第256話 『賞金首集団』
サブタイェ……
「ギルド対抗戦?」
「あぁ、ギルド毎に拠点が用意された広大な専用フィールドを舞台にギルド単位で戦う大規模なイベントらしい。詳細はまだ公開されて無いが、ポイントを奪い合うみたいだな。それが今回稼いだポイントなのかイベント用の専用ポイントなのかは分からないが。あと、イベント結果でランクの変動もあるらしい」
「ポイントの奪い合い……?え、それ専用ポイントじゃないとウチらのポイント膨大過ぎない?」
「しかも減る一方じゃなくて奪い合いだからな。ちょっと人が多そうなところにカレットが【白龍砲】投げ込むだけで酷いことになるぞ」
「いいのか!?」
「ステイ」
「くぅーん……」
しょんぼりしているカレットを横目に会議は進む。
「まぁそこら辺はイベント詳細を見るとして、悪い知らせだ」
「やっと悪い知らせね。待ち望んでた訳じゃないけど」
「まぁそこまで悪い話でも無いから気負わなくていいぞ。悪い知らせってのは、ギルド対抗戦において【カグラ】にはいわゆる懸賞金のようなものがかけられる事になったって事だ。それに加えて、通常は公開されない拠点の場所が【カグラ】だけは公開されるらしい。簡単に言えば、ギルド対抗戦でめちゃくちゃ狙われるようになる」
つまるところ、【カグラ】のメンバーを倒せば通常時のポイント変動に加えて追加でポイントが貰えるという訳だ。
しかも、拠点は全体に公開されている。各個人の居場所までは公開されないが、それでも大きなハンデとなるだろう。
「ふむ……ポイントに飢えた多くのギルドが群がってくる訳か……」
「餌に群がる養殖うなぎみたいな感じですかね?なかなかに愉快そうです」
「それかなり激しい感じに群がられてんじゃねぇかなぁ……」
「つまり入れ食いだな?腕が鳴るぞ!」
「おぉ!ポイントに釣られて来たヤツらを片っ端から撃退してけばむしろメリットじゃね!?」
やはりというかなんというか、頭を使わない方のヒャッハーたるリクルスとカレットがむしろメリットだ!とやる気をみなぎらせる。
そんな2人の姿を見て、どこか頭の痛そうなトーカがため息を吐きながら静かにかぶりを振る。
「はぁ……よく考えろ。雑魚モンスターならともかく、プレイヤーがひっきりなしに襲いかかってくるんだぞ?普通に強いのだってゴロゴロいるだろうし、何より休む暇が無い。イベント期間も詳細はまだだが書き方的にどうやらそこそこ長期間あるようだし、更に言えば【クラウン】とか【魔導研究会】、【異端と王道】みたいな前の大会で戦った強敵達も襲ってくる可能性が高い」
「それは……危険ね。しっかり対策しないと簡単に飲み込まれて終わりね」
「うひゃー、そんな事になったら僕なんか一溜りもないよ……」
「僕もですね……本職の戦闘職の方々に襲ってこられたら一溜りもありません」
その様子を想像したのか、皆一様に口の端を引き攣らせる。
特に、生産職組は顕著に不安げにしている。もしや、自分がか弱い被食者だとでも勘違いしているのだろうか。
だが、生産組を除くメンツには隠しきれない闘争心が見え隠れするのもまた事実。このまま物量に手も足も出ずに完敗、なんて事にはならなそうだ。
「ジャンルが急にタワーディフェンスに変わったな」
「あー、なるほど。本来なら探し回る所を向こうから来てくれるんだから固まって対策立てて迎え撃った方が効率いいもんな」
「あ、そっか。だったら僕も戦えるよ!物量なら僕の出番だね!真の数の暴力というものを教えてあげるよ……!」
「防衛戦ですか……それなら確かに僕らでも何とかなりそうですね」
「最近のメイはそろそろ本人が戦闘出来ないだけってのも免罪符にならないんじゃないか……?」
「ウォルカスもなんか戦えないみたいな空気出してるけど、お前普通に戦えるだろ……?」
急に生き生きしだす生産組に呆れとも感心ともつかぬため息が真面目組の口から漏れる。
生産職へのイメージがだいぶ致命的に歪んでいる【カグラ】であった。
「でもよ、メインが防衛になりそうってのは変わんねぇんだろ?だったらそれそこメイとウォルカスの2人に防衛設備ガンガン作って貰って拠点を要塞化しちまえばいいんじゃね?」
「それに、私達にはサクラと言うカッチカチのタンクがいるぞ!生半可な攻撃ではいくら囲まれようとモーマンタイだ!」
「あ、そっか、そうだよね。向こうからガンガン来るなら、私が全部受け止めちゃえばみんなは無事だもんね」
「しかも、サクラは戦闘が長引けば長引くほど硬くなってく。長期戦が予想される今回のイベントとは特に相性がいいな」
「ポイント稼ぎに色んな敵と戦って来てたからサクラちゃんの腕前もメキメキ上達してるわよ!一緒にボス巡りしてた私が保証するわ」
「ふむ……となると、次のイベントでは生産組とサクラが要になりそうなのか。生産組の2人にはとりあえず協力なり切磋琢磨なり好きな様に腕を磨いて貰うとして……」
そこまで言って、何か思案顔のトーカがチラリとサクラの方を見る。
「トカ兄、どうしたの?」
「……後はサクラのステータスの底上げだな」
「へ?」
