第217話 『身内ネタは諸刃の剣』
結構時間が空いてしまってすいません
忙しいのと何故か筆が乗らないダブルパンチでここまで遅れてしまいました
まぁ筆が乗ったら乗ったでキャラが自立行動するんですけどね!
「ところでさ、最初にあのストラップ見つけて絶叫してた2人ももしかして《EBO》やってたり……?」
なんとも言えない気恥しさを紛らわすようにフードメニューに手を付け、その再現度の高さに感激しつつ舌鼓を打っているうちに普段の調子が出てきたようだ。
二人の間に漂っていた先程までの気まずいような気恥しいような雰囲気は既に消えている。
焼き鳥を食べ切って一息ついてから、一守がチラリと隣の席を盗み見ながら尋ねる。
視線の先には、美味しそうにMPポーション(風のドリンク)を飲んでいる明楽と焼き鳥を両手に持って頬張っている瞬の姿がある。
「あぁ、そうだな。明楽がカレットで瞬がリクルスだな」
「やっぱりかぁ……言われてみれば同じ顔だなぁ。髪と目の色と服装と状況が違うだけで全然気付かないものだね」
「だな。俺もあの2人のお守りみたいなことしてて結構観察力はあると思ってたんだが、全然気づかなかった。そもそも同じクラスにゲーム内の大会で戦った奴がいるとか思わないもんなぁ」
最初こそゲーム内と現実世界でのギャップにぎこちない雰囲気だったが、慣れてしまえばどうということは無い。元から級友という事もあり、相手が《EBO》で戦った相手と知ってもその接し方に特に大きな変化は無い。
「リクルスかぁ……大会ではガンガン攻められて普段通りの戦い方させて貰えなかったなぁ」
「ははは、それをさせない戦法だったからな」
「あとうちの魔道士が打倒カレット!って燃えてたよ。有利属性で押し負けたのが後から悔しかったみたいで」
「カレットのあれはもうな……。アイツもアイツで打倒ノルシィって若干引くレベルで火魔法と風魔法を鍛えてるからな。装備の補正もあるとは言えかなりヤバいぞアレは」
驚きも過ぎれば、後に残るのは同じゲームをやりこんでいる仲間を現実でも見つけられた喜びだ。
2人の共通の《EBO》の話題となると、一守にとっては苦い思い出だろう大会での戦闘になるが、それでも楽しそうに話していた。
「「呼ばれた気がする!」」
これも一種のカクテルパーティー効果なのだろうか、こちらの話など全く意識していなかったはずの瞬と明楽が、《EBO》の中の自分の名前に反応していた。
「あー。うん。話題には上がったが気にするな」
「なんだとぉ!?」
「1番気になるヤツじゃねぇかソレ!」
「なになに〜なんの話題?」
幼馴染組がじゃれていると、フードメニューを取りに行っていた環が帰って来たようだ。
トレイの上に乗せられているのは安っぽいプラカップに入ったビールっぽい見た目のリンゴサイダーと、これまた安っぽいプラスチックの深皿に盛られたポップコーン。
再現元は第3の町【ララララ】の闘技場で販売されている観戦時の軽食だろうか。安っぽさまで含めて完璧と言っていい程の再現度だ。
「見て見てこれ!観戦セットだって!何を観戦するのか知らないけどこれで300円って安くない?」
「うわぁ、そこまで正確に再現されてるのかよ……すげぇな」
「と、言うことはもしかして……!?」
とことんこだわった再現に呆れ半分関心半分と言った様子の瞬と、何を思い付いたのかレシートを確認している明楽。
「やはりか!この焼き鳥もポーションも向こうと同じだぞ!」
「そこまでこだわってるのか……全部自社内で完結してるから出来るネタ極振りの価格設定だな」
「あはは、さすがだね。ネタに全力なのはあの運営らしいっちゃらしいや」
どうやら、これまでに注文した焼き鳥とMPポーション(風ドリンク)も《EBO》内と同じ価格設定になっているらしい。
護と一守も半笑いでそのレシートを覗き込む。すると、レシートの¥マーク部分が《EBO》内の通貨であるトランを表すマークになっていた。
こんな所にまでこだわっているらしい。
「およ?その反応……もしかして、4人とも《EBO》をやっていらっしゃる?」
訳知り顔な4人の様子に、この場で唯一《EBO》プレイヤーでは無い環は何かを感じ取ったのか首を傾げている。
「いかにも!私と護と瞬は《EBO》のプレイヤーだ!」
「隠してた訳じゃねぇけど自分から言う程の事でもねぇしな……って4人?もしかして一守も……?」
意気揚々と頷く明楽に続いた瞬は環の「4人」という言葉に引っ掛かりを覚えたらしい。
一守本人の言動で察するのではなく、それから察した環の言葉で察するあたり鋭いのか鋭くないのか。
少なくとも、今この言葉を聞いて「なにぃ!?」とこてこてな驚愕のリアクションと共に一守を凝視している明楽よりは察しがいい事は明らかだろう。
「うん。僕は護から一足先に聞いてたからついさっきから知ってたけど、一応僕も2人と同じプレイヤーだよ」
「マジかぁ……こんな近くにプレイヤー仲間がいるとは……なんで言ってくれなかったんだ?」
