第250話 『一方その頃/side 槍&槍匠』
お次はリベット&ウォルカスのターン!
読み返してびっくりしました。ウォルカスどころかリベットすら外見の描写してねぇやん……
という事で描写入れました
ウォルカスはキャラがまだ固まり切って無いことをいい事に好き勝手してますねぇ……
「よく考えりゃ、お前とサシで冒険すんのも随分久しぶりだな」
「えぇ、そうですね。最近はお互いに忙しかったですから。それに、僕はあまり戦闘向きとは言えませんし」
「なに、1人で大兎倒せるなら十分戦闘向きだ」
「大兎って最初のフィールドの小ボスですよ……?初日とかならともかく、ここまで来たらもう雑魚も同然ですよ」
「ははっ。ウチのギルド※未設立にゃ高レベルなのに身一つじゃ角兎すら怪しい奴もいるから」
「あれは例外ですよ!?というか、その注釈いります?」
鬱蒼とした森の道無き道を会話しながら突き進む2人組。
片や、重装備とまでは行かずとも決して軽装備とは言い切れない、けどどちらかといえば重装備寄り、なんだけど機動力も疎かにしていない。と言った、防御力と機動力の両立の限界に挑んだような実に表現が面倒くさい感じの藍鉄色の防具を身にまとった、鈍色の髪をオールバックに固めた青年。
片や、作業着のような長袖長ズボンに申し訳程度に防具要素を足したような服装に身を包んだ、空色のショートカットを揺らす人物。
ヒャッハーがヒャッハーしている間に別のミッションを進めるため様々なエリアへ到達する為に東奔西走している、【カグラ】の頼もしき常識人リベットと自主的に入団テストを受けている槍の名匠ウォルカスの親友コンビである。
「…………なんというか、さ」
「はい?どうされました?」
森の中を歩いている最中、リベットが感慨深いような、不思議なものを見るような、なんとも微妙な感じで切り出す。
「板に付いてきたなって、お前のその話し方も」
「そうですか?ずっとこうですし、慣れもするでしょう」
「ってもなぁ、よくもまぁそんなはっきり使い分けられるもんだよなぁ」
「せっかくの別世界です。ロールプレイ……別の性格を演じるのも乙というものでしょう?」
「いや、性格自体はそんな変わってな……アダッ」
何かを言いかけたリベットのスネを、ウォルカスのつま先が捉える。わざわざ先端に鉄板を仕込んでいる辺り確信犯だろう。
無粋なことを言う奴はたとえ親友であっても制裁を辞さないのがウォルカスである。
「なにか言いましたか?」
「いや……なんでもないです……」
「そうですか。では行きましょうか」
「うぐぇ……ったく、乱暴だなぁ。やっぱ性格変わ……なんでもないですよ?」
ガズッと言う重たい音に、思わずスネを抑えて蹲るリベットの襟首を引っ張って立たせると先を急がせる。
そんな親友に、リベットは多少キャラ変えてもやっぱり根っこは変わってねぇやと思いつつも寸前で踏み止まるのだった。
「あだっ」
許されなかった。
それからまたしばらく歩き、いくつかミッションをこなした後。
『迷いの森』にある最後の小エリア、『常焼けの丘』で0ポイントを引いた2人の話題は自然とミッションの性格の悪さへの愚痴がメインとなっていた。
森の中にある小さな丘。そこだけ局所的に常に紅葉に満ちている、まるで常に夕焼けの中にいるような素晴らしい絶景のはずの『常焼けの丘』に響くのは、残念ながらその景色を讃える言葉ではなかった。
「通常エリアの他に、その中にある小エリアもミッション対象になってる事がある辺りは本当に性格悪いよな」
「この『迷いの森』も見えてる0ポイントでしたね。ただ、この中にある小エリアの『霧晴れの泉』が秘匿されたポイント付きエリアなので来ないとダメなのですが」
「しかもこの『迷いの森』はマップが機能しない上に小エリアが他エリアに比べて圧倒的に多い。既に7箇所の小エリアを回ったが、当たりは『霧晴れの泉』だけと来た。Sランク狙いのギルドをふるい落としに来てるな」
「何が酷いって到達系的にはミッションですら無くても収集系的にはミッションになってるその場所限定のアイテムとかもありますからね。ほら、3番目に行った『木々の墓』で採取できる『トレントの朽ちた枝』なんか秘匿ミッションでしたし」
