第262話 『蠱毒・2日目《鬼退治①》』
投稿感覚がひっでぇ……
【2日目・朝】
遠く離れたとある森が緋色に染まっているのと同時刻。
『けひゃひゃひゃひゃひゃ!』
岩肌が剥き出しになった山岳エリアに、狂ったような笑い声が響き渡っていた。
「クソッ!なんだアイツ!?」
「イベントモンスター……?それともプレイヤーなのか!?」
「分からん!めちゃくちゃ強くてイカれてる事だけは確かだ!」
その狂笑から逃げるように、身軽な装備に身を包んだ3人組が軽快な身のこなしでゴツゴツとした岩場をものともせずに駆け抜ける。
「アイツ動きとんでもねぇけどミミさんなら何とかできるか……?」
「速さだけならミミさんの方が上なのは間違いない!問題は……」
『けひゃ!けっひゃひゃ!』
ズガンッ!
後方から飛来した2m程の岩塊を辛うじて回避した男が叫ぶ。
「俺らが生きて帰れるか、って事だな……!」
飛来した岩塊の正体は、今なお後方より迫り来る脅威が周囲の岩を砕き投げ付けてきた物だ。
「なんなんだアイツ……!バトルスタイルが無茶苦茶だ!」
『………………』
「静かに、なった……?」
「撒いた……のか?」
岩塊の連撃を何とか避け切った一行は、静かになった周囲を警戒しつつ、見渡す。
しかし、そこには既に何もおらず、耳にこびりつく程に響いていた狂笑も聞こえない。
「生き残った、か……」
「とりあえず、戻るか。報告もしなきゃだしな」
無事を確認した2人はほっと胸を撫で下ろし、気付く。
「あれ、グインは……?」
1人、足りない。
一緒に逃げていたはずの1人が、いつの間にかいなくなっている。
「はぐれたのか……?」
「クソ、タイミングの悪い……!いや、あの状況じゃ仕方ない、のか?」
「とりあえず、俺らは戻るぞ。ここでグインを探してアレとかち合っちまうのは避けたい」
「だな。グインには悪いが……」
2人だけでも拠点へ帰る方向で話がまとまりかけた、その時。
ドサッ、と。ナニカが降ってくる。
あらぬ方向にねじ曲がった四肢に恐怖に歪んだ顔。2割ほど残したHPバーの横には、ぐちゃぐちゃに絵の具を塗りたくったキャンパスのような見慣れないアイコン。
「グイ、ン……?」
「何が……!?」
それは、見間違えようもなく変わり果てた彼らの仲間の姿だった。
「あ……う、ぁ……ひっ、あ……ぐ……」
焦点の合っていない瞳で虚空を眺めるグインは、何かに苛まれる様に言葉にならない音を垂れ流している。
「な、何があったんだ……!?」
「大丈夫か……!?」
『けひゃっ』
慌ててグインに駆け寄る2人に向かって巨大な岩塊が降り注ぐ。
「なッ!?」
「クソッ!罠か……!」
彼らには仲間を思う情はあっても、それに引き摺られ過ぎることは無かったようだ。
一瞬でグインに見切りをつけると、その場から離脱する。直後、直径にして3mはある岩塊がグインを押し潰し、大きな地響きを引き起こした。
「悪辣過ぎんだろ……!」
「ッ!来るぞ!」
『けひゃひゃひゃひゃひゃ!』
2人組が警戒した瞬間、ズガンッ!と音を立ててソレが降って来る。
