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第225話 『いともたやすく行われる超高等技術』

前回に引き続き長い……!2人だけで既に2万字近い文章量だぁ……

今回はカレットもですが外野が話し込んでいました

 

「やっはー!1位だぜぃいぇい!」


 表示された最新のランキングを背にハイテンションで円形のフィールドを後にするリクルス。


「ほい、お疲れさん。凄かったじゃないか」

「おっ、サンキュー。やっぱ《EBO》ん中みてぇには行かなかったけど、めっちゃ楽しかったぜ!」


「ふぃーいい汗かいた」とでも言いたげに額の汗を拭うリクルスに、トーカが用意していたスポーツドリンクのペットボトルを投げ渡す。


「瞬くん凄いわね……!すっごいアクロバティックだったわ!」

「ふっふっふ……これが俺の実力さ!けど《EBO》ん中じゃもっとすげぇぞ!なにせファンタジーだかんな!リアルじゃ絶対無理な動きだって余裕でできらぁ!」

「ひゃー!凄いわ!見てみたいわね!」


 打てば響く様な環と話しているのは楽しいのだろう。これまでもだが、環のちょっとしたことにも素直な反応を返してくれるこの性格こそが彼女がクラス委員として上手くクラスをまとめられている理由なのだろう。

 実務は一守が、対人関係は環が担当していると言えば、この2人のクラス委員コンビは相性抜群なのだろう。

 一守の負担が大きい事に目を瞑ればだが。


「よぉーし!次は私だ!やってやるぞ!もちろん目指すは1位……リクルス越えだ!」

「へっ!やれるもんならやってみな!」

「ふっ、その余裕がいつまで持つかな……!?」


 まるで漫画のような定番のやり取りを繰り広げながら、カレットがフィールドに入っていく。


「ほん?ジョブ設定を魔道士で行く場合はこれをつけるのだな?ふむ。これは魔法のコントロールも期待できそうだぞ!」


 入口付近の注意書きパネルに引っ掛けられていた、何かしらの機器がついたチョーカーを手に取り、ご機嫌になるカレット。


 魔法の精密なコントロールは術者の思考を読み取る必要があるが、現状のARメガネだけではそこまで高精度な読み取りは難しい。なので、体験出来る魔法も《EBO》で言うオート操作の単純なものだろうと覚悟していたカレットだが、《EBO》をプレイする時に使用しているVR機器(トランス・リアル)にもあるチョーカー部分を見てもっと精密なマニュアル操作が出来ると喜んでいるのだ。


