第24話 『緋色』の誕生
装備更新回です!
そしてコメントでいただいたアイディアを使用させていただきました!
アイディアをくれた方、本当にありがとうございます!
翌日、案の定宿題をやらずに朝に泣きついてきた瞬と明楽に呆れたりしながら学校を終え、家に帰ってすぐに《EBO》に入ろうとする2人に先に宿題をやらせてからログインさせる。
ログインしてからリクルスと合流すると、メイから装備が出来たと連絡が入っていたのでそれを2人に伝えるとカレットのテンションが一瞬で最高潮に達していた。
「トーカ!どこだっ!?私の武器はどこだっ!?」
「カレット、落ち着け。間違ってもそのテンションでメイに詰め寄るなよ?」
ハイテンションなカレットを宥めながらメイのフレンドメッセージに記載されている場所まで歩いていく。
そこは始まりの町を4区画に分けた時の東側にある共用生産所という所で作業しているようだ。
ちなみに噴水広場が町のど真ん中にあり、そこから各区画に移動できる様だ。外に出る場所は全区画にあるのだが西側が1番洞窟に近いのと戦闘職にはあまり旨みの無い場所なので行くのは今回が初だ。
「確かここだったかな」
メイに教えてもらった場所に行く広いホールにいくつかの作業台のようなものが壁際にズラリと並んでおり、ホールの真ん中はフリースペースになっている様だった。
「2人とも、メイを探してくれ」
「おっけー」
「わかったぞ!」
2人に手伝ってもらいながらホールの中を見渡す。1スペースごとに薄い壁で区切られている作業場も生産職が少ないのか数人しか来ていない様だった。
なのでそのうちの一箇所で何やら作業しているオレンジ色の髪を見つけるのにたいした時間はかからなかった。
「おっ、見つけた!」
ちょうど同じタイミングでリクルスもメイを見つけた様で声を上げる。先を越されたカレットが悔しそうにしているのが視界に入るがここで触れると面倒くさくなりそうなのでスルーを決め込む。
「メイ、来た……ぞおっと!?」
メイに歩み寄り声をかけようと腕をあげた瞬間。首に細長い糸の様なものが添えられる。そしてその糸がグッと後ろに引かれ首を切断するーー
「危ねぇっ!」
「チッ」
直前。何とか腰の鞘から『???の短剣』を引き抜き、首と糸との間に滑り込ませる事に成功した。プツンッと音を立て俺の首に迫っていた糸が切断されると同時に耳元で響いた舌打ちに俺は敵襲を受けたと理解した。
なぜ町の中で、とか、どうして襲われた、とかと言った疑問も湧き上がってはきたがそれは一旦頭の隅に追いやり、襲撃者を迎撃しようと体を動かす。
町の中ではHPが減らない……つまりは襲撃されてもほとんど実害は無く、別にあのまま糸を放置しても首が飛ぶなんて事はないのだが、それとこれとは話が別だ。
安全とは分かっていても町中で襲われて実害が無いからと無視出来るほど俺も人間が出来ている訳ではない。
というかこの状況で謎の襲撃者を無視出来る奴なんてほんのひと握りだろう。
「ッ!」
左足を軸に回し蹴りを背後の何者か向けて放つが既にその人物は数メートル後ろに飛び退いていた。
「何のようだ」
手に構えた『???の短剣』を握りしめながらその人物へ問いかける。謎の襲撃者は少し伸ばした亜麻色の髪と深い緑色の瞳をしている1人の少女だった。歳あまり離れてはいなさそうだ、俺より2つ程の下だろうか。
もちろん俺はその少女を知らないし襲われる理由にも心当たりはない、ただ少女が右手に持っている弦が中程で切れている弓を見るに凶器はその弓の様だ。まさか矢を射るのではなく弓そのものを武器にしてくるとは……そんなスキルあったか?
「もう1度聞く、何のようだ」
「メ……を…………たのは……か」
「なんだって?」
その少女は何やら呟いた様だが声も小さく多少距離もあった事で途切れ途切れにしか聞き取ることが出来なかった。
しかし素の声が小さいのではなく、本当にただ呟いただけの様だ。
キッ!と襲撃少女が顔を上げ、距離を詰める。不意打ちではあったが速度自体はそこまで早くもない、俺よりは早いだろうがせいぜいリクルスの半分と言った所だろうか。
得物は……また弓か!しかも使い方おかしい!
