第224話 『ついに本性を表したな!』
前回投稿より間が空いた事をまずはお詫びさせていただきます
その上で……画面横のスクロールバーをご覧下さい
……ね?異様に長いでしょう?
そういう事です(理解を求める目)
「ジョブは軽戦士で……ユーザーネームはリクルスっと。うっし!やってやるぜ『バトルシュミレーター』!」
円の中心まで意気揚々と進み、軽いストレッチで身体を解しているリクルスに、「そういえば」とステージ外から護が声をかける。
「リクルス。シュミレーターじゃなくてシミュレーターな」
「マジで!?ってか今それ言う!?」
《プァーーー》
リクルスの情けない叫びとほぼ同時に、なんとも気の抜けるブザー音を鳴らして『バトルシミュレーター』が始まった。
この『バトルシミュレーター』というミニゲームはその名の通り《EBO》の戦闘を仮体験出来るという物だ。3分間の間に出現する的を攻撃し、その数を競うランキングもあり、既に『本日のランキング』として上位五名が表示されている。
なぜ仮体験なのかと言うと、『縮地』や『空歩』のようにどうしても現実では再現出来ない能力があったり、《EBO》の中のようなステータス補正が無く素の身体能力が大きく影響するからである。
……と、コーナー説明のパネルに書いてあった。
わざわざ入れなくてもいい注釈を入れる辺り、変なところで律儀というか細かい運営であった。
《ふぁあすと すてえじ!》
「システムアナウンスがめっちゃひらがな読みみたいな発音なんだけど!?もしかしてシュミレーターって間違えてたからバカにされてる!?」
当然というかなんと言うか、リクルスの叫びに返答が返って来ることは無かった。
その代わりに現れたのは、のっぺりとしたマネキンのような見た目の案山子が2体。
リクルスを中心とした一辺2mの正方形の右上と左下に来るような位置に魔法陣が出現し、そこから召喚されたようなエフェクトを纏ってそれぞれ一体ずつ出現する。
「シャオラ!」
それと同時に魔法陣が出現した瞬間には既に走り出していたリクルスの回し蹴りが右上の位置の案山子の頭部を捉える。
ズパンッ!と、サンドバッグを全力で叩いた様な音と共に出現したばかりの案山子が吹き飛び、ごろんごろんと転がってからすうっと消滅してしまった。享年0.4秒である。
この案山子もAR映像なので本来なら音はならないはずだが、そこはしっかり音声を再生してリアリティを上げているらしい。
「ッァ!」
そのまま2歩ほどで左下の案山子の目の前まで駆け抜けると、勢いを殺さずに叩き付ける様な一撃を顔面に叩き込む。
再びズパンッ!と言う音と共に地面に叩き付けられた案山子は、先ほどの案山子と同じようにすうっと消滅する。
リクルスが目にも止まらぬ早業で2体の案山子を仕留めると、シミュレーターも負けじと即座に新しい案山子を、今度は左上と右下の位置に生成する。
「シャオラァッ!」
が、残念ながら律儀に出現エフェクトを発生させる程度にはヒャッハーを甘く見ていたらしい。
別にシミュレーターにプレイヤーを侮るとかそういった機能は無いはずだが、だとしたら一般人用の設定ではヒャッハーには遠く及ばない。
魔法陣を展開してからしゅぁんっという音や転移してくるようなエフェクトと共に出現した左上の案山子は、当然のように出現した瞬間にはリクルスの飛び蹴りの餌食となった。
スタッと着地したリクルスは生成された瞬間に吹き飛ばされた案山子には目もくれずに、今度は3歩かけて右下の案山子の目の前まで一息に駆け抜ける。
わざわざ歩数を増やしてまで位置調整をしたリクルスは、勢いもそのままに足払いをかけて案山子の体勢を崩し、倒れ込む胴体を蹴り上げ案山子を上へ吹き飛ばす。
「吹っ飛べ!高い他~界ッ!」
蹴り上げられた案山子は湿気った打ち上げ花火の様に上空で静かにこの世から去って逝った。もし案山子に感情があれば、あまりに哀れな最後に涙を零していただろう。
「うっそ!?何あの動き!?瞬くんヤバくない!?」
「いや、『リクルス』にしては動きが硬いというか、物足りないくらいだぞ!やはり瞬だな!」