 こういう、自分の好きな分野に関わる部分だけは理解速度が半端じゃないカレットだった。


「ジョブはもちろん火の魔道士でユーザーネームはカレットだ!むん?使える魔法のリストを視界に表示し続けるか……?いらんわ!」


 物理系のジョブと違い、魔法系のジョブは発動時に魔法名を唱える必要がある。《EBO》プレイヤーならともかく、《EBO》未プレイな人向けの救済措置だろう。

 当然、火魔法を使い込んでいるカレットは一瞬の迷いも無く邪魔だと切り捨てた。


「ふぅ……はぁ……よし!いつでもかかってこい!」


 《プァーーー》


 深呼吸を一度挟み、準備万端と実態無き杖を構えるカレット。

 その杖は当然のように《EBO》内で彼女が使っている杖……『緋翠の魔杖』だった。これもストラップ特典だ。


 《ファースト ステージ!》


 今度は最初から馴染みあるカタカナ発音のアナウンスと共に、カレットを中心とした2m四方の四角形の対角線上に2体の案山子が召喚演出と共に現れる。


「【ファイアボール】【ファイアカッター】」


 ドォンッ!スパッ


 初見でさえ分かりやすい召喚演出なのだ。事前に外野から何度も確認していたカレットにとっても、やはりこの演出は狙いやすい露骨な『隙』となる。

 案山子が現れた瞬間には、カレットの放った【ファイアボール】が一体の胴体に着弾し、【ファイアカッター】がもう一体の首を刎ねる。


「ひゃー!ド派手ね!瞬くんの動きも凄かったけど魔法はまた違った迫力があるわ!」

「やっぱ動かなくていいのは魔法の強みだよね。……改めて見たけど『カレット』の魔法コントロールは凄いね。あれマニュアル操作でしょ?」

「だな。あれが『カレット』だ。単発火力や手数は本来の『カレット』には及ばなくても、コントロールだけは本人性能だからな」

「ま、動かない的ならってだけだし?的が動き出したらそうとは限らないし?」

「本当にそう思うか?」

「んな訳あるかい!!アイツが動くだけの的相手に苦戦する訳ねぇじゃん!俺なんか『縮地』も『空歩』も使えねぇから動くしかなかったのに!」


 ギャーギャー騒ぐ外野の声も、集中モードに入ったカレットの耳には届いていない。正確には、届いてはいるが意に介してはいない。


「【ファイアランス】【ファイアアロー】」


 新たに出現した2体も、それぞれ火の槍で心臓を穿ち、火の矢で喉を撃ち抜く。

 瞬殺だ。


「むん。つまらんな。もっとワクテカさせてくれ!」


 《セカンド ステージ!》


 動かない的に的確に魔法をぶち込むなど、カレットにとっては朝飯前どころがお目覚め前だ。正直半分寝ていても出来る自信があった。


 だからこそ不満なのだろう。

 リクルスは多少の縛りもあって楽しそうだった。しかし、自分には手数が足りないという縛りしかなく、その縛りも敵の数やカレットの腕前から見れば縛りにすらならないハンデ未満のものでしかない。


 故に、決めた。


「【ファイヤストーム】」


 同時に出現した4体を範囲攻撃で即座に焼き払い、生まれた瞬間には火に包まれていた案山子の事も一瞬で記憶の隅に追いやって、次のボスの出現を待つ。


 簡単過ぎるミニゲーム。


 ならば、簡単なりの楽しみ方をしよう。


 すなわち……


「大差を付けて1位!」


 これは身内との競走だ。

 もとより負けるつもりは無かったが、ここで更に決意を新たに固めたカレットであった。


「そうと決まれば()く死ね。【ファイアハンマー】【ファイアボム】【ファイアバレット】」


 殺ると決まったら一直線。

 底冷えする様な冷淡な声と共に、大案山子を絶望が襲う。


 生まれ落ちた瞬間に火の槌で殴り付けられ、倒れ伏す先には火の爆弾が用意されている。

 それに衝突し発生した爆発に吹き上げられれば、狙い済ましたように眉間に火の弾丸が撃ち込まれる。


 一瞬の内に叩き込まれた火魔法3連撃に耐えられず、大案山子は生後0.5秒でこの世から消え去った。


「えっ……怖いんだけど!?なにあのあっきー!?」

「【バレット】の弾道おかしくなかった……?案山子から当たりに行く様に吹き飛んだんだけど……もしかして全部計算尽く……?」

「あー、うん。マジモードだな。しかも怖い方の」

「明楽は何か目標決めて集中するとたまにあぁなるんだよ。カレットとしての戦闘の時はなおさら。多分あの予測撃ちは直感(本能)半分経験則(予測)半分でやってるな。サラッと精密なコンボ決めるから怖いんだよアイツ」


 普段知っている明楽とは180度ガラリと違う、恐ろしい『カレット』を目撃し、ひいっと怯えたような表情を見せる環。

 だがそれも一瞬だった、あまりの急変にビビっただけだった様だ。一瞬後には既にふんふんと護の解説に耳だけを向けてカレットのプレイに魅入っていた。

 何気にメンタル強者である。


 《ファイナル ステージ!》


「動くなら動く前に落とすまで!【ファイアボール】!」


 ファイナルステージの動くギミックをガン無視した、出現直後の超速攻攻撃が案山子の頭部に着弾し、爆炎を上げる。


 その炎の奥から現れたのは……


『ケケケケケケケッ!』

「むぅ、モーション中は無敵判定なのか」


 ケタケタと狂ったように笑う無傷の案山子の姿があった。


『ケケケケケーッ!』

 