着地の衝撃で地面を凹ませ、地響きを引き起こすのはソレが宿した力量故か。
乱雑に伸びた野性的な紫黒の髪を振り回し、本来は白いはずの角膜を黒く染めたその瞳は夜空に浮かぶ月の様に黄金色に煌めく。
その身からは蒼白のオーラが吹き出し、鋭い牙を剥き出しにして狂ったような嗤みを浮かべ。
そして何より特徴的なのが、頭部からはその在り方を象徴するかのように伸びた一対のツノが突き出している。
それは、まさに伝承に出てくるような『鬼』そのものだった。
『けひゃ、ひゃひゃひゃ』
「この鬼野郎が……!俺が足止めする、ラジーはミミさんにこのことを伝えろ!」
「っ!アルフェ……すまねぇ……!」
ラジーと呼ばれたプレイヤーは鬼の前に立ち塞がる仲間の姿に目頭に涙を浮かべ駆け抜ける。
「さて……どれくらい持つか……ねッ」
『けひゃひゃ』
幸いな事に、あの鬼にもHPバーがある。
つまりは、倒せる可能性があるという事だ。
片刃の短剣を逆手に構えたアルフェが鬼に向かって突撃するが、鬼は嘲笑うような声を漏らすと全てを紙一重で避け切ってしまう。
「クソ……カウンター出来そうなタイミングもスルーして、遊んでやがるな……?」
『ひゃひゃひゃ!』
一転。地面が爆ぜるほどの踏み込みから繰り出された掌底がアルフェの首を捉え、吹き飛ばす。
「がひゅ……!」
『ひゃひゃ……ひゃっはぁ!』
そして吹き飛ぶアルフェを打ち落とす様に地面を踏み割り爆ぜた岩塊を掌底で打ち出し、狙撃する。
「ぐぁっ……!」
たった1発の掌底と岩投げ。それだけで、アルフェのHPは既に3割を下回っている。
「バケモンが……!そんな簡単に負けてやるかよ……!」
ふらつく足に力を入れ、立ち上がり鬼を睨み付ける。睨み付けられた鬼はと言うと、月夜の瞳と牙の覗く口元を嗜虐的に歪め、立ち上がるアルフェを見つめ返している。
「せめて一矢報いる……なんて、そんな弱気な事は言わねぇよ!俺がお前をぶっ倒して凱旋してやる……!」
『……!けっひゃひゃ!』
己を鼓舞し短剣を握り締めて飛び掛るアルフェを、鬼は嬉しそうに笑うと拳を握り締めて駆け出す。
「【流閃】ッ!」
逆手に持った短剣が閃く。
腕が霞んで見えるほどの鋭い一閃は確かな力量を感じさせる一撃だった。しかし、相手が悪かった。
『けひゃっ』
ぱしっ。
そんな軽い音を立てて、振るわれた刃が摘まれる。
「なっ!?」
そして、鬼が刃を摘んだ指先に少し力を入れれば、パキンっと儚い音と共にあっけなく砕け散る。
「マジ、かよ……」
根元から砕け散った短剣には目もくれず、鬼が拳を振り上げる。奴が拳を振り下ろせば、それで終わるだろう。
軽く振るわれるように見える拳にどれ程の威力が込められているのか……想像すら付かないが、目の前の命を刈り取るに足らないという事はありえないだろう。
「カッコつけた結果手も足も出ずに、か……」
目の前に迫る死に諦観を浮かべ目を閉じるアルフェ。
闇に閉ざされた視界で訪れる死を待ち構えるが……。
「あんらぁ、諦めちゃダメ、よォッ!!」
ドゴシャァ!
