第216話 『これはオフ会に入りますか?』
里塔くん《EBO》のすがた予想はリベットが多かったですね他にもウォルカスやリトゥーシュなどの予想もちらほら
さてさて正解は……!?
「どったん?鷹嶺くんの声も聞こえてきたけど、なんか大惨事でも起きてるの?」
「いつも騒……元気な2人はともかく、護までそんな驚くなんて一体何があったんだ?」
混乱しつつも何とか理由を思い出した護が瞬と明楽に説明していると、護の抑えきれず漏れてしまった叫び声を聞いて待機していた2人もお土産コーナーにやってきた。
「あぁ、すまん。ちょっと予想外の物を見つけてな」
「へぇ?鷹嶺くんが声を上げるくらいだからよっぽどの物と見た。どれどれ?」
「ってここは……やっぱり。妹から頼まれたストラップのコーナーだ」
「「「!?」」」
現在護達がいる場所は、お土産コーナーの中でもヒャッハー達の装備をストラップ化した商品の並ぶコーナーである。
そんなコーナーの商品を一守の妹のがご所望とは一体どういう事なのだろうか。
「ついでだから先に買っちゃおうっと」
そう言って(遠い目をした)一守が手に取ったのは、うっすら紅みを帯びた白銀の棍棒……と濁す必要も無いだろう。《EBO》の中で護が愛用している武器である『白銀ノ戦棍』のストラップだ。
「えっ……妹さん本当に『白銀ノ戦棍』欲しがってるのか……?間違えてないか?」
自分の愛武器のストラップが目の前で購入されていくという何とも言い難い体験に、頬を引き攣らせながら訪ねる。
男の子とかならまだしも、妹と言うことは女の子だろう(混乱)。イメージから来る多少の偏見が混じっているのは否めないが、棍棒という生々しい武器を欲しがるとは思いにくい。
「あー、うん。えっとね……実は妹も《EBO》やってるんだけど」
「へぇ、兄妹揃ってやってるのか。一緒に遊んでたりするのか?」
ごく身近に兄妹で一緒に《EBO》をプレイしている米倉兄妹を知ってはいるが、一守もそうだとは思わなかった。
つい気になってしまい、護は一守の言葉を遮って質問を投げかけてしまった。
「うん。まだ小学生で年齢制限ギリギリだから僕が保護者として一緒にやってるって感じ」
「へぇ、そうなのか。小学生って言うと……本当にギリギリセーフなんだな」
まだまだVRゲームという物が台頭し始めたばかりな現在では、幼少期から仮想世界というリアル過ぎる非日常へ入り込む事を危険視する声も多い。
なので、VR技術を使ったゲームがプレイ出来るのは12歳からという制限が存在するのだ。
小学生でプレイしているということは、ごく最近解禁されたばかりという事だろう。それこそ、《EBO》のサービス開始前後くらいではないだろうか。
「それでさ、ジョブとかスキル構成も僕の真似したりしてね。最初の方は大人しめなサポート系だったんだけどなぁ……なんであぁなっちゃったんだろう」
遠い目をしながら抑揚の無い声で話す一守と、サポート系『だった』という過去形。そしてその妹さんがお土産として要求したという『白銀ノ戦棍』のストラップ。
護の中で、何かが繋がって行く。
嫌な予感と言うよりは、罪悪感が真っ先に湧いてくる。
そんな感覚。
違う。違ってくれと思っても、1度想像してしまった嫌な予感は消えてくれる事はなく……
「妹がさ、この武器を使ってるプレイヤーのファンなんだ。なんでも、とてつもない強敵に単身立ち向かって大立ち回りしてたのが凄いかっこよかったとか」
「あぁ……」
「このPOPにも書いてある大会でさ。直接戦えて凄い嬉しかったみたいで。負けちゃったんだけど、最後に『楽しかったぜ』って言ってもらったらしくて。憧れの人からそんな事言われたらまぁ、ね?それでより一層好きになっちゃったみたいで……現実では昔と変わらず良い子なんだけど……まぁ……うん。そういう事でさ」
「お、おぅ…………」
『私、前のイベントで誰も手も足も出なかったボスを単身で圧倒したトーカさんに憧れて前衛神官を始めたんです!』
かつて聞いたその声が、護の脳内で反響する。
何もかも聞かなかった事にしてこのまま楽しい遠足を続けたい。そう思っても、遠い目をして妹の成長(?)を喜んでいいのか分からずに空虚な微笑みを浮かべる一守を前にしては護の中に残る良心が逃げを許さない。
「…………非常に。ひっじょぉぉぉぉに聞にくい事なんだが……」
「うん?どうしたのそんな改まって」
意を決した護が声をかけると、遠い目から帰還して普通に受け答えする一守。その反応が、護の良心をより一層刺激する。
「違ったらごめんだし合ってても怖いと思うんだが」
「う、うん……」
「その妹さんの《EBO》での名前。もしかして『ルーティ』だったりしないか?」
「ッ!?なんで護がそれを……!?」
本気で驚いたような一守の反応で、それが正解だと言うことは改めて聞くまでもないほど明確に理解出来てしまった。
(ぐふぅ……!)
