第265話 『蠱毒・2日目《白き焔を討て③》』
まだギルド対抗戦編の序盤も序盤ぞ???
雰囲気が完全に大ボス戦なんじゃが???
あ、今日は七夕だね!特に短編とかは無いよ!
幼馴染ーズは麺を天の川に見立てた冷やし中華でも食べたんじゃないかな
生産狂はって?ボトリウムで天の川再現してたよ
「待っていたぞ」
広大な森だったはずのエリアが炎の海にすっかり変わり果てている様子を眺めながらも、お膳立てされた炎の道を歩むことしばらく。
その声の主は突如として革命軍の前に現れた。
誰にも気付かれず、いつの間にかそこにいた緋色の少女が楽しげに笑う。
楽しげな、嗜虐的な、朗らかな、恐ろしい、綺麗な、凄惨な、可愛らしい、底冷えするような、無邪気な。
どれも当てはまるといえば当てはまるし、当てはまらないと言えば当てはまらない。そんな笑み。
あぁ、これこそが強者の、絶対者にのみ許された傲慢なのだろう。
そう一目で分かる程に、自然体で笑う彼女はこの場の支配者だった。
生半可な者ではこの時点で戦意を失っていてもおかしくない。そんな得体の知れなさを内包した笑みを浮かべる少女を前に、しかし。革命軍の中にはここに来て怖気付く者など誰一人として存在しない。
「よぉ、お姫様。ちょっとその首、貰いに来たぜ」
「そうかそうか。なら落として持っていくといい。出来ればだがな」
まるで筆箱を忘れたから筆記具を借りるような、そんな軽い雰囲気で首を要求する革命軍のリーダーに、じゃんけんで勝ったらな、とくだらない勝負を投げかけるように応えるカレット。
1対52。
地の利は向こうにあるとはいえ、考えるのも馬鹿らしくなるほどの人数差だ。
それでも、余裕の笑みを浮かべるのは1人の方で、緊張に表情を険しくしているのは52人の方だった。
「さて、さっきのアレを凌いだなら大丈夫だとは思うが……ガッカリさせてくれるなよ?」
ゴウッ!
カレットの声に従うように森を焼き続ける炎が勢いを増し、周囲を取り囲む。
「さて、礼儀は大事だからな。私の名前はカレット。炎に魅入られた魔道士だ。最近はもっぱら『白龍姫』と呼ばれる事が多いが……うむ。私も女だ。お姫様扱いは嬉しいものがあるな」
「こいつはご丁寧にどうも。アンタから見りゃ俺達は個々人じゃ塵芥と何ら変わんねぇからな。まとめて名乗らせてもらおうじゃねぇか。森を焼き猛威を振るうおっかねぇ姫様を玉座から引き下ろしに来た白龍姫討伐隊、『革命軍』総勢52名だ。ま、楽しく殺ろうや」
リーダーがそう言うと、返事も聞かずカレット目掛けて無数の矢が降り注ぐ。
正々堂々?そりゃ実力が同等以上で初めて取れる選択肢だ。こちとら数を集めてなお挑戦者の立場。手段なんか選んでられるか。
そんな無言の主張が込められた矢の雨を、しかし楽しげなカレットが操る緋色の群れがサッと撫でると、事も無げに燃やし尽くす。
「うむ。下手に日寄らず全力で取りに来る。素晴らしいでは無いか。もう少し耐火性の高い矢だったら危なかったな」
「おいおい。これでも耐火強化してる矢だぜ?それを鏃まで焼き尽くすとか狂ってんのかよ」
「案ずるな。すぐに後を追わせてやる」
そう言ってカレットが両の手のひらを上向きに構えると、周囲の炎が渦を巻く様に集まり、野球ボール程の球体を作り出す。
「さっきは指鉄砲がしたくて圧縮し過ぎてしまったからな。これくらいから試していくぞ」
そのまま前に突き出された手のひらから緋色の玉がそこそこの速度で革命軍目掛けて飛んでいく。