「まぁ《EBO》ならステ補正もスキルもあるしな。やろうと思えば今の半分くらいの時間で行けるんじゃないか?」
「えぇ!?《EBO》の瞬くんってそんなヤバいの!?」
「そうだね。僕が戦ったのはそこそこ前だけど……その頃からもう常識外れな動きだったからね」
「なにそれこわぁい……」
現実世界の瞬しか知らない環は『リクルス』の動きに驚愕を隠せないが、逆に《EBO》の『リクルス』を知っている3人は現実ライズされた動きに物足りなさを感じているようだ。
そのギャップに改めて驚くと共に、《EBO》の魔境ぶりに背筋が冷たくなる環だった。
こんなの例外だから!普通はもっと……普通な感じだから!と突っ込む者は、残念ながらこの場にはいなかった。
そんな外野の感想など意に介さず、バトルシミュレータの戦闘は続いていく。
《SECOND STAGE》
「今度はやけに流暢だな!?」
リクルスの叫びなど当然のように無視して、無駄に超ネイティブな発音と共に新たな案山子が召喚される。今度は四方の頂点に4体同時だ。
普段の《EBO》内ではAGIに多めに振り分けたステータスや『縮地』などの移動系スキルを組み合わせて縦横無尽に動き回るのがリクルスのバトルスタイルである。
現実世界という縛りがあり、普段通りの動きが出来ない状況にもどかしさを感じているようだ。
「『縮地』が!欲しい!」
だが、そんな深い意味も無いとりあえず言っているだけの悪態をつきながらもリクルスが行動を緩めることはない。
そして、さらに追い打ちをかけるような要素がひとつ。
演出の都合なのか、ヒャッハー相手には隙を晒す行為でしかない召喚エフェクトは一向に廃止される気配がないのだ。
当然、ヒャッハーたるリクルスがそんな隙を見逃すはずがなく……
出現の予兆を頼りに右上の案山子まで一息で駆け抜けると、方向転換のついでに放った回し蹴りで出現直後の案山子(享年0.2秒)の顎を捉えて吹き飛ばし、勢いを殺さずそのまま駆け抜けて右下の案山子享年2秒の胸を蹴り砕く。
「せめて案山子に実体があれば!足場に出来んのに!」
どれだけ音や映像でリアリティを出しても、所詮は映像。現実世界の肉体に物理的な反動は返って来ない。そんな当然と言えば当然の現象も《EBO》での戦闘に慣れたリクルスにしてみればやりにくい要素なのだろう。
相変わらず本人的にも特に深い意味は無いとりあえず言っているだけの文句を言いながら、それでもしっかり適応して状況に合わせた動きをしている辺り、ヒャッハーがヒャッハーたる所以なのだろう。
右下の案山子を蹴り砕いたリクルスはやはり消滅していく案山子には目もくれずに、左下の案山子の元まで駆け抜ける。今回も歩数による絶妙なタイミングの調整を行っている様だ。
「けどまぁ!?案山子同士ならいけるよなぁ!?」
そして、先程の焼き回しのように左下の案山子に足払いをかまし、しかし倒れ込む案山子が地面に接触することは許さず、案山子の胴体を蹴り上げる。
先程との相違点があるとすれば、上空に吹き飛ばすような全力の蹴り上げでは無くリフティングのような位置調整だったことだろうか。
そうして、ちょうどいい位置まで蹴り上げた案山子の胴体を狙って鋭い蹴りが炸裂する。
「案山子を相手の案山子にシューッ!」
ズパンッ!という音と共に吹き飛んだ案山子は、狙い違わず左上の案山子と激突し大きな音を立てて塊となって吹き飛んで行く。その様はまるでボウリングのピン同士がぶつかってはじけ飛んでいく様子にとてもよく似ていた。外野から見ていた4人の頭の中ではボウリングのピン同士がぶつかり合う音が脳内再生されていたとかいないとか。
閑話休題
「超!エキサイティンッ!!!!」
ボーリングのピンどうしがぶつかり合って吹き飛ぶように、2体まとめて吹き飛ぶ案山子達。その衝撃は確かな物だったらしく、吹き飛んだ2体が同時に消滅して逝く。
現実と《EBO》の差というハンデを抱えながらも、10秒足らずでヒャッハー的小技を挟んで4体の案山子を吹き飛ばすのだから流石と言う他ない。
現実世界の瞬では、身体能力の面ではどうしても《EBO》内の『リクルス』には遠く及ばない。しかし、身体の動かし方や的の優先度の判断などの戦闘技術は十分に活かすことが出来るのだ。
