第266話 『蠱毒・2日目《白き焔を討て④》』
いやぁ……前回の感想欄は凄かったですね
カレットがやられたのに対して『トーカが開放された』派と『結構あっさりだったな』派と『どうせなにか仕掛けてるんだろ』派がいましたね
今回は長くなったので3話に分けようかと思ったけど区切りが悪いので1話にぶち込みました
「っ……!勝ったぞ!」
「やったんだ……俺らで白龍姫を倒したんだ……!」
「っしゃオラァ!」
革命軍が沸き立つ。エリアひとつを塗り替える程の力を持った強敵を打ち倒したのだ。溢れ出る歓喜のままに感情を吐き出すのも仕方の無い事だろう。
「本当に助かったぜ。アンタのおかげで革命を成功させる事が出来た」
革命軍リーダーが白龍姫を討ち取った着流しの青年に声をかける。その表情は実に晴れやかで、そして強者への尊敬の念がこもっていた。
「いやなに、気にするこたぁねぇよ。オレだって師匠から継いだ技がバケモン相手にどこまで通じるか試したかったんだからな」
「師匠ってと……南の翁か。なるほど確かにあの人の技術を継いだってなら試したくはなるわな」
「免許皆伝、なんて口が裂けても言えねぇけどな。ま、師匠の名に泥塗らねぇ程度には、な」
南の翁。それは、かつて行われたイベント、『トルダン防衛戦』にて、南エリアのボス劣水竜の鞭のようにしなる尾を一刀の元に切断して見せた伝説のプレイヤーである。
その偉業と力量、そして何よりかっこよさに人々は畏敬の念を込め、彼の事を南の翁と呼ぶのだ。
表舞台に顔を出す事こそ少ないものの、今でも少なくないプレイヤーから慕われている実力者であり、どんな基準があるのか弟子入りを志願した者の中から数名を選び弟子に迎え、気まぐれに稽古を付けているという。
この着流しの青年も、その弟子の1人である。
「さて、と。ご主人様が散ったんだ。この炎も収まってくれりゃいいが……」
ひとしきり話してから、革命軍のリーダーは周囲を見回してそう呟く。
そこには、主を失った炎達が依然と燃え盛っている。この炎を生み出した白龍姫は、どうやってか木々に引火した後もこの炎達を支配下に置いていた様だが、その白龍姫は既に散った。
追加は無いが、元よりこの場だけでなく大樹海全体が火の海に沈んでおり、この森の木々の再生力と炎の火力がせめぎあった結果、永遠に燃え続けているという地獄になったのが現状だ。
主の消滅に伴い勝手に消えてくれれば最上だが、どうせ消さない限りは森はこのまま燃え続けるだろう。
多少の消火作業ならしてもいいが、この場では焼石ならぬ焼森に水。大人しく帰還し、後の事は別働隊に任せた方がいいだろう。
革命軍リーダーがそう判断し、未だ興奮覚めやらぬ仲間達へ号令をかけようとしたその瞬間。
「っ……!」
周囲の炎が渦巻く。
主の死を悼むように、悲しむように、せめて仇を討たんと、ごうごうと燃え盛る炎が革命軍を取り囲み、渦を巻き、猛り狂う。
「クソ……!あんだけ強いってのにご丁寧に死んだ後の事も対策してやがったのか……!オラおめぇら!白龍姫倒したくせにここで死んだら笑い話にもなんねぇぞ!」
『ったりめぇだ!意地でも生き残ってやらァ!』
浮き足立っていた革命軍が再び気合いを入れ直し、本番さながらの耐火強化で防御を固める。
「包囲系か爆発系か……生半可な威力ってこたぁねぇだろ!気張れよ!」
革命軍リーダーがそう言い放つと同時に、渦巻く炎が一点に集中し、圧縮されていく。
周囲を紅蓮の海に沈めていた全てが集まったのか、辺り一帯は本来の緑を取り戻し、既に焼け焦げた枝葉の再生が完了している。
ほんの数秒のうちに一変した光景を、しかし誰もが意識に留めることは無かった。
視界の先にある、直径2m程に圧縮された炎の塊。あまりに大量の熱量を無理やり凝縮している為か、周囲の炎が寄り集まった集合体はチラチラと部分的に白く染まった炎を纏った歪んだ楕円形となっていた。