 チリチリと空気を焦がす残り火を振り払い、案山子は狂った笑い声を上げてカレットに襲いかかる。

 まるで獣のような(わら)い声を上げながら、獲物の命を摘み取らんと両腕を振り上げ跳躍する案山子。


「ならば次からは動き出しを狙うとしよう。【ファイアランス】」

『ケケゲェェェィェァァェェッ!』


 その胴体を、火の槍が貫いた。

 自ら飛び付いた勢いがそのまま乗った【ファイアランス】が直撃した案山子はそのまま墜落し、狂笑(きょうしょう)を上げて転げ回る。

 そしてすぐに動かなくなる。


「チッ、無駄に粘ってないで死ぬなら早く死ね」


 無駄なモーションで少しタイムロスした事に不快感を覚えたカレットが底冷えする様な声で吐き捨てる。

 普段の明楽なら絶対にしないような言動に、環と一守はビクッと震え、護と駿は触らぬ神に祟りなしとばかりにノーコメントを貫いている。


「まぁいい。【ファイアウォール】」


 ほんの数瞬の間、忌々しげに案山子を睨み付けていたカレットだが、新たな召喚演出が始まると意識を切りかえて魔法を発動させる。


 新たに出現した魔法陣にまたがるように生成された火の壁は煌々と燃え盛り、魔法陣を覆い隠す。


『『ケケケケケケケ、ケケケァァァ!?』』


 そして、少しして案山子の出現後の狂笑とそのまま燃え尽きる断末魔が連続して響き渡り、次いでどさりと倒れるような音が聞こえてくる。

 新たな魔法陣が出現した事から、しっかりと討伐判定が入ったらしい。


 カレットは本来なら防御用の魔法である【ファイアウォール】を、設置型の攻撃魔法として無理やりに運用したのだ。

 生まれた場所は火の壁の中。もし案山子に自我があったのなら、生まれた瞬間から炎に巻かれ、戦うことも無く、それどころか姿すら視認されずに死に行く彼等は何を思うのか。


 その思いすらも、んなもん知らんとばかりに燃え尽きて行く。


『『『『ケケケケケケケェェェェェッ!!!』』』』


 そんな無念を抱えて先に逝った仲間の仇討ちか、やけに殺る気に満ちた狂笑が響き渡る。大案山子を含む新たな案山子達が召喚されたのだ。


「【ファイアストーム】【ファイアウェーブ】」


 が、既に攻略法は確立された。

 魔法陣を丸々飲み込む規模の火の渦が展開され、案山子が生まれた端から焼き続ける。

 加えて、カレットの足元から際限なく湧き出す炎が全方位に広がりフィールドを飲み込んでいく。発動すれば術者を起点にその属性の波を発生させて広範囲を飲み込むこの魔法は、《EBO》内では地面に沿った全方位無差別攻撃という、仲間がいる状態では使いにくい性能をしているため、カレットはこれまでほとんど使ってこなかった。


 だが、この場においては完全なソロプレイで仲間を巻き込み妨害する心配をする必要は無い。だからこそ、遠慮なくぶっぱなせたのだ。


『『『ケケケケェェェェェ……!』』』


 火の渦と火の波に飲み込まれ、新たに出現した案山子達も姿を見せる事無く断末魔の叫びを上げて焼き尽くされる。


『ケケケェアァァァァッ!』


 やはり耐久力も普通の個体よりも高いらしい大案山子が火の渦と波を突っ切って飛び出してくる。

 体の至る所がプスプスと焼け焦げて白煙を上げているが、それでも倒れずにカレットに襲いかかり、ボス格の威厳を見せつける。


 普段のカレットならば、大案山子が火の中から出てきた瞬間に【ファイアボール】でも撃ち込んで即刻お帰り願っただろう。

 だが、【ファイアストーム】と【ファイアウェーブ】によって継続的に焼き続ける状況を組みたてた事で、つまりはほぼ勝った状態まで持って行った事で多少なりとも気が緩む……正確には次に控える巨大案山子に移っていたのだろう。



 結果、被弾覚悟で無理やりふたつの魔法を突破した大案山子の接近を許してしまった。【ファイアウェーブ】による継続的なダメージ判定はあるはずだが、最初のフィールドを塗りつぶす波に比べてスリップダメージは小さい。

 すぐには倒れてくれないだろう。


 スピードアタックを目指すが故の焦りによって、らしくもないミスを犯したカレットが大案山子に再び意識を向けた瞬間には、既に大案山子はカレットの目の前で拳を振りかぶっていた。


 魔導師は接近戦に弱い。

 これは《EBO》に限らずどのゲームでも共通する基本的な事実だ。


 故に、その認識で動いている大案山子は勝利を確信してケタケタと耳障りな声でカレットを嘲笑する。


 ……が、ヒャッハーを舐め過ぎだ。


「図に乗るな木偶(でく)人形が」


 底冷えするような声と共に、ガィンッ!という鈍い音を立てて大案山子の脳天に杖が叩き付けられる。

 魔導師でありながら至近距離まで接近されたにも関わらず、ほんの一欠片の焦りも無く手首のスナップを生かして杖を叩き込んだのだ。


「近付けば無力だと思ったか?随分とおめでたい頭をしているのだな」


 地面に叩き付けられた大案山子の首筋に、ゴリッと杖の先端が突き付けられる。


『ケケ……』

「【ファイアボール】」


 ドゴンッ!


