第223話 『非現実を身に纏う』
この章以降のアイディアがぽんぽん浮かんで来てそれまとめるのだけでも執筆時間が削られる……
まぁ元々執筆ペースが不安定過ぎて影響なんかほとんど無いんですけどね!
それは紛うことなき『カレット』の姿だった。
初心者用のローブをそれっぽいカラーリングで再現したというレベルでは無い。見覚えの有りすぎる緋翠のローブを身に纏い、緋色の髪をたなびかせる緋色の瞳の明楽は、360°どこから見ても完全完璧に『カレット』だった。
「とあるウィンドウにアカウント連携という部分があってな!連携してみたらなんと《EBO》で使っている装備のコスプレが出来るようになったのだ!」
「やっぱりか。それにしてもここまで完璧に『カレット』だとついつい《EBO》の中と錯覚しそうだな」
「俺なんかもう半分くらい訳わかんなくなってるぜ……!ってなわけで俺もアカウント連携を!」
「あいや待たれい!」
早速自分もアカウント連携をしようとした瞬を、カレットが妙に時代劇がかった言い回しで止める。
「なんだよ、俺も早くやりてぇんだけど」
「チッチッチ……まだ私のお披露目は終わっていないぞ!これを見よ!」
そう言ってカレットが懐から取り出したのは、手のひらサイズのとても見覚えのある杖……カレットの使っている『緋翠の魔杖』のストラップだ。
「ん?あれってお土産コーナーで売ってるストラップよね?あっきー買ったんだ」
「うむ!もちろんだ!何せ私の装備だからな!」
「えぇぇ!?あっきーの!?え!?どういう事!?」
「後で(護が)説明する!改めて、刮目せよ!」
説明を護にぶん投げたカレットがばーんと効果音が付きそうな勢いで『緋翠の魔杖』を掲げると、みるみるうちに大きくなり、本物と変わらないサイズにまで変化した。
当然ARによる演出だが、それでもインパクトは十分だ。
「おぉぉぉ!?でっかくなった!?」
「なんとだ!このストラップに付いているQRコードを読み取るとコスプレメニューに大会優勝のコスプレが追加されるのだ!まぁ私はアカウント連携した自前のだがな!装備も見た目もそして武器も!全ての要素が揃って私はカレット完全体となったのだ!!!!」
自分の完全再現にテンションが限界突破した明楽はビシッと杖を構え、心底楽しそうにポージングを決めている。
「へぇーこれが《EBO》でのあっきー……カレットなのね。ド派手に真っ赤っかね!コスプレだけならストラップ特典で出来るのにわざわざ自前のを使う辺りもあっきーらしいわ!」
「うむ!戦闘スタイルは見て分かるように魔道士だぞ!もちろん使う魔法は火魔法だ!」
「火魔法!いかにもあっきーって感じでいいと思うわ!」
「そうだろう!そうだろう!お前も燃やしてやろうかー!」
「きゃー!燃やされるー!」
きゃいきゃいと盛り上がる2人を見て我慢出来なくなったのか、残りの3人も早速アカウントを連携し、自身の≪EBO≫での装備のコスプレを始める。
自分のコスプレという何とも奇怪な行為ではあるが、次元の壁に阻まれたもう一人の自分との邂逅だ。ワクワクしない訳がない。
「おぉ完全に俺だ!!やっぱいつもの装備だと俄然《EBO》感が増すな!」
「デフォルトの初期装備よりは、やっぱり馴染みある衣装の方がしっくりくるな。……俺も白銀ノ戦棍のストラップ買ってくるか……?」
「あぁ……やっぱり『トーカ』なんだね……エンランに来ただけじゃなくて『トーカ』と会ったって言ったら妹が騒ぎそうだなぁ」
防御を完全に捨て、動きやすさとかっこよさに全リソースを注ぎ込んだ、当たらなければどうということは無いを体現した様な『リクルス』の装備を身に着け、その姿を姿見で確認してはしゃいでいる瞬。
白銀を基調に紫紺の紋様があしらわれた、ロマンいっぱい夢いっぱいな陰陽師風の『トーカ』の装備を身に着け、ここまで来たら完全再現したいと自分の武器のストラップの購入を検討している護。
初期装備の神官服を基調に、より洗練された神々しさと実用性を兼ね備えた白と青の神官服という『リトゥーシュ』の装備を身に着け、しかしそれよりも護が本当にトーカだったことに帰宅後の妹の反応に今から気が重くなっている一守。
それぞれが、髪と目の色も合わせて完全に《EBO》での姿を再現していた。それこそ、本当に≪EBO≫の中に入り込んだような光景だ。
「おぉー!」
当然といえば当然だが、この場において1番いい反応をするのは初見かつ《EBO》未プレイの環だった。
「この防具の常識に喧嘩を売ってる様な防御要素ゼロの服は瞬くんね!攻撃を当てれば倒せるけどそもそも当たらないみたいな気配がするわ!倒すなら広範囲爆撃ね!んで、このキラキラしてて綺麗でかっこいい和風の服は護くんかぁ!陰陽師って言うのかな?後ろからめちゃくちゃ凄いサポートしてくれたりハァッ!とか言って悪霊祓ってそう!そんでもってこのザ・神官!って感じのが一守くん!?凄くぽいわ!ぽすぎてもうぽすぽすよ!」
慣れていないファンタジーの大量摂取でテンションがおかしいくらいに跳ね上がった環はカレットも含めて4人の装備を全身くまなく舐め回すように見まくる。
若干語彙もおかしくなっている。
