第255話 『前提情報』
モンスターをハントしてたら時間が奪われまくったの巻
里を救わなきゃ……
「そういや、ミッション名とかも頑なに『新フィールドボス』なんだな。《アラーム・スライム》じゃなくて《ピグマリオン・スライム》が本体だってのは内緒にする方針なのかね?」
ふと、リクルスがそんな事を言い出した。
言われてみればと【カグラ】のみんなはミッション一覧を確認するが、確かに全ての表記で『新たなフィールドボス』としか記載されていなかった。
「そうじゃないか?なんたってボスの偽装があのボスの最大の生命線だからな」
「まぁもはや敵ではないのだがな!」
「そうなのか?聞く限りじゃかなり厄介そうだが」
「あー、それなんだが、物は試しで初手【白龍崩】からの【壱打確殺】で行けるか試してみたんだよ。そしたら勝てちまってな。しかも結構安定するっていうか、ボスに1歩も動かせず仕留める事が出来てな」
「うむ。もはや敵ではないぞ」
悲しいかな。生命線ごと全てを焼き払われてはフィールドボスと言えど助からないのだ。
「お兄さん?カレットの手綱ちゃんと握っててね……?」
「それはもう。安定性の確認で10回くらいしか殺ってないから安心しろ」
「お兄さんもおかしくなってる……!?」
リーシャがまるでこの世の終わりに直面した様な絶望的な表情で頭を抱えうずくまる。
最近、ストッパーの判定がゆるい気がしてならないリーシャであった。
「んで、話を戻すんだが。莫大なポイントや新フィールドボスを複数回倒したりなどのミッション達成数とかの諸々で総合スコアもトップ。これで3つのランキングで1位……つまり三冠って訳だ。その三冠達成報酬がランクの押し上げって形で反映されてるみたいだ」
「なるほど?つまり三冠達成出来なかったら普通にSランクだったって事か。それはまぁラッキーだな」
「そういう事だ。そんで、他にもギルドランクに応じた特典があってだな」
「ふむ?特典、ですか?そういえば、ランクに応じて特典があるとか書いてありましたね」
うずくまり続けてるリベットを無理やり復帰させると、ウォルカスはウィンドウを操作してあのウザったらしいお知らせを読み返す。
「あぁ。Bランク以上で特典が貰えて、ランクが上がる事に追加でさらに……って感じだな。貰った特典は『土地優先購入権』『土地、ギルドハウス購入時値引き』『買い物時値引き』……主立ったのはここら辺か」
「あー、そっか。土地とかギルドハウスも同時に実装されたんだっけ」
「そうそう。んで、『土地優先購入権』はもしいくつかのギルドで買いたい土地が被った時にランクが高い方が優先して購入出来る権利だな」
「ほむん?ならばS+の【カグラ】がさいきょーでは無いか!」
「おうよ!他のどのギルドが欲しがってもまずは俺らからってこったろ?すげぇな!」
「でもさ、【島】があるのに更に土地って欲しい?」
「……………………」
この無言が、満場一致の「いらなくない?」である事は言うまでもないだろう。
まだつるむようになって日が浅いウォルカスも、メイに材料を届けるついでに何度か【島】を訪れているためここに認識の違いはない。
「……。次は『土地、ギルドハウス購入時値引き』だ。これもランクに応じた割合で土地やギルドハウスを購入する時に値引きされて、S+ランクは格別でほぼ半額で買える……んだけど……」
「……?土地はあるしギルドハウスは僕達が作るよ?」
「はい。僭越ながら僕もお手伝いさせていただきます。槍以外は門外漢、という訳でもないので」
「トカ兄、【島】を所有しててメイさんとウォルカスさんがいる【カグラ】がその権利を行使する日は来るの?」
「来ると思うか?」
やはり、その問いにも満場一致の無言が返された。
メイとウォルカスはやる気満々だ。近いうちに【島】に豪邸が建つことだろう。
「……『買い物時値引き』はさっきの権利の普通の買い物バージョンでNPCが運営してる店なんかで買い物する時にランクに応じた値引きがされるって特典なんだけど……」
「2人が作った方が安くて高性能だな。ウォルカスもメイも普通に依頼したらとんでもない金積む必要があるんだが、ありがたいことに友達価格で作ってくれる」
「そういや、ここ最近……というか《EBO》始めてすぐ以来メイ以外からなんか買った記憶ねぇや。なんなら核心石が通貨代わりだから金を払った記憶すらねぇや」
「そりゃあみんなは大切な友達で仲間だし、何より素材調達で僕もすっごいお世話になってるからね!特にみんなといると感覚が麻痺するけど核心石は結構入手難度が高い上に使い道がゴーレム作成しかないからね。核心石の安定供給は僕としてもありがたい限りだよ」
