第232話 『てっきりアラサーかと……』
ハッピーニューイヤーイブ!(なぜ素直に大晦日と言わないのか)
「リー、シャ……?」
「お兄、さん……?」
お土産コーナーで顔を見合わせて固まる一組の男女。
その表情はどちらも驚愕と混乱に彩られている。
「「…………!!!」」
まるでUMAでも見つけたのかと問いたくなるような驚きっぷりは、声すら上がらない程だ。
お互いに最初に絞り出した一言以外言葉を発する事が出来ず、目を真ん丸に見開いて口をパクパクとさせている。
どれほどパクパクしていただろうか、最初に落ち着きを……少なくとも言語能力を取り戻したのは、護だった。
「えっと……リーシャ、なのか……?いや、ここは現実だから『リーシャ』はおかしいのか……?」
「あ、えっと、うん。一応私がリーシャよ。一応?いや、私は私だから一応はおかしいわね?あ、ダメだ今私混乱してる。落ち着け私落ち着くんだ。えっと、それで……お兄さんは……『トーカ』、なのよね?あの、《EBO》で一緒に遊んでる」
「あ、あぁ。その『トーカ』であってるぞ」
現実でゲーム内の名前を呼び合う気恥しさを、《EBO》会館にいるからセーフ!と何とか自分を納得させて飲み込み、お互いの最も気になっている部分の確認を済ませる。
不意打ちのエンカウントに、両者共に思考がぐちゃぐちゃになっていて上手くまとまっていないようだ。
なんとか言語を取り戻したとはいえ、思考の整頓が完了した訳では無い。むしろ、下手に言葉に出来る分より混乱を深めているとすら言えるだろう。
「えーっと。え、お兄さんそれ高校の制服?よね?」
「あ、あぁ。そうだな。ここには遠足で来ててな。そう言うリー、お前も学校の制服、だよな?」
いくらゲーム内の世界観を体験出来るコンセプトの施設の中とはいえ、現実世界で明らかに普通の装いをしている少女をゲーム内の呼称で呼ぶのは躊躇われる。
そんな護の心理が現れている言い直しだった。
「えぇ、そうよ。私も高校の遠足で来てるの。他校の生徒もいるって話だったけど、まさか知り合いと会うとは思わなかったわ……その制服って冷津波の制服よね?超進学校じゃない」
「いや、違うぞ。進学校なのは冷津波第二高校の方だな。俺は第一の方だ。制服とかは第一の方が有名だからな。よく間違われるんだ」
「ぬぐっ……!私とした事がそんな一般的な間違いを……!」
「対抗心燃やすのはそこなのな……」
たった今彼女が間違えたように、護の通う高校……『冷津波第一高等学校』の生徒はよく『冷津波第二高等学校』の生徒と間違われる。
というのも、第一高校は生徒の自主性を重んじる校風で、部活動やコンテストなどの課外活動で名を馳せている。特に制服やユニフォームのデザインが良いという事で、それ目当てで進学してくる者もいるほどだ。
逆に、第二高校は他県にも名が轟く超が付く進学校で、有名国立大学への進学者も毎年両手の数では足りないほどにいるという学生なら、それどころか普通に生きていれば一度は耳にするような有名な高校なのだ。
つまり、『冷津波高校』という名前は制服の外見は第一、ネームバリューは第二、と言うようにそれぞれ別の部分で有名であり、第一高校の制服を見ている学生を見て『冷津波の生徒だ!つまり超進学校の生徒だ!』という勘違いが続出するのだ。
そういった、いわゆるあるあるな勘違いをしてしまった事に、『リーシャ』は何故か悔しさを感じている様だった。
「え、というかお兄さんって高校生だったの!?仕事に疲れたあまり母校の制服を着て在校生の遠足に混ざるやべぇ病み方してるんじゃなくて!?」
「なんだそのかなり極まった末期症状を患ってる奴は!?俺は普通に在校生だ!」
「えぇ……本当に……?最高でも2歳しか離れてないの……?嘘でしょ……?」
超訝しげな目で『リーシャ』はジトッと護を見つめる。その瞳には、『今なら黙っててあげるわよ?正直に言った方がお兄さんも楽でしょ?』という意思が込められている様に護は感じた。
「お前はそんなに俺の事を年上だと思ってたのか……?」
「えぇ。かなりしっかりしてるし、カレットとかリクルスとかの面倒を見るのがかなり堂に入ってるからお若く見えるアラサー辺りだと思ってたわ」
「アラサッ……いやいや、そんなに?というかその場合お前はリクルスとカレットの事もそのくらいだと思ってたのか……?」
「いや?あの二人は同い年くらいかなーって」
え?そんな訳ないでしょ。とでも言いたげにキョトンと首を傾げる『リーシャ』。そのまたまたご冗談を的な困ったような笑い顔が、彼女が本気でそう思っている事を雄弁に語っている。
「えぇ……そしたら俺とアイツらの関係だいぶおかしくないか……?」
「いや、ほら。それこそ生まれた時から面倒見てる近所のちびっ子的な感じなのかと。多分私お兄さんがあの二人のおしめ変えたことあるとか言っても驚かないわよ」