「はぇー、すっごいわ。知らない人みたい……!」
「いいんちょ本当に《EBO》未経験か!?発想がえらく物騒だぞ!?」
「環の中の陰陽師のイメージはそれなのか。サポートはするけどハァッ!は出来ないなぁ」
「ぽすぽす……?ぽすぽすってなんだ……?」
級友のもうひとつの顔を垣間見て際限なく上がっている環のテンションに引っ張られる様にカレットやリクルスのテンションもぐんぐんと上昇していく。
全身全霊で『楽しい』を謳歌している。
そんな姿を見せられては保護者のような立ち位置にいる2人もテンションが上がらない訳が無い。
運良くこのブースには他の人がいなかった事もあり、しばらくは様々なポージングでの撮影会が行われたり、環が着せ替え人形にされたりなど全力で非日常を楽しむ一行であった。
◇◇◇◇◇
しばらくコスプレで遊び倒していた一行だったが、別のお客さんが入って来たため続行する訳にもいかずコスプレ大会はお開きとなった。
とは言っても、あのブースで遊ぶのがお開きになっただけでもこの体験コーナーではコスプレ姿はしっかりと継続中だが。
「ふぃー、遊んだ遊んだ。コスプレだけでもかなり盛り上がったわね」
「コスプレブースに入ったら高校生5人がハイテンションで騒いでる光景を見せ付けられる事になったあのお客さんには悪い事をしちまったな……」
「めちゃくちゃびっくりした顔してたよなぁ」
「むしろ直前まで限界まで頭悪そうなはしゃぎ方してた人達が急に冷静になって謝りながら出て行く光景の方が怖かったのではないか?トーカもリトゥーシュも人が入ってきた瞬間スンっと真面目な顔になってびっくりしたぞ」
「どんなに楽しくても公共施設だからね。しっかりする時はしっかりしないと」
ぞろぞろとコスプレ姿で体験コーナーを練り歩く一行。
周りを見れば、同じようにコスプレをしている人。コスプレをしていない人。そもそもARメガネをかけていない人など、一口にお客さんと言っても様々なパターンに分かれていた。
コスプレをしている人は分からないが、コスプレをしていない人の中にはちらほらと同じ学校の生徒や他校の生徒の姿も見える。
もしかしたら、コスプレをしている人達の中にも同じ学校の生徒などがいるかもしれない。
……が、気付ける自信は護を含め誰にもなかった。
何せ、服装と髪と目の色、そして環境が違えば顔形が同じでも意外と気付かないという事は身を以て理解しているからだ。
もちろんARメガネを外せばコスプレをしていようが判別出来るが、別に判別がしたい訳でも無いし。そんな事をする理由が無い。
明日以降、しばらくの間はここでコスプレをしていたか、してたらどんなコスプレをしたかが教室内の話題を独占する事になり、その中で今の護達を見かけたという話も上がったりしたのだが……それはまた別のお話。
「ってな訳で次はミニゲームコーナーだ!実はいっこパンフで見てからどうしてもやりたいのがあったんだよな!」
と、瞬が言うので、まずはそのミニゲームを楽しもうという事になり、一行はリクルスが先導して件のミニゲームコーナーに向かう。
向かった先は、ロープで区切られた直径10m程の円形のフィールドがいくつか並ぶコーナーだった。
既に他のブースには何組か入っていたが、ちょうどよく空きが出来たようだ。
「お、空いてる!ってな訳で俺がやりたかったのはコレ!『バトルシュミレーター』!」
「バトルシュミレーター?」
「そう!《EBO》での戦闘を疑似体験出来るシュミレーションゲーム!スコアのランキングもあるって聞いて楽しみにしてたんだぜぃ!」
やってみた方が早いよな!俺も初めてだけど!と言いながら、リクルスが円形のフィールドの中に入って行く。
「あ、忘れるところだった!これ持っててくれ!」
「おう……って制服か。そういや上から映像重ねてるだけで本質的には制服着たままだったな」
瞬はブレザーやネクタイなどを護に預けると、ワイシャツの第1ボタンを外し、窮屈さに凝り固まった首を解すように二〜三回ほど回す。瞬……リクルスは自身の首から鳴るゴキゴキッという小気味良い音に気持ちが昂るのを感じていた。
ARコスプレのレベルが高くすっかり忘れていたが、彼らが本当に身に着けている服装はあくまで制服であり、間違っても動きやすい服装とは言えない。
瞬はそれを忘れる事無く、しっかりと動きやすくなるように服装を整えたのだ。
あるいは、瞬からリクルスへと意識を切り替えた。
ぐっ、ぐっ、と軽いストレッチで体をほぐしながら、リクルスは円の中心まで進んで行く。
「正直、これが1番楽しみだったまであるぜ!」
そう言うリクルスの顔には、確かにこの日1番の笑みが浮かんでいた。
次回からヒャッハーがヒャッハーしだすぞ!
ここが環がヒャッハーに堕ちるか否かの分水嶺だ!
ちなみに、人物名表記で現実世界《EBO》と現実世界に《EBO》のルビが振ってあるパターンが入り乱れているのは、コスプレ効果による意識の錯覚の表現です(決して表記をどうするかの管理が面倒だったとかではありませんので悪しからず)
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