ここが一般客のいる施設でなければ、護は崩れ落ちていたであろう。最も当たって欲しくない予感が当たってしまった。
大会以降、あの幾度となく激戦を繰り広げた大会もどこか懐かしく感じる程の濃密な時間を過ごしたものの、初めての前衛神官仲間や神官としての純粋な格上と出会ったあの試合は、護の記憶に鮮烈なまでに焼き付いている。
特に、神官の理想形と言っても過言では無い程の完成度を誇っていた彼の事は曲がりなりにも神官である身として忘れようがない。
ルーティと一緒にいる、同じジョブの真っ当な方向性のプレイヤーと言えば……
「それで、お前は『リトゥーシュ』……か?」
「なんで知ってるの!?」
あぁ……逃げてもいいかなぁ……
いつになく弱気なメンタルの護は、それでも何とか喉元まででかかったその言葉を飲み込み、別の言葉を吐き出す。
「とても言い難いんだが……『白銀ノ戦棍』使ってるの、俺なんだ」
「……え?」
「えっと、うん。俺が、《EBO》で、その武器を使ってる、プレイヤーです」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
言いにくそうに途切れ途切れに伝えられた級友からの衝撃のカミングアウトを受け、お土産コーナーに里塔一守の声が響き渡った。
◇◇◇◇◇
「えっと、落ち着いたか?」
「う、うん……ごめん」
仕方ない部分もあったとはいえ、他のお客さんもいる中で騒がしくしてしまった護達はそそくさとお土産コーナーを後にて、休憩がてら《EBO》会館のフードコートに来ていた。
「まさかあのトーカが護だったなんて……」
「俺としてもリトゥーシュが一守だったって言うのはかなり驚きだったんだが……今はそれよりも先に罪悪感が……」
フードコートの一角で、驚きと驚愕とびっくりを足して3をかけたような衝撃に見舞われた2人がなんとも言えない顔で向かい合っていた。
フードコートに席を取る以上なにも注文しない訳にはいかないからと2人の間に置かれた『泣鹿亭の焼き鳥』や『MPポーション』も、ほぼ手を付けていない。
ちなみに、2人の隣では事情を未だに知らない3人が《EBO》にも登場する食べ物や飲み物に感激しながら舌鼓を打っている。
環はともかく、瞬と明楽は事情を知ったらこちらの仲間入りだろう。
「なんか、妹さんにかなりの悪影響を与えてたみたいで本当にすまん」
「あ、いやいや。別にそれは良いんだ。すっごい楽しそうにしてるし、別に現実とゲームを混同してたり普段の言動が危なっかしくなったりしてる訳じゃないし。ただ……」
どうしてもいたたまれなさが湧いてくる護がそう言うと、とんでもないとばかりに一守が手を振って否定してくる。
どうやら、妹がトーカに影響を受けて前衛神官という超攻撃的なジョブに目覚めてしまったことについては特に悪く思ってはいないようだ。
ならなんで遠い目をしていたのかと言うと、悪い事とは思ってないけどそれはそれとして兄として妹の変化に少しクルものがあったらしい。
それよりも、一守の頭を悩ませているのは別の問題だ。
「ただ?」
「お土産に絶対に『白銀ノ戦棍』のストラップ買ってきてって言われてるんだけどさ。本人の前でグッズ買うのは自分用じゃなくてもなんというか、難易度高いなって」
「あー、うん。確かに、こそばゆいな……」
本人の前でグッズを買うのも、目の前で自分のグッズを買われるのも、とても気まずい。目を逸らし俯いている2人の雰囲気が、雄弁にそう語っていた。
という訳で、里塔くん《EBO》のすがたはリトゥーシュでした!ひさしぶりだね!
ルビの振り方であっ……!ってなった人もいると思いますが、里塔くんのリトゥーシュのネーミングはガッツリ本名のもじりです
ちょっと見方を変えれば一瞬で分かるかなぁと思いつつ、当てられたら当てられたで『あ、正解してる人いる……』となるのは出題者の性ですね
里塔妹=ルーティまで当てた人もいてびっくりです
ところで、2〜3話くらいになるかなぁと思った現実世界編ですが、既に4話使って初期構想の30%くらいしか終わってなかったりします
今やってる里塔くん編が無から生えてきたので(名無しモブの予定だったクラス委員(男)から直前で実は僕がリトゥーシュなんだとカミングアウトがあったもので……)
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