「サクラは【カグラ】唯一のタンクだ。そして、ステータスが生存力に直結する。現状スタートが1番遅かったサクラが【カグラ】の中では1番レベルが低いが、それでもかなり厄介な防御力を持っている。つまり……」
「レベルが上がれば更に硬くなる!。こりゃ行くっきゃねぇなパワーレベリング!」
「ついでに私たちのレベル上げにもなって一石二……どころじゃないな。一石いっぱい鳥だ!」
「カト姉のアホさは置いておくとして、つまり私はこれからトカ兄達のレベリングに連れ回されるって事?」
フィールドボスを秒殺周回するようなヒャッハーのレベリングに連れ回されるという事が何を意味するのか。それが分からないサクラでは無い。
頬を引き攣らせながら、まるで部屋の中でGの気配を感じ取って振り返る時のように恐る恐るトーカの顔を覗き込む。
「…………」
答えは、無言だった。
だが、しっかり首は縦に振られていた。
それはつまり肯定を意味しており……
「あ、あの……お手柔らかに?」
トーカ達との特訓と聞いて思い出すのは、初日のあの限界体験であり、トーカ達とのボス戦と聞いて思い出すのは池の主との激戦である。
どちらもサクラにとっては苦い……という訳では無いが、なかなかにインパクトの強い思い出だ。
だからこそサクラはかなり大変な日々を予想し、覚悟を決め、何とか絞り出せたのがこの言葉だった。
「あぁ、そんな気負う事は無い。今回はサクラ本人の技量は既に一定値あると信頼して、ステータスを上げるためだけのレベリングだ」
だが、どうやらサクラが想像していたものとトーカが考えているものは違うらしい。
「ほへ?」
「まぁ……まずはロックゴーレムを俺とリクルスとカレットがレベル上げ兼ねて周回するから、その中の誰か……レベル的には俺かな?とパーティを組んで着いてくるだけでいい。3人1緒だと核心石的に効率も悪いしな」
「つまりトカ兄達の高速周回の秘密が分かる……?」
「まぁ、そういう事になるのかな?っても特に仲間に秘密にするような事はしてないし、ネタが割れても真似出来ないけど」
「私も自分で秘密って言ったけど正直予想はついてる。みんなの凄さはあの時の池での戦いでよく分かってるから」
「安心しろ、サクラもこっち側に片足突っ込んでるぞ」
「あれ、『まずは』……?って事は、他にも何かやるの?」
バカ兄の茶々入れはガン無視してサクラがふと気付いた事を尋ねる。
「あぁ、次のステップもあるぞ。というか、ロッ君周回は核心石集めが主な目的だ。この中で短時間で核心石を大量に集められるのが俺たち3人しかいないからな、イベントに備えて集めておきたい」
「私の記憶が確かならミッション期間中にロックゴーレムを5桁は倒してたと思うんだけど……まだ必要なの?」
「あって困るもんでもない……らしいしな。なんでも、今は一体に複数の核心石を埋め込んだ超出力ゴーレムを作ってるとか」
「あ、それはもう確立したよ。今は既に稼働した後での連結機能……つまりは合体機能と、核心石をゴーレムのコアとしてじゃなく、ブースト用のエネルギー元として活用する方法試作中だね」
「……らしいぞ」
「そうなんだ。じゃあたくさん必要だね」
「サクラちゃんのスルースキルがたくましくなってくわね……」
自分の話題になった瞬間に超反応を見せたメイを見事にスルーして会話を続けるサクラに、リーシャは感心すら覚えたという。
「んで、ここでサクラのレベルを……まぁ60くらいか?それくらいまで上げる。まぁ核心石集めの個数を目標にすると、必要数は」
「無限に足りない」
「って事だからレベルで区切りを付ける。んで、そこまで上がったら2人と合流してスライム狩りだ」
「スライム……って事は新しいフィールドボスの?」
「あぁ。現状最新のボスだけあって経験値効率は1番いいからな。俺とカレットとリクルスの3人が揃えば安定して高速周回できる。問題点はスキルが特定のしか……サクラに至っては何も育たない点だが、そこはまぁ適宜様子を見て調整していく感じで行こうと思う」
トーカがそう言うと、リクルスとカレットの2人がやる気をみなぎらせて各々の武器を掲げ、トーカにステイされる。
「俺は殴りに行くだけでも色んなスキルを組み合わせるからな!むしろメイン火力の強化になるぜ!」
「繰り返す度に洗練されて行くのがわかるぞ……!それに、好きなだけフルパワーの【白龍崩】が撃てるのだ、これを幸せと呼ばずになんと呼ぶ!」
「地獄じゃないかな?」
「むぅ……サクラも言うようになったな……」
「ま、そんな訳で次のイベントはこれまでにない過酷な内容になると予想される。もちろん諸々を強制するつもりはないが、可能な限り戦力の底上げはしていくぞ」
そこで一旦言葉を区切ると、この場に集った仲間たちの顔を見渡し、力強く宣言する。
「次のイベント、勝つぞ!」
『おーッ!』
こうして、勝利に向けて心をひとつにした【カグラ】はイベント開催までの間、それぞれの方法で更に力をつけ……
ギルドシステム実装から2週間後、第3回イベントとなる『ギルド対抗戦』の幕が開けた。
名誉終身鉱山ことロックゴーレムくんにサンドバッグ仲間が増えたよ!
運営の措置がヒャッハーに火をつけた!
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