第214話 『なんだかんだ遊園地に行くとテンション上がる』
遊園地に文句言う人でも行き帰りが面倒臭いだけで遊園地自体は楽しんでる場合が多いイメージ
人類にテレポートの実装まだですかね?
「ひゃっほー!エンランだー!」
「ふぉぉぉぉ!楽しむぞぉぉぉ!」
「いえーーい!制服で遊園地とか新鮮ー!」
「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ」
「一般のお客さんもいるから迷惑にならないようにね」
班員決めから数日後、護達は学校からバスで2時間ほど運ばれ、遠足の目的地である《エンドレス・アクティビティ・ランド》、通称エンランにやって来ていた。
当然ながら貸切では無いので一般客も多いが、中には護達と同じように遠足で来ていると思しき学生達の姿がチラホラと見受けられる。制服が違うので他校の生徒だろうが、制服で学校が分からない辺り全く別の地域から来ているのだろう。
なお、名前からも察しが付くが、このテーマパークは護達が遊んでいる《EBO》……エンドレス・バトル・オンラインを作成している企業がメインスポンサーとなって開発、運営されているのだ。
というか、多種多様な種類の事業を扱っている企業の専門部署から《EBO》は発売されており、その他の部署では当然ほかの商品を取り扱っている。
このテーマパークもその内のひとつという事だ。
ちなみに、この企業の商品は基本的に『エンドレス』の名を冠している。その企業だと一目で分かる目印的な意味合いがあるらしい。
ただし、食品系には一切『エンドレス』の文言は入っていない。
それは、その昔……と言うには最近だが、この企業から出たお菓子のひとつに『エンドレス・リピート・チョコレート』というものがあったそうな。
その名に恥じない永遠に食べ続けられそうな1口サイズの食べやすいチョコレートだったが、『名前からして依存性の高いヤバいクスリが入ってそう』だの『1度食べたら止められなさそうで怖い。ダイエットの敵』だの『なんか腹が破裂して死にそう』だの言われて大不評になったことがあり、それ以降食品系には『エンドレス』は付けなくなったのだとか。
閑話休題
「はい、静かに。では今から17時までは園内で自由行動の時間です。ただし班で固まって動くように。止むを得ず単独行動する時は班員に伝えてからにする事。何か問題が発生した場合はしおりに記載された教員本部の番号に連絡する事。他のお客さんに迷惑をかけない事。その他一般常識に照らし合わせておかしな行動をしない事。以上を踏まえて楽しんできてください」
『はーい!』
担任からの諸注意が終われば、後は自由時間だ。
遠足の行き先が発表されたときは「えー、遊園地かぁ……めんどいな……」とか言っていた少しひねくれたグループも、なんだかんだ場の空気に当てられて楽しそうにしている。
「何をしている!時間は有限!満喫し尽くすぞ!」
「俺あれ乗りてぇ!一回転するジェットコースター!」
そんなひねたグループも楽しんでしまう環境効果は、元から楽しみにしていた者には当然さらなる興奮を与える。
明楽はパンフレットを握り締めて今にも駆け出しそうだし、瞬はテンションをぶち上げて最初からハードな絶叫マシンに乗りたがっている。
「明楽ちゃんも米倉くんも元気ねー。バスん中で寝てたのがいい感じに効いたのかしら」
「だろうな。案の定楽しみ過ぎて昨夜は寝付けなくて寝不足気味だったし、バスの中で睡眠時間を確保出来たのはちょうど良かった」
「鷹嶺も凄いよな……まさかアイマスクと耳栓を2セットずつ持って来てるなんて」
「まぁどうせバスの中で寝るだろうとは思ってたからな。備えあればなんとやらだ」
わくわくはしつつもよりわくわくしてる2人に気圧されて冷静になっている環とここでもやはり保護者をしている護、そして環の策略という名のズルによって副班長にされてしまった一守はそんな2人を1歩引いた位置から暖かい目で見守っている。
「何してるのだ3人とも!ぱっぱと行くぞ!目標は全アトラクション制覇だ!」
「あ、でもあれフラフォーだけはNG!あれはマジでヤバい死ぬ」
アトラクションを全制覇する気満々の明楽と、同じくやる気十分だか特定のアトラクションに関してのみ明確な拒絶反応を示す瞬。
瞬がNGを出しているフラフォーとは、『フライング&フォーリング』という言わいるフリーフォール系のアトラクションだ。
垂直にかなりの高さにまで上昇した後、一気に下まで急降下しすぐに頂点まで急上昇するバウンド系のフリーフォールとしてコアなフリーフォール好きの客に多大なる人気を集めている。
だが、当然ながらフリーフォール系が大の苦手な瞬にとっては具現化した地獄と言っても過言ではないアトラクションだ。拒絶する目がガチだった。
「まぁ楽しみましょ!善は急げよ!ゴーゴー!」
「なっ!?たまっきーフライングだぞ!」
「紫波ぁ!ズルは良くないぞ!」
「ちょっと!あの3人絶対僕達のこと忘れてるよね!?あのテンションの3人とはぐれたら大変な事に……!鷹嶺!」
「分かってる!今日は里塔もいるから心強い!押さえ込めとは言わん。あのハイテンションな3人を制御するぞ!」
「十分無理ゲーだよね!?」
テンション高めの2人を見て1度落ち着いていたテンションが時間経過によって再び燃え上がった環が不意打ち気味に入場口に向かって駆け出していく。
先を越された明楽と瞬も後を追って走り出し、完全に忘れ去られた保護者2人も慌てて後を追う。
平日のテーマパークという特殊な環境が、普段は授業に縛られているヒャッハー達の心を解放する。
解き放たれたハイテンションヒャッハー達が何かやらかさないように制御する、護と一守の人知れぬ戦いが始まった!