Sランクを目指して奮闘する各ギルドを最も苦しめているのが、この秘匿ミッションの存在だ。
最初は開示されておらず、条件を満たして初めてミッションだと判明する性質を持つ秘匿ミッションはSランクを狙うプレイヤーに妥協を許さない。
秘匿ミッションの存在はつまるところ、『Sランクになりたかったら全てのモンスターを倒して全てのアイテムを手に入れて全てのアイテムを作って全てのエリアに行ってね!』と言う死刑宣告に他ならないのだ。
当然、特殊な条件を満たさないと戦えないクエスト専用の敵や入手方法が限られている超レアアイテム、生産難易度が馬鹿みたいに高い生産物、秘境と言われるような隠されたエリアなど、あまりに達成難易度が高い対象はミッションに含まれていない。
中にはそういったものにもポイントがつけられているが、それはミッションでは無いが頑張ったねのご褒美的なボーナスポイントに過ぎない。
だが、それでも結構頑張れば達成可能なレベルの難題がSランクを目指す以上必須のミッションとしてチラホラと散見される辺り鬼畜では無くとも優しくはないのだ。
その様はまるで、Sランクを目指すならこれくらいやってくれなきゃ困るよ(CV妖精ちゃん)とでも言わんばかりだ。
唯一の救いは達成率が確認できる所か。
この達成率の存在だけが、このミッションを終わりの見えない地獄でなくゴールのあるマラソンにしてくれるのだ。
「ってな訳で、俺らに課せられた役目は全てのエリアに行きつつその場その場で採取できる全てのアイテムを手に入れる事だ」
「改めて聞くとかなりハードですね……いえ、1人で生産系を全て受け持っている方や多種多様の敵と戦い続けてる方。それに、まだ情報も少ない未知のボスに挑んでる方もいるのです。弱音は許されません」
移動量や作業量的な意味では1番ハードな部分を担当している2人はやはり少し疲労が溜まっているようだ。
「おう。まぁポイントだけなら既にAランク要求値を軽くぶっちぎってるから心配はいらねぇよ。あとは行ける所まで行くだけだ」
とはいえ、精神的には楽なものである。
何せ、現時点でポイント的には一般的な最高ランクであるAランクは確定しているのだから。
各ランクにも一応ポイント条件以外にもミッション達成率の条件はあるが、Aランク到達条件でもミッション達成率20%とかなり優しくなっている。
「おかしいですね?ポイント獲得割合の9割が生産系ですよ」
「何もおかしくはないぞ?ま、気合入れてこうぜ」
これが、メイに慣れていない者と慣れている者の反応の違いである。
なお、現時点でAランク到達が確約されているのは【カグラ】だけである。
いくらβ最強が率いる【クラウン】や魔法の真髄に至らんとする魔道士集団【魔導研究会】、某ヒャッハーに触発されやる気満々の後天的ヒャッハー擁する【異端と王道】などの猛者達と言えど、数時間で大量のポイントを稼ぐのは難しい。
それでも一日目が終わるまでには達成するのは容易だろう。
「親友の感覚がおかしくなって来てますね……同じ生産職として悔しいですが、総合的には僕では彼女には勝てそうにありませんね」
「んー、ここはそんな事ねぇよって慰める所なんだろうが……」
「さすがにそこまで自惚れられませんよ。というかそんな事されたら、適当言ってんじゃねぇぞダホがてめぇん家でシュールストレミングパーティ開いて未来永劫匂いが取れねぇようにしてやるからなクソが、って殴りながら言いますよ」
「こっわ。というか、シュールストレミングパーティなんかしたらお前も死ぬだろ」
丁寧な口調をかなぐり捨てて暴言を吐き捨てるウォルカスにリベットがとりあえず的はずれなツッコミを入れる。
戸惑いの色が見えないあたり、この口調の豹変も慣れたものなのだろう。
「例えですよ。まぁ下手に慰められようものならキレるって話です。正直言って、彼女の総合力は異常です。多分ですが、《EBO》の全生産職と彼女一人が勝負しても彼女が勝つでしょうね。あれはもうゲームで生産職を選んだなんてもんじゃありませんよ。作り続けるためにゲームを始めたとかそう言ったレベルの狂気です。彼女、環境が許せばひたすらものづくりばっかしてるんじゃないでしょうか」
