第260話 『蠱毒・1日目《通れずの森》』
【1日目・深夜】
第3回イベント:ギルド対抗戦『蠱毒』。
その特設フィールド『壺』。
無数の毒虫達が放り込まれたこの広大な『壺』の中に、とある森があった。
しかし、この森に名は無い。
円形に広がるこの森はその外をさらにぐるりと覆う環状の大きな運河に囲まれている地形から『ドーナツ穴の森』などと呼ばれているが、それはシステムに決定された名称ではなく、この森を発見したプレイヤー達が勝手に呼んでいるに過ぎない。
マップを見ればこの場所は『枯れ果てた渓谷』と記載されており、それは全てのプレイヤーに公開された【カグラ】の拠点があるはずの場所だった。
イベント開始直後にこの一帯が純白の閃光に飲み込まれた事は様々な経路で多くのプレイヤーに知れ渡っている。
だが、この特設フィールドの広大さも相まってその先、『枯れ果てた渓谷』跡地に突如として出現した巨大な森についてを知るプレイヤーは、いくつかの理由によって限られている。
第1にこの広過ぎるフィールドで他の全てが敵という状況では情報が広まりにくいこと。
第2に『フィールドが消し飛んでそこに新しいフィールドが出来た』などというぶっ飛んだ情報は伝聞ではそもそもの信憑性が欠片も無いこと。
第3に対【カグラ】を掲げるプレイヤーの内、届きうる猛者達は未だに静観を決め込んでいること。
そして、最大の理由として。
◆◆◆◆◆
《甲隊》
ほのかに地上を照らす月光すら枝葉に拒まれる無明の森の中を駆ける5つの影があった。
「…………」
「……………………」
「………………」
「……」
「………………………………」
一切の言葉を発さずにこの闇の中では見えるはずもないハンドサインだけで完璧な連携を取る人影は、生い茂る森の中をほぼ無音で駆け抜けて行く。
「…………!…………」
闇に紛れる黒装束に身を包んだ男が慌てた様子で『停止』のハンドサインを出す。突然の指示に訳を問う事もなく、後続の黒装束達はピタリと静止する。
彼らは総じて『暗視』のスキルレベルを最大まで上げているため、全くと言っていいほどに光のないこの森の中でも昼間のように……とまでは行かないが明け方くらいにはしっかりと視認する事が出来ている。
それに加えて、『隠密』『索敵』『遠見』などの斥候系のスキルの多くを極めている。
そんな彼らが辛うじて知覚出来る位置に、ソレはいた。
木々の生い茂る無明の森の中で明確にこちらを認識している人影が、キリキリと弓を引き絞って狙いを定めている。
一瞬後には射られた矢がこの身を貫いても何らおかしくない。そう直感した黒装束達は瞬時に身を翻し、射線を塞ぐように木を盾に隠れる。
「アレすごいでしょ?私の案山子なんだよね」
「な……!?」
そんな黒装束のリーダーの真横から、ケラケラとしたこの場に不釣り合いな程に楽しげな、自慢げな声が聞こえてくる。
「どったのさこんな夜更けにぞろぞろと。この先になんか用事?」
「お前は……!リー/
「でもさぁ、ダメよ?首元は気を付けてないと。じゃないと、気付けないもの」
ころころと、驚愕に目を見開きながら転がる首にニコリと笑いかける。
「これで最後っと。ふふ。気が向いたらまたいつでもおいで。待ってるから」
◆◆◆◆◆
《乙隊》
「くっ……!なんなんだこいつら!?」
「狼系のモンスター……でしょうか。真っ黒の外見で夜闇に紛れられると見つけられない……!」
「その上個体数を特定されないように動き回っている……とんでもない集団だ……!」
既に初接触から少なくない時間が経過し、既に2人が姿無き襲撃者の手にかかっている。
「どういうことだ……!?この森をフィールドと認識してモンスターが出現したという事か……!?」
「分からぬ!だが、夜闇に紛れるは我等の十八番……それを畜生などに上回られるなど……!」
「っ!無茶するな!」
隠密行動を得意とする彼らに取って、他のどの敵よりもこの敵の存在を許せなかった。
そして、そのうちの1人がついに我慢出来ず攻勢に討って出た。逆手に握られた黒塗りの片刃刀を振るい、夜の闇を、不自然な程に自然なそこに潜む襲撃者の首を狙う。
「調子に、乗るなッ!」
そして、執念のなせる技かその刃は首を捉えた。
夜闇に紛れ、黒い塊がぽーんと飛びはね転がり落ちる。
「どうだ、思い知っ……なっ!?」
少し離れた位置にいた2人には何が起こったのかは確認出来ない。
