第241話 『不純物は認めない』
お待たせしました!
構想と実際の挙動がズレた関係で微調整していて遅れてしまいました
メイが……メイがぁ……!
「じゃあ行くよー」
そう言ってメイが皆を引き連れて進むのは、『地下洞窟』の奥深く。
アリの巣のように入り組んだ『地下洞窟』を、一切の迷いなくスイスイと進んで行くメイの脳内には、この場所の地図が完璧に入っているのだろうか。
時折すれ違うゴーレムを見て何かをメモしている以外は、道すがらに楽しげに、あるいは自慢げに『地下洞窟』の開拓についてやゴーレムの制作について語ってくれているが、メモをとる時とそれ以外の時とでの雰囲気の違いはいっそ別人と言われた方が納得出来るほどの変わり様であった。
「うーん。やっぱり番号が若い個体は初期に作っただけあって動きが硬いというかぎこちないね。そろそろ各種50番以下は一新するかなぁ。でも、核心石を取り出すのは結構繊細な作業だから大変なんだよなぁ。ボディの入れ替えよりはアップデートの方が効率がいいのかな?メンテナンス以外にもアップデートも自動で出来るようにそれ用のゴーレム作る……でも個体ごとに微調整が必要だけどそこまでの臨機応変さはまだ難しいしなぁ……」
「なぁなぁ、トーカ。私にはメイが現場の視察に来ている社長に見えて来たぞ?」
「うーん。俺にはどっちかってと究極の人工生命体を創り出そうとしてるマッドサイエンティストに見えるな」
「どっちにしても実際そんな感じじゃねぇかなぁ。これ、働いてるのがどんどん進化していくゴーレムってだけで立派な地下労働だし」
メモを書き込んでいるウィンドウを眺めながら呟くメイに、カレットとリクルスはそんな姿を幻視していた。
「っていうか、私《EBO》って結構剣と魔法のファンタジーな世界観だと思ってたんだけど、ここだけ見せられるとそうは思えないわね。いえ、ここがおかしいのは分かってるんだけど」
「うーん。でもこの地下さえ見なければ地上は立派なファンタジーだから……ね?メイさんがおかしいだけだよ」
「結構サクラもズバッと言うよな。俺としては洞窟にゴーレムが……ってのもそこそこファンタジーではあると思うんだよな。うん。1人の存在によって制御されてたりなんか生々しい雇用形態みたいな感じになってさえいなければ」
このメンバーの中で最年長であるリベットはメイの命令の元働き続けるゴーレム達を苦い表情で見送っている。
「《EBO》ってプレイヤー側は剣とか魔法でファンタジーしてるけど、敵は結構現実にもいる動物ベースというか、ファンタジーファンタジーしてないよな。そりゃイベントん時の竜とか、ボスのロックゴーレムとか池の主とかトレントとか……あとは一応岩蜥蜴もか?それっぽいのもいるっちゃいるけど」
リクルスがそういや……と記憶を掘り返し、そんな事を言い出す。
「おぉ、言われてみれば確かに……スライムやゴブリン、コボルトやゴーストと言ったファンタジーの代名詞のようなモンスターはいないな」
「へ?いやいや……そんな事は……って、言われてみればそうね。ファンタジーっぽい敵と戦った記憶があんま無いわ」
「不思議な力を使ってくる……って点なら、洪水みたいな水を吐き出す大亀とかはファンタジーって言えるけど、見た目的にファンタジーな敵は確かにいねぇな……」
「あれ、みんなもそんな感じなの?私が始めたばっかりだからたまたま戦ったこと無いだけかと思ってたんだけど……」
リクルスの発言を皮切りに、今まで気にしていなかった違和感が顔を出す。
所々にそれっぽいモンスターがいたからこそ今まで疑問に思っていなかったが、ファンタジー色の強いゲームなのにファンタジー風の敵が少ないというのは確かにおかしい。
