第258話 『イベントギミック』
大変……大変お待たせしました……!
色々と忙しくてこの1ヶ月ほど全く執筆に取り掛かることが出来ませんでした
もう少し時間の使い方が上手くなりたいものです(その前に自制心か?)
旅立つ前に自室を見渡す。
普段ならそんな事はしないが、今回はこれまでにない長丁場だ。
次に帰ってくるのは時計の上では6時間後。しかし、感覚の上では5日後になる。見納めとでも言うように少し部屋を見渡すと、ベッドの上に横たわり、意識をこことは別の世界へと旅立たせた。
そのままの足で他には誰も来れない特別な場所で開始前に仲間と合流し、最初の動きの最終確認をしながら時を待つ。
そして。ヴンッ、と時間ピッタリに出現する招待状に手を伸ばし、『壺』の中へと自らの身を投げ入れる。
◇◇◇◇◇
いつもより少し長い浮遊感は、ざじゃり、という音と共に終わりを告げた。
第3回イベントギルド対抗戦。正式名称『蠱毒』。
多くのギルドに、より多くのプレイヤー達、そしてそれらを見守る運営。
様々な思惑が入り乱れる『蠱毒』の壺の中で、【カグラ】の戦いはいやに乾いた風が頬を撫でる感覚と共に始まった。
◇◇◇◇◇
「ふむ……こう来たか……」
「なるほど、考えたわね。お兄さん、コレどう見る?」
「そうだな……一言で言うなら、『厄介』だろうな」
「同感。全く、特別ルールといい殺意満々ね」
観察眼に優れるトーカとリーシャが周囲を一通り見渡し、そう結論付ける。
ギルドのランクや規模に応じて拠点となる地形が変わる、というのは事前の説明にもあった。
そして、唯一のS+ランクに到達した【カグラ】は規模こそ8人と控えめではあるが、それぞれが一騎当千の特別な力を持ったとんでも集団だ。そんな彼らの拠点に最悪の地形が選ばれるのは当然と言えた。
「想像以上というか、ある意味想像通りというか……」
「守りにくく攻めやすい最悪の立地だよな」
【カグラ】の拠点に選ばれたのは、幅の広い涸れ谷の底だった。崖の上との高低差はだいたい30mはあるだろうか。たとえスキルを持っていたとしても、この高さの壁面を昇り降りするのは骨が折れるだろう。
そして、当然谷底ということは左右を切り立つ岩壁に挟まれ、前後にはどこまで続くのか初期位置からでは見渡せないほどに長い一本道になっている。
かと思えば、壁の所々にチーズと言われて一般的にイメージされる穴あきチーズことエメンタールチーズのような横穴が空いており、恐らく中は洞窟になっているのだろう。厄介なのは、恐らくここ以外にも洞窟の出入り口があるということだ。
さらに、ここは谷底であり天井などという上からの攻撃から身を守ってくれる素敵な防壁は存在しない。
この高さなら適当なサイズの岩を落とすだけでもとんでもない攻撃になる。
これによって、最初から拠点の位置がバレている【カグラ】は前後からの挟撃、壁面からの奇襲、そして崖の上からの一方的な攻撃を最初から最後までずっと警戒し続けなければならない。
しかも、カグラは他のギルドやプレイヤーよりも獲得出来るポイントが高いため、休む間もなく連続で攻撃し続けて倒せたらラッキー位の感覚で多くのギルドに狙われかねない。
「地の利は最悪、って感じだわ。サクラちゃん1人で塞げるほど狭い道でもなければ、気軽に範囲攻撃を打てるような立地でもない。考えたものね」
周囲を見渡し、ケラケラと笑うリーシャ。
「めちゃくちゃ不利な地形じゃねぇか。これ他のギルドにやったらクレームどころじゃなくね?」
「S+ならこれくらいどうって事ないだろうという運営からの挑発だな。うむ。いい性格をしている」
運営からの明らかな挑戦状にやる気を刺激され燃えているリクルスとカレット。
「確かにこの環境で5日間となると厳しいだろうな……。ゼロからシェルターでも作れないとまともに休憩も取れないぞ」
実際に様々な場所で野営した経験から、落ち着いて休める場所の大切さを知っているリベット。
「あるいは、コア周りのポイントは完全に捨ててマイナス1万ポイントからスタートする位の気概で拠点は使わずに戦い続けるか……だね。となると僕やメイみたいな戦えない側が格好の的になっちゃうけど」
「だよねぇ。僕なんか戦闘系のスキルひとつもないどころか称号とかの効果で戦闘行為中はステータスがガッツリ下がっちゃうから特に顕著だよ」
「あれ、もしかしてこれ、ギャグで言ってるの?」
か弱い非戦闘職には厳しいものがあるとぼやくウォルカスとメイにツッコミを入れるか迷っているサクラ。
プレイヤーでありながらイベントギミックに組み込まれた【カグラ】のメンバーは、それぞれの感想を抱きながら、リーダーの決を待つ。
リーダーであるトーカを筆頭に、【カグラ】は事前にいくつかの拠点場所のパターンとその時の対応を想定していた。
ひとつ、出入口の限られる袋小路だった場合。
