第259話 『蠱毒・1日目《動き始める者達》』
モンハン楽しい……モンハン楽しい……
「ふふふ……ふはははは……!さいっ……こう!」
スプーンでくり抜いた様に大きく陥没したすり鉢状の更地の底で、声だけで分かる、それはもう幸せそうな声が響き渡る。
言わずもがな、カレットである。
「うっわぁ、あの時より数段威力上がってるわね……」
「うーん。目算だけど被害範囲は直径1kmくらい。でも高低差は100mあるかないかくらいだから……球を上下から挟み込んだみたいに楕円形、あるいは円盤系に広がったのかな?」
「台座は……空中に浮かんでいますね。移動不可の本質は座標固定にありましたか。そして、コアは無事……。奪われるくらいならいっそ自ら破壊するといった行為は出来ないと」
今後のために被害範囲を概算するメイと、台座とコアの状態を確認するウォルカス。
生産職……つまりはこの長期間の戦いにおいてある意味最も重要な役割を担っている2人は、この規模の大破壊に一切圧倒される事無く現実として受け止め次に繋げるために行動している。
「4桁乗ったか……制御どころかひとりじゃ使うことすら不可能な無差別攻撃とはいえ、とんでもない規模だな。トーカが渋るのも分かるぞ」
「でもやっぱ、どこまで行っても単発攻撃なんだよな。『空蝉』とか【プロテクション】とか使われるとアウトだ。これ1発で全部解決、とは行かねぇ」
「さすがにコレは『根性』無しで耐え切れるビジョンが全く見えないや……。トカ兄の攻撃もお兄ちゃんの攻撃もまだ耐え切れないし……先は長いなぁ」
この場において、戦闘役である5人のやる事はぼぼ無いと言っても過言では無い。
今必要な諸々の作業はハッスルしだした生産職の2人が嬉々として取り組んでいるため、必然的に5人の興味はこの大破壊が巻き起こした戦果の確認に移る。
「今回のイベントって第1回のみたいなポイント制だろ?どうだったよ今のでなんか稼げた?」
「む、そういえばそうだったな。満足感で忘れるところだった」
「手段と目的が入れ替わってるわね……」
「何を言うか。私にとってはこれこそが目的でほかの全ては手段だぞ!それで、これが今回の成果だ!」
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【リザルト】
・プレイヤー撃破……計480P
・モンスター撃破……計1040P
・『空里の墓守』撃破……500P
・『ムジンの穴』破壊……200P
・『ムジンのアルバドルン』撃破……800P
・因縁決着【喧嘩両成敗】……300P
ーーー計3320P
【総獲得ポイント】
3320P
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「「「「「………………………………」」」」」
沈黙が、重い。
「とりあえず、このポイントがどの程度の量なのかってのを考えると、だいぶ成果はあったみたいだな。ウチのコアでもだいたい1.5個分くらい、ほかのギルドなら17個のコアを捧げてようやくのポイントだ」
「巻き込まれた48人はコアが巻き込まれてないことを見ると、早速ケンカふっかけに来てた途中だったのかしら。コア的に周辺1kmに他ギルドの拠点は無いのね……結構広いわね、今回のイベントエリア」
「モンスターもだいぶ倒せたみたいだね。だいたい1体で10Pってあったから100体近く巻き込めたみたい。これも範囲を考えると個体数はそこまで多くなさそうかな?」
「まぁ……ポイントいっぱいで良かったね。って事か?そうだな。そうしようぜ」
「意義なーし」「うむ。私達は何も見ていないぞ。よく分からないが大量でウハウハだ」「実際実感も無いしな。気にしなくていいだろう」「これ運営の人泣いてるんじゃないかな……。まぁやっちゃった事はやっちゃった事だよね。気にしたら負けだよ」
満足感で獲得ポイントの過半数を占める項目は無視される事となった。
事実、一切合切が消し飛んだ事でこの4行以外のほぼ全ての情報が消失したのでこれ以上この件に深入りは出来ない。そう言った意味では、この判断は正しかったと言えるだろう。
この場にいないトーカも静かにスルーを選んだ事を、この5人が知るのは先の話。
◆◆◆◆◆
【1日目・夜】
岩山の麓にひっそりと開いた洞窟を拠点に指定されたとあるギルドのメンバー達は、ただの洞窟を最低限生活出来る拠点へと作り替える事にこれまでの時間の大部分を費やしていた。
そして、どうにか5日間を過ごす宿としては妥協出来るレベルにまで整える事に成功していた。
そんな彼らは、見張りや斥候などのいくらかの人員を除いて会議室、あるいはリビングとでも言うべき少し広い区画で集まり話し合っていた。
「クソっ、展開が早過ぎる……!【クラウン】といい【魔導研究会】といい、上位の連中はどうしてこうも化け物ばっかなんだ……!」
盾を背負い、帯剣した男性が頭を抱えて吐き捨てる。
現在はイベント初日の夜。時間にしてイベント開始から8時間程が経過していた。
そして、現在の状況は彼らの様な小規模ギルドにとっては決して好ましいと言える状況ではなかった。
「これだけ初っぱなから飛ばせばそのうちガス欠するっしょ。そしたら疲れ切った所を漁夫の利すればいいんじゃね?」
「え〜でもぉ、トップ集団がそんな事も考えずに動きますかねぇ?」