「いや、僕だって3人がプレイヤーって知ったのはついさっきだし。瞬も言ってたように隠す程の事じゃないけど自分から言って回る事でもないし……」
「あぁ!それでさっき私達の話題が上がっていたのか!ぬ?という事は私達のプレイヤーネームは知られているのでは?」
「なんだって!?そいつぁ不公平だなぁ一守ぃ!当然教えてくれるよな……?」
「そんなチンピラみたいに言わなくたって別に隠してないって。護には言う前からバレたけど……うん。あれは怖かった」
「いや、すまんな。俺としても違って欲しかったんだが……」
「あはは、別に気にしてないよ。それで、僕の向こうの名前だよね。リトゥーシュだよ。よろしくね、リクルス、カレット」
「「リトゥーシュゥゥ!?「うるせぇ」むぐぐぐ!!!」」
「ぷはぁ!いやいや、これは驚いてもしょうがねぇだろ!リトゥーシュってマジであのリトゥーシュ?硫黄の?」
「よく覚えているぞ!あの水魔道士は強かった……!」
「うん。そのリトゥーシュであってるよ。特にカレットうちのルルがいつかリベンジしたいってよく言ってるからね」
「ほぉ!リベンジか……!受けて立とうではないか!焼き尽くしてくれるわ!」
「なぁなぁ、俺は俺は?」
「リクルスは……特に無いかな?相手してたのも僕だし」
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!」
わいのわいの、やいのやいのと身内ネタで盛り上がる《EBO》勢を、むすうっとしたジト目でつまらなそうに眺める人影が……とぼかされたが、その正体は推測するまでもなくこの会話の切っ掛けとなり現在進行形でおいてけぼりを食らっている環だ。
「ぶ〜、なんか疎外感感じる〜」
そう呟く環は、全然分からない身内ネタで盛り上がる護達へ恨みがましい視線を向けている。
……が、テンションが上がって盛り上がっている《EBO》勢が完全に拗ねてしまった環に気が付いたのは10分以上後になっての事だった。
◇◇◇◇
「それで、そんなに面白いの?《EBO》って」
完全に拗ねてしまった環相手に格闘する事さらに10分近く。
何とか機嫌を直させる事に成功した一行の話題は、当然というか《EBO》の魅力についてのだった。
「あぁ!最っ高に面白いぞ!やりたい事がやれるのだ!」
「自由度が高過ぎて基本なんでも出来るからな。めちゃくちゃ楽しいぞ」
「最低限のタブーさえ侵さなきゃ基本なんでも出来るからな。誘われて始めた身だが、かなりハマってるぞ」
実際にシステム上出来るからと全力でやらかしまくっているヒャッハー達の言葉だ。信用性が違う。
「出来ることもだけど、プレイスタイルの幅も広いからね。名前の通りバトルがメインではあるけど、必ずしも戦わなければいけないって訳じゃないし。掲示板の噂だけど、一切戦闘しない代わりにめちゃくちゃ凄腕の生産職のプレイヤーもいるとか」
「「「(メイだ……)」」」
この中で最もまともなプレイヤーである一守が上手く入れてくれた補足だが、ヒャッハー達はその噂の人物も負けず劣らずヒャッハーである事を知っている。
アイコンタクトを取るまでもなく、3人が同じ人物を思い浮かべている事を理解していた。
「へー。それは面白そうね……私も始めてみようかしら?」
「仲間が増えるのは嬉しいが、本体込みだとなかなかいいお値段するぞ?さすがにその場のノリで始められる値段じゃ……」
「あぁ、それは大丈夫。私500円貯金が趣味だから。貯金箱2つ開けるくらいなら痛くも痒くもないくらいには溜まってるのよね」
「そ、そうか……小金持ちなんだな」
「急にしょぼく感じるけど的確な表現ありがと。まぁテストも近いしすぐにって訳には行かないけど、タイミングのいい時にでも始めてみようかしら」
テストの文言が出た時には既に全力で耳を塞いで知らぬ存ぜぬを通していた瞬と明楽が、環の発言に反応してガバリと立ち上がる。
「おっ!いいな!今なら【カグラ】式チュートリアルが付いてくるぞ!」
「各分野のスペシャリストによる万全のサポート対応が君を待っている!」
「へぇ、知ってる人に教えて貰えるのはいいわね。じゃあその時はお願いするわ」
◇◇◇◇
同時刻
「止めないと!!!!」
「うわっ!びっくりした……急に立ち上がってどったん?」
「あ、いや……なんかとてつもない悪寒がして……」
「なにそれウケる。具合悪いならその唐揚げ食べてあげよっか?」
「だめ!今日のお弁当は特別製なんだから!」
そんなやり取りが、どこかで行われていたとかいないとか。
……え?環はん……本当に《EBO》初めはるん……?
という事で想定になかった環の参戦フラグが立ったとさ
でもカグラ式チュートリアルという名のヒャッハーの英才教育はおすすめ出来ませんねぇ……考え直しません?
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