色や形状からまさに卵型と呼ぶに相応しいその炎塊が孵る時、どれほどの暴威が撒き散らされるのか。革命軍は炎の卵から目を離さずに、ジリジリと距離を取る。
願わくばただの虚仮脅しであってくれ。それか、安全圏まで退避するまで大人しくしててくれ。そんなありえない願望を抱いてしまうのは、あの戦闘で見せたたった2発の攻撃がそれ程までに強力だったからに他ならない。
そして、永遠にも思える数瞬の後、卵の殻にヒビが入るように、白熱化した炎塊の内側からさらに炎が溢れ出す。
「っ!来るぞ!防御陣A……、いや、Dだ!」
「「「【五重ウォーターウォール】ッ!」」」
「「「【三重ウォータードーム】ッ!」」」
「「「【ウォーターブレス】!」」」
革命軍リーダーの号令に従い、革命軍の魔道士達がそれぞれ『部分防御』『全体防御』『相殺』の為に『水魔法』を発動する。
複数人による魔法合成によって生み出された水の壁が炎の卵と革命軍を隔て、水の丸屋根が革命軍を覆い、水の息吹が炎を飲み込まんと襲い掛かる。
それは、間違いなく全力をとした攻撃性の防御。高威力の攻撃で相殺し、相殺しきれなかった分を全力で防御する。本来は【白龍砲】ないしそれに準ずる攻撃への防御策ではあるが、革命軍リーダーはそれだけの脅威をこの炎の卵から感じ取っていたのだ。
そして、その予感は当たっていたと言えるだろう。
あるいは、当たり過ぎていた。
「うむ。さっきのは良い一撃だったぞ。では返礼をしなくてはな。【白龍砲】」
炎の卵の中から、討ち取ったはずの白龍姫が再び姿を表す。
直後、純白が迸った。
◇◇◇◇◇
「【八重火球】」
蘇った白龍姫が無造作に8つの火球を放つ。
それは、分類こそスキルレベル1から使える最下級の魔法ではあるが、使い手が白龍姫であるという一点だけで決して無視出来ない驚異となる。
狙いなどはなから付けていないのだろう。革命軍に向かった火球もあれば、あらぬ方向に向かって行った火球もある。
「【八重火槍】」
かと思えば、次は火槍が吹き荒ぶ。
人に、木々に、地面ですら、火槍が突き刺さった部分からさらに発火し、一瞬で景色を地獄に変わる。
「【八重火矢】」
槍よりも細いから、そう安心したのならそれは愚かと言わざるを得ない。
細く軽く、故に早く鋭く。
槍と矢の威力の差など、慰めにもならない。
「【八重火弾】」
火の銃弾が四方八方を撃ち抜く。
「【八重火刃】」
火の刃が人も木々も等しく切り裂く。
「【八重火爆弾】」
火の爆弾がまとめて爆ぜて地獄を描く。
少し前まで火の海だった樹海。
一瞬だけ緑を取り戻した樹海。
そして、再び紅蓮に染る樹海。
蘇った白龍姫の撒き散らす災火に、一度は白龍姫を下したはずの革命軍達は逃げ回るしか出来なかった。
「ボスの復活は国際法違反だっての……!」
「なるほど、初耳だ。でも大丈夫だろう。私はボスではなくプレイヤーだからな」
「うるせぇレイドボス!」
34。
白龍姫が復活してから今この瞬間までの3分足らずの間に焼失した革命軍のメンバーの数である。
復活直後の【白龍砲】によって、革命軍の防御はいとも容易く食い破られ、逃げ遅れた、あるいは他のメンバーを逃がす為に13人が飲み込まれ消えた。
その後から続く火球に、火槍に、火矢に、火弾に、火刃に、火爆弾に、そして猛り狂う周囲の炎に、21人が飲まれて消えた。
「クソが……!さっきは遊んでやがったな!?」
「まぁ、簡単に死なれてはつまらんし様子見をしていたのは認めよう。そして、それは私の間違いだったのも認めよう。お前たちの力量を見誤った。それはすまなかった」
「っ、そうかよ……!【解放】ッ!」
謝罪と共に差し向けられる紅蓮の波を、革命軍リーダーは中途半端剣を地面に突き立てそこに水壁を生成する事で防ぎながら悪態をつく。
「なら、何度でもぶっ倒してやるよ!」
革命軍リーダーは中途半端剣を右手に構え、左手は肘まで覆ったガントレットで拳を握りしめる。
「剣と拳で双けんってな!」