「報告にあった圧縮火球だ!見た目に騙されんなよ!」
リーダーの警告と共に散開する革命軍を尻目に圧縮火球は直進し、そのまま数秒前まで革命軍がいた場所の地面へと着弾する。
直後。大地が爆ぜる。
ズバンッ!という強烈な炸裂音と共に地面にクレーターを作り、爆ぜた地面の欠片を燃やし炎が猛る。
土が燃えるという異常事態に、革命軍の頬は引き攣らずにはいられない。
「ふむ。適当だったがいい感じにまとまったな。うむ。感覚は覚えた。ここから調整していくぞ」
当のカレットはと言うと、空になった手をぐっぱぐっぱと開閉し、満足気に頷いていた。
「さて、もう一球あるが、欲しい者はいるか?」
「おいおい、さっきの見せられて欲しがるバカがいるかよ。その辺にポイしとけって」
「それもそうだな」
革命軍リーダーの軽口に嫌に素直に応じたカレットは、嫌に技術は感じられないものの体捌きのセンスは感じられる、そんな見るものが見れば嫉妬に狂うだろうフォームで余った火球を投擲する。
革命軍リーダーに向かって。
「うわこっち投げて来た!」
「へいへいバッターびびってるー!」
「打ち返せってか!?」
シリアスさんが死んだ。
まるで無邪気な子供の様に楽しげに致死の一撃を放って、実に楽しげに煽り散らかすカレット。
そんなカレットの様子に革命軍リーダーは短剣と言うには長く普通の剣と呼ぶには短い、そんな中途半端な長さの両刃の直剣を握りしめ、ため息混じりの舌打ちを鳴らす。
「ったく、ピッチャー返ししてやんよ。構えろ」
ぽうっ……と薄緑の燐光を纏った中途半端剣を構えた革命軍リーダーは、そのまま流れるような洗練されたフォームで中途半端剣を投擲する。
「それはピッチャー返しではなくないか!?」
珍しくカレットのツッコミが響き渡る中、素早く革命軍の数人がカレットを取り囲む様に飛び出し、距離を取った包囲網を作り上げる。
そして、圧縮火球と中途半端剣が接触する。
そうすれば、当然巻き起こるのは先程地面を焼いた爆炎の噴出。地面に当たらず空中で爆ぜたせいか、溢れ出る炎が視界を埋め尽くす。
「さぁ、道を示せ。【解放】」
炎が猛る爆発の陰に隠れて、革命軍リーダーがそう呟いたのを聞き取れた者がどれほどいただろうか。
少なくとも、爆炎を挟んで対面にいたカレットの耳には入らなかった様だ。
爆炎の中心で焼かれていた中途半端剣は、その声に呼応する様に纏っていた薄緑の燐光を一際強く輝かせ、自身を起点に指向性を持った鋭い猛風を巻き起こす。
突如駆け抜けた猛風は風の槍となって爆炎を突き抜け、視界を埋め尽くす爆炎の壁に文字通りの風穴をぶち開けた。
爆炎の向こう側のカレットと、革命軍リーダーの目が合う。
片や、楽しくなりそうな予感に瞳を輝かせ。
片や、王手をかけたと口元に弧を描く。
道が、通った。
「【居合】」
チンッ。
辺りは燃える炎でうるさいままなのに、まるで世界にそれしか音が無いかの様に鍔鳴りが響く。
鍔鳴り。
それは納刀の証であり、つまりは斬った後の音。
カレットの真正面にいつの間にか現れた、この場に似つかわしくない着流し姿の青年が残心と共にゆっくりと息を吐く。
「白龍姫、討ち取ったり。ってな」
ぽーんと冗談の様に綺麗に飛んだ白龍姫の頭部がくるくると宙を舞い、首無の胴体が青年とすれ違うように倒れ伏す。
「……ぁ」
何を言おうとしたのか。頭部だけになった姿で口を開いたカレットは、そのまま光の粒となって燃え盛る炎の中に消えていった。




