第276話 『蠱毒・2日目《始動》』
死ぬ程遅くなって申し訳ないです
ちょっと色々とありまして……
「さて、ようやく揃った訳だけども」
ただ1人、集合10分前から会議室に来て待っていたリベットが静かに口を開く。
早くて13分。遅くて20分の遅刻をかました7人に問いかける。
「もしかして、俺が集合時間間違えてた?」
「い、いや……リベットは間違ってない、ぞ……?今回は完全に俺らが遅れただけだ」
何も、リベットだって本気で自分が早く来すぎたと思っている訳では無い。全員が全員遅刻した事への皮肉だ。
それがわかっているからこそ、誰もが気まずそうにしている。
「ま、もうそれはいいよ。さすがに全員遅刻には驚いたが……ほじくり返す程のことでもねぇ。それにしても、トーカやリーシャも遅れるとはな」
何となく蔓延していた気まずい空気をリベットは軽く笑い飛ばす。言う通り全員(特にトーカやリーシャといったお目付け役まで)遅刻した理由の方が気になるようだ。
「む、それはどう言う事だ……?」
「まるで俺達は最初から遅刻するみてぇな言い方じゃんか」
「どうせトーカが設定させたアラームが無きゃ時間忘れてドンパチやってたろ?」
「「むぐぐぐ……」」
遅刻前提の判断はさすがに不服である!と唇を尖らせていたカレットとリクルスだが、ぐうの音も出ない正論パンチに一撃ノックアウトされた。
「いや、まぁ言い訳っぽくなっちまうんだが。一応理由があってな」
そんな哀れな幼馴染達を見てその引率役だったトーカが事情の説明を始める。
「カレットが自爆して終わらせたから俺とカレットはコアの部屋でリスポーンしたんだよ。それで、とりあえず戦果の確認だ!ってカレットが獲得ポイントウィンドウを開いて……」
「フリーズしてしまったな。数字がびっくりだったぞ」
「……まぁ、そういう事だ。その後遅れそうだって焦って走ってたら迷って、途中で迷ってるリクルスと合流したはいいけど結局迷子が2人と1人から3人になっただけで……って感じだな。最終的にメイにメッセージ送って道作って貰ったんだ」
分かれ道をどちらに行くかですら喧嘩できるリクルスとカレットが合流したことによってさらに時間を食った事を言わなかったのはトーカなりの優しさだろうか。
ともかく、この城は住人さえ迷わせてしまうらしい。
「あ、ごめん。自動組み換え機能オフにしてなかったや」
「自動組み換え機能?」
「うん。誰かが通った形跡のある道を自動的に組み替えたり壁の移動をしたりで構造を常に変え続ける機能だよ。【カグラ】のみんなは対象外にしてたんだけど、調整用にちょっと設定いじったままにしちゃってたんだ」
「そうだったのか……通りで記憶と道が一致しない訳だ」
住人が迷ったのは城の主のせいだったらしい。
「んで、メイとウォルカス……は察しがつくからいいや。リーシャはどうしたんだ?」
「私は……無力だったわ……」
リベットが尋ねると、リーシャは力無く項垂れる。
なお、スルーされた2人はえ?と驚いた様子だった。
「メイだけならね、長年の付き合いから集中してても引き上げられるんだけど……。途中でウォルカスさんが合流して同じベクトルで話せる相手がいたせいか、集中がこれまで以上に深くてね……」
つまりは、そういう事だ。生産狂2人の相乗効果はもはや1人でどうこう出来る次元ではなかった。
「「……てへ?」」
メイとウォルカスが舌をペロッと出して小首を傾げる。小柄なメイや中性的な顔立ちのウォルカスがやるとなんとも様になっているのがまたイラッとくる。
「なるほどな。まぁならしょうがないか。それで、サクラちゃんはどうしたんだ?」
なので生産狂コンビは無視してこの場において圧倒的存在感を放つ桜色の重鎧を着込んだ人物……サクラへ水を向ける。サクラは気まずそうに顔を逸らすと、申し訳なさそうに口を開く。