突っ込んで来る少女は弓をまるで槍のように構え、体の捻りを利用して鋭い突きを放ってくる。
俺はその突きを顔を横に逸らす事で回避し左肩を下げた分相手に近づいた右手で相手の首に『???の短剣』を突きつける。
「クッ!まだよ!」
襲撃少女は弓を突き出す時に踏み込んだ足を後ろに引きつけ、逆の足で胴体に回し蹴りを放ってくる。ゲームの中とはいえ喉に刃物突きつけられても相手を蹴りつけられるとか、凄いなこの子。
「よぉっと!」
背中に向けて飛んでくる蹴りを回避する為にその場でバク宙をする。バク宙なんてやった事もないし今後やる事も無いだろうが……ステータスと『体術』スキルによる補佐、それに加えてビギナーズラックも働いたのだろう、見事なバク宙で回し蹴りを回避する事に成功した。
現状を把握出来たようで止めようと動き出そうとしたリクルスとカレット、回し蹴りを放った少女が信じられない物を見たような目で硬直していた。もちろん俺も、と言うか俺が1番驚いている。
スタッと着地した姿勢のまま硬直する俺達と襲撃少女……お互い予想外な事過ぎてフリーズしてしまった様だ。
「あっトーカ来たんだ!ってリーちゃんも?」
気まずい雰囲気で硬直する事数秒、メイが気が付いた様で駆け寄ってくる。どうやら襲撃少女と知り合いの様だ。
「メイ、コイツのこと知ってるのか?」
「うん、私の友達のリーちゃんだよ。2人とも何してたの?」
どうやら襲撃少女の名前はリーちゃんと言うらしい。それが正式な名前なのかあだ名なのかは分からないが。
「えっと、リーちゃん?でいいのか?」
「いえ、リーシャよ」
「そうか、それでなんでリーシャはいきなり襲ってきたりしたんだ?」
「えっ!?リーちゃん何してるの!?」
俺が尋ねるとメイも驚いた様でリーシャに詰め寄っていく。
「いや、この男がメイを誑かした奴なんでしょ?」
「たぶっ!?」
「はっ?」
おう、少女や誑かすとはなんじゃらほい、メイもビックリしてるじゃないか。
「何をどうしたらそうなるんだよ……」
「ほ、ほんとだよ!リーちゃん!」
「だって……メイだよ?あのメイがゲーム内で友人を……それも男の人なんてありえないって」
どうやらリーシャとメイは結構長い付き合いの様だ、多分現実でも友人なのかな?
「どういう事だ?」
「いやね?この子結構な人見知りなのにさ、アタシが二日遅れでログインしたら1人でフレンド作ってるなんて信じられないじゃん。それも男だって話だし」
なるほど、確かにメイは意外にも人見知りだからな、そりゃ驚くでしょうね。
「そんでもって最近何かにかかりっきりだから何してんのかなーと思ったらそのフレンドの装備作ってるって言うじゃん、これは良いように利用されちゃてると思ってね」
「リーちゃんそんな事考えてたの?」
確かにリーシャの言い分も分からなくはない。人見知りの友人がネットで異性の友人を作ってたなんて聞いたら驚くのも無理は無いだろう。
メイがリーシャに詰め寄りリーシャが乾いた笑いをして躱しているのを何とも言えない雰囲気で見守る俺達、特に完全に置いていかれているリクルスとカレットの2人はどこか気まずそうだ。
「とりあえず、お二人さん落ち着いてくれ」
「あっ!ごめん!」
じゃれってる2人に声をかけてこちらの世界に引き戻す。
「お兄さん、さっきはごめんね、ちょっと先走っちゃった」
「別に何とも無かったから大丈夫だが……もうやるなよ?」
「やんない、やんない。でもよく防いだねぇ、アタシの必勝パターンだったんだよ?弓も壊れちゃったし。あっ、メイ〜後でアタシの弓作ってくれない?」
「もう壊したの!?しょうがないなぁ。任せて、イベントまでには仕上げるから」
「さすがメイ!頼もし〜」
さーせん、壊したの俺っす。……とは言わない、世の中には言わない方がいい事もあるのだ。
「さっきのってリーシャのオリジナル?」
「いんや、『弓闘術』って言うスキルなんだけどね」
「そんなスキルなんてあったか?」
「『弓術』と『体術』をLv.5にしたらなんか取れたんだよね」
ほう、そういうのもあるのか、なら俺も頑張れば取れそうかな。でもメインはメイスだしな……メイスでなんか無いかな?
