第23話 その場の雰囲気で酔う奴
本来無くてもいい息抜き回ですが書いている内に筆が乗ったので単品として生まれ変わりました。
洞窟での狩りから3日。レベル上げ合戦で俺とカレットが2つ、リクルスが1つレベルを上げ、言い出しっぺかつ最下位になったリクルスに食事を奢らせたり(もちろんゲームの中の現地人が経営しているお店だが)、ヤケになったリクルスに洞窟でのレベル上げに付き合わされたり(無事カレットのレベルも上がりました)、メイに『洞窟蜘蛛の上質な糸』を渡してそれで防具を作ってもらえるか聞いたところ快諾してもらったり、などをしながら過ごしていた。
「なんでだよっ!なんでお前らそんなぽんぽんレベル上がんだよ!」
夜も更けてきた頃ーーとは言っても7時過ぎだがーーカウンター席でジョッキをガンッ!と豪快な音を立てながら打ち付け、愚痴っている青年が居た。その青年はカウンターにうなだれかかりながら焼き鳥を齧る、そしてグッグッグッと聞こえてきそうなほどのいい飲みっぷりでジョッキの中の液体を喉に流し込む。
「ぷはぁっ!マスターもう一杯!」
「俺はマスターじゃねぇっての」
愚痴る青年ーーリクルスが突き出したジョッキにシュワシュワと発泡する金色の液体を注いでやる。それを一気に飲み干したリクルスはまた焼き鳥を齧り愚痴りだす。
「リクルスお前食いすぎるなよ?後で夕飯食えなくなっても知らないぞ」
「そうだぞリクルス、作ってくれるおばさんの事も考えたらどうだ!」
「いや、そういうカレットも結構な量食べてるからな?」
そう言ってカレットの目の前に積まれた10枚程の皿に視線を向ける。一皿に焼き鳥5本が乗っているので既に50本はたいらげている。ちなみに5本で200トランと言うお手頃価格。
今俺達が来ているのはルガンおすすめの定食屋『泣鹿亭』だ。大通りから小道にそれた所にあり、いかにも知る人ぞ知る名店と言った趣の店だ。リクルスに最下位ペナルティとして奢ってもらったのもこのお店だったりする。
「おう、トーカしっかりやってるか?」
「あっ、大将!見習い1人置いてどこ行ってたんですか!」
「ハッハッ、わるいわるい。つい色んな所に足が伸びてな」
店の裏口から入ってきた50代程のいかにも定食屋の大将!と言った雰囲気をまとうおやっさんに、カレットの前に焼き鳥の乗った皿を置きながら声をかける。
今の状況はと言うと、リクルスとカレットがならんでカウンター席に座り、俺がカウンターの向こう側……つまり厨房に居る状態だ。
何故こうなって居るかと言うと話は二日前に遡る……程でもないので軽く説明していこう。
ルガンに多くなってきた『肉』系素材の処理の相談をする
↓
『泣鹿亭』に行くことを勧められる
↓
『泣鹿亭』の大将に気に入られて弟子入りさせられる(クエスト)
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弟子入りクエスト《料理人編》
『泣鹿亭』の大将に弟子入りし認めて貰おう!
クエストを自動受注しました
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↓
弟子入り3日目、大将が見習い置いて出かける(今ここ)
弟子入りと言ってもそんなにがんじがらめな訳ではなく、時間がある時に来て教えてもらう程度、のはずだったのだが……
何故か厨房に立たせられた挙句、お客さん(現地人やリクルス、カレット)の相手をするにまでなっている。
「まぁ、あれだ。お前さんはスジがよかったからな、普通ならこんなスグに厨房にゃ立たせねぇよ」
ガハハと豪快に笑いながら買ってきたらしき食材をしまい込んでいく大将。認めて貰えてると思っていいのか?
「マスター、俺にも焼き鳥くれ〜」
「焼き鳥は品切れだ、焼き兎で我慢しろ。そして俺はマスターじゃねぇ」
「ほぼ焼き鳥じゃねえか!うめぇ!」
鳥肉の在庫が切れたのでリクルスには焼き鳥の肉くらいの大きさにカットしたウサギ肉を焼き、タレをつけてから串に刺した物を出す。
美味そうに食べているリクルスに感化され、カレットも焼き兎をねだったのでカレットにも出してやる。
「おお!美味い!」
カレットも気に入ったのか焼き兎をもっしゃもっしゃ食べている。ゲームの中とはいえよくこんなに食べられるな……
「ん?そりぁお前さんのオリジナルか?」
「そうです。とは言っても焼き鳥の肉をウサギ肉にしただけですけどね」
「ふむ……」
俺の説明を聞きながら大将も焼き兎に手を伸ばす。そして2〜3本程食べた後、腕を組みうんうんと頷きこちらに視線を向ける。
「うめぇじゃねぇか!しかも材料は簡単に仕入れられるウサギ肉ときた!これは売れるぞ!」
大将がサムズアップして感想をくれる。確かウサギ肉は鳥肉と似た味だってどっかで聞いたから行けると思ったが思った通りだったようだ。
《弟子入りクエスト『料理人編』をクリアしました》
《経験値が加算されます》
《レベルが上昇しました》
《スキル『料理』を習得しました》
《解放条件を満たしました》
《『???の短剣』の能力が解放されます》
おぉ、一気に来たな。
多分今回の焼き兎で認められた判定になって、クエストクリアで経験値と『料理』スキルを入手。それでレベルが上がって『???の短剣』の解放条件とやらを満たした……みたいな感じかな?