 冷たい声音から放たれる灼熱の火球が轟音を上げて大案山子の脊髄を穿つ。

 自らがやった事とはいえ目の前で爆発が起こったにも関わらず、カレットは眉一つ動かさず相変わらずの冷めた視線で倒れ伏す大案山子を見下ろしている。


 そして、完全に沈黙したのを確認するとまるで「さっさと合体しろ」と言わんばかりに大案山子を乱雑にフィールドの中心へと蹴り飛ばす。

 普段のカレットからは想像もできないような行動だが、ミニゲームの拍子抜けな難易度やらなのに楽しそうだったリクルスへの羨望やら対抗心やらその場のノリやらでハイになっているが故の行動だ。【多重詠唱】が使えないため、マジックハッピーの衝動が解放できないストレスも間違いなく原因のひとつだろう。


 《エクストラ モード!》


 カレットの催促(きたい)に応えるように、今度はしっかり聞き取れる発音で真の最終ステージが始まった。

 倒れ込んでいた案山子達が糸に引かれる様にふわりと浮かび上がる。


「【ファイアボール】【ファイアランス】【ファイアアロー】【ファイアカッター】【ファイアボム】【ファイアハンマー】【ファイアボール】【ファイアランス】【ファイアアロー】【ファイアカッター】【ファイアボム】【ファイアハンマー】【ファイアボール】【ファイアランス】【ファイアアロー】【ファイアカッター】【ファイアボム】【ファイアハンマー】【ファイアボール】【ファイアランス】【ファイアアロー】【ファイアカッター】【ファイアボム】【ファイアハンマー】」


 ……が、今のカレットはそんな既に見た演出に目を奪われるような甘ちょろい精神性はしていない。

 合体演出を行っている案山子達に注意を払いながらも『魔法を事前に発動し、その魔法をマニュアル操作で自身の付近に待機させる』事で擬似的な【多重詠唱】を行い開戦に備える。


 そんな激戦の中に生まれた僅かな間隙の間、外野は外野で盛り上がっていた。


「『カレット』はさらっとやってるけどさ、一応攻撃魔法も使う身としては卒倒しそうなくらいの超高等技術だよね?アレって」

「そりゃもう、な。それをセンスだけで難なく出来るのが『カレット』だ。ヤベェだろアイツ」

ウチの魔道士(ルルちゃん)のリベンジは遠そうだなぁ」


 自身も攻撃魔法を使うようになったからこそ【擬似多重詠唱】の凄さが分かる『リトゥーシュ』はカレットがそれを気軽に行っている事に軽く頬を引き攣らせていた。

 そんな『リトゥーシュ』の幼馴染の能力を引き気味に絶賛する発言に、護は我が事の様に嬉しそうに答える。

 そんな二人のやり取りの中で、リクルスには疑問に思う点があったようだ。


「おん?そういや『リトゥーシュ』って攻撃魔法使うのか?大会で戦った時は使わなかったよな?」

「あぁ、まさにあの試合で押し切られてから鍛え始めたんだ。護身術程度の棒術だけだとダメだって痛感したからね」

「へぇ、面白れぇ。次もその魔法ごと叩き潰してやんよ!」

「ははっ、怖いなぁ」

「全然怖がってねぇだろソレ」

「やる前から気持ちで負けてたら勝てる勝負にも勝てないからね」


 シームレスに次の話題に移行して盛り上がるリクルスとリトゥーシュを他所に、《EBO》未プレイである環はカレットの行っている【擬似多重詠唱】の凄さが良く分かっていないようで、ちょうどフリーになった護の袖を引っ張ってマモペディアで検索をかけている。


