第273話 『蠱毒・2日目《逆転》』
拙者スキル説明とか大好き侍でござる
「【ワイド「【幻想励起】」ブロック】!」
小太刀の切っ先が、この城の雰囲気に合った暗色の甲冑が構える大盾の中点へと突き立てられる。
充分過ぎるほどに乗った加速の全てが込められた突きは、しかし。大盾へ突き刺さる事無く、数瞬の拮抗の後にカシャンと儚い音を立てて砕け散る。
小太刀の刀身が砕け散り生まれた空間を突き進むように、侵入者の身体は勢いそのままに大盾へと突撃し弾き飛ばされた。
◇◇◇◇◇
「が……あっ……!」
渾身の一撃を受け止められ、弾き飛ばされた侵入者は地面に叩き付けられ苦悶の声を上げる。
それを見届けた甲冑は、静かに侵入者へ向かって近付いて行く。あまりの衝撃に動けずにいる侵入者のすぐ側までやってくると、その首目掛けて大盾を振り上げた。
「『逆唱』」
何故か下辺が刃になっている大盾が振り下ろされる。よりも早く、倒れ伏し起き上がらない侵入者の口が言の葉を紡ぐ。
「源を葬り零に輝け【源葬零輝】」
瞬間。
世界の歴史が。
改編された。
◆◆◆◆◆
「【ワイド「【源葬零輝】」ブロック】!」
小太刀の切っ先が、この城の雰囲気に合った暗色の甲冑が構える大盾の中点へと突き立てられる。
充分過ぎるほどに乗った加速の全てが込められた突きは数瞬の拮抗の後、大盾へと突き刺さる。カッと軽い音を立てて表層を貫けば、その傷口から力の奔流が流れ込む。
ガガガガと掘削の様に大盾を削る力の奔流はともすれば暴走ともとれる程に荒れ狂い、ビキビキと無数の罅を広げて行く。そして。ガギャン!と鈍い音を立て、大盾が砕け散る。
「……!?」
大盾が砕け散り生まれた空間を突き進むように、小太刀の刀身は勢いそのままに甲冑へと突き刺さり、力の奔流を流し込こんだ。
◇◇◇◇◇
パキャンッ、と軽い音と共に小太刀が砕け散り、破片がキラキラと舞い散る。
否、その破砕は小太刀だけにとどまらず、小太刀を握った侵入者の腕すらも結晶のように硬質化し、砕け散る。
「っ……!これは……腕と武器1本で済んだと思うべき、かな」
足元に散らばった腕と小太刀だった破片をじゃりっと踏み締めながらよろめく侵入者がそう呟く。
「あ……かふっ……」
その視線の先には、大盾を失い、それどころか胴体に大穴を開けた甲冑が立ち尽くしていた。しかし、それも最後の意地のようなものだったのだろう。甲冑は乾咳のような、弱々しい呼気とも取れる小さな音を発してどさりとうつ伏せに倒れ込んだ。
「まさか【源葬零輝】を使わされるとは……かなり硬かったけど【カグラ】にタンクっていなかったよね……?新メンバー……?」
本来辿るはずだった未来に体験した手応えを思い起こしながら、侵入者はゴクリと唾を飲み込む。
かつて彼女が使った【幻想励起】。その効果は言葉の通り『幻想』を『励起』する。
幼い頃に電車や車などの中から高速で流れる外の景色を眺め、そこに想像の人影を走らせたことは無いだろうか。
ソレこそが『幻想』であり、そのままではその人の中にしかない想像の産物。そんな想像の産物をより明確な形にし、現実世界への干渉能力を与える事こそが『励起』である。
つまり、侵入者がこのスキルを使った時、侵入者本体とは別に侵入者にしか見えない幻想の襲撃者が甲冑を取り囲んでいたのだ。
そして、無数の刃による同時攻撃が行われていた。
しかし、それでは歯が……刃が立たなかった。幻想の全てが弾かれ、実態を持つ己も吹き飛ばされた。
だからこそ、侵入者は奥の手を1枚、切った。
《EBO》では、一部のスキルやアーツ、魔法には『起句』が定められている。例えば、アーツや魔法を使う際にその名前を唱えるのはそれが『起句』だからだ。
他にも、『呪術魔法』などのように長々とした『起句』、ある種の詠唱を要求される事もある。
これらの『起句』は大きく分けて2種類に分類される。
1つ目は、そもそも唱えなければ発動出来ないもの。
2つ目は、唱える事で威力や効果を底上げするもの。
例外として『空歩』や『縮地』と言った起句を必要とせずまた起句による効果の底上げも存在しないスキル、魔法の無詠唱と言ったイカれたプレイヤースキルの賜物などもあるが、基本的にはこの二種類に分類される。
