第245話 『ギルドシステム実装!……だけじゃないよ!』
おまたせ申した!
ギルド周りの設定をちょいと見直してたのと昔遊んでたアーケードゲーム熱が再燃してそっちばっかやってましたごめんなさい!
「アン、ドゥ、トロワッ!……オラッ!オラッ!オラァッ!」
どこで覚えたのか、フランス語でカウントを取りながらリクルスが拳を振るう。4発目以降は知識が追い付いていないが、残念な学力とは裏腹に無数に繰り出される連撃は既に発動されている【乱牙】の効果によって、下手なアーツよりも余程高い威力を秘めている。
「【炎群】ッ!」
そこから少し離れた位置でカレットが杖を振るえば、『魔法合成』によって登録された無数の『火魔法』が織り成す弾幕が空を赤く染めあげる。
一発でも当たれば、たちまち蜂の巣なのは想像にかたくない。
「【アースクラッシュ】!」
そこからまた少し離れた場所では、『隠密』によって気配を消したトーカが白銀ノ戦棍を振り抜く。
空気を引き裂き唸るような音を上げて振り抜かれた一撃は、ロッ君ならたまらず経験値とドロップアイテムに転職する程の威力を秘めている。
大抵の敵ならロッ君と同じ道へ送り届ける事だろう。
ちょうど的を挟んで三角形の頂点に立つような位置取りの3人が同時に繰り出す、必殺の、あるいは必殺へと繋がる攻撃。
並大抵の相手なら間違いなく消し飛び、ボスモンスターでさえ決して軽視は出来ないであろう凶悪極まりない包囲陣。
だが、相手が悪かった。
ぷるんぷるんぷるるるるるるっ!
ぽもぽむぽもぽぱぽもぽぱんっ!
バルンッ!
透き通ったプルプルのボディは、高威力の包囲攻撃をぷるぷると受け流してしまう。
「クソァ!なんだコイツ!殴っても殴ってもちっともダメージが入りやがらねぇ!」
「リクルスの拳は百歩譲って分かるとしても、私の魔法が効かないのは納得がいかんぞ!あんな柔い体など簡単に焼き尽くせるはずなのに……!」
「相性が悪い……どころの話じゃねぇな。まぁ、さすがに無敵って訳じゃないだろ。何かしら仕掛けがあるはずだ」
まるで手応えのない反応に荒れる幼馴染をなだめつつ、トーカは弱点暴いて晒したらァとばかりに苛立たしげにソレを睨め付ける。
異常な攻撃力を持つヒャッハー三人衆に囲まれ、1歩も引くことなく立ちはだかるソレは、これまでの敵とは全く異質な存在だった。
「にしてもよぉ、ここまで強ぇもんかね?」
「事実強いのだからそうなのだろう!少なくとも、雑魚では無い!」
「雑魚の代名詞ってイメージが強いのは分かるが、少なくともここの運営はそうは考えてないらしい」
「ってもこれは強過ぎだろ……!」
リクルスの拳も、カレットの魔法も、トーカの打撃も、全てを受け止め、無効化する。
異常とも言えるその存在を一言で言い表すなら……
「あんの、スライム野郎!」
リクルスの拳が再びぷるぷるの表面に突き刺さる。
だが、結果は変わらずぷるんと弾かれるだけだ。
リクルスの言うように、ソレを最も端的に表すなら『スライム』になるだろう。
3人の眼前に立ちはだかるは、見上げるほどに大きな水滴のようなドーム状の物体。透き通る水色をしたゼリー状のボディを持つこの強敵の名は《アラーム・スライム》。
まさに本日、ギルドシステム&土地システムの実装と同時にサプライズで実装された第4の町への道に立ち塞がる、新たなるフィールドボスである。
このボスはスライムの名の通り、非常に柔らかく軟性の高い肉体を持つしずく型のモンスターであり、そして非常に厄介な事に攻撃がほとんど通用しない。
殴っても、叩いても、斬っても、刺しても、魔法ですらこのボスにはダメージを与える事が出来ない。
その無敵性故か、HPバーは他のボスモンスターに比べてとても少ないが、そもそもダメージを与えられないのならたとえHPが1であっても無限と何ら変わりない。
「チッ……」
強弱はともかくとして、これまでで最も厄介なぷるぷる野郎を苛立たしげに睨み付けながら、事の発端となった数時間前を思い出していた。
◇◇◇◇◇
「本日、めでたくギルドシステムが本実装と相成った訳ですが……」
