第187.5話 『【試練の獣】会議(欠員2名)』
書き上がったのでゲリラ投稿!
187話最後の不穏な引きの後に何があったのか、という裏話
ヒャッハー達が帰り、日が暮れた【島】にて。
夜闇に染め上げられた『草原』を我が物顔で闊歩する影がひとつ。
さふり、さふりと柔らかな草を踏み分け進むのは、美しい白銀の毛並みに月光を輝かせた【狐】だ。
この地へ足を踏み入れた者たちも既に去り、いっそ不気味なまでに静まり返った【島】の中で動き出した【狐】は、【島】の中心に存在する【祭壇】を目指して歩みを進める。
ただし、この【祭壇】は特殊な結界を常に展開しているため、【試練の獣】が来島者に課す試練を乗り越えた証である『宝珠』が無いと知覚することすら出来ない。
そんな資格無き者を通さぬ結界だが、当然【試練の獣】である【狐】を拒むことは無い。
美しい白銀の毛並みを夜風にたなびかせる【狐】は、【祭壇】を祀る社……東屋の前までやってくると、とさりと小さな音を立てて座り込む。
『……………………………………………………』
さらり、さらり
【狐】は柔らかな草に覆われた地面に身体を降ろし、まるで眠りにつくように蹲ると、静かに夜風が草地を撫でる音に耳を傾ける。
しかし、ただ夜風に当たりながら眠るために来た訳では無い。
時折【狐】の耳がぴくりぴくりと動いている事から、周囲の気配を常に探っていることが分かる。
それは、ただ夜風を、月光をその身に浴びていると言うよりは、何かを待っている様に見える。
そして、それは正しい。
どれほど時間がたっただろうか。数分かもしれないし、数時間かもしれない。
月が天上で煌々と輝き、柔らかな風が夜闇を撫でる深夜の空気を切り裂くように、バサリと大きな羽音を響かせて、ソレは現れた。
夜闇に溶ける黒色の身体は、しかし隠れることなく月光を受けて怪しく煌めいている。
『はっ、お早い到着じゃねぇか』
東屋の上に降り立った夜色の【鴉】は嘲るような、小馬鹿にするような声音で、『草原』に寝転び夜風を浴びていた【狐】に向かって言い放つ。
『逆に、お主は遅かったの。怖気付いて逃げたのかと思ったわ』
もちろん、【狐】も言われっぱなしではない。
言われたら言い返す。当然の理だ。
『んな訳ねぇだろ。むしろお前こそよく逃げなかったもんだな』
『はん。よく鳴くの。弱い犬ほどなんとやらとはよく言ったもんじゃ』
『犬じゃ無いですー【鴉】ですーおめめ大丈夫でちゅかー?』
『何を当たり前の事を一々と!誰もお主が本物の犬だなんて思ってないわ!そう言うことわざじゃ!』
『なーに言ってんだコイツ。普段使いもしないもんをここぞとばかりに。最近覚えて使ってみたくなったのか?』
『なんじゃと!?』
『やんのか!?』
この場にいるのは、4体いる【試練の獣】の中でも精神的に幼い【狐】と【鴉】の2体だ。
普段ならこの、ようにヒートアップしていく言い争いを【狼】や【蛇】がなだめるのだが……
頼りの2体は既に試練を突破され、『宝珠』となって異邦人に連れて行かれてしまった。
ゆえに、止めてくれる者がおらず、お子様2人の言い争いのボルテージは際限なく上昇していく。
『かかってこいやテメェ!今日こそ白黒付けてやる!』
『なんじゃ、上手いことでも言ったつもりか?滑っておるぞ』
『あぁん!?自慢げにことわざじゃ!とか言ってた癖にこういう言い回しは出来ねぇのかよ!』
ギャーギャーギャーギャーと幼子の言い争いが誰もいない夜の【島】に響き渡る。
月光の元で一触即発の空気で向かい合う【鴉】と【狐】という絵面は、そこだけを切り取ればそれは美しいワンシーンだったであろう。
内容は呆れ返るほどにくだらない言い争いだが。
『はん!お前なんかあくせく頑張って用意してた仕掛けほとんど使えずに試練突破されちまえ!』
『はっ!お主なんかこつこつ山頂を削って用意した地の利ごとまとめて吹き飛ばされてしまえ!』
『あんだと!?』
『なんじゃと!?』
司会進行役のいない【試練の獣】達の会合は、まともな話し合いが成されないまま夜明けまで続いたとか。
話し合いの時は上手くまとめてくれる司会進行役と参加者の協力が必須だなぁというお話
これにて『【島】編』終了です!
……いやぁ、【島】編が始まった時に『編と言える程長くなるか分からない』的なことを言ってた気がしますが、ヒャッハーにそんな心配は無用だった
感想&アイディアをいただけると作者は泣いて喜びます
あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します




