第243話 『掌握』
「またアンタか……!」
「そんな絞り出すようにもう1回言わなくても……」
「あ、俺知ってる。大事な事なので2回言いましたってヤツだ」
膝から崩れ落ち地に拳を押し付けるリーシャの背中を、大袈裟だなぁとメイがポンポンと慰める。
「え、待って。なんで腕?なんでこの空間に自作の腕を生やしたの……?」
「えっと、それを説明すると長くなるんだけど……」
「9文字でまとめなさい」
「作りたかったから!」
『知ってた』
全員の声が重った瞬間である。
「まぁ……いいわ。どうせかっこいい!とかそういう理由でしょ」
「( ・∇・)」
「何その顔……!?」
そんな、分かりきった事を聞かないでよとでも言いたげな顔に、すっかりツッコミ役にされているリーシャであった。
かつて三馬鹿の名を冠したとは思えないほどの一般人ポジションだ。
「つ、く、り、た、か、っ、た、か、ら……おぉ!ちょうど9文字だ!」
「キリのいい10文字じゃなくてピッタリの9文字な辺り答えを分かってて聞いた感あるよな」
その後ろでは、三馬鹿の残りがそんなどうでもいい事で盛り上がっていた。
「ここでメイの創作物について聞き始めると多分終わらんから先に進めるぞ?それで、結局この部屋はなんなんだ?」
「英断だね。さっきも言ったけど、中央制御室だよ。もちろん、正式にそういう名称がついてる訳じゃなくて、僕がそう呼んでるだけだけどね。まぁ百聞は一見にしかずっても言うし、見ててよ」
そう言うと、メイはフィモネを引き連れて巨大な水晶へと近付いて行く。
小柄なメイとフィモネとの比較という事もあるが、比較対象があるとさらにその大きさが分かる。
「じゃあフィモネ。起動して」
『了解』
メイなら縦に3人並んでもなお余りそうな高さを持つその水晶に、フィモネの小さな手のひらが当てられる。
それと同時に響き渡る、ガギャリというなにか硬質で割れやすい物質を無理やり擦り合わせる様な耳障りな破壊音。
その音を発端に、蒼白を湛える巨大水晶がフィモネの触れた箇所からじんわりと黄金色に染まってゆく。
この【島】本来のギミックであろう巨大水晶に当然のようにメイの創作物が関わっている事はこの際おいておくとして、この場にいる全員がこの色合いを知っていた。
「これは……もしかして、霊脈結晶?」
「そのとーり!草原の【祭壇】にもある、霊脈結晶から発生するエネルギーを蓄える水晶だよ。容量は比べ物にならないくらい多いし、振るえる権能も桁違いだけど」
「はっ……!ってことはもしかして、この周りの金色の水晶って……!」
「残念だけど、これは違うよ。元からあったヤツで、しかも霊脈結晶じゃないみたい」
「あぁ……私今とても安心してるわ……」
『主。蓄積された霊脈結晶の注入終了。充填率は総容量の8%くらい』
「うん。ありがとう」
そうこうしているうちに、霊脈結晶から取り出したエネルギーの注入が終わったらしい。
だが、フィモネの申告通り黄金色が水晶を満たしている割合は1割にも満たない。
「なぁ、メイ。みんなスルーしてたもんで俺もスルーしてたが、この子にも貯蓄機能を持たせてるのか?」
「うん。この精密人型ゴーレムの3人にはそれぞれコンセプトがあって、フィモネは【島】関連のキーみたいなコンセプトだからね。今はまだ難しいけど、最終目標はこの子にこの水晶を満たすだけの霊脈結晶を蓄えさせる事だよ。そのためには持ち運び可能チェストの小型化・大容量化が必須だね」
「へぇ、そうなのね。んー……モネが敏腕執事でフィオネはドジっ娘メイド、かしら?」
「80点……って所かな。あと一歩足りなかったね」
「その言い方なんかムカつくわね……その身長さらに縮めてやろうかしら……」
「それで、これじゃ全然足りないから追加で補充するね」
「あっ、逃げた」
そう言うとメイは(極力リーシャの方を見ないようにしながら)ウィンドウの上で指を滑らせる。
そうすれば、メイの手の上に大量の黄金色の物体が現れ、それはたちまち小さな手のひらからこぼれ出し、ガシャガシャと音を立てて地面に転がり落ちて行く。
「ヒェッ……!」
「ヴッ……トラウマが刺激される……!」
「……?あっ。うわぁ……!言われなきゃ気付かなかったのに……!」
若干名、某湯屋に起きた悲劇を思い出して顔色を悪くしているが、さすがにメイにその意図はないはずだ。
「……?どうしたの?」
「いや、気にしないでくれ。運が悪かっただけだ」
「なんか、そう言われると逆に気になるよね。まぁいいや。フィモネ、回収してから再充填お願い」
『了解』
黄金色の物体を今なお出し続け、意図せずトラウマを刺激し続けるメイが指示を出すと、巨大な水晶に手を当てたままのフィモネは片方の手を地面に……正確には地面に転がっている霊脈結晶へと向ける。
手を向けられた霊脈結晶は渦を巻いてフィモネの手のひらに吸い込まれ、フィモネの体内で再びガギャリと霊脈結晶を破壊する音が奏で始める。
「おぉ……なんか、圧巻の光景って感じがするな……」
「うん……。だんだん金色に満ちて行く巨大な水晶って……なんか、凄い。うん。凄いとしか言えない魅力があるよね……」