「それ言っちゃってよかったのか?」
「へーきへーき、遅かれ早かれ広まるだろうしね」
そういう考えもあるのか。俺はそういうのは内緒にしたい派なんだよなー。
「お兄さんも凄かったね、普通戦闘中にバク宙なんてしないでしょ」
「あれは偶然だから、普通はやらないよ」
「普通にやられたらたまったもんじゃないけどね〜」
リーシャがケラケラと笑う。結構サバサバしてると言うか取っ付きやすそうな人だな。友達が多そうなムードメーカータイプっぽいな、まぁ俺の勝手な予想なんだが。
「それで……新しい杖はどこだ?」
待ち切れなくなったカレットがソワソワした様子でメイに尋ねる。相当楽しみにしてたからな、遂に我慢の限界が来たのだろう。
「あっ!ごめんね!ちょっと待ってね……」
メイはそう言ってウィンドウを操作して取り出したのは先っぽにこぶし大の大きさの緋色の水晶が付いた、鉄で作られた綺麗な杖だった。しかもタダの鉄の棒ではなく、上側に炎を模したレリーフが施されている、更に薄っすらと赤みがかっている様にも見える。
鉄の杖とか重そうだが……そこら辺はどうなんだろうか?と思ったら蜥蜴鉄は意外と軽いらしい、以上、メイさんの豆知識でした。
「おおっ!これが私の新しい杖か!ってこの赤い宝石は……」
「それはトーカが使っていいってくれたから使ってみたんだ、それのおかげで相当いいものに仕上がったよ」
「そうなのか。って確かこの赤い宝石……トーカの〈初討伐〉のやつではなかったか?」
「あぁ、そうだな。まぁ気にすんなよ」
カレットは複雑そうな様子だったが俺が大丈夫だからと何度か言うとやはり自分の武器が強い物になるのは嬉しいのかスグに瞳をキラキラ輝かせて性能の確認を始める。
「これを作ってる時に『鍛冶』のレベルが上がったから多分、ボクが作った武器で最高の出来になったよ!」
突然だが少し説明をば、このゲームでの『鍛冶』は正確には『武器制作』とでも言うべきスキルであり、別に剣などしか作れない訳ではない。なので、今回は鉄の杖だが木の杖や弓なんかも『鍛冶』スキルで制作可能と言う事だ。もちろん『鍛冶』本来の意味での『鍛冶』も出来るしむしろそっちがメインとなっている。
他の武器種は『鍛冶』で雛形を作ってから他のスキルで修正やら補正やらをしていくのが普通の流れらしい。もちろん『木工』スキルでゼロから作る事も出来るらしい。
どちらの方が効果が高いかは検証班の結果待ちらしい。
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『蜥蜴鉄の緋杖』
岩蜥蜴から採取できる鉄で作った杖
強力な火の力を宿した水晶が使われているため
火属性を強化する効果がある
INT+30
火属性の与ダメージが20%上昇される
火属性魔法の消費MP20%減少
製作者【メイ】
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「おぉ、これは……」
カレットが感動のあまり杖を掲げて震えている。確かにカレットのためにある様な武器だからな。しかもステータスの上昇値がドロップアイテムである亀甲棍と同じなんだが……しかもデメリットも無い、それに加えてその他のオプションも満載だ。亀甲棍もまだまだ現役とは言えそろそろ追い越されそうな勢いだな。
「ふぉぉぉぉ!狩りに!狩りに行こうぞ!」
「どうどう、嬉しいのは分かったから落ち着け」
蜥蜴鉄の緋杖を握りしめ飛び出そうとするカレットを落ち着かせる。なんというか……テンション上げて突っ込んでいってMP切らしてモンスターにリンチされる姿が簡単に目に浮かぶようだ。
「カレットさん、もう少し待ってもらっていいかな」
「まだ何かあるのか?」
「うん、えっと……これなんだけど」
そう言ってメイが取り出したのは鮮やかな緋色のローブだった。なんというか……マンガやアニメでよく魔法使いが羽織っているローブと言った感じだ。フードも付いていて顔も隠せそうだ、まぁ顔を隠す意味なんかないし隠してもローブの色でバレそうだが。
「これはっ!貰っていいのか!?」
「うん、カレットさんに似合いそうなーと思って。トーカから貰った上質な糸が結構余ったから緋水晶をその大きさに加工する時に出た欠片をすり潰して染色してみたんだ」
「なるほど!どうだ!似合うか!?」
メイの説明を聞きながらローブを装備したカレットが両手を広げ、ローブを装備した姿を見せつけてくる。
「んー、そうだ!カレット両手広げなくていいから杖構えてみてくれ」
カレットがリクルスに言われた通りにポーズを取る。
フードは被らずに水晶を相手に向けるように杖を持つ手をローブの合間から出した姿でカレットが静止する。
その姿は髪や目の色と相まって全体的に『赤』もしくは『緋色』と言う印象を与えてくる。いかにも火の魔法使いと言った見た目になっている。
「おぉ、かっこいいなスクショ取っていいか?」
「どんどん取ってくれ!」
結構さまになっていたので記念として1枚パシャリ。リクルスやメイ、そしてリーシャもスクショを取っていた。
そして気になる効果はこちら
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『緋色のローブ』
火の力を宿した緋色のローブ
その力故か着ているとほんのり暖かい
INT+15 MND+15
火属性の被ダメージが20%軽減される
火属性魔法の消費MP20%減少
製作者【メイ】
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これまた効果までカレットにぴったりな一品となっている、蜥蜴鉄の緋杖と緋色のローブの合計で火属性魔法の消費MPが40%減だ、これは凄いな。
そしてこの装備の分類だが、なんとアクセサリーに分類されるらしい。確かにこれだけで上装備だとローブの中に何も着ていない事になるからしょうがないのだろう。
ついでにほんのり暖かいらしいので雪山などでも重宝しそうだ。まだ雪山出てきて無いけどな。
これが後に『緋色』と恐れられる火魔導師カレットの物語が始まった瞬間である!(……といいなぁ)
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