そうして解放された『???の短剣』の効果はこうなっている。
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『???の短剣』
???の牙を使った短剣
この武器は?種の素材を糧とすることで強化されていく
またこの武器は使用者の実力に応じて力が解放される
【解放レベル2】
STR+50 DEX+30
物理攻撃強化 破壊不可
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解放条件の心当たりとしては今回でレベルが25になったって事かな?ステータスの増加率も上昇した上に斬撃だけでなく物理攻撃全般をカバーしてくれるとは……更に亀甲棍がメインになってくるな。せっかくの『???の短剣』だが使う日は来るのだろうか?
「トーカ、この焼き兎メニューに追加してもいいか?」
「あぁ、構いませんよ」
「「おかわり〜」」
リクルスとカレットが焼き兎のおかわりを要求し、適度にそれに答えていく。その後は酔い潰れたリクルスをログアウトさせてから店を後にする。その時に焼き兎のアイディア料の話になったが……特に思いつかなかったので大将におまかせする事にした。
夜風に当たりながらカレットと2人で細道を歩いて行く。
「ふぅ〜美味しかったな」
「よくもまぁあんなに食べられるよな」
満足そうに腹をさすっているカレットの幸せそうな声に呆れ半分で返事を返す。リクルスに言っていた割にはリクルス以上にカレットは食べていたのだが夕飯は食えるのだろうか?
ゲームの中でも空腹感や満腹感と言った物は存在し、何も食べなくても、あるいは食べすぎてもステータス的には何ら問題は無いがゲーム内で得た満腹感は現実世界に戻っても多少残り続ける。
これを利用したダイエットなども一時期流行ったが現実での食事取らずにVR内で済ましてしまう無理やりなダイエットにより病院に搬送された人が続出した、と言う問題が起こったこともあったくらいだ。この手のダイエットは規制されたが今でもやっている人が居ないとは言いきれない状況だそうだ。
「美味しいものはいっぱい食べられる、この世の真理だ!」
「なんかやだなその真理」
食べたいけど腹いっぱいとかあるだろ普通は、カレットが特殊なだけだろ。そしてこいつは食っても太らない体質のようでこいつの口からダイエットだのと言う言葉を聴いたことがない。他の女子が体重を気にしてる的な話をしている横で美味そうにお菓子を齧っているカレットに向けられた嫉妬の視線は背筋が冷たくなるものがある。心臓に悪いからやめて欲しいのだが……
「しかし『泣鹿亭』はあんなに素晴らしい店なのにプレイヤーが少ないのは何でなんだろうな?」
「まぁ、隠れた名店みたいなもんだからな……変に有名になってマナーが悪いプレイヤーが来ても大変だろうしな」
「なるほど」とカレットが頷く。その後は会話も無くただ歩いていただけだったがカレットが「あぁ、そう言えば」といった雰囲気で口を開く。
「リクルスに出していた飲み物ってなんだったのだ?未成年だから一応お酒の類は飲めなかったはずだが……」
別にゲーム内で酒を飲もうが現実の体にはアルコールは摂取されないのだが酒の味を覚えて現実でも手を出す未成年が出るかもしれない。と言う理由で未成年はゲーム内でも飲酒は出来なくなっている。
「あれか?タダのりんごサイダーだ」
「そうなのか!?でもリクルス酔っ払ってたような……」
「雰囲気酔いだろ。意外と雰囲気に流されやすい所もあるし」
「なるほど……」
その後はカレットが「洞窟で狩りしてリクルスを突き放してやろう!」とか言い出したがそれをやると本気でリクルスが拗ねかねないので流石にやめさせる。「ぶー」とか言いながらも思いとどまらせる事に成功し、やることも無いのでそのままログアウトすることにした。
ゲームの世界から現実世界に戻ってきた俺は早速夕飯の準備に取り掛かる。
あの2人の食べっぷりを見ていたら俺も焼き鳥が食べたくなってきたな。確か鳥肉はあったはずだし作ってみるか。
鶏肉を丁度いい大きさに切ってからフライパンで火を通してっと、塩コショウで味付けしたら竹串に刺していく。
タレなんかは作ってないので焼肉のタレで代用する。焼き鳥のタレとは少し違うけどこれはこれで美味しいだろ。
でも夕飯が白米、味噌汁、焼き鳥の三つじゃ少し物足りないのでポテトサラダも追加で作るか、ジャガイモが確か余ってたはずだしな。
作り終わった後は食べるだけだ。焼き鳥(タレ)を白米にワンバウンドさせてから口に運ぶ。
「美味いけど焼き鳥じゃないな、普通に焼肉の味だ」
とは言え美味い事に変わりはない、パクパク食べ進め気が付いたらもうタレ味は無くなってしまっていた。
「特にタレつけてない方も美味いな。ただちょっと味か薄いか?まぁ軽く塩振って……これでよし」
タレとはまた違った味を楽しみながら食事を終える。食べた後は後片付け、こういう基本をしっかりとしないとな。
片付けが終わったら瞬にメールを送って……『夕飯しっかりと食えよ、焼き鳥食いすぎて腹いっぱいとか言ったら……分かってるよな?』っと、送信完了。って返信はやっ!
メールを送って数秒で返信が来た、これはアイツ飯食わずに携帯いじってたな。
来たメールの内容はこちら。
『お前エスパーか!?しっかり食うよ!食いますよ!』
よし、ミッションコンプリート。これで瞬の平和は守られた(親の逆鱗に触れない的な意味で)。明楽?アイツはしっかり食べるから大丈夫だろ。
メールの内容を確認してから宿題を始める。いつもは帰ってきてスグにやるのだが……最近はスグに《EBO》をする事が多くなったからな、だからこそしっかりとやらなきゃいけないな。
どうせあの2人はやらないんだろうな……後でやっとけメール送っとくか。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