「えぇ。僕も専門は槍ですが、その他の分野も店売りの商品に負けるような物は作れませんよ。というか、あの無数のゴーレムはロックゴーレムのドロップアイテムを使っていたのですね。つまりはあの量のロックゴーレムを倒したということで……深く考えるのはやめときましょう」
「正しい判断だな。まぁ俺もカノンちゃんとこの道具屋とか泣鹿亭とかの馴染みの店で買う以外は基本メイだよりだな……それに、馴染みの店は既に割引とかしてくれてるし、それ以上に割引するのは個人的にも遠慮したいし、これも死に権利か」
貰った特典の全てが死に権利という無情さに【カグラ】の顔がなんとも言えない表情に彩られる。
しかも全て普通なら重宝する様な権利なのだから尚更だ。
「……あれ、S+ランクになったは良いけどなんかそれと言って意味は無い……?」
「メリット的な意味だと確かに無いな。まぁSランク目指したのだって特典目当てじゃなくて1番上のランクを目指そうってだけだったしな」
「うむ!それがたまたまS+と事前に知らされていない真の最高ランクに上り詰めただけだな!元々重視してなかった特典に踊らされるとは……!」
「ま、棚ぼただったからな。ちょっと期待しちゃうのも仕方ねぇか」
「S+ランクである事自体が重要って事ね。それに、万が一土地とかが追加で欲しくなった時とか作成不可能の店売り品でどうしても欲しいのとかが出た時なんかは使えるし、あって損でもないわ」
降って湧いた上限突破のS+ランクに盛り上がっていた熱がある程度冷め、特典よりもそのランクであることに重きを置いていた事を思い出した。
そんな会話の中で、リーシャが地雷を踏んでしまった。
「作成不可能なんて僕は認めないよ!絶対に作ってみせるから!」
「なるほど、メイさんの実力の根底はその負けず嫌いさでしたか……同じ生産職として、僕も見習わないといけませんね」
そして爆速で反応する生産系ヒャッハー共。
「ウォルカステイ、その先は(巻き込まれる側にとって)地獄だ。お前はお前の道を進め」
「僕の道は生産道ですよ。さらに槍に特化してるだけであって、他を捨てたつもりはありません」
「……メイさんもウォルカスさんもさっきまでギルドハウス建築について周りの言葉聞こえない!ってくらい真剣に色々話し合ってたのに作成不可能って言葉に急に反応したね……」
「諦めろサクラ。これが職人だ」
「私の職人観がだいぶねじ曲げられてる感じがするよ……」
これが生産系ヒャッハーの生き様である。
「んで、三冠達成してS+ランクっていう限界突破したランクになったぞっていうのが『いい知らせ』だ」
「そういや、悪い知らせもあったな忘れてたわ」
「悪い……知らせ……?」
「カト姉!?なんかポンコツ化が著し過ぎない!?」
「冗談だぞ。今日の夕飯のカレーにはハンバーグが付かないという話だろ?」
「カレットお前……」
「なんか、日に日にカト姉のアホの子化が深刻になって行ってる気がするよ……」
「ガチめに哀れまれてるだと……!?さすがに冗談だぞ!?」
「カレット、お前の冗談は分かりにくい……というか一瞬ガチかもと思わせる嫌なリアリティがあるんだ」
「なんと……」
さすがに心外だとがっくり肩を落とすカレット。しかし、その背中からは隠しきれないアホの子オーラが立ち上っていた。
恐らく、夕飯のくだりも半分本気……というか、本当にカレーにハンバーグが付かないのを悲しんでいるのだろう。
「さて、カレットのコントも済んだ所で悪い知らせだ」
「コント!?」
「あぁ、悪い知らせ、とは言ってもそこまで悪いって訳でもないからそこまで身構える必要は無いぞ。有名税みたいなもんだ」
「ほう?」
「さて、んじゃこの知らせを伝える前に、前提となる情報を伝えとく必要がある」
そう言うと、トーカは静かに【カグラ】の全員の顔を見渡す。
未だ建築論議をしているメイとウォルカスそれぞれに隣の席から軽い肘打ちが入って意識が現実に浮上したのを見届けてから、トーカは口を開く。
「第3回イベントとして、大規模なギルド対抗戦が行われる事が発表された」
ギルド結成したら当然あるよなぁ?ギルド対抗戦!
という訳で次章はギルド対抗戦(第3回イベント)編です
ちなみに、結成編はあと数話あります
だってイベントの説明と悪い知らせが伝えられてないから
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