れたのは、暗色の軽鎧に身を包んだ身軽そうな痩躯の人物。鎧が無くとも見上げるほどの巨大であるタウラスとは対照的に、鎧を着てなお頼りなさすら感じる細身なスコーピオ。
しかし、その印象を裏切るほどに、あるいは補強するように、彼のノリは軽かった。
『んじゃオレっちさくーっと死んでくるんで、後でなんか補填期待してまっせー?』
『…………お前は、軽いな』
『およ、タウっちそんな重く考えなくてもいいべ?ぐっしゃぐしゃにぶっ壊れても復活出来んだから、危機に飛び込んで普通は出来ない経験しねーと持ったいねぇって』
『とまぁ、ウチの斥候役を務めるスコーピオです。この様にノリは軽いですが、仕事はしっかりこなすのでご安心を』
『安心をーっても信用出来んべ、ってな訳で男なら背中で語れってな。逝ってきまー!』
仮面で顔を隠してなお、その下で軽薄そうな笑みを浮かべていることが想像に難くない口調と共に、スコーピオは躊躇いなく怪しさしかない石橋へ足を踏み入れーーー
『フッ!』
ーーー急加速し、一息で渡り切る。
『っと……ほいほーい!オレっち生きてんぜ!ダッシュで渡れば平気っぽ!』
『……参考にはならないかもしれませんが、渡る事は不可能では無さそうですね。石橋も何かが起こる様子もありませんし。タウラス、お願いします』
『……あぁ』
一瞬で駆け抜けたスコーピオとは対照的に、タウラスは1歩1歩を踏み締める様に歩いて行く。
そして、過剰な程に遅くたっぷり3分はかけて渡り切る。その間、石橋は荒れ狂う大河の中にあってもどっしりと存在し続け、また何かしらの罠が発動する気配も無かった。
『およ、遅くてもいいん?ってな訳でタウっちも無事だぜーい!なんか知らんけど【カグラ】は城に来て欲しいんでね?』
対岸にてタウラスと合流したスコーピオが手をブンブンと振って残りの【対神楽連合】のプレイヤー達へと呼びかける。
『ふむ……確かに渡り切れましたね。一応、油断させる罠の可能性もあるので戦力を分散し、いくつかのグループに分けて渡りましょう』
「どこがかけてもバランスが崩れないように……ってか?抜け目ねぇな参謀さんよ」
『当然です。いつ如何なる時も被害を最小に利益を最大に持っていくのが参謀の役目ですから』
彼等は最大限の警戒を続けながら橋を渡る。
そして、実にあっけなく全員が橋をわたり切る事が出来た。
「おいおい……どういうこった?」
『さて……分かりませんが、渡り切る事は出来ました。橋が出てきた以上、【カグラ】に気付かれていないという事はないと思いますが……』
拍子抜けしてしまうほどに呆気なく渡り切れた事で、逆に困惑の色が強まる【対神楽連合】。だが、目標を達成したことは事実ではある。
『さて、当初の目標通りにこの城……【巨城ネフィリム】に侵入するとしましょうか』
ヴァルゴの言葉と共に【対神楽連合】が動き出そうとして……それより早く、変化が現れた。
逆再生のように石橋は荒れ狂う運河の中に沈み行き、動く歩道の如く彼らが立つ大地が動き出す。
ぐるりと半回転。彼等は1歩も動かぬ間に、【巨城ネフィリム】の正門前へと移動させられたのだ。
眼前には見上げるほどの巨大な門と、その前にちょこんと居座る直立不動の桜色の全身鎧。
あっけに取られ、あるいは武器を構える彼らの前で重厚な音と共に門扉が開かれて行く。
それと同時に、桜鎧が動き出す。傍らに突き立てられていた身の丈酷もある同色の大盾を構えると、静かに口を開いた。
『通りたければ通ってください』
フルフェイスの重鎧に歪められた音は、その中身が男か女かも伺わせない。それでも、その言葉の意味が門番として致命的に間違っている事だけは理解出来る。
『もちろん、向かって来るなら止めはしますが……この門を潜った人を追いはしません』
続く言葉は、まるで安い挑発のような内容。
しかし、全身を鎧で覆ってなお小柄なその体躯からは想像も出来ない程の落ち着きぶり、またそれが醸し出す圧に【対神楽連合】はその桜鎧が冗談で言っているのではないと確信する。
『へぇ……じゃあキミをぶちのめして全員通らせて貰おうか!』
レオが鞘から剣を引き抜き、如何なる効果か刀身を赤く光らせ真紅の尾を引きながら桜鎧に切り掛る。
ガインッ!という、金属同士がぶつかり合う音と共に、後に『巨城門前の侵攻戦』とプレイヤー間で語り継がれる激戦が幕を開けた。