「そういう話なら人型の敵もすくねぇよなぁ。特に人間型の敵。ゲームならさ、盗賊とかそんな感じで人間型の敵がいてもおかしくねぇのに」
「それはあれじゃないか?年齢制限があるとはいえここまでリアルなアバターを作れる技術力で人間型の敵を作っちゃうと戦うのに忌避感が出てきたりするとかそんなんじゃないか?」
「おん?トーカ、それだとおかしくねぇか?既に決闘というPvP要素はあるし、そもそも公式が主催でPvP大会ってイベントを開催してるし」
「そうだぞそうだぞ、既に私は人を焼く楽しみを覚えてしまった……!この感覚を知る前には戻れない……!」
「……カレット。さすがに冗談というか、言葉のあやなのは分かってる。分かってるが、言い方を考えてくれ。じゃないと、俺はお前からこの世界を取り上げるという措置を取らないといけなくなってしまう」
「ちっちがちが違うぞまっ……トーカ!私が言いたいのは……そう、AIでは無い生身の人間と手に汗握る戦いを繰り広げるヒリヒリ感があるPvPの楽しさ、と言うものを知ってしまったという意味であって、私の主な攻撃手段が『火魔法』だから焼くと言っただけで、別に猟奇殺人の趣味に目覚めたとか、現実でも燃やしたいと思ってるとかそういう事は欠片も無いぞ……!そう、トーカの言う通り言葉のあやなのだ!」
少々倫理的にアウトな表現をしてしまったがためにトーカにイエローカードを突き付けられたカレットは、必死に言い訳を重ねる。
さすがに本気では無いとは分かっていても、大規模破壊の快感を覚えつつある幼馴染がそんな事を言い出すとさすがにたしなめない訳には行かない。
もし仮にここが現実世界だったら、普通にアウトな発言だ。
「おぉう……カト姉必死だね……」
「そりゃなぁ……トーカが俺らとかカレットの親に『悪影響が強いから《EBO》はやらせない方がいい』って進言したらまず間違いなく禁止食らうからな……。現実とゲームをはっきりと分けて考えろってはよく言われるけど、マジで混同しだしたら容赦無く禁止するぜアイツ」
「ねぇ、実はトーカって3人の親だったりするの……?」
保護者的権限をチラつかせるトーカに、現実で会っているはずのリーシャが改めてトーカの年齢に疑問を抱く。
冗談半分の疑問とはいえ、半分は本気でそう思いかけているのも事実だ。
「……さっき、カレットがトーカの事ママって言いかけなかったか?」
「「「「「「ブフッ!」」」」」」
「……?」
少し硬くなってしまった空気の中で、この場で唯一トーカの本名を知らないリベットがそんな勘違いをボソリと呟く。
誰に聞かせるともない独り言だったのだろう。だが、一連の会話の切れ目で静かになっていた洞窟内にその呟きは染み渡る様に広がり、リベット以外の6人が吹き出す結果となった。
「でも、そうだよね。ファンタジー系の敵って見かけないよね……あんまり遅いと僕の方が先に作っちゃうよ」
リベットを置き去りにしてひとしきり笑った後で、メイが話の流れを戻す。
……不穏な言葉と共に。
「だよね?《EBO》内のほぼ全ての素材を熟知してるアンタが知らないならやっぱりいな……ん!?メイ、今とんでもないこと言わなかった?」
「へ?まだまだ課題は多いとはいえ、ゴーレムの見た目を人型に寄せるのは出来たからさ、次はそっち系を試してみようかなとは思ってたんだよね。だからもしかしたら僕の方が先にファンタジー系のモンスター(型のゴーレム)を作っちゃうかもねって」
「なんでアンタは運営と競走しようとしてるの……?」
「あはは、まだ核心石にも全然余裕無いし、構想だけだけどね……っと、到着したよ」
何故かプレイヤーでしかないはずのメイが運営と競争するという異常事態をサラッと流し、たどり着いたのは『地下洞窟』の最奥。
「おぉ……これは……」
「なんというか……すげぇな……」