◇◇◇◇◇
「うぉぉぉぉぉぉ!!!イッカイテンーーー!!!」
「イッカイテン!イッカイテン!」
「くるりんぱー!くるりんぱー!」
「里塔……こいつらはもうダメだ、脳がイッカイテンしちまってやがる……」
「だけど……!鷹嶺!諦めるって言うのか!?こんなんでも班員じゃないか!責任は僕らにもあるんだぞ!」
「そう……だな。諦めるのにはまだはや」
「次はめっちゃ高いジェットコースターに行くぞ!」
「めちゃたかー!めちゃたかー!」
「高低差エグいヤツ!エンランはジェットコースターが豊富で最高だぜぃ!」
◇◇◇◇◇
「たっかぁ!たっかぁ!高低差ぁぁぁぁ!」
「めっちゃ落ちた!めっちゃ落ちた!今私の内臓上の方にまとまっる!だってそんな感じしたもの!」
「タカスギテホボフリーフォールジャネェカテメェコノヤロウ」
「ま、まだまだ!正常な範囲正常な範囲……ただテンション上がってるだけだから迷惑行為じゃないから……!」
「里塔……お前、凄い奴だよ……本気で尊敬するぞ……」
「フリーフォールコワイ……じゃない!次はアレだ!目を塞いで乗る暗闇コースター!あれが楽しみだったんだ!」
「くらやみー!くらやみー!」
「ふっ、見えない程度で私を止められると思わない事ね!」
◇◇◇◇◇
「くっらぁぁぁい!こっわぁぁぁい!いつ落ちるかいつ曲がるかいつ登るか分からないジェットコースターめちゃこわぁぁぁぁい!」
「見えない中での不意打ちイッカイテンは芸術点高いですぜ旦那ァ!こいつぁすげぇや!」
「かつてない恐怖体験!だが私は負けん!なぜならジェットコースターのカミが私についてるからな!」
「明楽、その発音だとゴッドじゃなくてペーパーだぞ」
「護はいつもこの2人を抑えてるの……?凄すぎない?」
「紫波が増えた分大変だが一守もいるからな。頼りにしてるぜ」
「責任が……責任が重いよ……でもまぁ、がん」
「よっしゃ次はビッグバイキングだ!噂ではイッカイテンするとかしないとか!」
「ゆらゆらいっかいてん!ゆらゆらいっかいてん!」
「バイキングって端の方ががすっごいらしいよ!はしっこはしっこ!」
「護……僕もうダメかもしれない……」
「諦めるな一守……ここまでのペースで絶叫系を乗り続ければそろそろ……」
◇◇◇◇◇
「おえっぷ……よこかいてんするなんてきいてない……」
「はしっこはじごくだったよ……」
「……………………………………………………」
「大丈夫か……?」
「せなかさすってくれ……」
「ったく、無茶するから……一守、悪いけど紫波のこと頼む。瞬は……割と平気そうだったから大丈夫だろ」
「うん。任せて」
お昼時を少し過ぎた頃。
ついに、ハイテンションで絶叫系に乗り続けた環、瞬、明楽の3人に限界が訪れていた。
足元をふらつかせながら口元を抑えている環は一守に手を引かれてベンチに座らせられ、瞬は一足先に自力でベンチにたどり着き遠い目をして燃え尽きている。
そして、最も重症なのが明楽だ。道の端に無言で蹲り、護に背中をさすられている。
上げすぎたテンションと連続する絶叫系アトラクションに酷使された身体がついに悲鳴をあげているのだ。
ちなみに、護と一守も全てのアトラクションに付き合っているのだがケロリとしている。
保護者として落ち着いて行動せざるを得なかった事を加味しても、この2人が絶叫系にとてつもなく強いという事は疑いようもないだろう。
「うむ……だいぶ楽になったぞ……」
「なんか、もう……疲れちまったよ……」
「確かに飛ばし過ぎたわね……少し落ち着きたいわ」
10分ほどの休憩を経て、少しづつ回復しだしたハイテンション達だが、さすがに応えたのかだいぶ大人しくなっている。
そろそろ、頃合だろう。
「んじゃ、そろそろめ「だからアトラクションじゃなくて展示系に行きましょう!」しでも……そっか。まだ遊び足りないのか……」
「展示だと……?それは楽しいのか!?」
「遊園地に展示……?そんなんあったっけ」
おえっぷから復活した環が遊びの休憩に遊ぼうと言い出し、アトラクションしか興味なかった明楽と瞬が首を傾げながらパンフレットを覗き込んでいる。
「エンランの展示……あぁ、アレか」
「ん?一守は知ってるのか?急にテンション下がったけど」
「うん。妹にそこで売ってるストラップ買ってきて欲しいってお土産のリクエストされてて。物が物なだけに兄として少し複雑でね……」
「ストラップで複雑……?」
護と一守の間でストラップに対して見解の相違があるらしい。妹にお土産でねだられて複雑な気持ちになるストラップとは一体……
「なんと!?」「こんな場所があるのか!」
護が一守の発言の真意を測りかねていると、パンフレットを覗き込んでいた明楽と瞬が驚いたような、それでいて興奮したような様子でガバリと顔を上げた。
「ト……護!見てみろこれ!」
「展示系は詰まらん派だった俺だがこれだけは話が別だ!」
そう言って2人がグイグイ押し付けてくるパンフレットを受け取ると、我先にと園内図の一角を指差す。
そこには……
「《EBO》会館……?」
見覚えのありすぎる名称を冠した施設の名前が載っていた。
バイキング系のアトラクションの端っこが地獄なのは実体験です
小さい頃に子ども特有の万能感で乗って地獄を見て以来軽くトラウマです
感想&アイディアをいただけると作者は泣いて喜びます
あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します
 