そして、革命軍リーダーは誰も聞いてないダジャレを挟みつつも瞳を好戦的にギラつかせながら白龍姫に飛びかかる。
革命軍リーダーは本来、『装填』という特殊なスキルと、右の剣と左の拳を駆使して戦うトリッキーなスタイルを得意とする魔法けん士である。
「2足のわらじではなく同時にだと!?なんだそれ面白いではないか!」
「そりゃどうも!結構いいスタイルだと思うんだがどうも流行んなくてな。白龍姫を下したたとなりゃ箔が付くだろ?ってな訳で首置いてけ!」
「むしろ私の戦績によく分からんバトルスタイルの奴も倒したと加えてやろう!マジでよく分からんぞソレ!」
「言っちまったな!?興味本位で始めて引くに引けなくなってんだ察しろ!」
痛い所を突かれた革命軍リーダーはギャーギャー叫びながら双けんを駆使して白龍姫に詰め寄る。
ふざけたバトルスタイルだが、革命軍のリーダーを任せられるその実力は本物だ。
青い燐光を纏った中途半端剣とガントレットで白龍姫の魔法を時に弾き時に切り裂き、その距離を詰めていく。
革命軍リーダーが扱う『装填』というスキルは、一言で言えば『武器にスキルを付与するスキル』である。
事前に【装填】したスキルを【解放】する事によってその武器を起点に発動させる事が出来る。
このスキルの面白い点は、装填したスキルの効果は使い手の技量ではなく武器のスペックに依存する。という点である。
分かりやすく言うなら、店売りの武器にカレットが『火魔法』を装填した時とメイ作の武器に一般的な魔道士が『火魔法』装填した時では、後者の方が【解放】した時の方が圧倒的に効果が高くなるのだ。
これを活かし、革命軍リーダーはとりあえず手当り次第にスキルを取って強い武器に【装填】して全く育ててないスキルを強く使っているのだ。
ちなみに、革命軍リーダーが使っている中途半端剣やガントレットは生産掲示板で『興味本位で作ったはいいけど判定が曖昧になったせいでアーツは使えないけど性能だけは無駄に良い産廃武器』として地味に高額で売られていた物だったりする。
そして、アーツが使えなくても【装填】すれば無理やり使う事が出来る革命軍リーダーにとって、この武器は産廃どころか最高の代物だった。
何せ、このレベルの性能のまともな武器を買おうとすれば桁が2つは違うのだから。
「覚悟しろよ白龍姫ィ!【解放】ッ!」
至近距離から手を突き出し、【装填】したスキルを解放する。そこに込められているのは、当然『水魔法』。生産者不メイのガントレットから洪水が吹き出し、革命軍リーダーもろとも白龍姫を飲み込まんと押し寄せる。
「ふむ。【火球散弾】」
突如として出現した洪水に一瞬だけ迷ったような素振りを見せた後に、白龍姫は手のひらを突き出す。
反撃に白龍姫が選択したのは、8発の【ファイアボール】を同時に発動する【八重火球】を8発同時に発動すると言う、頭のおかしい魔法。
装備や称号などで消費MPをかなり軽減している彼女をしてなお1発で総MPの4割近くを持って行かれる程の大食らいの魔法。
突き出された白龍姫の手のひらから弾ける計64発の火球は、意図的にそうしているのか平時よりも幾分か小さくなっている。だが、それで威力が下がっているという事は無いだろう。
大波の洪水と大量の火球がぶつかり合い、水蒸気が爆発的に広がり視界を埋め尽くす。
相殺。そう革命軍リーダーが思った瞬間。
水蒸気の壁を突き抜けて勢いに陰りの見えない大量の火球が突き進んでくる。
「はぁ!?」
「2段階攻撃、というヤツだな。せっかく数があるのだ。有効活用しなければもったいないでは無いか」
「クソがッ……!これだからバケモンは……!」
つまりは、64発の内、10発を洪水の相殺に使い、残りの54発で攻撃をしたと言うだけなのだが、それはつまりそれほどの力量差があるという事に他ならない。
残った【ファイアボール】達が革命軍リーダーのバラけてリーダーを含む革命軍のメンバー目掛けて弾け飛ぶ。
「クソッ……!【ファイアボール】の威力じゃねぇ!」