軽めの言動と裏腹に、重そうな重鎧と大盾で武装した青年に可愛くデコられたローブを身に纏う女性が、杖を弄りながらあざとくそう返す。
「普通はしないだろう。だが、【カグラ】に突き放され過ぎないように焦っているという事も考えられる。何せ、開始直後の大量ポイントだ。何があったかは知らないが、焦るのも無理はない」
「俺らは見てないけど遠くで激しい光が見えたって話も聞くし。初っ端から飛ばしてんなぁ……。場所バレしてんのに最初から全力……いや、だからこそか?」
幸か不幸か彼らの拠点は【カグラ】の拠点からは遠く離れた場所に位置していたため、何が起こったのかを詳しくは知らない。
それでも、あるいはだからこそ、遠くで激動の渦を巻き起こしている存在には注意を払うのだ。
「おい、ちょっといいか?」
特に意味もなく、せっかく作ったリビング的場所を使おうと集まってだべっていた彼らの元に、1人の青年が真剣な面持ちで駆け寄ってくる。
「ん、リーダーじゃん。どった?」
「まだ寝るには早い時間ですよぉ〜?」
「仕方ないとは言え気分は完全に旅行だな。動きが激しいのも遠い世界の話だし」
「なら意識を戻してくれ。少し前に【アルガK】っていうギルドから同盟の申し出があった。『我々のような小中規模ギルドが上位ギルドに対抗するためには手を取り合ってみんな仲良く、とは言わないが打算ありきでも協力関係を築く必要があると我々は考える』だそうだ。この件は他のギルドにも話を持ちかけている最中だそうで、返事は明日の昼まで待ってもらっている。その件について少し話し合っておこうと思ってな」
「へぇ……同盟、か」
確かに、イベントは【カグラ】を中心に波乱を巻き起こしている。
だが、それは【カグラ】から遠く離れた者達が何もしないという事ではない。
対上位ギルドを掲げ、既に多くのギルドが動き出していた。
『空里の墓守』
ボロ切れを纏った人型のモンスター
普段は枯れ果てた渓谷の地下に広がる伽藍堂の穴蔵の中にある古い古い墓の中で立ち尽くす様に佇んでいる。
錆び付き黒ずんだ大きなスコップを引き摺るように持ち歩く朽ちた体で現世に留まり続ける。
その身は朽ち果てた結果として火と衝撃に脆く、しかし決して倒れることは無い。
遭遇すると『空の里』の範囲から出るまで延々と追跡し続ける。その様はまるで幽鬼のようで、あるいは迷子の子供の様だとも。
里の唯一の存在証明である墓が完全に消失するか、ムジンのアルバドルンのドロップアイテム『かつての遺骨』を渡すことで無限の呪縛から解放される
彼は、洞窟の中に居を構えた里の唯一の生き残り
元はただの墓守の青年だったが、幸か不幸か共同墓地が村から少し離れた場所にあるためにムジンのアルバドルンの襲撃を逃れた
しかし、家族も友人も恋人も未来も幸せも生きる意味すら奪われた青年の絶望と怨嗟と空虚は凄まじかった
人の身に余る絶対と怨嗟はやがておぞましき呪いとなり青年の空虚へと流れ込み、その身をモンスターへと変えた
普段はもはや誰も入っていない空っぽの墓から何も無い空っぽの里の跡地を見つめている
『ムジンのアルバドルン』
その姿は分かりやすく言うなら大きな口と小さな手足を持つ巨大なオオサンショウウオのよう
洞窟に適応したのか顔には巨大な口以外は何もついておらず、常に腹を空かせいて壁や地面を喰らいただひたすらに洞窟を広げている
その果てに出来たのが伽藍堂の穴蔵であり、この広大な洞窟エリア全域がこの生物の巣穴、テリトリーとも言える
その者、無陣にて無尽、故に無塵にて無人
住処を持たず、限りを持たず、全てを喰らい満たされぬ空虚に哭く者
全て喰らうが故に、後には塵ひとつ人ひとり残らず、やがては神すらその空虚に飲み込む危険性を秘めている
この生物の巣穴とも言える伽藍堂の穴蔵にてランダムエンカウント
動きは緩慢だが巨体故の破壊力と膨大なHPを持ち、さらに壁や地面などを喰らうことでHPを回復する
また、底がない為HPバーが一定値より下に行くことは無い(HPが一定値より減らないと言うよりは、延々とスクロールしてもタスクバーが底に付かないイメージ)
伽藍堂の洞窟のどこかにある『ムジンの穴』を破壊することで初めて倒せるようになる
『伽藍堂の穴蔵』
とあるヒャッハー達の拠点に選ばれた枯れ果てた渓谷の地下に広がる洞窟。ムジンのアルバドルンが食い広げた洞窟には元は何も無いが、後から動物や人が住み着き生態系を確立している
・因縁
このイベントの特別マップはいくつかの要素を与えられた後、人(非NPC)の手を加えずに高速で運用し続けた『もうひとつの世界』とでも言うべき特殊なエリアである
そのため、様々な因縁が生まれている
イベントとは無関係なソレも、彩りのひとつなのだ
その因縁に終止符を打つことは、決して無意味ではない
いくつかのルートがあり、それによっても報酬ポイントは変動する
……とまぁ、こんな設定を練っていたんですけどね
出オチ要員として消し飛びました!
消し飛ぶために生まれた存在に興が乗って設定を盛った結果がこれだよ!
ちなみに、【アルガK】の発音は【あるがけー】です。曰くKの意味はKnightsから来てるとの事
早速やらかしたヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版は6/19発売です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!




