第261話 『蠱毒・2日目《白き焔を討て①》』
書いててとても楽しかったです
【2日目・朝】
その森は、『豊命の大樹海』という。
なんか突然出現した名も無き森とは違い、最初から存在し、マップにも記されたれっきとしたフィールドである。
この森の特徴は、その名が示す通りの豊かな命。
とは言っても、モンスターが多く存在するという意味では無く、広大な大樹海そのものを指した冠言葉だ。
この森を構成する無数の木々はどれもが立派な大樹であり、そしてかなりの強度、耐久力を持っている。
生半可な攻撃では傷1つ付かない堅牢な木々、しかしその真価はその堅牢さでは無い。
どうにかして堅牢な木肌に傷をつけても、すぐさま跡形も無く塞がってしまうのだ。
ならばとより大きな力で無数の木々のうちの1本を切り倒したとしよう。するとどうだろうか、みるみるうちに切り株から芽が出て成長し、あっという間に元通りの大樹が蘇る。
せめて有効活用しようと切り倒した倒木を見てみれば、既に分解され栄養として母なる大地に還った後。
ただでさえ方向感覚の狂う大樹海に、迷わぬように印をつけてもすぐに消えてしまう。
この森を拠点に選ばれたギルドは幸運であり、不幸であると言えるだろう。
この大樹海は天然の迷路となり、カモフラージュとなる。見つかりにくく、見つかっても再びたどり着く事は難しい。そんな天然の要塞を与えられたギルドのメンバーにサバイバルの心得があったのも幸運だった。
逆に、ひとたび拠点から離れようものなら帰ることすら難しく、また木々が生い茂る樹海は例え昼間であっても薄暗く、快適な環境とは言い難い。
広大なイベント特設フィールド『壺』の中でもひとつのエリアとしては最大級の広さを誇るエリア。それが『豊命の大樹海』なのだ。
しかし、そんな凶悪なエリアが正式名称で呼ばれる事はもはやないだろう。
例え傷付いても即時再生するほどに生命力に溢れた木々が生い茂る緑の森は、今や熱と緋色が支配するこの世の地獄に成り代わっていたのだから。
◆◆◆◆◆
「ふはははははは……!」
パチパチと、メラメラと、ゴウゴウと。
鮮やかな緋色が舞い散る地獄の中心。
揺らめく赫灼を従えるように楽しげに笑うのは。
見る者を魅力する舞踊のように体を揺らすのは。
白紋の浮かぶ緋色の衣を纏った白髪緋眼の少女。
(いたぞ。白龍姫……【カグラ】のカレットだ)
(本隊と協力者に座標を伝えろ)
(了解。私がやっとく)
(前の大会で見た時と髪色が変わってる……?)
(イメチェンでもなきゃ大会で見せた謎バフがかかってるんだろ)
(所詮は1人のプレイヤー……なんて侮るなよ。レイドボスに挑むのと何ら変わらん。防衛戦の時の劣火竜なんかアレに比べりゃ可愛いもんだ)
赫灼を従える白き姫の元へとたどり着いたのは、出来る限りの耐熱装備に身を固めた6人組の斥候隊。
正確には離れた位置から存在を確認しただけで接敵という程ではない。だが、それでも既にここら一体は灼熱の緋色の中。
ありったけの耐熱・耐火装備に身を包んでなおジリジリと炙られるような状況で息を潜めながら本隊へ情報を送る。
彼らは【アルガK】主導の『上位ギルドに対抗するための同盟』暫定名称【対神楽連合】に初日から参加表明を出したギルドに所属するプレイヤーだ。
そして、とある作戦のために臨時で結成したレイドパーティの先遣隊として、地獄に変わったこの森でその原因の所在を探っていた。
事の発端は初日の昼。
イベント開始から3時間程が経過した頃だった。
その時には一部のプレイヤーには既にその厄介さが周知されていた『豊命の大樹海』に突如として火の手が上がったのだ。
生半可な炎では焦げ目1つ付けられない堅牢な樹木を容易く焼き払うその焔は、すぐさま樹海の広域に広がり環境を破壊し尽くした。
最悪だったのは、この樹海の性質だ。即時再生する生命力は燃えた端から再生し、無限に使える薪として燃え上がる焔を維持し続ける。
そして、そんな圧倒的な炎は生半可な方法では消す事が出来ず、あっという間に樹海を覆い、ほぼ1日経過した今でも燃え続けている。
誰がそんな事をしたのか。
その答えはすぐに判明した。【カグラ】のカレットだ。彼女は単身で『豊命の大樹海』に現れると容赦無く森に火を放ったのだ。
カレットの放った炎は容易く葉を焼き枝を燃やし幹を焦がし大地を炙り、瞬く間に緑の森を赤く染めあげた。
万物が焼け死ぬ様な地獄の業火の中を、しかし下手人たるカレットだけはまるでハイキングでもするかのように悠々と歩き、笑い声を響かせながら燃え盛る樹海に更に炎を足していった。
そして、カレットに生み出された炎達もまた、大樹海の全て焼き払わんと荒れ狂い、事実としてこの樹海に潜むモンスターやプレイヤーは焼き払っても、彼女だけは傷付けずまるで傅くように周囲を時に弱々しく時に激しく踊るように揺らめくのみ。
緑の森を瞬く間に火の海へと変え、まるで王の様に炎を従え進むその姿はもはやプレイヤーと言うよりはボスモンスターと言うべきだろう。
これで、たとえ倒しても得られるポイントは100や200。割に合わないにも程がある。
とはいえ、放置すればさらなる被害が出る事は明白。
よって急遽連合内外のプレイヤーで編成されたのが【白龍姫討伐隊】であり、2日目を迎えなお衰えることの無いカレットを討つ事を目的とした大規模襲撃作戦が決行される事となったのだ。
「そうかそうか、それは良かった。ふはは、もっともっと、もっと素晴らしいものを魅せてやろう!」
語りかけるように、自慢するように、燃え盛る緋色の樹海にカレットの声が響く。
それに合わせた様にゴウ!と勢いを激しくした炎達はカレットが生み出した新たな炎達と合流してより一層激しく燃え上がる。
(どうする?このままだと炎は激しくなる一方だぞ?)