革命軍リーダーは中途半端剣で【ファイアボール】を切り払うと、その衝撃にガリガリとHPを削られながら悪態をつく。
もはや悪態をついてばっかりだが、そう言いたくもなるだろう。決死の覚悟で挑んだ討伐作戦に成功し、しかしそれがぬか喜びと突き付けられ圧倒的な力の前に蹂躙されている。
そうなれば悪態のひとつやふたつやみっつやいっぱいもつきたくなるだろう。
だからこそ、革命軍リーダーはその気持ちを隠さず、むしろ過剰に吐き出す。
「【居合】」
そうやって注意を引き付けることこそが、勝利に繋がる道だと信じているから。
◇◇◇◇
「うむ。やはりおかしい」
しかし、1度見せられた一撃で再び殺られるなんて無様をヒャッハーが晒すはずもなく。
「なっ……!?」
紙一重の回避。
もはや切っ先が霞んで見えるなんてそんなレベルではなく、影すら見えない神速の居合。それを、白龍姫は躱してして見せた。
「名前からも構えからも待ちの技である事はわかった。なのに、一瞬で間合いに入られた。いや、無理やり入らされた。だから貴様の事は警戒していた」
着流しの青年の【居合】を紙一重で回避した白龍姫はそう独白するように呟くと、その身を炎に変える。
「最初は隙をついて『縮地』で間合いを詰められたのかと思った。だが、記憶を見返しても、そしてよく観察していた今回も。貴様は1歩たりとも動いていなかった」
そして、誰からも離れた位置で炎が集まり人型になると、炎はなおも独白を続ける白龍姫へと姿を変える。
「ふむ。分からん。私はトーカ程頭が回らんからな……推測は苦手だ。まとめて焼き払えと言う気分になってしまう」
「おうよ、ならネタバラシしてやるよ。オレの使った【居合】は普通のアーツの【居合】とは違ってな。抜刀後1秒間の間の初撃が早ければ早い程威力が爆発的に上がる【居合】に剣速が早ければ早い程威力が上がる【早撫】ってアーツを『型』ってスキルでひとまとめにしてんだ。そうすりゃほら。『抜刀後1秒間の間の初撃が早ければ早い程威力が爆発的に上がる』ってアーツに早変わりだ。んでもって至近距離に近付いたのは『縮地』の特殊派生スキルの『無拍子』だ。コイツの効果は単純で『縮地』の踏み込みって発動条件を無効化できる。後は剣速を早くすんのはこっちの役目だから単純に居合切りの技術だな。この3つを組み合わせたのが翁流の【居合】って訳よ。まさか2度目で破られるとは思わなかったが……。師匠の名に泥塗っちまったな。1回は仕留めたって事で許しちゃ……くんねぇだろうなぁ。っと、さて、こっちはネタバラシしたんだ、そっちの復活のカラクリと……ついでに今の謎ワープについても教えてくれよ」
そう矢継ぎ早に言い放つ着流しの青年。勝手に教えておいてこっちが言ったんだからそっちも言えとは勝手が過ぎるだろう。
「ほう。よかろう。いい事を教えてもらった礼だ。私も教えてやろうではないか」
だが、好戦的な、と言うよりは漫画を読むようなワクワクした表情で情報交換を受け入れる白龍姫。
「私の蘇生は簡単に言えば『不死鳥』というスキルの効果だな。いくつかのスキルが複合されたこのスキルには『死亡時に周囲に一定値以上の自身が起因となる火属性事象がある場合、それを消費して即時蘇生』という効果もあってな。周囲の炎を消費して復活したのだ。つまり、この森全てが私の残機と言う訳だ」
なんの気負いもなく、己の情報を開示する白龍姫。そこには「まぁ知られても問題は無いからな」という言外の余裕があった。
「マジ、かよ……」
「冗談だろ……?」
それは、事実上の無敵では無いか。
そう思わずにはいられない。何せ、この森の炎は全て白龍姫が放った火が燃え広がったもので、永遠に消えず、それどころか消えたとしても全てを同時に消さない限り残った炎が再び森を飲み込み燃え盛るのだから。
その炎を元に蘇生出来るのならば、それはまさに無限の命。不死の名にふさわしい悪夢のごとき権能だ。