「まさか新エリア追加も一緒に来るとはな!」
ギルドシステムの予告がなされた日からちょうど1週間後。
予告通りギルドシステム&土地システムが実装されたのはいいのだが、それに加えて予告無しのサプライズで第4の町と新たなフィールドボスの実装も同時に行われたのだ。
当然、事前に組むことを決めていた【カグラ】としてもギルド実装に対してある程度の準備はしていた。
とは言っても、メンバーの確認と何が必要になるか分からないので小銭を稼ぐためにロッ君マラソンに精を出していたくらいだが。
事前情報で分かったのは資金が多く必要というくらいだったので、なら最近出来てなかったレベリングも兼ねて資金稼ぎをしよう、という流れになったのだ。
なお、金銭的問題に限って言えばメイが居るため全くと言っていいほど問題では無いのだが、さすがにメイだけに頼り切るのは……と言う満場一致の抵抗感と小さな意地で『ロッ君の素材をメイに売る』と言う形で全員がある程度の金額を持っているようにしたのだ。
結局全部メイが出してる事に変わりはないが、無数の核心石含む大量の素材がメイの元に入っているので曰くプラマイプラスらしい。
そんな訳でロッ君をひたすら壊して回った1週間を経てのギルドシステム実装日に、まさかのサプライズ新エリア実装だ。
度肝を抜かれるのも仕方の無いことだろう。
「でもさ、前回のイベントの時みたいに新しい町にたどり着けなきゃギルドを組むことは出来ない、って訳じゃないんでしょ?」
「あぁ。ギルドを組むだけなら【トルダン】で申請出来るぞ。問題は……」
そう言って、トーカは幼馴染ーズをチラリと横目で見る。
視線の先には、やる気満々!といった様子のリクルスとカレットの姿がある。
ギルドを結成するに当たっての詳細が判明した時からずっとこのテンションの幼馴染のお守りに、そろそろ疲れが見え始めている。
「ギルドを結成するだけなら……確かに必要は無い!しかし!最高ランクのギルドである証、Sランクギルドの称号を得るためには第4の町への到達は必須なのだ!」
「そりゃあるかないかで言ったらあると思ってたぜ?お知らせにほのめかしてあったし。でもよぉ!想定してても実際に上があるって分かったら……目指さなきゃ嘘ってもんだろ?」
「……と、いう事だ」
やる気に満ち溢れているこのふたりが言うように、本日実装されたギルドにはC、B、Aと3段階のランク分けが施されており、そのランクはギルド結成ミッション時に『ギルドポイント』なるものをより多く稼ぐほど高いランクのギルドとして認められるそうだ。
現状ではギルドランクとはなんぞやという状況ではあるが、そう言った枠組みが用意されてある以上何か意味があるのだろう。いや、意味など無くとも区分けされているなら最上位を目指したくなるのは必然か。
さて、ここで少し疑問に思った事だろう。ギルドランクはC、B、Aの3段間のはずなのにカレットは何を言っているのだろうか?と。
それを説明するために、まずはギルド結成ミッションについて説明する必要がある。
まぁ、読んで字のごとくなのだが。
ギルドを結成するためには【トルダン】でギルド結成の申請をする必要がある。そして、その時点でギルドを結成する事が出来る。
当然、『できる』なのでしなくてもいいわけだ。
正確にいえば、ギルド結成の申請をした時点であるクエストが自動的に発生する。
その名も『ギルド結成ミッション』。なんの捻りもないクエスト名だが、その中身はなかなかにハードである。
そして、その内容を一切クリアすること無く完了報告をする事も可能であり、そうすると自動的にCランクのギルドとして結成される事になる。
もうお分かりだろうが、この結成時に発生するミッションをより多くクリアする事によってギルドランクを高める事が出来るのだ。
ミッションとは言うが、正確には『ギルドポイントを稼ぐ方法一覧』のようなものであり、この内容に沿った行動をとる事によってポイントを稼ぎ、一定以上稼いだ段階で終了報告をするとその時のポイントに応じてギルドランクが決まるという仕組みになっている。