本隊を待ちつつ遠方からカレットを監視していたプレイヤーの1人が、収まるどころか強くなる一方の火力に焦りを覚えたらしい。
(不意打ちで接近戦に持ち込んでも白龍姫には大会で見せた通り軽戦士としても戦えるからな……)
(でもあのエグいバフって代償にヤバい勢いでHP減ってたよな?ならそれ使わせられれば倒せるんじゃね?)
(そりゃそうだけど……使わせられる?見たでしょ、アイツ無詠唱で魔法使ってる。『魔研』の連中が魔法系は極めると無詠唱で使えるって公表してたけど、それが出来るって事なら……)
(そっか……無詠唱で範囲攻撃でもされたらヤバいな。ってもある程度は耐えられるんじゃねぇか?ガチガチのメタ装備だぜ?)
未だ風の噂レベルの極地。《EBO》の魔法界で最高の魔導士として名高いノルシィとそれに連なる『魔導研究会』の最高幹部数人だけが実現している発動句を省略した完全にイメージだけによる魔法の発動はそのままその魔導士の力量を表している。
そんな奥義を、呼吸をするように容易く振り撒くカレットを相手に、例え懐まで潜り込めたとして捨て身の反撃に出させる程に追い詰められるのか……。
(本気の攻撃じゃない余波の火事をなんとか無効化出来てるだけで油断して良い相手とは思えんな)
(でもよ、こんだけぶっ続けで魔法使ってたらどんなに対策しててもMP消費が大変な事になるんじゃねぇか?)
(そういえば……しばらく見てたけど、ポーション含めてMP回復のアイテムは使ってるところ見てねぇな)
どれだけ強力になろうと、魔導士である以上はMPの問題が付きまとう。様々な考察・検証からカレットは高倍率の消費MP削減の術か大量のMPを持っている事は判明している。
まさに火を使う魔導士ですよと言いたげな装備に高倍率の削減スキルがついていると言うのが考察の主流だ。
それにしても、一昼夜続けて魔法を使い続けられるとは思えない。ならばどこかで休息を入れるタイミングがあるはずだ。
(自動回復系のスキルを持ってるにしてもさすがにガス欠は近そうね……理想通りに行けばいいのだけれど)
となれば、そう考えるのは当然のこと。
身を隠しつつ距離を取っていた斥候隊のメンバーはコソコソと密談を交わす。
(あぁ、そうすりゃ押し切れる可能性は高そうだ)
(近接戦も出来るとはいえ本職は魔導士。MPがなきゃどうとでもなるだろ)
(ふむ。確かにMP切れの瞬間を狙われるのは致命的だな。私もいい作戦だと思うぞ?)
(それに、ノーモーションで使える回復手段があったとしても最初につまずけばずっとケチが付くのが戦場だ。テンポさえ崩しちまえば……)
(なるほどなるほど。確かにそうなれば慌ててしまうだろうな。しかし、それでも冷静に対応された場合はどうするのだ?)
(となりゃ物量戦だろ。ガッチガチにメタった数の暴力で押し切る)
(シンプルな力押しこそ最適解と言うヤツだな!いいと思うぞ!)
(アンタもそう思うか?)
