第242話 『ロマンは免罪符では無い』
前回の乗っ取った発言でついにハッキングを……!?と思われた方が多かったようで
いくらメイといえどもそこまでは出来ない……はず
さすがに運営に喧嘩売るようなマネはしないです。この世界から追放されたら創作欲求の発散場所を失うんですから
「乗っ取ったてアンタ……え、ハッキング……?」
まさかの発言に、開いた扉はガン無視され、リーシャは親友をヤベェ奴を見る目で見ざるを得なくなった。
「もぉ、リーちゃんったら。さすがにそんな訳ないよ。乗っ取ったってのはある種の比喩で、元々のギミックを上手く利用させて貰ったってだけだよ」
「そ、そうなのね……。メイなら真顔で『ゲーム側からハッキング出来たよ』とか言いそうで怖かったわ……」
「僕をなんだと思ってるの……?」
「ものづくりに関してはブレーキぶっ壊れた暴走機関車だけど?」
「酷い!でも否定出来ない……!」
そんな、ある種のコントの様なバカげたやり取りを繰り広げている内に大体は落ち着きを取り戻した様だ。
「それで、何が起こったのか説明して欲しいんだが」
冷静になれば、こんなに質問が飛び出すのは当然だろう。
「もちろん!まぁ簡単に言っちゃうと、元々のギミックとして存在したこの扉を開けるために必要なキーアイテムをフィモネに組み込んでさっきみたいなロマンある解錠方法で開けられるようにしたってだけだよ。普通ならキーアイテムを扉にかざして開けるんだけどね」
「なるほど……元からのギミックをメイのロマンに利用したから『乗っ取った』なのか」
「そういうこと!この『地下洞窟』で採掘してた時にね、たまたま『蒼白の水晶片(4/10)』っていうのが出てきて。素材にも出来ないし、あと9個あるっぽいしなんだろこれ……って事で気にはなってたんだ。それでも『地下洞窟』の探索は続けてて、その中で開かない扉……まぁこの扉なんだけど。それを見つけて、しかもこれみよがしに『蒼白の水晶片(10/10)』ってのが嵌め込まれてるじゃん。それで、この扉関連なんだ!って当たりをつけたんだ」
「あー、なるほど?このバカみてぇに広い洞窟から残りの9個の欠片を見つけ出せって仕掛けがあったのか。ある種の試練みてぇなもんか?」
「そういうこと!まぁ、後はゴーレムによる人海戦術で採掘スポット全部開けて、追加で7個見つかったの」
「む?ひぃ……ふぅ……なぁ……で……1つ足りなく無いか?」
それまで黙って話を聞いていたカレットが指折り数え、首を傾げる。
最初に見つけた1つ。扉にはめ込まれていた1つ。追加で見つけたら7つ。全て合わせても9つでひとつ足りない。
「うん。僕も困ったよ。それこそ、一時的に生産ラインを止めてまでこの洞窟を漁り尽くしても出てこないんだもん。まぁおかげで詳細なマップが作れたんだけど」
「メイが……生産を止める……!?」
「僕だって別に他に優先する事があれば一時休止くらいはするよ……?」
「その他に優先する事の基準が厳し過ぎるのよ!どうせ今回だって得意の採掘で負けた気分になったからムキになったってだけでしょ?」
「ふひゅーふひゅー」
「吹けてないわよ」
当時の苦い記憶を思い出したのか、メイはちょっと拗ねた様に吹けていない口笛を吹く。
「それで、悔しかったけど……本当に悔しかったけど、【島】の事は【島】の原住民に聞こうってなってね。聞いたんだよ。そしたらなんと、持ってたんだよ!【試練の獣】の【蛇】が!『蒼白の水晶片(1/10)』を!『おぉ、そこまでたどり着いたんか。なら餞別や。コレ持っていき。残りは……まぁ、頑張って探しぃや』って!餞別や、じゃないよ!それを求めて僕がどれだけ『地下洞窟』を駆けずり回ったことか!探しぃや、じゃないよ!他は全部見つけてんだよ!後はお前の持ってたそれだけだったんだよ!あんの糸目ひょろ長やろぉ……!絶対許さないからなぁ……!」
その時の悔しさが再燃したのだろうか、語りながらヒートアップしたメイは、タンタンと地団駄を踏み鳴らす。
なお、ダンダンと踏み鳴らすには体格や力が足りなかったようだ。
「うわぁ……本っ当に悔しそうな顔してるよメイさん……。言葉遣いすらおかしくなってるよ……」
「自分の領域の事を他人に頼らざるを得ないのが嫌だったんだろうな……メイって結構縄張り意識強いもんな」
「いや、それもあるけど探してたもんがずっとそこになくて別の奴が持ってた事にキレてんじゃねぇかなぁ……。俺が思うに、【蛇】のそれ、蒼白の水晶片探しのチュートリアルというかヒントなんじゃねぇかなぁって」
「うむ。先に採掘で見つける欠片を見つけてしまって、しかもメイが下手に採掘力が高いせいでややこしい事になっていたのだな」
「どっちもじゃないかしら。メイって結構人見知りってのもあって、滅多に自分の部屋とかに人を入れないし、結構1人でやりたがるところあるもん」
「そんな人を縄張り意識の強い小動物みたいに……」
まるで小動物の説明でもするかのように、けらけらと笑ってそんな事をのたまうリーシャは、メイにジト目を浴びせられている事に気付いていない。
「これまでの発言からして普通に招かれてるっぽいリーシャが言ってもいまいち説得力ないな」
「ほら、私は親友だし!お兄さんとカレット達と同じ幼馴染みたいなもんよ。いや、カレットとリクルスの幼馴染関係みたいなもんよ」