「……へっ?」
何か、違うモノが来た気がする。
恐る恐る目を開けると、そこには吹き飛ばされたのか離れた位置の岩壁にめり込んでいる鬼と、拳を振るったポーズで静止している筋骨隆々なフリフリドレスの漢女の姿。
「あ、マ、マリアンヌさん……!」
「あんら、マリィでいいのよ?」
かr……彼女こそはかつてのイベントで北エリア防衛貢献度の1位に君臨し、さらに第2回イベントの個人部門の覇者。
筋骨隆々の漢女、マリアンヌである。
「マリィちゃんはやいよ。そんでアンタは簡単に諦めんな、ばか」
そして、マリアンヌに遅れる事数秒。
二つの鞘を腰ベルトに下げた極小のホットパンツと薄い胸を覆う晒しのような胸巻きというめちゃくちゃ露出の多い装備の褐色肌の少女がマリアンヌの横にスタっと飛び降りてくる。
彼女の名前はミミティア。第1回イベントにて短剣部門の覇者に輝き、第2回イベントでは本戦に進むも2回戦ではアッシュ率いる【クラウン】の前に敗れたが、だからと言って彼女の強さが曇る訳では無い。
「ミミさん……!いや、簡単に諦めた訳じゃ……」
「いいわけは聞かない。アレはわたし達が相手するからアンタはさっさと帰る」
「っ、了解です!気を付けてください!」
そう言うとアルフェは2人にこの場を任せ、離脱する。
「あら、ご心配どうも。嬉しくなっちゃうわァ」
「わたし達よりじぶんの心配しなさい。ま、受け取っとくわ」
駆け出すアルフェを見送る2人……マリアンヌとミミティアは同じギルドに所属する戦友であり、この異常事態を聞きつけて場に急行して来たのだ。
「さぁて、ウチの可愛いメンバーをボッコボコにしてくれたお礼をしなきゃ、ね?」
「ん。殺られたら殺り返す。それがもっとー」
殺る気を漲らせて拳を構えるマリアンヌと二振りのダガーを構えるミミティア。
そんな2人の目線は、鬼がめり込んでいった岩壁を油断なく見据えている。
「っ、つつ……」
ガラガラと崩れ落ちる岩壁から出て来たのは先程の鬼とは似ても似つかぬ……とまでは言わないが、言われなければ気付けない程度には違う姿の青年だった。
髪は色こそ同じ紫黒だが、少し長い程度にまで短くなり、ひと房がちろりとしっぽのように垂らされている。瞳も月夜の色から黒かった部分が白くなっており、ただの金眼になっている。
そして何より特徴的だった牙とツノが消え、狂ったような笑い声がなりを潜めている。
「いやぁ、助かったぜ。このスキル、強いのはいいんだけどミスると制御不能になっちまってな……」
「あら、あなた……やっぱりリクルスきゅんよね?」
「籠手部門の1位で【カグラ】のめんばー……。うん。ポイントも美味しいし、タイミングもいいね。マリィちゃん」
「えぇ、もっちろん。逃がす気なんてないわぁ」
べろりと舌なめずりするマリアンヌが改めて拳を構える、静かに瞳に殺意を宿すミミティアはスっとダガーを構える。
「なんか別の意味で危機を感じるけど……ま、やるってなら付き合うぜ!司令は“死ぬまで暴れろ”だしな!」
ガインッ!とリクルスが拳を打ち鳴らし、応戦の構えを取る。
「行くぜッ!」
「行くわよぉ!」
「…………ッ!」
今ここに、トッププレイヤー達の激突が幕を開けた。
カレットを盛ったらリクルスを盛らない訳にゃいかんよなぁ?という訳でリクルスも盛ったら結果、制御不可能な超強化モードが生えました
キミ……デメリットがデカい超威力技好きすぎない?
さて、第3回キャラデザ紹介!
もう発売してるし前回のメタ回でもやったけどこっちでもやっとかないとね……!
という訳で3回目となるのは今回出て来たリクルスです!
最高にカッコイイ……!
個人的に1番気に入っているのがリクルスですね
気のいい荒くれみたいな(分かりにく表現)出で立ちが最高です
バンダナは神の一手だと思う。バンダナなしバージョンもありましたが……一目見てバンダナありの方に決めました
そして次はリクルスのリアルの姿こと瞬!
にじみ出る3枚目感……
人懐こそうな感じがとてもいいですね
既にご購入いただいた方は分かると思いますが、2枚目の挿絵の幼馴染3人組のリアルサイドの挿絵が最高なんですよ……!いつもこんな感じなんだろうなぁってのがもうね……!
なんか制御不可能になってる(元からでは?)ヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版は発売中です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!