そして、それは後からの変更が効かない。起句を唱える事で効果を底上げするスキルを起句を唱えずに使用し、途中から起句を唱えて効果を上げると言った後出しは出来ないのだ。
そんな大前提とも言える当然のルールを破壊する極めて異端なスキルこそが『逆唱』である。
その効果は単純にして法外。『逆唱』によって唱えた起句を、過去に唱えていた事にする。
結果として現在が書き変わる。ごく限られた事象にしか影響を及ぼせないとはいえ、その力は絶大。まさに神の御業にも等しき力。
ゲームとしての処理的な視点で見れば、過去ログを参照し、起点となる部分までロールバックを行い、そこから変更された事象通りの演算を行いそれを適用する。
何においても、過去改編などという超常の力を振るう代償は決して小さくはない。
まず、発動コストとして全ステータスを素の値の10%を消費する。これも死亡するまで低下したままであり、ステータス増減の効果を受けた場合低下した値が基準値となり、既に受けている効果も低下後の割合で再計算され適用される。
次に、過去改編の代償として改編元と改編後の事情の隔離度合いから算出された値分だけ身体、装備が永続的に欠損する。これも死亡する事で解除されるが、それ以外ではどのような方法でも回復手段はない。
最後に、クールタイムが24時間であり、時間が経過しても死亡するまで解除されることはない。また、このクールタイムはあらゆるスキル、アイテム、その他効果を使用しても短縮、解除、対象変更を行うことが出来ない。
そんな、まさに奥の手中の奥の手を使って放った【源葬零輝】。その効果は『数値への直接干渉』。
あらゆる効果を無視して、設定されている数値の値を直接減らす、まさに源から葬る一撃。
これも、『逆唱』ほどではないが1時間と極めて長いクールタイムと、あくまでこの技の能力は数値への直接干渉を可能にすることであり、数値を減らすための威力は他で確保していないといけないというデメリットを抱えている。
それでも、今相対した甲冑のように高い防御力や攻撃耐性の能力を持つ相手には極めて有効な一撃となる。
片腕を失い崩れたバランスを微調整して動きを修正する侵入者の前で、地に倒れ付した甲冑が光の粒となって溶け消える。
「……ふぅ、とりあえず、耐えられてて死んだフリ……とかではなかったみたいだね。死を偽装するスキルもあるけど……【御魂祓】」
甲冑が消えた辺りの場所で左の手で鍔の無い直刀を素早く振るい、納得したように呟く。
幽霊系モンスター特効を持ち、また蘇生待機中の霊体(『偽死』スキルによる死んだフリを含む)を斬ることで即座に待機時間を終了させる効果を持つアーツで死んだフリチェックを行い、侵入者はようやく一息ついた。
「早めに処理出来てよかったよ。時間食ってたら押し潰されちゃうと……ころ……って、そうじゃん!逃げなきゃ!」
ほっと一息、そして思い出したらしい。今まさに崩落する通路から脱出中だったという事を。
侵入者は慌てて足に力を込め、駆け出す。
直前。
バタンっ!ガシャンガシャンガシャン!
少し先の天井に穴が開き、ガシャシャと行く手を阻むように何かが降り注ぐ。もう崩落がここまで……!?と焦る侵入者だが、幸いにもそれは天井の崩落ではなかった。
むしろ、崩落の方が良かったかもしれないが。
「……は?嘘、でしょ……?」
突如開いた天井から降り注いだのは、計10体の甲冑。先程倒した甲冑と全く同じ鎧全く同じ大盾を装備した甲冑がガシャシャと雪崩のように降り注ぎ、次の瞬間には何事もなかったかのようにムクリと起き上がり大盾を構えた。
『『『『『ここは通さないよ』』』』』
「……詰んだね、コレ」
◇◇◇◇◇
「ふふふ……ピグマリオンスライムのドロップアイテム『人形粘土』とレアドロップ『模倣粘土』を組み込んで作ったミミックゴーレム。僕の持つゴーレム全体の1%も居ない秘蔵っ子だよ。サクラちゃんには遠く及ばないとは言え、その力の一部を模倣したあの子達を突破出来るかな?」
「いや一体突破されてんじゃん」
「ゴーレムの強みは数なんだから一体倒したくらいじゃ屁でもないよ!全滅させられて初めて負けだからね!」
「我が親友ながら、屁理屈極まれりね……」