「まぁ消費が大きい上に条件も厳しいから今回のような場合でもないと上手くは使えないのだがな。そしてさっきの移動は簡単だ。『焔を従えし者』という称号の効果で周囲の炎を操れるのだが、それに『炎身』という自身の体を一時的に炎にするスキルを組み合わせて擬似的なワープをしている……という訳だ。周囲の炎に潜って意識を同化すれば切り分け先によってはワープのようになるのだ」
そう言うと、白龍姫は「こんなふうにな」と続け、着流しの青年の背後に炎ワープで移動する。
「っ!?【空引】ッ!」
咄嗟に発動した斬撃は、狙いがブレたのか白龍姫の右腕を切り飛ばすにとどまった。
「おぉ、いい反応速度だ。だが、狙いが甘い。リーシャやリベットなら今ので確実に首を落としているし、リクルスならそもそも私が姿を消した時点で走り回って狙いをつけさせないぞ」
HPの4割を持って行かれるダメージにも、右腕の欠損にもなんら焦りを感じていない様子の白龍姫が少し真面目な顔で呟く。
と、同時に、失った右腕を補うように白龍姫の腕の切断面から炎が吹き出す。それが晴れると、そこにはちらちらと揺らめく炎を弄ぶ腕が何事も無かったかのように存在している。
「これも『不死鳥』の効果のひとつだな。部位欠損の再生も炎があればこの通りだ。さて、こんなところか?では……」
そう言って、白龍姫は炎ワープで距離を取ると弄んでいた炎を凝縮させ、白炎となった炎塊を放る。
一目見ただけで分かるその圧倒的な熱量に、革命軍達の心が悲鳴を上げる。
今までは、勝ち目のある戦いだった。そう、信じていた。なのに、相手は圧倒的な力を持つ上に不死身と来た。これで嬉々として立ち向かえるならば、それはもう狂気の域だろう。
それでも、足掻くことを止めないのは僅かに残ったプライド故か。
「簡単に負けてたまるかよ……!お前ら、合わせろ!【解放】」
「「「ッ……!【三重ウォーターブレス】!」」」
革命軍リーダーが中途半端剣に【装填】した『水魔法』を解き放ち、生き残った数名の魔道士が、全力を賭して【ウォーターブレス】を放つ。
それらは全てが途中でひとつに纏まり、巨大な、強大な水の竜を象り紅蓮の中に吼える。
「これが俺らの切り札だッ!【螭】ッ!」
それは、複数人で行う魔法合成。1人で組み立てる魔法合成よりも、リソースを分割出来る分多くの魔法を組み合わせられる代わりにその制御の難しさは《EBO》に数あるテクニックの中でも群を抜いた難易度を誇る。
この土壇場で成功させるのは、鍛錬の賜物かあるいは執念が引き起こした奇跡か。
白龍姫の放った炎塊を飲み込みかき消すと、水の竜は勢いもそのままに白龍姫をも飲み込まんと猛り狂い突き進む。
「……ふむ。その名は私の【白龍砲】やノルシィの【氷竜】への当て付けか?」
眼前まで迫る【螭】を静かに見据え、暗く沈んだ声でそう呟くと、白龍姫はそっと手のひらを突き出す。
「どちらにせよ、話は1人でソレを打てるようになってからだ。出直せ痴れ者が。【白龍砲】」
身の程知らずにも竜を騙る竜未満を、真の龍の息吹が焼き尽くす。
相性だとか、人数差だとか、そんなくだらない要素が入り込む余地のない圧倒的な力の差。
白く輝く龍が吼える。
主を守るように、主から守るように。
慈悲の炎で全てを白く染めあげた白龍は、高らかに吼えた。
◇◇◇◇
「さて、と。ついカッとなってしまったな。いやはや、すまなかった。とはいえ、うむ。人のネーミングにとやかく言う筋合いは無いが、名を背負うならそれ相応の覚悟と実力を持つことだな」
命からがら、どうにか生きていると言った様子の者達に、白龍姫が告げる。
革命軍リーダーと着流しの青年。
奇しくも今作戦において主戦力となったこの2名が、現時点における革命軍の残存戦力の全てだった。
「っ……どこまでバケモンなんだよ……」
「……師匠なら、あの龍すらも斬れんのかねぇ……」
「さて、そろそろ幕引きとしようか。それとも、これ以上何かあったりするか?」
「……」
