第234話 『お願い!今だけは来ないで!』
「それでそれで!?2人はどんな関係なの!?お互いのどこに惹かれたの!?」
「もう目と目で通じ合う関係なの!?進展早過ぎじゃない!?そんなに気があったの!?」
「手なんか繋いじゃってこんな短期間で何があればそこまでラブラブになれるの!?」
護と『リーシャ』を取り囲むメンバーが3人に増えた。
(ちょっとお兄さん!あの人は!?お兄さんの知り合いでしょ!?どうにかしてよ!)
(よーし、よく言った!なら俺はあいつを受け持つ、だからお前はお前の友人の2人を頼んだぞ!)
(ごめんなさい無理です!あのふたりこうなったら止まらないから!)
(あいつもそうだよ!うちのクラス、ひいては学校一の噂好きでおしゃべり好きのアイツは止まんねぇ!)
(えっ!?って事はあの人が冷津波の情報屋こと紫波環!?)
(え!?なんでお前がアイツの名前を!?いや、待って、何その2つ名!?アイツそんな有名なの!?)
(噂程度に聞いた事あるのよ、冷津波には自校どころか他校の様々なゴシップネタにまで精通している“情報屋”がいるって。まさか実在したなんて……)
(何それ俺初耳なんだけど!?)
(そりゃ噂好きの女子間ネットワークでの情報だもの。男子のお兄さんが知らないのも当然よ。私もあのふたりから聞いただけだから詳しくは知らないけど……)
(こっわぁ……)
「「「きゃぁぁぁぁ!お互いを見つめ合って私達なんて眼中に無いのね!?んもう!(あーちゃん)(さーちゃん)(護くん)ったらもぅ!」」」
「「…………はぁ……」」
違うと言っても聞く耳を持たずゴシップを続ける3人に、女3人よれば姦しいとはよく言ったものだと、アイコンタクトと最低限の発声による染み付いたコミニュケーションを取っていた2人は、そのせいで更に誤解を深めてしまった事に深い深い、それは深いため息を吐いた。
その息の合ったため息に、姦しーズは更に盛り上がるのでもうどうしようもない。
護的には超衝撃の事実が明かされていたが、その情報がこの場を打開する一手になるとも思えない。
上手く姦しーズの注意を環に移せればとは思ったが、目の前の上質なネタをほっぽり出してまで食いつくとは思えない。
どうしたものかとチラリと『リーシャ』に目配せすれば、どうしようもないわとアイコンタクトで返って来る。
そして、そんな小さなやり取りも見逃さずに盛り上がる姦しーズ。もはや、護にはどうする事も出来なかった。
『リーシャ』の友人であるという2人と、護の友人である2人に接点が出来てしまった以上、今この場を無理やり逃げ出しても後で結局問い詰められるのがオチだろう。
哀れな被食者となった護と『リーシャ』は為す術もなく姦しーズのマシンガントークを耐え忍ぶしか無かった。
そのまま耐えること数分。
「んー……あっ!いたいた!」
未だ止まぬマシンガントークを打開する一手が舞い降りた。
キョロキョロと忙しなく首を振り、てとてとと駆け足気味に棚の影から現れた『リーシャ』やその友人2人と同じ制服を小柄な体に身にまとった少女が、護と『リーシャ』を囲む姦しーズの2人を見つけて声をあげる。
「ん?あっ、はるちー!やっと正気に戻ったのね!」
「ひなっちー!こっちこっち!面白いもんがあるよ!」
「およ?おふたりのお友達さん?良いタイミングに来たわね!」
姦しーズにとって、護と『リーシャ』の扱いは完全に娯楽だった。
とはいえ、ようやく訪れた状況の変化である。
これが打開のきっかけになってくれれば……!と期待を寄せる護の横で、『リーシャ』はこれより未来の光景を予期したのか死んだ目で(お願い!今は来ないで……!)と祈っていた。
護が何を祈っているのかと問おうとした時には、祈りも虚しく既にその人物はこちらを補足し、向かって来ている。
幸いにも姦しーズに囲まれている護や『リーシャ』には気付いていないようだが、それも時間の問題だろう。
「面白いもの……?なになに!?またなにか等身大のフィギュアとかあった!?」
姦しーズの『面白いもの』発言につられて駆け足でこちらに向かって来た少女は、3人に囲まれている2人組を視界に入れてしまう。
小柄な少女が目にした2人組は、片や驚愕に目を見開き、片や死んだ魚の目で心を閉ざしている。
そのどちらも、そんな表情こそ滅多に見ないものであれ、小柄な少女にとっては見知った顔だ。
なにせ、幼い頃からずっと一緒に過ごして来た親友と、ここでは無い世界で出会った初めての友人だ。
だが親友はいいとして、問題はもう片方……友人の方にあった。
彼女にとって、この友人とこの場所で出会うという事は想定外以外の何物でもない。
故に、その反応は反射的であり、仕方の無いものであった。