「その頃は俺もおしめしてたわ」
「きゃーしもねたはんたーい」
「この話振ったのお前だろ!というかせめてその感情の欠片もこもってない棒読みやめろって」
なんだかんだ、仮想世界で多くの時間を共にしてきた戦友である。最初こそ混乱したものの、そこさえ乗り越えれば後はスムーズだ。
「あはは、いやー、しかしお兄さんが高校生とはね……驚きだわ」
「そんな驚く様な事か……?」
「そうよ。だってほら、私って基本お兄さんの事『お兄さん』って呼んでるじゃない?初遭遇が初遭遇だったから最初ちょっと遠慮しててその時の呼び方の名残ってのもあるんだけど、結構年上だと思ってたからある程度の配慮のつもりだったのよ。でもここまで近いとなるとちょっとほら……なんか、キャラ付けしてるみたいというか、ちょっと痛くないかしら?」
少し気恥しそうに声を潜めながら、『リーシャ』はそう言って意味もなくキョロキョロと周囲に人がいないか確認する。
そんな、普段の彼女の印象とは違った可愛らしい反応に微笑ましい気分になる護であった。
同世代の少女の可愛らしい一面を垣間見て、微笑ましい気分になる辺りに幼馴染が彼に培わせた確かな保護者ポジションの存在を感じる。
「いや、まぁ別にいいんじゃないか?俺がどうこう言うことでもないと思うが、俺は高二でお前は高一だろ?ギリギリセーフ……じゃないか?それに、ゲーム内じゃ誰もリアルの詮索なんてしないだろうし」
「そうよね……!歳上ならこれまでの『お兄さん』呼びもギリセよね!……って、私が高一って言ってない気がするのだけど?」
「だってさっき最高でも2歳差って言ってたろ?って事は俺が高三だったら2歳差って事はお前は高一なんだなって。もしかしてサバ読んでて実は高三だったか?」
「いやいやいやいやいや!高一よ高一!まだサバ読むような歳じゃないわ!というか、そうだったらさすがにゲーム内とは言え年下を『お兄さん』呼びは私の心が羞恥で死ぬ……!」
「なんか、《EBO》の中と変わらない面白い奴だな」
オーバーリアクション気味にブンブンと首を振って否定したり、(『リーシャ』的に)最悪のパターンを想像して顔を抑えて悶えたり、《EBO》の中と変わらない見知った姿にまるで実家のような安心感を覚える護だった。
「お、今のはアレかしら。『フッ、おもしれー女』ってヤツ?もしかして私口説かれてる?」
「そういう所だな。面白い奴判定の理由は」
「ちぇー、ノリわるーい。仮にも私達って同世代の男女な訳じゃん?それでこういう恋愛的なアレ匂わせたらさ、普通は多少なりともそれっぽいリアクションあるじゃない?なのにお兄さんは全然ないから、なんかそういうところも含めて凄い年上っぽいなって思ってた訳よ」
「いやさすがに結構親しいとは言えゲーム内で出会った相手な訳だし、そんな下心満載で関わるのも失礼だろ」
「そういう風に考えてるの意外と少数派よ?《EBO》ん中でも町歩いてると結構ナンパとかされるもの」
「へー」
そう言われて、改めて目の前の少女の容姿を確認する。
ゲーム内でかなり親しい間柄として共に遊んでいるリーシャだが、確かにそう言われて改めて見るとかなり容姿は整っている方だろう。
美少女、と言うよりは美人、あるいはイケメンとでも言うようなシュッと整った顔立ちは、確かに人目を惹くには十分だろう。
「あー、確かに。結構美人だもんな、お前。納得だわ」
「うひぇ!?ほ、ほら!そうやって臆面もなく美人とか言えちゃう辺りに年齢差で恋愛対象外な相手を見てる見たいな年上の雰囲気を感じるのよ!よって勘違いしていたのは私が原因ではない!」
「いや、別にそこはなんも言ってないだろ……かなり年上に見られてたからそんなに!?とは思ったが」
護の真正面からの火の玉ストレートな褒め言葉に赤面しながら捲し立てる。
そんなわちゃわちゃした『リーシャ』の様子に、『でもやっぱり動きが付くと可愛い、って感じだな』とこれまた彼女が聞いたら可愛いモード続行しそうな事を考える護であった。
明楽という、かなり整った容姿だが言動のせいで完全に庇護対象にいる幼馴染によって鍛えられた護の美少女耐性はもはや孫を可愛がるおじいちゃんの域にまで達しつつあった。
それでいいのか男子高校生。
冷津波第一高等学校
冷津波第一高校
冷津波一高
ひやつは一
ヒャッハー
作者は外見から年齢を想像するのがめちゃくちゃ苦手です
あと、護は枯れてはいない……はずです。身近に超美人な幼馴染がいる上にそれが庇護対象に入ってるせいでなんかもう耐性値がバグってバカ高くなってる感はありますが
リーシャも美人なのは間違いないけど耐性値を突破出来なかったのと仲間としてと付き合いが長すぎてそっちに引っ張られてた感はあるね
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