流石にゲーム内には及ばないとはいえ、元から高かった身体能力に《EBO》で培った技術が加わった瞬の動きはもはや曲芸と呼べるレベルにまで到達している。
「ヒャッハーッ!ノッてきたぜッ!」
3体目と4体目の案山子を同時に消し飛ばした直後。
中央……つまり最初にリクルスが居た位置に、これまでより一回り大きな案山子が出現した。
……が、やはり出現エフェクトがここでも足を引っ張った。
なにせ、明らかにボス格な大案山子が出現とほぼ同時に無駄にアクロバティックな動きで飛び上がったリクルスのかかと落としによって首をもぎ取られてしまったのだから。
もぎ取られたのか、あるいは引きちぎられたのか、どちらの表現が正しいのかは傍から見ていた護達には分からなかったが、某菓子パン男よろしく新しい顔に案山子の古い顔が弾き飛ばされた事だけは確かだ。
まぁ、その新しい顔は止まることなく過ぎ去ったが。
出現と同時にかかと落としで地面に叩き付けられた大案山子ヘッドは、だぱんっ!と重たい音を立ててゴム毬の様に跳ね返り……
「なぜ蹴るかって!?そこに案山子の頭があるからさッ!」
そこがヒャッハーの目の前だったのが運の尽き。
大案山子の頭部は、この場にサッカー部がいれば即座にスカウトする様な惚れ惚れする美しいフォームで思いっ切り蹴り飛ばされた。
大案山子の胴体に吸い込まれる様に突き刺さった頭部は、凄まじい音と共に胴体を吹き飛ばし、自身も明後日の方向へ弾け飛んで行った。
ポジション的にはボス格だったであろう大案山子は、出現してすぐに蹴りとは威力が段違いなかかと落としで首をもぎ取られ、それをシュートされる連続コンボで即座にこの世を去る事となった。
ボス格なのに他の案山子と変わらず瞬殺された大案山子の頭部が、目など無いはずなのに涙を流していたように見えたのは気のせいだろう。
なお、下手人であるリクルスは全く気付いていなかった。
「ひゃー!えげつないことするわねぇ!瞬くんの動きヤバいわー!」
「ステ不足を小技で補うか……いや、アイツがそんな事考える訳ねぇか。やりたいようにやってるだけだろうな」
「なに、それがアイツの良いところだ!やりたい様にやって全力で楽しむ!それが私達だろう!」
「それで結果が出るのが君たちの凄いところだよね……」
《ファイナルステージ!》
「おっ!ようやく聞き馴染みのあるカタカナ発音!……って、あ?一体だけ?」
ファイナルステージと言いながら、出現した案山子はたったの一体だけ。これまでで最も数が少ない。位置こそ5m前方と距離が空いているが、それだけだ。
拍子抜けも良いところだろう。
「なんだ……?無限サンドバッグって事か……?」
訝しげにしながらも、とりあえずそこに居るなら蹴り飛ばそうとリクルスが踏み込んだ瞬間。
『ケタッ、ケタケタケタケタケタケタケタッ!』
狂ったような笑い声のようなものを響かせながら、案山子の体が震え始める。
「うぇ!?」
あまりの気味の悪さと謎の現象に、踏み込んでいた勢いを無理やりに殺して後退し、頬を引き攣らせながら様子見の姿勢を取るリクルス。
『ケケケケケケケケケケケケケケ!』
警戒するリクルスの事などまるで意に介さずに、壊れたように笑い続ける案山子の胸部からドクンッ!と力強い鼓動を響かせ、ひし形の赤い宝石が姿を現す。
怪しい光を明滅させるソレはまるで、ゴーレムの核のようで……しかしリクルスの知識にあるどのゴーレムよりも不気味だった。
『ケケケケケァーッ!』
あながち、その考えも間違っていなかった様だ。
いつの間にか、マネキンのようにのっぺりとしていたはずの頭部に狂ったような笑みを貼り付けた案山子が一際大きな叫び声を響かせながらリクルスに襲いかかる。
今まで身動きひとつしなかった案山子が急に動き出し、狂ったような笑みを浮かべながら襲いかかってくるという、小さい子ならトラウマにもなりかねないホラー現象に遭遇したリクルスはと言うと……
「あ、なに?そっちから来てくれんの?助かるわ」
『ケブラバァ!?』
ズパンッ!