「えっとね、まだ出番が無くて暇だったから……何となく正門の橋のところで仁王立ちして門番ごっこしてたんだ。それで、なんというか思った以上に気温が心地よくて……びっくりしたんだけどねこの鎧の【不動の大樹】って転倒とかにも対応してるんだね」
「うん!ソレを装備してるサクラちゃんが望まない限りどかされることも転倒させられることも無いよ!さすがに地面が消えたら無理だけどね……。さすがにまだプレイヤーを飛ばせる程の飛行ユニットは作れなくてね……」
「いつかメイなら作りそうなのが恐ろしいよな……って、そうじゃなくて。その話を聞く限り、もしかしてサクラちゃん……」
「……はい。あんまりにもいいお天気だったので……気が付いたら、寝ちゃってました」
寝ずの番ならぬ寝てる番である。それでも、全身を覆うフルアーマー装備の番人が弁慶もかくやという程の仁王立ちをしていればわざわざ正面から行こうとは思わないだろう。それが、ヒャッハー共の居城となればなおさら。
事実、この城に侵入して来たフィローは門番をしている桜色の番人を見て警戒していたのだからしっかり仕事をしていると言える。
「なんか、自由だなって感じがするよな……」
迷子、没頭、昼寝。それぞれの遅刻の理由を聞いて、リベットが気の抜けたようにへにゃりと笑って円卓に突っ伏す。
「ま、仕方ねぇか。俺だって暇で先にここ来て居眠りしてたくらいだし。……けど、そろそろ動くんだよな?」
「あぁ。メイのおかげでマップは埋まったし大体の情報も収集出来てる。リクルスやカレットのおかげでポイントにも余裕があるしな。対【カグラ】を掲げた同盟なんてのも結成されてる」
いくつかの要素を振り返り、トーカが告げる。
「動くには十分だろう。第2段階だ。注目を集める」
半ばイベントギミックとして組み込まれた【カグラ】が立てた作戦の第1段階。
その目的は『時間稼ぎ』。
拠点を整え、広大なマップを埋め、そして他プレイヤー達が動く時間を作るための停滞戦術。
初動でド派手な一撃をぶっぱなしたもののそれはプレイヤーを狙った訳ではなく、カレットが森を焼いたりリクルスが暴れ回ったのだって言ってしまえば誘導だ。
こちらから攻め込むことは無く、その場に留まる。リクルスは遊撃に回っていたが、それはある種の撹乱や情報収集の目的があった。
その結果として【カグラ】にアンタッチャブル的な印象が着いてしまったのは若干想定とは外れているが、それも有力なプレイヤー達の背を追い立てる一助になっているなら問題は無い。
そして、作戦の第2弾の目的は『注目を集める』。
より正確には、プレイヤー達のヘイトを集め共通の敵となる事。言ってしまえばこのイベントのボス枠になってしまおうという作戦だ。
つまり、ヒャッハー達が解き放たれる時間が来てしまったのだ。
「おおっ!つまり暴れていいんだな!?」
「おっしゃ!腕が鳴るぜ!」
「さんざっぱら暴れて来た子達がなんか言ってる……。けど、私も広いフィールドがあるのに動けないのは窮屈だったから楽しみね」
「俺はどちらかと言うと防衛寄りで攻めるのは苦手なんだよなぁ」
「大丈夫。2段階目になったらここを開放するから。気骨のある人達は情報収集がてら攻めてくるはずだし、防衛役に残って欲しいんだ。サクラちゃんもね」
「なーる。そういう事なら任せな」
「【カグラ】のみんな以外の人と戦うのは初めてだから……うん。ちょっと、楽しみ」
「僕とメイさん、サクラさん、あとついでにリベットが拠点防衛ですか。ちょっと過剰戦力な気もしますが……メイさんがいる時点で元からでしたね」
こうして、ヒャッハー達の次の動きが決まる。
トーカ、リクルス、カレット、リーシャの4人が外へ出向きとにかく暴れる。
メイ、サクラ、リベット、ウォルカスの4人が拠点に残り防衛、ないし準備を進める。
それがある種の追い込み漁のようになるのもまた、作戦の内であった。
「そんじゃ、最後にポイント確認だけして解散とするか」
話が手早くまとまった会議の〆に爆弾が投下される。