しかし、なにかがあった事だけは確かだ。
その事を悟り動き出すために足に力を込める2人との前で、異常は進行していく。
「アグッ!どこから、がぁ!?クソッ!ふざけ、ぐぁ……!」
夜闇に紛れる黒い影にまとわりつかれ、仲間の姿が飲み込まれる。断続的に響く悲鳴は次第に弱々しく掠れ、ついに途絶えた。
しかし、それを聞き届ける者はいない。
残された2人は既にこの場を後にし、少しでも奥へ、少しでも情報を集めるため、仲間の死を背負い夜の森を駆け抜ける。
既に5人が3人になり、3人が2人になった。
逃げる黒装束と追う黒い影。
やがて2人が1人になり、1人が0人になった。
◆◆◆◆◆
《丙隊》
「っぅ……」
どれくらい落ちただろうか。
この森を抜けるため付かず離れずの距離を取って仲間と駆ける最中に突如として足場が消えた。
突然の急降下に思わず上げた悲鳴は、自分のを含めて5つ。どうやら、他の仲間も同じような状態にあるらしい。
落とし穴なんて単純なトラップは、だからこそ決まれば強力極まりない。当然そんなトラップへの対策を怠る訳はないのだが夢幻の如く消滅した地面に驚きつつも『空歩』で飛び上がろうとした矢先、上空から降り注ぐ大量の水に押し流された。
そうなってしまえば跳び上がる事も出来ずただ叩き落とされるのみ。幸いにも落下ダメージで死に至る事はなかったものの、落ち着いて周囲を確認してむしろ死ぬべきだったと思い知らされた。
落ち始めてすぐ、地面が再び出現していたのだ。それはつまり、唯一の出口を失うということ。
「クソ、ずっとここに閉じ込めておくつもりじゃねぇだろうな……?」
出口を失った穴の中に閉じ込められた黒装束がそう悪態をつくのも仕方の無い事だ。
だから、これは救いなのだろう。
じゃこんッ、と壁の1部から鋭い棘がビッシリと突き出す。
残りの時間をこの暗黒の世界で過ごす事を、この森は強要してこない。
ずずず……と、棘を生やした壁が迫り来る。
慈悲深くも死に損ないに再び戦いに参加する権利すらも与えるのだ。
尤も、その方法は実に恐ろしいものだったのだが。
腹の底から絞り出すような絶叫が地下でどれだけ響いても、地上は静かだった。
◆◆◆◆◆
「っはぁ……はぁ……」
「隊長。他の部隊も全滅だそうです……」
「っ、そうか……。頭領に伝えろ。森を突っ切るのは不可能だと」
「しかし……!」
「夜の森という我らが最も力を発揮出来る場所で手も足も出ないとなると強行突破は無理だろう。頭領1人ならあるいは……だが、それでは意味が無い」
「分かり、ました……」
リスポーンした拠点にて彼らのリーダーたる頭領への伝令役を見送り、黒装束の青年は深く深く息を吐く。
「いやそもそも森が出現するってなんだよ……」
◆◆◆◆◆
結局のところ、この情報が広がらない最大の理由はまだ誰もこの森を抜けられず、そもそもの情報が少ないという部分に帰結するのだ。
破壊跡地に???森を???え???
さて、発売日も近付いて来たということで、キャラデザの紹介をして行きたいと思います
まずは主人公にして実は1番ヤベェ奴ことトーカ!
うん。最高
全体的に白い雰囲気でまとまってて、落ち着いた好青年感が凄いですね
いくつかパターンを頂いたのですが、1番『落ち着いた好青年っぽい』デザインに決まりました
いやーこれはまともな常識人キャラなんやろうなぁ。間違っても大規模破壊でテンション上げたりはしないやろ(目逸らし)
この前に垂れてる黒い帯みたいなヤツにある紋様がかなりいい味出してると個人的に思ってます
白髪赤目はいいぞぉ……
こちらは狩人バージョン
かっこいい……!実は序盤しか出てこない狩人装備くんですが、狩人くん最近息してないから今回のイベントで蘇生させられたらいいなぁと思わされましたね
一応アイディアはあるんですよ。なんか森が生えたので近いうち(予定は未定で略)に登場させたいですね
キャラデザ紹介第1弾はトーカでした!
主人公だけあって挿絵の登場回数も多いのですが……凄いですよ(語彙力)
なんかとんでもない事をやらかしたヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版は6/19発売です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!