そのミッション内容は多岐に渡るが、その内容を大雑把に分ければ『討伐系』『収集系』『生産系』『到達系』の4項目に分けられる。
討伐系はその名の通りモンスターを討伐する事によってポイントを稼ぐことが出来る。そこら中にいるような雑魚からフィールドボスまで様々なモンスターが対象になっており、その強さに応じて得られるポイントが変動する。
収集系も同じで、これは対象がアイテムになっていてそのレアリティによって得られるポイントが変動する。
生産系はアイテムを作成する事によってポイントを獲得し、そのクオリティや生産難度によってポイントが変動する。
到達系は現時点でも多数存在するフィールドに足を踏み入れる事によってポイントが得られ、これもエリアによってポイントが変動する。
なお、既に達成していた場合でもポイントを得るには再度達成する必要があり、ズルを防ぐためか到達系はひとつのエリアにつき1度だけ、既に持っているアイテムを1度手放し再取得するのはポイントにならないというルールが課せられている。
これによって、エリアの境界で反復横跳びしたりアイテムを地面に投げ捨てては拾う虚無ループによってポイントを稼ぐことは不可能となっている。
これらの中にはミッション側から特に指定されたミッションが存在し、それを達成する事でより多くのポイントを獲得する事が出来る。
また、このミッションは全てのモンスター、アイテム、エリアを網羅している訳ではなく、中には条件に入っていないモノも存在する。そう言った対象はいわいるハズレ扱いとなり、達成してもポイントを貰うことができないのだ。
そして、このミッションの最もいやらしいところはその条件が一部非公開という事だ。1度でも達成すれば判明したとして一覧に表示されるが、それまでは『???』となっていて確認することが出来ない。全体の3割ほどがその非公開に該当し、『全部教えて貰えると思っちゃダ・メ・よ♪』とウザったらしいメッセージが添付されていた。天ぷらにしてやろうか。
おっと。ならもう【カグラ】はS確定じゃないかと、そう思った人もいるかもしれないが、それは早とちりである。
いや、実際【カグラ】のメンバーもこの段階で「あ、終わったわ」と完勝宣言を無意識に出してしまったのだが、この話には続きがある。
このミッションはただポイントを稼ぐだけではどれだけ頑張ってもAランクが限界なのだ。
その1歩先。カレットが目標に掲げたSランクを獲得するためには、さらに3つの条件が存在する。
1つ目は一定以上のポイントを稼ぐこと。
これだけなら簡単に思えるかもしれないが、Aランクになるために必要なポイントのさらに10倍というアホみたいな量のポイントを要求される、何気にかなり厳しい条件である。
2つ目はミッションの達成率を100%にすること。
無数にあるポイント取得方法から効率のいいものに絞って稼ぎ続けるだけではSランクにはなれないという事だ。しかも、条件は不明でハズレもあるためかなり厳しい戦いになると予想される。ミッションの総数がそこまで多くない事が不幸中の幸いだ。
極めつけの3つ目。クエスト受注から72時間以内に上記の条件を両方とも満たす事。
これが何よりも厳しく、『Sランクになるならこれくらいの条件は満たしてもらわなきゃなぁ』と非常にウザったらしい顔で言い放つ妖精ちゃんを多くのプレイヤーに幻視させたという。
これらの条件を全て満たして初めてSランクギルドの称号を得ることが出来る。
そして、ミッションの中には新たなフィールドボスの討伐と第4の町【ファジー】への到達が存在する。
よって、Sランクを目指すためには72時間以内に新たなフィールドボスを討伐し、第4の町へとたどり着かなくてはならないのだ。
「と、言う訳でだ。俺としてもSランクを目指したいという気持ちはあるが、かなり過酷な3日間になると予想される。恐らく、この三連休のほとんどをつぎ込むことになるだろう。そう言ったリアル事情からも強制するような空気にはしたくない。という訳で、事前に目指すかの確認をしようという事でクエストを受ける前に集まってもらったんだ」