「なんで言い直した……って聞かずとも何となく理由が分かるのがまた……」
「それに、1度メイのテリトリーになった場所に招かれたって事は私たちは結構メイに気を許されてるって事でしょ」
「扱いが完全に小動物なんだが……?」
「ほら、メイってちっちゃくて可愛いし、実質小動物でしょ。愛い奴よのぉ〜」
「むぅ……!リーちゃん、子供扱いですらない小動物扱いはひどいよっ!」
「まぁ、まぁ、そんな事仰らずに。えいっ」
「ぷひゅ〜。あっ、ひどい!」
そう言いながら、リーシャはちっこいメイの頭をうりうりと撫で回す。
そんな扱いにメイが抗議するが、頬をふくらませて精一杯抗議する様はまさに小さな子供が拗ねているようで可愛らしい。
つまりは、リーシャの猫可愛がりが加速する。親友の可愛らしさにメロメロだ。
「あー、その、なんだ。仲良くしてるところ悪いんだが、開け放たれて放置されてる扉の先についてそろそろ説明が欲しいんだが?」
「あっ、そうだね。リーちゃん。そろそろ次行くからやめて?」
「はーい。あー、メイのほっぺもちもちで気持ちいいわ〜」
「なんと!そんなに気持ちいのか……?なら私も……」
「……カレット、それやってると話進まねぇからやめろって」
誘蛾灯に吸い寄せられる蛾のようにフラフラとメイのほっぺ目掛けて進んで行くカレットを抑え、トーカが説明を求める。
やっとこさ話は本命へと進みそうだ。
「うん。どこまで話したっけ……そうだそうだ。それで、何とか蒼白の水晶片が全部集まったんだ。そしたら、その水晶片同士がくっついて『蒼白の水晶』っていうアイテムになったの」
「あぁ、それをフィモネに組み込んで使わせるようにした……って事か?」
「そう!大正解!さすがトーカだね。蒼白の水晶をこの部屋に持ってくると凄い蒼い閃光を放ち始めてね。眩しいし僕の手の入ってないそんな派手なギミックがあるのも不快だったからフィモネの核に核心石と一緒に組み込んじゃった!」
「組み込んじゃった!じゃない……んだけど、もういいわ……」
超重要なキーアイテムを不快という理由だけで自作ゴーレムに組み込んで無理やり自分の手を入れたメイに、もはや呆れにも似た感心しか湧かないリーシャであった。
「じゃあ気を改めて!【島】の最奥に隠された秘密と本命の紹介と行こうか!」
メイは楽しげにそう宣言すると、一行を引き連れて扉の奥へと進んで行く。
まるで神殿の中のように、狭くも整備された明らかにこれまでの洞窟とは毛色の違う通路を進むと、すぐに開けた場所に出た。
ひと目で異常と、異質と分かる、これまでとは全く異なる趣の空間。
その空間は、至る所から突き出した水晶で彩られていた。
淡く黄金色に色付いた無数の水晶が、所狭しと空間中を埋め尽くす。元の壁などもはや見えない。
大小様々な大きさの水晶達の群れがその空間を喰らい尽くしていた。
「ここは……」
そんな異様な光景に、誰も彼もが息を飲む。出来たのは、そんな小さな疑問を零すことだけだった。
「ここがこの【島】の中心。最も深くに存在する、最も重要で、最も異様で、最も恐ろしい場所。言うなれば、この【島】の中央制御室」
「中央、制御室……」
だが、それに答える声がある。
腕を広げ、この部屋の威容を、異様を見せ付けるようにそう告げるメイの言葉は、あぁ、それだけ聞くと、とても大袈裟で、大仰で、過剰に装飾の施された見栄のように聞こえるだろう。
だが、そんな勘違いを決して許さない。
そんな、説得力が、そこにはあった。
そう。そこにあるのだ。物理的にソレはそこに存在した。
思わず息を飲む様な重苦しいまでの存在感を、外の扉なんて児戯に思えるような圧倒的な威容を、そして何より、嫌でも目を引かれる様な洗練された美しさを兼ね備えた。
周囲を覆い尽くす水晶なんて、ソレの前では素人の客引きにも劣る。格が違うと、本能に理解させる程に。
中央制御室、この地を知り尽くしたメイがそう呼んだ異様の空間、その中央に、我こそがこの場の主であると、そう無言で主張する巨大な蒼白の水晶。
人間なんてすっぽりと収まってしまいそうな大きさと、気を抜けば吸い込まれそうな程の荘厳さを合わせ持った正六角柱の水晶。
ソレは、まるで守護者のように、従者のように、一対の巨人の腕を侍らせていた。
もしその水晶体に触れようものなら、それどころか、不用意に近付こうものなら、動き出して無礼な賊徒を簡単に叩き潰すだろう。そう感じさせる程の威圧感を、水晶に負けず劣らずの存在感をその腕も放ってた。
「あ、ちなみに、この腕は僕が作ったよ」
「またしてもアンタかっ!加減しなさいよメイのばか!」
フィモネのアンロックシーケンスは
【起動】で体内の蒼白の水晶を覆ってるカバーを外し、蒼白の水晶右腕部に移動させる(この時わざとボディに隙間を作ることで蒼い閃光を漏れさせる)
【解錠】で右手のひらから蒼白の水晶を露出させ、嵌め込むべき窪みに接続。後は元からあるギミック通り開門の演出が行われる
【完了】で蒼白の水晶を回収&元の位置に戻す
というゴリッゴリに物理的な動きをしています
演出大事
そして、今回で出来た島の最奥にあるメイ曰く中央制御室に与えられた権能は次回
次回こそ【島】での発表会を終わらせて新システムを登場させたい……!
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