これは通路にサクラを置きつつゴーレムなどで隙間を補えばいいだけだ。それだけで敵は誰も通れなくなる。
ふたつ、遮蔽物のないだだっ広い場所だった場合。
これなら向こうの攻撃範囲に入る前にさらに遠方から仕留めればいいだけだ。遠距離攻撃なら【白龍砲】を初めとして【カグラ】には色々と手札がある。
そして、みっつ。そのどちらでもなく、長期間戦う上で極端に不利な地形だった場合。
正直な話、トーカとしてはこれはあまり望ましくないパターンだ。
それはもちろん、地形的な、イベント的な不利だからという理由。
ではなく。理由ができてしまうから。
「……そう、だな」
他の7人が喋っている中、1人黙って考え込んでいたトーカが静かに口を開く。
そうすれば、これまで喋っていた7人が黙り、トーカの言葉に耳を傾ける。
「長期の防衛戦にはかなり不利な地形で最初から場所が割れている拠点。そして俺ら相手に稼ぐポイントは通常の10倍という格別のポイント量。運営は完全に俺らをイベントギミックのひとつとして組み込んだ訳だ。なら、それに応えてやろう。全力で、加減なしに、持てる全てを駆使して、ギミックとして大暴れしてやろうじゃないか」
あぁ、大変だ。
理由が出来てしまった。
ハナから舐めプやら手抜きやらをするつもりは無かった。やるからには全力で勝ちに行くつもりだった。
それでも、良識は、良心はあった。
それなのに、完全なギミック扱いに応えると言う名目で、それらを投げ捨てる理由が出来てしまったではないか。
「という事は!?」
カレットか待ち切れない!という様子でトーカに詰め寄る。
「あぁ。作戦決行だ。暴れるぞ」
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「カレット、ステイ。メイ、ウォルカス、準備はいいか?」
「「いつでも」」
「よし。それじゃ、決めた通りに行くぞ。【エリアプロテクション】【マジックポイントギフト】……【サクリファイス】」
まず【エリアプロテクション】でこの場の全員に1度だけあらゆるダメージをゼロにする状態にし、【マジックポイントギフト】で残りのMPをカレットに譲渡する。
そして、メイ作のMPポーションで空になったMPを補充し【サクリファイス】を発動する。
当然、【生贄】はトーカで【依代】はカレットだ。
光の粒となったトーカがカレットに吸い込まれていき、その身を作り替える。
緋色の髪は先端にその名残を残した白髪へ。
緋色の瞳はその色をさらに深く鮮やかに輝かせ。
翡翠色の装飾が映える緋色の衣は燃え盛る焔のような白い紋章を浮かび上がらせる。
これでもかと火と風の力を封じ込めた緋翠の杖はその身を純白に染め、嵌め込まれた宝石に緋色と翡翠色で構成されたオーロラを宿す。
「まずはこれを飲んでっと……【バフセット:カレット・ソロ】」
何やら白色の液体を飲み干したカレットは、意気揚々【サクリファイス】を前提とした専用のバフを自分に施す。
魔法職2人分のMPとINTをふんだんに使い、ただ1点威力だけを追求した頭の悪い全力強化がカレットの体を駆け巡る。
「っくぅ〜!空っぽのMPにこの1杯が染み渡る!」
「発言が完全に仕事終わりの1杯だわ……」
そんな野暮なツッコミなど聞こえない。
空っぽになったMPをメイ作のMPポーション(【サクリファイス】状態のカレットのMPが1本で全回復する何気にヤバい回復量のポーション。流通はしていない)でMPを回復させると、ニヤリと笑って杖を構える。
「【白龍砲・合手】!」
何色にも染まらぬ純白の美しさに、どれ程の破壊力が込められているか、想像もつかない。
神々しい程に美しいソレが、文字通りの昇り龍となって天へと駆け上がる。
直前。
「今だな。【白龍崩】」
純白の龍の存在を、主が否定する。
どれ程の破壊力を秘めていようと、神々しく美しい見た目をしていようと、本質はただの魔法。
その理からは、純白の龍と言えど逃れる事は出来ない。
主の意識から外された純白の龍は、摂理に従いその身を崩壊させ、周囲諸共吹き飛ばした。
やりやがった!こいつらやりやがった!
ちなみに、当然といえば当然ですが【島】でやった時よりトーカもカレットも成長しています
つまり被害も……
サクリファイスカレットの髪色ですが、『メギド72』というゲームのアスモデウスというキャラの髪色をイメージして頂ければそんな感じです
長さもそんな感じ
ところで、実は【白龍崩】ってかなりむちゃくちゃな技術の上で成り立っているんですよね
『意識して意識から外す』っていう矛盾した行為がトリガーなので
それが平然と出来るのがヒャッハーの恐ろしいところ
こんなヒャッハー達が書籍版でも大暴れ!
書籍版は6/19発売です!素敵なイラストで彩られたヒャッハー達の冒険をお楽しみください!