「ほむ……確かに『もう受けたからキビキビ働け』って言われたらはぁ?ってなるもんね」
ギルドシステムが実装されて早速クエストに乗り出すプレイヤーが多い中でクエストを受けずに【カグラ】のメンバーを集めた理由に、なるほどとリーシャは手を打つ。
「僕は……多分生産系は網羅出来ると思うから全然構わないよ。収集系も採取アイテムなら多分全部行けるはず。ゴーレムが達成しても持ち主の僕が達成した扱いになるなら、討伐系と到達系もかなりカバーできると思うよ。自惚れてるって言われたら反論しにくいけど」
「いや……メイさんのそれは自惚れじゃなくて実績だから誇っていいと思うよ?というか、ポイント問題に関しては例の地下工房をフル稼働させれば簡単に稼げるんじゃない?」
「あー、そっか。あの狂気の施設があるのか。なら1つ目の条件はあってないようなもんだな。俺は三連休フルに使えるわけじゃないから正直助かる」
社会人のリベット的にはさすがに3日間ゲームにかかりっきりという訳にはいかないらしい。ほっとしたように胸をなでおろしていた。
「まぁ、目標に持つくらいはいいんじゃない?絶対にSランクになるぞ!命懸けでやれ!ってのはちょっとヤだけど、それ目指して頑張る程度なら全然おっけー。むしろやる気出る!」
「僕はまぁやる事は変わらないから全然大丈夫だよ。むしろ、大義名分が出来てやったね!って感じ」
リーシャはそう言って頑張るぞーと腕を突き上げ、メイは平常運転している。
「俺はちょっとつきっきりは厳しいから目標に掲げてダメでもまぁいっか程度のノリだと助かるな。もちろん、目標に掲げるからには達成できるように最大限努力はするが」
「私は……まだみんなに比べると出来ることとか知ってる事とか少ないからリベットさんと同じでそんな感じだと嬉しいかな」
社会人で忙しいリベットがそう言うと、(この中では)まだまだニュービーであるサクラが同意する。
「私は絶対に目指すぞ派だな!とはいえ、それは私の心意気であって皆に強制することはないぞ!もしダメでもリクルス以外には文句は言わん!」
「俺には言うのかよ!……って、言いたいところだけど、俺もカレットと同じく絶対目指す派だから目標に掲げる以上は絶対目指す派の中ではケツ蹴り合おうってのは賛成だ!」
「俺もダメだったら仕方ない程度の心持ちで、だな。あぁ、リクルスとカレット。いくらガチでやるからって一睡もせずずっとゲーム……ってのは認めないからな?現実を疎かにするのは許さん」
「「あいあいさーッ!」」
「没収されかねないから必死だねお兄ちゃんもカト姉も……」
カレットとリクルスは絶対目指すを公言するが、保護者トーカが現実を疎かにする事は認めないため最大限の効率を求められる結果となった。
「んじゃ、意思確認も出来たところで受注に行くとするか」
「あ、その前に一つだけいいか?」
「むっ、リベットから何か働きかけてくるのは珍しいな!」
「いつも見守ってる大人!って感じのポジションだしな!なんだなんだ?」
「実は……」
◇◇◇◇◇
と、そんなやり取りの後、人手を分ける意味も込めてトーカ、リクルス、カレットの3人がまずは新たなフィールドボスへと挑む事になったのだ。
ミッション周りがちょっとややこしいかな……?でもこうでもしないとメイが一晩でやってくれましたで終わっちまうんだ……
簡単に説明すると、ボスモンスターAを倒す(1点)、雑魚モンスターBを倒す(5点)、アイテムCを集める(3点)、レアアイテムDを集める(8点)
みたいなミッションがあったとして、モンスターBを五体倒せば25点が確保出来る
Sランクになるためには配点が低くてめんどくさいミッションも配点が高くてそれ相応に難しいミッションもしっかりクリアしないといけないって言うことですね
分かりずらい!
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