「ねぇねぇ、護くん。あっきーのアレってそんな凄いの?私よく分かんないんだけど」

「あぁ、パッと見ただ並べてるだけだもんな。うーん……そうだ」


 魔法をマニュアル操作でその場に待機させ続ける難易度をどう伝えるか少し悩んだ末にいい例を思いついたようだ。


「じゃあちょっと体験してみようか」

「へ?体験?」

「そうそう。まずは赤色のハンドボールサイズの球が頭の上に浮かんでるのを想像してみて」

「頭の上に赤い玉……」


 ふんふんと唸りながら護に言われた通りに想像する環。


「次はその右隣に同じくらいのサイズの緑の正方形のブロックを、逆隣りには赤い正三角錐を」

「緑のブロックと赤の三角錐……」


 さらにイメージを追加していく。


「じゃあここで確認。環から見て右には何がある?」

「緑の四角よね?」


 護の問題にさして苦労した様子もなく環は即答する。


「正解。それを常に意識させるのが魔法の待機だな」

「へぇ?結構簡単なのね?なのに一守くんは結構驚いてたわよね?なんでかしら」


 なまじ即答出来てしまったため【擬似多重詠唱】凄さをいまいち理解しきれなかったようだ。

 そんな環の様子を見て、護は少し意地悪な笑みを浮かべる。


「まだ3つだしな。じゃあちょっとレベルを上げるか」

「おっ!すっごい不穏な顔してる!よーし、バッチ来い!」

「3+4+7*6は?」

「えっ!?なんか方向性全然違くない!?んー、49!」


 予想外の質問に驚きながらも、しっかり暗算で答えを返す。


「正解。定価300円の商品を5%OFFで買うときに1000円札を出した時のおつりの最小枚数は?」

「小学生に戻った気分ね。えーっと、さんのごでにはこでせんだから……715円!あ、枚数か。500と200と10と5だから……5枚!」


 少し意地悪な質問に、指を折りながらも暗算で答えを出す。


「正解。44827*6389-9238*223+23の末尾の数字は?」

「44827かけ…え!?なんて!?いや分かんないわよ!問題のレベルが段違い過ぎない!?」


 急に来た逆に頭の悪い問題にさすがの環もツッコミを抑えきれなかったようだ。


「俺も正解なんてわからん。じゃあ環から見て左と真ん中には何がある?」

「え?えっと……赤い四角と球?だっけ?あれ?三角だったかしら……あ、緑だった気もしてきた」

「うん。環の頭の上で魔法が爆発したな。ご愁傷様」


 ぶっ飛んだ問題にツッコミを入れる環にようやくまともな質問をしたかと思うと、環が少し迷っただけで即座に死亡判定を下す。が、何も意地悪で即ゲームオーバーにした訳ではない。迷っている時点でそれは意識から外れていたという事であり、それは即ち魔法の暴発を意味する。

 むしろ、即答できなくてもとりあえず答えるまで待っていただけ温情があったとすらいえる。


 実際、カレットなら聞かれていない右も合わせて即答出来たことだろう。


「いやいやいや!あんなの無理だって!」

「常に存在を意識しながら戦闘を続けるのが魔法の待機だからな。維持だけに専念してたらかっこうの的だぞ?」

「むぅ、それもそうね。でもあれは意地悪だと思うわ!」

「じゃあ次はイメージだけにするか」

「お!なら余裕よ余裕!」


 勝ち申した!とばかりに自信満々な環に、ならばと護も()()()()()()で応える。


「真上に赤の四角で右に赤の星形。その上に赤い丸でその2個左隣に緑の四角。その上下に緑の星で右斜め上に緑の三角。最初のヤツの上に赤の長方形。場所は変わって背面に赤の四角と緑の長方形を3つずつと赤い星を2個。戻って最初のヤツから上に2右に3の場所の手前に赤のドーナツ。その2個左隣に緑のドーナツで穴の部分に小さい赤の四角。じゃあ緑の星の右斜め下には何がある?」

「ごめん。最初の2個左隣から頭に入ってなかったわ」


 護の質問に真顔で即ギブアップする環。護もこれはしょうがないという顔で頷きつつ、説明を続ける。


「だと思った。ちなみに、カレットなら答えられるぞ。というか、戦闘中の魔法の大量待機を実現しようと思ったらこういうのを全部把握しつつ、さっきみたいな別の事も考えられないとダメなんだ。まぁ多少勝手は違うと思うが」

「えぇ……あっきーはバケモノか……!?」

「実際、化け物じみてると思うぞ。俺にはとても真似出来ない」


 カレットが事も無げに行っている【擬似多重詠唱】がどれほどの高等技術かを身を以て理解した環が若干引き気味でステージに目を向けると、ちょうど戦闘が再開されたところだったらしい。