そんな恐怖現象など全く意に介さず、案山子の顔面にカウンターの回し蹴りを叩き込んでいた。
向こうから突っ込んできていた分、これまでよりもダメージは大きそうだ。
『ケ、ケケェ……』
顔面へのカウンターを受けて吹っ飛んだ案山子は、ピクピクと痙攣し、息も絶え絶えながら弱々しい声を上げると、それっきり動きを止める。
どうやら死に絶えたらしい。元から生きてないが。
「なるなる。ファイナルステージは的が動くのか。やっと楽しくなって来たなぁ!」
なお、吹き飛ばした張本人であるリクルスはと言うと、哀れな散り様を見せた案山子を全く見ていなかった。
なにせ、案山子を吹き飛ばした瞬間……つまりは、システム的に案山子の討伐が測定された瞬間に、今度は2匹の案山子が出現していたからだ。
『『ケケケケケケッ!』』
新たな2匹も胸部にひし形の核を持ち、同じく狂ったような笑みを貼り付けリクルスに襲いかかる。
……が、動きは酷く単調だ。
誰でも体験出来るミニゲームだからだろうか。外見こそおぞましいが、案山子の動き自体は冷静になって見てみれば簡単に対処出来るレベルでしかない。
それでも、全く経験が無いものに取っては動く敵が襲ってくるだけで大きな緊張となって動きを鈍らせるのだろう。
「向こうから来てくれんなら!」
『ケブァ!?』
だが、残念ながら今この場に立っているのは戦闘慣れしたヒャッハー。そんな初心者も視野に入れた虚仮威しに頼った単調な動きの相手など向こうからやってくるだけの的に過ぎない。
襲ってくる案山子の片方に自ら出迎えるように駆け出すと、すれ違いざまに地面に叩き付けるような角度の拳を顔面に叩き込む。
『ケケェッ!』
「楽で良いよなぁ!?」
『ケェ!?ケァブルファッ!?』
その隙に背後にまで迫って来ていた案山子が、仲間の仇とばかりに繰り出したダブルスレッジハンマーを難無く避けると、両腕を振り切った事で下がった頭部を掴み、容赦なく膝蹴りをぶち込む。
『『『『ケケケケケケェェェェェッ!!』』』』
「まだまだ湧くのか!最高じゃねぇか!」
2体の案山子が沈黙すると、すぐに新たな案山子が4体出現する。
例によって胸部にひし形の赤い宝石が埋め込まれており、さらには4体のうち一体は他の案山子よりも一回り大きく、埋め込まれている宝石の色もより深い赤に染まっている。
そう、《SECOND STAGE》(流暢な発音)において瞬殺されたボスである大案山子も《ファイナルステージ》(馴染み深いカタカナ発音)において動くようになって再登場したのだ。
これまでのただの的だった案山子と違い、単調とはいえ動く案山子……それも明らかに強そうな大案山子も含めた複数体を相手に、新しいおもちゃを買ってもらった子供のような楽しげな笑みを浮かべるリクルス。
案山子達の狂ったような笑みと、今のリクルスの好戦的な笑み。
どちらが怖いかと言われると、僅差で後者が勝つだろう。
「っしゃ!オラァッ!かかってこいや!」
拳を打ち鳴らし、心底楽しそうに襲い来る案山子を迎え撃つリクルス。
4体の案山子に群がられてなお、『ケブァッ!』リクルスは好戦的な笑みを消さず、『ケケケェバブァ!』ここが現実世界である事を忘れてしまうような『ゲブラバァ!?』ド派手な動きで暴れ回る。
案山子達は数の利を活かし、リクルスを囲んで叩こうとしていたが、ものの見事にカウンターを返されてすぐに3体のノーマル案山子達が物言わぬ骸と成り果てた。
そして……
「ラッ、スッ、トォォォォォッ!」
『ケッ、ブッ、ラァァァァァッ!?』
大して間も開けず、最後に残った大案山子もリクルスの拳の前に崩れ落ちる事となった。しかも、まるで最後まで生き残ってしまった不運こそが最大の罪であるとでも言うかのような過剰攻撃で、だ。