なんだかんだと整地された洞窟を30分は進んでいただろうか。
この場所は、マップ上で見れば【祭壇】の真下に存在し、【祭壇】が島の中心にあるとするならば、この場所は正真正銘本当の意味で【島】の中央にあると言える。
そんな場所に訪れた一行を出迎えたのは、見上げる程に大きな、そして立派な扉だった。
ゴツゴツとした岩肌の中にありながら美しさすら感じさせる精巧なレリーフの彫られた扉は、重い沈黙を持って来客者達を睥睨している。
「……これも……メイが?」
「ううん、これは違うの。この『地下洞窟』を開拓してた時に見つけたんだ」
「って事は……」
「そう。僕が作ったギミックじゃなくて、この【島】が持つ純正のギミックだよ」
「こんなのがまだ隠されてたのか……。それで、ここに連れて来たって事は……」
「ふふふ、まぁ見てて」
無骨な洞窟内には場違いな威容を放つ扉を前に、不敵(に見せようとして幼子のドヤ顔のようになっている)笑みを浮かべて扉に向き直る。
「じゃ、フィモネ。お願い」
『……了解』
大人びた澄まし顔の男の娘、フィモネがメイの指示に従って小さな歩幅でそっと歩み寄ると、静かに扉を仰ぎ見る。
この中でいちばん小柄なフィモネと比べると、その扉は両者の対比でより一層大きく見える。
『【起動】』
右腕をそっと前に出したフィモネがそう呟くと、突き出した腕から鮮やかな蒼の閃光が迸る。
「はぁ!?」
「まっ、なんぞそれ!?」
「ちょっとメイ!?これ【島】本来のギミックじゃなかったの!?」
そんな驚きの声では、主の命令は止まらない。
驚く三馬鹿と絶句する3人を余所に、フィモネは蒼き閃光を迸らせた右腕を扉に押し付ける。
『【解錠】』
フィモネから溢れ出した蒼い閃光が、その言葉と共に扉へと流れ込み、レリーフの窪みを満たすように駆け巡り扉を蒼く染め上げる。
扉の全てが蒼に満たされた、その時。
ズッ、ズズズ……ズゴコゴゴ……
ロックゴーレムが奏でる様な石臼をする様な音をさらに重厚にしたような、体の芯まで震わすような重い音ともに扉が開いて行く。
『ふぅ……【完了】』
扉が開き始めたのを確認すると、小さく一息吐いてフィモネが腕を下げる。
その時には既に蒼い閃光は全て扉へと流し込まれ、フィモネの腕からは光が消えていた。
『……終わったよ』
「お疲れ様。ありがとね」
すたすたとメイの元まで帰って来たフィモネの頭を、メイがよしよしと褒めるように撫でる。
2人の体格もあって、幼子達がじゃれている様にしか見えないが、直前に起きた出来事を考えればそんな事は些事でしかない。
「ちょいちょいちょいちょい!メイ!え?ちょっと待って、メイ!」
「どうしたの?リーちゃん。そんなあわあわして」
「どうしたの?じゃないわよ!この扉って【島】本来のギミックなんでしょ!?なんでメイが作ったゴーレムが鍵っぽい事なってんの!?実はこの子だけここから出土したの!?」
「あはは、出土って。リーちゃんも面白い事言うね。正真正銘、フィモネは僕が作ったよ」
自慢の逸品を誇る様にリーシャの方へとフィモネをずいっと押し出しながら、メイはにへらっと笑い、続ける。
「まぁ、僕の地下洞窟にあんなものが我が物顔で鎮座してるなんて良い気はしないからね。乗っ取らせてもらったよ」
可愛らしいへにゃりとした笑い顔にもかかわらず、その奥に見え隠れする狂気にも似たプライドにリーシャ達は底知れない恐怖を感じ、頬を引き攣らせるしか出来なかった。
堅牢で大仰な扉が特定の人物に反応して開くとかロマンだよね!
ちょうどいいのがあったから使わせてもらったよ!
と、某氏は証言していました
次で……!次こそ本命の紹介を終えてこの章の本題に入りたい……!
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