この場にいる全員が見守る中、ついに巨大な水晶が黄金色に満たされる。
それはつまり、この巨大な水晶がエネルギーを満タンまで貯め切ったということ。メイが見つけ出した【島】の真の権能が、ついにそのベールを上げる時が来たのだ。
「これが今日の目玉。この【島】における、絶対的な権能だよ」
フィモネを下がらせたメイが黄金色に満たされた巨大水晶に軽く触れる。その瞬間、複数枚のウィンドウが出現し、メイの周囲を取り囲む。
「一番分かりやすく迫力があるのは……これだね。じゃあみんな、見てて」
そう言うと、メイは複数あるウィンドウの1つを拡大し、全員が見やすいように大きなモニターとして上空に移動させる。
そこには、この場所の上にある『草原』エリアが映し出されていた。そばにある【祭壇】がこの光景はこの場所の真上だという事を小さく主張している。
「1割使用」
そうメイが呟いた瞬間、突如として画面に映し出されていた『草原』に立派な樹木が現れる。
「なっ!?」
「今度はとなりのだと!?」
「夢だけど……夢じゃなかった……!」
しかも、突然ぽっと現れた訳ではなく、小さな芽がいくつも生え、それらが急激に成長し、また混ざり合い築きあげた大樹だ。
それこそ、サクラが思わずと言ったように呟いた夢だけど夢じゃなかったの夢の中のように(ややこしい)突如として大樹が生えたのだ。
サイズはアレよりもかなり小さいとはいえ、神社にでもあろうものなら御神木として祀られててもおかしくないレベルの立派な大樹だ。
「これが……メイの言ってた権能ってヤツなのか?」
「まぁまぁ、まだ驚くのは早いよ。驚くならこれを見てからにしてね」
「まだ何かあるの……!?」
「見てのお楽しみ。という訳で……3割使用!ついでに奮発して残り全部注ぎ込んで効果拡大!」
そう言って、メイが勢い良くウィンドウを叩いた瞬間。
ドンガラガッシャンッ!
「うひぇ!?」「うわっ!?」「うぴぇ!?」「ひゃぁ!」「きゃっ……!」「うぉっ!」
雷が、落ちた。
怒られたの比喩表現のソレではなく、実際に、物理現象として雷が落ちたのだ。
今しがた生えたばかりの大樹に狙い済ましたように叩き付けられた天の槍は、激しい閃光と轟音を引き連れて大樹を引き裂き、生まれたばかりの尊き自然を破壊し尽くした。
ウィンドウには、落雷によって無慈悲に引き裂かれ、火に包まれる生まれたばかりの大樹の姿が淡々と映し出されている。
プレイヤーが操る魔法などとは比べ物にならない、自然の暴力。
天から降り注ぐ、絶対的な破壊の力がそこにはあった。
げに恐ろしきはこの自然の破壊力が偶然もたらされたものではない、という事だ。
何せ、この【島】では……それ所か、《EBO》全域において雨や強風などの天候はあれど、落雷は起こったことがない。
正確に言えば、雷雨として雷の音や空が光る事はあっても、実際に落雷に巻き込まれた、あるいは目にしたという報告は上がっていない。
つまり、今この場で起きた現象は《EBO》史上初めてのプレイヤーが確認した落雷であり、それがたまたま偶然このタイミングで今しがた生成したばかりの大樹に降り注いだ、とはさすがに考えにくい。
「…………メイがこの場所を中央制御室と呼んだ理由が分かった気がするわ……」
「うん。これが、この場所に、この水晶によって振るう事が出来る権能、その一端だよ」
「俺の想像になるんだが、1つ言ってもいいか?」
「もちろん」
「その水晶は……莫大な霊脈結晶と引き換えにこの【島】を自由に操作できるコンソールのような物、なんだな?」
「大正解!この水晶は大量の霊脈結晶と引替えに、オブジェクトの生成や天候の操作、地上の枯渇した採掘スポットの即時再生や【島】の飛行時の移動操作。そして……さっきの落雷みたいな攻撃的機能の行使ができるんだ」
中央制御室。あぁ、確かに言い得て妙だ。
この広い『地下洞窟』を駆けずり回って必死に集めた霊脈結晶でなんとかやり繰りする必要があるとはいえ、この【島】をほぼ自由に操ることが出来る場所は、そう呼びたくもなるだろう。
だが、それは普通のプレイヤーにとっての話である。
事もあろうに、このヒャッハーは『地下洞窟』全域を勢力下に収め、完璧な全自動採掘ラインを築き上げている。
この【島】の様々な機能を引き出すことが出来る水晶を扱うための霊脈結晶を、いちいち『地下洞窟』を駆けずり回って集め直す必要がないのだ。
つまり、何が言いたいかと言うと。
【カグラ】は、より正確に言えばメイは、この【島】を完全掌握した、という事だ。
え?【白龍砲】はどうなのかって?あんなんイレギュラーだよイレギュラー
という訳で、今回で【島】でのメイのやらかし紹介は終わり……!
次回で新システムの話にやっと移れるぞ……!
新システムはMMOに限らず、多数のプレイヤーで交流を持つことの出来るゲームなら基本的にあるであろうあのシステム……!
予想してみてね!
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