「まぁな。お前も十分ハイレベルだとは思うが、正直言って相手にならないだろうな。槍以外は」
「…………」
同じ生産職として完膚なきまでに負けを認めてしまったウォルカスに、下手に慰めようものならキレ散らかすと言われたにも関わらずリベットは平然と勝ち目があると言い放つ。
ある意味無遠慮とも言える発言に、ウォルカスは淡いレモン色の瞳から光を決して睨み付ける。
「おいおい。勘弁してくれよウォルカス。アイツがバケモンなのは覆しようのない事実で、同業者のお前は手も足も出ない格上に直面して自信を失っちまってるのかもしれん。だが、それは自分を見失う言い訳にはならねぇぞ」
「……」
「俺はこれでも槍を見る目はあるつもりだ。何せ、初日からずっと共に戦ってきた生命線だからな。そんな俺が断言する」
ウォルカスの瞳を錆色の瞳で覗き込んだリベットが力強い口調で言い切る。
「こと槍作りに関しちゃ、お前の方が上だ。俺がアイツの槍じゃなくてお前の槍を使ってるのはなんでか分かるか?親友の厚意を無下には出来ないから?ふざけんな。んな義理立てんのは余裕があるときだけだ。メイン武器の性能に情がどれだけ役立つよ。メイの槍の方が強けりゃ、俺はとっくにアイツに頼んでる」
「リベット……」
「分かるか?メイは確かにぶっ飛んだ奴だ。頭がおかしい。けどな、そんなアイツでも槍作りじゃお前にゃ勝てねぇんだよ。お前が他の分野で自信を無くすのは勝手だがよ、槍だけは俺が許さねぇ」
リベットはパーソナルスペースなんぞガン無視にズケズケと踏み込むと、ガッ!とウォルカスの顔を挟み込み、目をそらす事は許さんと言わんばかりに顔を付き合わせる。
「安心しろ……いや、自覚しろ。この世界でお前以上の槍匠はいねぇ」
そのまま、どれほどの時間見つめ合って……睨み合っていただろうか。
「…………はっ、何言ってるんですか」
真剣な顔のリベットの手を振り払うと、ウォルカスはそう吐き捨てる。
「誰が自分を見失ったって?槍に関しては僕の方が上手なのは分かりきった事でしょう。そこはブレませんよ。僕が言ってたのはそれ以外の分野についてです」
「なっ……」
「当然の事をカッコつけて言っちゃって……あー恥ずかし。槍は僕の方が上なのは前提条件。それ以外の分野の話を僕はしていたんです。無駄話ばかりしてないでさっさと行きますよ。まだまだ『迷いの森』でやる事はあるんですから」
そう言うと、ウォルカスはくるりと背を向けてさっさと進んで行ってしまう。
「ちょっ、待てって!お前だって戦えるとは言え本職は生産職だろ!先に行くなって!」
「早くしてください。『迷いの森』は次で終わりとはいえ、エリア巡り自体はまだ序盤なんですから」
「わぁったわぁった。……なんか怒ってねぇか?」
「怒ってませんよ。それと………………ありがとう、ございます」
「ん?なんか言ったか?」
「早くしてくださいって言ったんです。おっしゃる通り、僕の本職は生産職……非戦闘職なんですから」
ウォルカスは擬似的な夕焼けで赤くなった耳を隠すように、追い付いてきたリベットをさっさと前に送り出す。
「へーへー。んじゃま、お散歩ついでにエルダートレントもシバキ倒すとしますか」
「えぇ。では非戦闘職の僕のためにソロ討伐頑張ってください」
「ちょっとは戦おうとしてくんねぇ!?ぼくひりきですぅ〜みたいな雰囲気出してるけどお前サブジョブ騎士で槍使いなの知ってんだかんな!?俺と普通に模擬戦で打ち合える奴が何言ってんだ!?」
「打ち合えるのはあなたが防御寄りの戦法だからそれっぽく見えてるだけです。それに、そんな雰囲気は出してませんし、そんな喋り方をしたこともありません……よッ!」
鋭いローキックに襲われたリベットの悲鳴は、残念ながらボスエリアに隔離されたせいで外に漏れることはなかった。
次回、リベット&ウォルカスのエルダートレント戦!(つまり②に続きます)
ウォルカスは《EBO》の中ではキャラ作ってロールプレイしている模様
ただ、親友曰くあんまり変わってないとか……
この2人のリアルもいつか出せるといいですね
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