第236話 『うわぁぁぁぁ!?喋った!?』
「………………は?」
「…………………………」
「うん。まぁ、気持ちは分かる」
カレット1色に塗り潰されたランキング画面を見て、呆然とする有咲と陽。
護はそれこそ長年の付き合いと直前のやり取り、そして合体キャンセル戦法を知っている為に『まぁ、場合によってはランキングが変動してる可能性もあるしな……』とは予想していたため、そこまで衝撃は大きくなかった。
大きくなかっただけでゼロではないのだが。
しかし、真に驚いたのは『カレットとリクルスとトーカがランキングを塗り替えた』と言う情報だけを聞いていた2人だろう。
特に、シミュレーター経験済みの有咲の動揺は大きかった。
……が、衝撃が大きいのと動揺する時間が長いのはイコールではない。
むしろ、【カグラ】のメンバーとしてカレットと長い付き合いのある分状況の飲み込みも早かった。
「星がついてないのにバカ高いスコア……なにか別の方法が?と言うか5桁とか出うる数字なんだ……しかも複数回。という事は謎のラッキー判定でめちゃくちゃ運良く出たって訳じゃないのね。再現は可能っと。ランキング表示がカレット1色なのとシミュレーターの内容から考えるに、遠距離型が有利……」
早速、ブツブツと呟いてシミュレーターの脳内シミュレーションを行っていた。
四つん這いになって慟哭している瞬と胸を張って高笑いしている明楽は未だに戻って来た3人に気付いていない。
それはつまり、驚いたは驚いたがそれ以上にうるさくして周りに迷惑をかけている2人に対して青筋を浮かべている保護者に気付いていないという事であり……
「2人とも。うるせぇ」
「「あだぁっ!?」」
目にも止まらぬ早業で、瞬と明楽の頭部にゲンコツが落とされた。
ちなみに、一守は護の接近に気が付いていたがハイライトの消えた瞳でスルーしていた。2人に何らかのおしおきが降り掛かる未来を予測していたのだろう。
「「あっ、トーカ!ランキング見たか!?」」
ひりつく頭部を押さえながら、瞬と明楽の2人が全く同じセリフを全く異なる感情から護に叩き付ける。
瞬は『あんなんおかしいって!ズルいだろ!』と副音声が聞こえて来そうな悲痛な声で、明楽は『どうだ!すごいだろう!褒めてもいいんだぞ!』と副音声が聞こえて来そうな自慢気な声で、それぞれが護に詰め寄る。
「はいはい。見た見た。なんかぶっ飛んだ事になってたな。んで、何があったのか大体想像は付くけど、言ってみ?」
「それがよぉ!アイツ1歩も動かねぇで魔法使って案山子が出て来た瞬間消し飛ばしてくんだぜ!?俺は近寄ってから殴らなきゃいけねぇってのに、ズリィよ……」
「ふふん!回数をこなして出現位置と効率的な魔法の使用順、出現モーションによる無敵判定の時間と狙いを付ける順番、更には笑い声によるモーション遅延のキャンセル方法まで色々と洗練したぞ!もはや今の私はシミュレーターを全て終えるのに30秒かからん!しかも最後のはタイマー上は止まってる判定だからタイマー的には1秒くらいだろう!極めたと言っても過言では無いぞ!」
「なるほど、な。うん。すごいじゃないか、まぁこのシミュレーター、動かず同時に複数箇所狙える魔法が圧倒的に有利だもんな。そこにさえ気付けばお前の独壇場だったろ」
「うむ。後半などもはやリクルスなど相手にもならんかったわ!」
「すごいすごい」
ドヤ顔で胸を張っている明楽が全力で褒めろオーラを出して来ているので、とりあえず褒めておく。
ここで拒否する理由も無いし、なんならスルーすると落ち込んでしょんぼりして元気を無くしてしまう。つまりは3重にテンションが下がってしまうのだ。
ちなみに、瞬は全力でズリィよな!?お前もそう思うよな!?オーラを出していたが、護としては最初から魔法……と言うより遠距離攻撃が有利な事は察していたし、それを見逃さず使えるものを全て使った明楽を褒める方に天秤が傾いている。
恐らく動かない案山子は遠距離攻撃が出来る魔道士が、動く案山子は近接戦闘で応戦出来る近接ジョブが有利になる設計だったのだろうが、相手がヒャッハーな時点でその前提は崩れている。
だが、プレイヤースキルの高さが原因とはいえジョブ間の不平等さが表面化してしまった以上、近々ジョブごとにランキングを分ける等の処置をされる可能性が高い。
「むぅ……だがやはり物足りんな。威力も手数もまるで足りん。何より、武器がな……ガワだけ再現されていても中身が伴わなければむしろ違和感しかない。やはりメイの作ってくれた本物が1番だな」
「わぁ!それは嬉しいなぁ」
「む???」
何とはなしに呟かれた『カレット』のボヤキ。
誰に向けたものでもなく、その上でその対象はこの場にいるはずがない、そんな完全にただの独り言。
それに、返事があった。
ここに来て、ようやく明楽は護と一緒に帰ってきた人物……『メイ』こと陽の存在を認識した。
なお、そのちょっと後ろでシミュレーターの脳内シミュレーションをしている『リーシャ』こと有咲の事は気が付いていないし、環がこの場に居ないことにも気が付いてない。
と言うか、そこまで気を回す余裕が無い。
明楽の視線の先には、自分の作った武器が1番と使い手に言ってもらってご満悦なニコニコ笑顔を浮かべた陽の姿が。
「………………」
視線の先にあるものを認識した明楽は一旦そこでフリーズし、非常に緩慢な動きで顔を護に向け直す。
じっと見つめ合う護と明楽。そっと、護が頷く。
「………………」
再び明楽がチラリと陽に視線を向ける。
そして、一拍。
あぁ!と、なにかに納得したように手をぽんと打つ。
「なるほど。夢か!」
明楽は、事実確認を省略して夢判定を下した。
なお、瞬はこのタイミングで陽と有咲を認識して声すら出せずに驚きでフリーズしていた。
……のだが、金魚のようにパクパクと口を動かすだけで無言だった為に誰にも気付かれていなかった。
また、一守は護が帰ってきた事にほっとしてベンチに腰掛けて真っ白に燃え尽きているのでまだ気付いていない。
「ふむ。これが明晰夢と言うやつか……初めて体験するが、本当に分からんもんだな」
「落ち着け明楽、これは現実だ。今朝の事を思い出すんだ。トーテムポールに住んでるみかんにカップケーキのカップを奢ってもらった夢を見たって言ってただろ?」
「うわぁ……なんというか、ものすごい想像力だね……」
「うわぁぁぁぁ!?喋った!?」
「喋るよ!?」
夢にしてもあまりに荒唐無稽なシチュエーションに、創造者というある種の想像力が必要とされる分野を生業としている陽が思わずと言った様子で呟く。
が、混乱している明楽にはそれすら衝撃の光景に見えたらしい。
「すまん、陽。明楽今めちゃくちゃ混乱してるんだと思う。落ち着くまでちょっと待っててやってくれ。ほら明楽、1回深呼吸して、スポドリ飲んで落ち着け」
「うわぁぁぁぁ!?喋った!?」
「俺にも驚くのか……!?」
結局、明楽がまともに意思疎通が可能になるまで落ち着かせるのとようやく気付かれたフリーズ中の瞬の再起動と真っ白に燃え尽きた一守の蘇生の諸々が終わって5人がまともに顔合わせを出来たのは、しばらく経っての事だった。
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