「あぁ、【居合】なら止めておいた方がいいぞ。もう覚えた。次は来た瞬間焼き尽くす」
それは、決して強がりでも冗談でも無いだろう。予備動作に入ろうとした瞬間に白龍姫の目が鋭くなったのを察知した着流しの青年は苛立ちや不甲斐なさが綯い交ぜになった感情を吐き捨てる。
「チッ、たった2度見ただけでたぁ自信なくすね」
「私だから2度で済んだのだ。これがリクルスやリベットなら初見で対応するだろうよ」
「けっ、【カグラ】はバケモンの巣窟かよ」
「さぁな。さて、もういいな?では……」
そう言って、白龍姫が両手に炎塊を構える。それを投げれば、終わりだろう。そうでなくとも、ここから逆転するビジョンが見えない。
ならばせめて目をそらすことだけはしないと2人は白龍姫を睨み付け、炎塊が投げ放たれる、直前。
ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ。
この場にまるで似つかわしくない、アラームのような音が鳴り響く。
何が起こった……?2人がそう思うと同時に、白龍姫が残念そうに呟く。
「む、もう時間か。つい時間を忘れてしまっていたな。だがちょっとくらい…………むぅ。やはりダメか。というか、それを言う為だけにずっと黙っていたのか!?そこまで私は信用が無いのか!?」
まるで見えない誰かと話しているように白龍姫が1人で騒ぐ。状況が分からず硬直している2人がどうするべきかと思案していると、白龍姫がため息をついて手に纏った炎を散らす。
「さて、リーダーからの命令が入ったのでな。ここらでまとめて終わりにさせてもらおう。最後に、サービスと言ってはなんだかひとつ教えてやろう」
そう言って笑う白龍姫へと、周囲の炎が渦を巻いて集まっていく。
「『不死鳥』の持つもうひとつの効果。それは、『周囲の炎全てと自身の命を使って放つ対生命広範囲攻撃』。つまりは自爆だ」
「「はぁ!?」」
2人が驚きの声をあげるのと同時に、白龍姫が溜め込んだ炎の全てが開放される。
最後に2人が聞いたのは「安心しろ、効果があるのはモンスターだけで地形にはダメージは無い。むしろ回復効果があるくらいだからな」という、何も安心出来ない言葉だった。
こうして、白龍姫討伐作戦、『対炎革命』は時間切れに伴う白龍姫の自爆による引き分けで幕を閉じたのだった。
白龍姫を倒すという目標自体は達成してるから実質勝利
試合に完敗して勝負に勝ったというのころでしようか
ところで、スキル名まで含めてカレットの復活展開を予想されていた方がいてガチでビビりました
補足ですが、カレットのには『複数の魔法を組み合わせて単一の魔法にしている』タイプと『多重詠唱』で複数発動時に使用する事自体を『合成魔法』に登録しているタイプの2つの魔法があります(そのハイブリット型もあります)
例としては3発の【ファイアボール】を同時に放つ【三重火球】と3発の【ファイアボール】を重ねて1発にした【三重火球】、みたいな感じですね
【白龍砲】は○頭の時など基本的には前者ですが○岐の時は【白龍砲】を後者で発動しています
また、システム的に『合成魔法』には同一の名前は登録出来ないので『三重火球』と『3重火球』みたいに登録名は分けてるけど口頭発音ではイメージが最優先なので区別してないよ。だから文字でも書き分けてないよ。今決めたとかそういう訳じゃないからね(焦)というお話(【n重】魔法の定義が自分の中でもふわふわしてた事に気が付いたので明確に定義)
ちなみに、中途半端剣の柄とガントレットの手の甲には『五月』と無駄に達筆なフォントで刻まれていたとかいないとか
最後は自爆で諸共吹き飛んだヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版1巻は発売中、2巻も予約受付中です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!
 