誰もが気になり、しかし恐ろしさのあまり開くことのできていなかったソレを、トーカは容赦なくぶちまけることを選んだのだ。
「あ、ならまず俺のからな!」
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【リザルト《リクルス》】
・プレイヤー撃破……計2660P
・モンスター撃破……計840P
・『悪食のコールフィー』撃破……400P
・『泥啜るアルゴダ』撃破……200P
・因縁決着【絶滅】……100P
計4200P
【個人合計】
4200P
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いくら普段から些細な事で張り合っているとはいえ、さすがにカレットと量で競う気は無いらしいリクルスが先に遊撃の成果を開示する。
大方、この後のカレットの大量ポイントの後で開示するのはさすがに惨めになるから先に出してしまおうという腹積もりだろう。
「おお……結構稼いだな。ってなんか倒して来たのか?因縁決着とやらもしてるが……」
「あぁ、鶏とダチョウのハーフみてぇなヤツとサソリとアルマジロのキメラみてぇなヤツだな。一丁前に喧嘩売って来たから買ってやったぜ。因縁決着の方はよく分かんね。なんかあったんじゃねぇかなこのどっちかにバックストーリーっぽいのが」
「ふぅん。まぁ終わった事はしょうがないわよね。あ、私も森に来た人ちょくちょく狩ってたから1000ちょっとは稼いだわよ。全部プレイヤーだから面白みもないリザルト画面だけど」
「僕もゴーレムの分とかが僕に入るみたいで1000ちょっと行ってたはずだよ。さすがに僕も特別モンスターとか面白いのはなかったなぁ」
「リザルト画面の面白さってなんだ……?一応俺は300行くか行かないかだったはずだな。機動戦は苦手で森じゃほとんどリーシャに任せっきりだったから……」
「みんなすごいね……私はゼロだよ……」
「そりゃサクラはしょうがないだろ。そんなこと言ったら俺だってゼロだ」
「【サクリファイス】でついさっきまで死んでたお兄さんとずっとここで番兵してたサクラちゃんはむしろ稼いでたら怖いわよ」
わいのわいのとポイント談義が盛り上がる。それは、ある種の防衛本能だったのかもしれない。
この後来る衝撃に耐えられるように。
「ふっふっふっ……みんな甘い、甘いぞ!刮目せよ!これが私の成果だ!」
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【リザルト《カレット》】
・プレイヤー撃破……計378660P
・コア破壊……計1650P
・モンスター撃破……計156840P
・『木彫りの聖女』特別撃破【火刑】……1000P
・『鳴り響くラーロン』撃破……600P
・『氷翼のアクリエイス』撃破……500P
・『炎翼のタロクアタ』撃破……500P
・『喘鳴の虚兵団』撃破……800P
・『笑茸』撃破……300P
・『祈石の到達者』撃破……600P
・『鏡窟猿』撃破……700P
・『嘘偽りのカンガキラ』撃破……600P
・『型破りのフルホー』撃破……800P
・『修行僧カラム』撃破……1500P
・因縁決着【天女解放】……500P
・因縁決着【氷炎双墜】……1000P
・因縁決着【敗軍処刑】……800P
・因縁決着【墓標ニモ成レズ】……100P
・因縁決着【流派断絶】……100P
・因縁決着【終ぞ至れず】……100P
・コア破壊10達成……1000P
・コア破壊20達成……2000P
・コア破壊30達成……3000P
・特別モンスター討伐数5達成……500P
・特別モンスター討伐数10達成……1000P
・因縁決着数5達成……1000P
計564650P
【個人合計】
567970P
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「「「「「「は?」」」」」」
『うっわすっご……』