『オォォォォォォォンッ!』

「ハッ、的を大きくしただけで随分と嬉しそうではないか。そのまま燃えて死ね【ファイアストーム】【ファイアウェーブ】」


 ステージ内では、巨大案山子のおどろおどろしい雄叫びと、その巨大案山子を火だるまにしつつ今まで保持していた魔法を一気にぶつけているカレットの冷徹な声、そして魔法の奏でる着弾音と燃え盛る炎の音が入り乱れた、世にも恐ろしい四重奏が奏でられていた。


「ふはは!やはり大量掃射は楽しいなぁ!数は力なり!そのままでも良し、束ねても良し、やはり戦いは数こそが正義なのだよ!」


 事前にストックしておいた分に加え、今もなお増え続けている魔法をマシンガンの様に乱射し、巨大案山子を【ファイアストーム】と【ファイアウェーブ】の火の檻の中で焼き続ける。


『オォォォォォォォンッ!』


 それでも、大ボスの意地か巨大案山子も簡単に殺られてはくれない。

 自らを閉じ込める檻であり、同時に自らの命を削る死神の鎌である【ファイアストーム】すら目眩しに使い、僅かに位置をずらして火の嵐を突き抜ける。


「ふん、小賢しい!【ファイアハンマー】!」

『オォォォォッ!』


 高いノックバック性能を持つ火の槌を巨躯の利を存分に活かし、腕を振り下ろして質量差の暴力で叩き潰し、雨あられのように降り注ぐ小粒の魔法群を左腕を盾にして突き進む。


『オォォォォォォォンッ!』

「ほぉ?ただの木偶人形かと思ったが、存外根性があるでは無いか。では私も敬意を表し、全力で焼き尽くそう」


 もちろん、今まで手を抜いていたという訳では無い。

 認識をただの的から倒すべき敵に改めただけだ。


 それだけの違い。

 だが、その僅かな違いが決定的だった。


「【ファイアレーザー】」

『オォォォォ、オボァッ!?』


 駆けるために振り上げた足の、膝から足の裏へ火の光線が突き抜ける。ように火の光線が突き刺さる。

 それに続くように、待機していた無数の魔法群達が巨大案山子の足元に群がり崩れた体勢にとどめを刺す。


 当然、急に振り上げた足を焼き抉られ、さらに残された足にも連続で攻撃を受けたとなれば、まともに次の1歩を踏み込む事など出来る訳が無い。


 抵抗も虚しく体勢を崩され転倒していく巨大案山子は、それでも殺意の籠った視線をカレットから外さず……


「さらばだ。【ファイアブレス】」

『ォ……』


 灼熱の本流に飲まれて消えた。


 《パーフェクト クリア!!!!》


「むん、次は《EBO》の中に来い。私の全力(【白龍砲】)を以て一瞬で焼き尽くしてやろう」


 巨大案山子の散り際になにか思う所があったのか、カレット的に最大の賛辞を送りステージを後にする。


 ======================================



   1位:⭐カレット 【7072】ポイント



   2位:⭐リクルス 【6080】ポイント



   3位:⭐シノハラ 【5120】ポイント



    4位:こーへい 【4544】ポイント



    5位:YUUUZI 【4256】ポイント  



 ======================================


 そんなカレットの背後に表示された最新のランキングには、宣言通り2位(リクルス)に1000ポイント近い大差を付けて1位に君臨するカレットの名が刻まれていた。


普通は魔法の完全マニュアル操作なんてしません

大抵の魔導師は弾道設定だけマニュアルで後の維持はオート任せのセミオートで戦っています

戦闘中に完全マニュアル操作で無数の魔法を展開しながら舌戦まで繰り広げられる変たゲフンゲフン超人はカレットとノルシィくらいです


ちなみに、案山子達の合体演出中はカウントは止まっています。その間に戦闘準備をする賢いカレットなのでした(そこ!ズルとか言わない!ヒャッハーにそんな言葉効くわけないでしょ!)


感想&アイディアをいただけると作者は泣いて喜びます


あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します

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[一言] えげつない…えげつないわぁ(;´д`) 次はどのヒャッハーがヒャッハーするのかしr
[一言] とりあえず最大のヒャッハーが10000ぐらいのポイントを取って1位になってる予想しときます。
[一言] この感じだとリトゥーシュは4000~5000くらいですかね? 環さんも結構いいライン行きそうな予感? ・・・トーカはお土産用のストラップ借りた上で10000越え予想
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