「りーちゃ……トーカ!?」
「メイ!?」
だが、仕方の無いものであると同時に、『リーシャ』にとっては今最もして欲しくない反応であり、声を上げてしまった2人にとって己の首を締める事になる反応であるというのも、また事実である。
そして、護も『リーシャ』に続いて現れた《EBO》の友人に、思わずと言った様子で声を上げてしまう。
だが、それもしょうがないというものだ。
メイにとって《EBO》で初の友人であると同時に、護にとっても彼女は《EBO》初の友人にして、この場で出会うはずもない人物なのだから。
普段の護なら様々なヒントから気付けたかもしれないが、切羽詰まっている今の状況ではそうとも行かなかった。
服装はいつもの作業着ではなく、『リーシャ』が身にまとっているものと同じ制服で、髪色や瞳も現実離れしたファンシーな色でない。
だが、その顔立ちは、小柄な体躯は、見間違え様もない。
こと《EBO》においては、最も古い付き合いと言える少女……『メイ』であった。
そんな最古の付き合いを持つ友人との思いがけない再会に、声を上げるなという方が無茶な話であろう。
ただ、それが自分の首をさらに締める事になると言うだけの事だ。
◇◇◇◇◇◇
「まさかあーちゃんだけじゃなくてはるちーもだなんて……!」
「まさかさーちゃんとひなっちの親友による愛憎劇が!?」
「護くんが……いつも真面目な護くんが……!プレイボーイに……!」
もはや致命傷と思われた護と『メイ』のバッティングであったが、それが逆に姦しーズの処理許容範囲を上回ったらしい。
情報処理が追い付かず、姦しーズは残らず断片的な情報だけで妄想世界へトリップして活動停止を余儀なくされていた。
「一時はどうなる事かと思ったけど……助かったわ。結果的に陽が来てくれて良かったわね」
「あぁ、思わず呼んじまった時はやらかしたと死を覚悟したぞ……逆にオーバーフローで処理落ちさせる結果になるとは。結果オーライってヤツだな」
「うん?よく分からないけど……役に立てたなら良かったよ」
姦しーズの処理落ちによって事なきを得た護と『リーシャ』は、立役者である『メイ』を連れて姦しーズの3人から逃げるように離れ、一息ついていた。
「それにしても……高校生だったんだね。てっきりもっと年上……それこそアラサーとかかと思ってたよ」
「ブルータス……」
「あはは、陽とはよくお兄さんってすごい大人っぽいよね〜みたいな話してたからねぇ。まさかたったの一個上だなんて思わなかったわ」
1階にあるものほどでは無いが、多少の休憩が出来る程度の小さなカフェテリアに腰を落ち着けた3人は、『リーシャ』と『メイ』は護の顔を、護は『リーシャ』と『メイ』の顔を改めてじっくりと見て、予想外の出会いの衝撃を何とか落ち着けようとしていた。
「そういや、2人はリアルでも友人って話だもんな。そりゃ片方が居ればもう片方が居てもおかしくないか……なんでそこまで気が回らなかったかなぁ……」
「あの状況じゃしょうがないわよ。私だって話題に挙げといてなんだけどそういえばお兄さんがいるってことはあの二人もいるかも?って思い当たったのってついさっきだもの」
「あっ、そっか。……がいるって事はあの二人もいるかもしれないのか」
『リーシャ』とは違い、プレイヤーネームを呼ばずに護を呼称する術を持たない『メイ』が小声でなにかこしょこしょ言って誤魔化すという手段に出た辺りで、ようやく護と『リーシャ』は自己紹介がまだだと言うことを思い出した。
「そういや、さっき中断されたせいで自己紹介がまだだったな。俺は鷹嶺 護。冷津波第1の2年だ。よろしくな」
「あの二人と“情報屋”のおかげでカオスだったものね。改めて、私は篠原 有咲。彩女1年よ。よろしく〜」
「“情報屋”ってあの冷津波の情報屋!?うわぁ……凄い人が居たんだ……あ、僕は日向 陽です。りーちゃんと同じく彩女の1年生です。えっと、よろしく」
顔見知りどころかかなり親しいと言ってもいい仲の3人が改めて自己紹介をするというくすぐったさに、3人とも小さく笑い、それがおかしくてまた笑う。
そんな笑いのループが少しの間、カフェテリアの一角を満たしていた。
ようやく明かされるリーシャとメイのリアルネーム!この2人は結構初期から決めてあったけど出す機会がなかったので出せてよかった
地味に他校にまで名が広まるいいんちょ。最初に出てきた時についたおしゃべり好き属性をここまで発展されるとは……さすがはヒャッハーの素質を宿しし者……!
ちなみに、彩女に特に意味はありません。
なぜなら思いつかなかったから
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