(うむ。魔導士の弱点であるMP切れを狙い、苦手な物理戦で押し切る。とてもいい作戦だ)
「よっしゃ、本人のお墨付きだ。この作戦なら行ける……!」
「「「おぉ!」」」
「……待って。本人のお墨付き?」
ふと、気付く。背景と同化している事もあって、あまりに自然に会話に入ってきて一緒に作戦を立てた彼女は……今まさにその作戦の対象になっている……。
「む?どうしたのだ?もう作戦会議は終わりなのか?」
「【白龍姫】!?なんでここに……!?」
「おぉ、大会でそう呼ばれていたのは知っているが、面と向かって言われると照れくさいな……」
ぽりぽりと気恥しそうに頬をかく少女は、見間違えようもなく討伐対象だった。
「なにやらコソコソと話していたからな。ちょっとやってみたかったのだ。たまにマンガとかであるだろう?会話にしれっと関係無い奴が混ざる……みたいなシーン」
「確かにあるけど……!まさか俺らがそれをやる事になるなんて……!」
「うむ!まさかこんなに上手くいくとは思わなかったぞ!よっぽど集中していたのだな。しばらく見張ってたみたいだし、その集中力は尊敬するぞ」
「なっ、いつから気付いて……!?」
あの連中ほど隠密に自信がある訳じゃない。それでも、斥候隊に選ばれる程度には隠密行動を得意としていて、実力者だという自負もあった。
なのに、当然のように気付かれていた。その事に驚きを隠せず、思わず声を荒らげてしまう。
しかし、そんな激情の乗った問に白龍姫は不思議そうにこてりと首を傾げた。
「いつから?最初からだが……?」
「最初、から……?」
「うむ。私は気付けなかったが、見えたのでな」
「な……」
分からない。あまりに訳の分からない言葉に、問いを投げかけた女性はぱくぱくと口を動かし音にならない驚愕をこぼす事しか出来なかった。
「話を戻して、だ。確かにいい作戦なのだが……2点ほど、気になる事があってな」
「気になる事……?」
「うむ。言っていただろう?ノーモーションで出来るMP回復手段があったら、と。それがあったとして、ガス欠にならないようにMPを管理していたら隙は来ないと思うのだが?」
責め立てる……とは程遠い、純粋な疑問。
しかし、溜める様に一瞬弱々しくなりすぐに燃え上がった周囲の炎の迫力が恐怖と共に鮮烈に見通しの甘さを叩き付けて来ていた。
「それと、もうひとつ。私が近接戦が苦手な前提で話しているが……得意だったら、どうするのだ?」
フォンッと軽く振るわれた杖が、地面を叩く。
どう見ても非力な魔導士。軽戦士でもある事を加味しても、ステータス配分は魔導士としての型に傾いているはずだ。
なのに、なんで。
「なんだよ、そりゃ……」
「バケモンかよ……!」
そんな気の抜けた軽いスイングで、地面が爆ぜるんだ……!?
「なぁ、知らないのか?私の所属するギルドには、近接戦のプロフェッショナルがいるのだぞ?」
「アイツらか……!」
彼らの脳裏に浮かぶのは、狂笑を浮かべ拳を振るう少年と、悠々とした槍捌きで全てをいなす青年の姿。そして、なんか神官のくせに殴り合ってるヤバい奴。
「さて、本隊とやらが来るまで待ってもいいのだが……。せっかくだし、前哨戦をしようではないか!」
ゴウッ!
炎が一際大きく燃え上がる。
ゴウッ!
杖が一際鋭く振るわれる。
今ここに、【白龍姫討伐作戦】その全焼戦もとい前哨戦が幕を開けた。
カレットがめちゃくちゃ強くなってる
普通のプレイヤー(とは言っても十分彼らも上澄みですが)から見た【カグラ】のバケモノっぷりよ
さて、そんな訳でキャラデザ紹介第2弾は今回出演したヤベェ奴。カレットです!
可愛つくしい
黙っていれば美人だけど喋ると可愛いというカレット(明楽)のイメージどおりのデザインで最高ですね
そして服装!もう全身で『火魔法』大好き!とアピールしてますね
服装のカラーリングとしてもう少し暗めの色が入ったパターンもあったのですが、カレットの全身緋色という要素を考えてこちらにして頂きました
緋色+魔法使いっぽい服でこれが出てくるのは等価交換の法則が崩れてる
そしてこちらはカレットこと明楽ちゃん!
髪と瞳の色が違うとだいぶイメージ変わりますね!
モデルとかしてそうな美少女っぷりです
間違っても環境破壊大好きな放火魔なんかじゃないんやろうなぁ……え?服の色?見た目で判断しないでください!
そして前回載せ忘れたトーカこと護!
トーカが白髪赤目ということもあって、黒髪黒目だとかなり大人しめというか真面目そうな雰囲気ですね。うちの子がかっこいい……
以上、キャラデザ紹介第2弾でした!
発売日までに全員紹介出来るかな……?
何故かプレイヤーなのにレイドボスしてるヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版は6/19発売です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!
そして、前回ガッツリ報告し忘れたのですが『BOOK☆WALKER』様で『ヒャッハーな幼馴染達と始めるVRMMO』が先行配信しております!
https://bookwalker.jp/def7c5ec34-edc1-4095-834e-bdc96eaafd1f/?adpcnt=7qM_Mnq
電子版なのでロックゴーレム戦の書き下ろしSS(約2万字)が付いてくる!
そして、表紙にいないあのキャラ(伏せる意味)のイラストも……!