足の踏み付けで吹き飛ぶ事を封じられ、腹パンで前屈みにさせられた上にアッパーカットをぶちかまされると言う地獄の3段攻撃と言う慈悲も容赦も欠片も無い連撃を食らった大案山子は、またしてもろくな見せ場もなく後ろにドサリと倒れ込んだ。
「フゥゥゥゥゥ……もう終わりか?」
今までの案山子はそのウェーブの個体が全て倒されると即座に次の案山子が出現していたが、今回はそれがない。ならばどこかに生き残りがいるのかと言うと、それもない。
大案山子を含めた全ての案山子が物言わぬ骸として地面に突っ伏している。
「おん?今回の的は消えねぇのな。ファイナルステージだからか?」
と、そこで初めてリクルスは案山子が消滅していない事に気付いた。今までは殺られた案山子になんぞ微塵も興味を示さなかったリクルスはここに至るまで全く気付いていなかったのだ。
そして、《ファイナルステージ》でボス格である大案山子を含めて全ての案山子を倒し、増援もない。
それが意味するところはただ1つ。
「アイム、ウイィィィンッ!」
最初の1体。次に出て来た2体。そしてたった今倒した4体の計7体の案山子が倒れ伏すフィールド内で、勝利の雄叫びと共にリクルスは拳を突き上げた。
……が、そうは問屋が卸さない。
《繧ィ繧ッ繧ケ繝医Λ繧ケ繝�繝シ繧ク》
「えっ!?なんて!?」
もはや微塵も聞き取れない謎のアナウンスと共に、地面に倒れ伏した案山子の亡骸達がカタカタと震え始める。
それと同時に、ゆらり……と、吊るされるように浮かび上がる7体の案山子達。
それら全てが、糸で引かれるようなぶらぶらとした動きで大案山子を中心に1箇所に集まり、まるで粘土のようにぐにゃりと歪み混ざり合う。
やがてそれらは再び人の姿を象り始める。
大案山子をさらに2回り以上も大きくしたような巨大案山子は、赤と言うよりはもはや黒に近いほどに濃く染った宝石を怪しく光らせ、優に3mを超える巨体を震わせながらリクルスを睨み付ける。
『オォォォォォォォォォォォォン!!!!』
そして、地獄の底から響くようなおどろおどろしい咆哮を張り上げる。そこに恨みのような敵意が込められているのは、決して錯覚ではないだろう。
「へぇ!?おかわりたぁ気が利くじゃねぇか!」
普通なら3m超えのおどろおどろしい巨人に敵意全開の咆哮を浴びせられたら多少なりとも恐怖を覚えるはずだが、ヒャッハーにそんな常識は通用しない。
さらに言うなら、既に巨大な人型の敵はロッ君で目からハイライトが消えるほど相手をしている。
虚仮威しだけの動きが単調な巨大案山子など、リクルスにとってはただ的が大きくなっただけに過ぎないのだ。
『オォォォォォォッ!』
「鈍れぇ鈍れぇ!」
『オォォォンッ!』
リクルスは巨大案山子の拳をあえて紙一重で回避すると、体を捻った斜め軸の回し蹴りで巨大案山子の拳を打ち据える。
ピシリ、と巨大案山子の宝石に小さなヒビが入った……が、それだけだ。この巨大案山子はこれまでの案山子に比べて特段タフらしい。
「楽しくなって来たじゃねぇか!」
『オォォォォォォォォォォォォ!!!』
拳を回避し、カウンターを叩き込む。
行動パターンもバリエーションはあれど拳を使った攻撃のみなので、基本的にはこの作業の繰り返しだ。
とはいえ、巨大案山子の動きはお世辞にも速いとは言えないが、本当の『リクルス』ならいざ知らず現実ライズされたリクルスでは巨大案山子の巨躯から繰り出される拳はそれだけで十分に脅威となる。
物理的な影響は及ぼせないため攻撃に当たるとどうなるかは分からないが、『当たらなければどうということはない』を信条にしているリクルスにとっては巨大案山子攻撃の効果は関係無い。攻撃を受けるという事自体が許容出来ないので巨大案山子の攻撃は全て(リクルスのプライド的に)一撃必殺となっているのだ。
そんな必要のない縛りプレイを己に課しながらも、戦況は環目に見ても分かるほどにリクルス優勢に進んでいた。
なにせ、リクルスの攻撃は一度に複数回入るのに対し、巨大案山子の攻撃は全て紙一重で回避されている上にリクルスのカウンター率は脅威の150%を記録している。毎回カウンターしつつ2回に1回は2発叩き込んでいる計算だ。
『オォォ……オ、オォォォ……!』
「おいおい!まだまだ全然遊んでねぇぞ!?もっと根性見せろよ!」
赤黒い宝石にバッキバキのヒビが入り、明らかに動きが鈍っている巨大案山子と、時間が経つほどにテンションと比例して動きのキレが増していくリクルスではもはや勝負になっていない。
「けっ、もう終わりか!んじゃまぁ……」
動きが緩慢になり、もうこれ以上粘っても楽しくならないと判断したリクルスは巨大案山子のスネを思いっ切り蹴り抜く。
「最後は!」
『オブォバァ!』
案山子にも痛覚はあるのか、あるいは動き出した事で発現したのかは分からないが、弁慶の泣き所を強打するのはさすがに応えたようで、巨大案山子の体勢が前屈みに崩れる。
その瞬間を逃さず、リクルスは巨大案山子の頭部をガッシリと掴んで全力の膝蹴りを叩き込む。
「ド派手に!」
『オ゛ォ゛ォ゛ァ゛ッ゛!』
逃げられないようにしっかりと固定しつつ、膝蹴りが直撃する瞬間にあえて頭のホールドを緩める事で、巨大案山子の巨体が思いっ切り仰け反る。
それはつまり、リクルスの目の前に無防備な宝石を晒すということに他ならない。
「砕け散れッ!」
見るも無残にヒビが入り、ただでさえ今にも崩れ落ちそうな赤黒い宝石にトドメとばかりに全力の回し蹴りが叩き込まれる。
その蹴りは宣言通り巨大案山子の核をバッキバキに砕き尽くし……
『オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア ア ア ァ ァ ぁ……』
命の源である核を砕かれた巨大案山子は地獄の底から響くような雄叫びを上げてボロボロと崩れ落ちて逝った。
「今度こそ……アイム、ウイィィィンッ!」
《パーフェクト クリア!!!!》
拳を突き上げ、2度目の勝鬨を上げるリクルスを祝福するようにパァンパァン!とクラッカーの弾ける音とクリアを知らせるファンファーレが鳴り響く。
「しゃい!パーフェクトクリア!よく分かんねぇけどパーフェクトなんだから普通のクリアよりすげぇんだろ!」
全力で運動した後の心地よい疲労感と高揚するテンションのふたつに包まれて楽しそうに、そして嬉しそうにそう言うリクルスの言葉を肯定するように、アナウンスが鳴り響く。
《ランキングが更新されました!》
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1位:⭐リクルス 【6080】ポイント
2位:⭐シノハラ 【5120】ポイント
3位:こーへい 【4544】ポイント
4位:YUUUZI 【4256】ポイント
5位:リンゴは無いの?【4032】ポイント
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更新されたランキングの最上部にリクルスの名前がしっかりと刻まれていた。
巨大案山子……お前いきなり無から湧きやがって……合体とかするなら事前に言えよ……
本来なら動く案山子のファイナルステージまでだったはずなのに、なんで知らないステージが増えたんでしょうね?
ちなみに、ランキングの名前の横に『⭐』が付いているのは巨大案山子を倒した証です
巨大案山子は1分以内にファイナルステージを突破した猛者の前にのみ現れるのです……
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あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します




