第211話 『閃いてしまった』
お客様の中で子守唄のプロはいらっしゃいませんか!?
「はぁ……はぁ……おさ、まった……?」
「……っぽい、な」
逆バンジーもかくやという速度で飛び上がった【島】にいたヒャッハー達は地震からの急上昇というコンボを食らい、ようやく平静を取り戻した『草原』に息も絶え絶えに寝転んでいる。
「いやぁ……初期起動時に満タンまで貯めとくとこんなんになるんか。またひとつ賢くなれたわ。まぁ今後この知識が役立つとは思えへんけどな」
「コイツらはいちいち過剰にやらかさないといけない業でも背負ってるのか……?」
「えぇい!そこの白いの!「ん?なんや?」お主じゃないわ!いきなり満タンまで霊脈結晶を注ぎ込む奴があるか!加減せい加減を!だいたいなぁ妾の試練の時も……」
「落ち着けって。注ぎ込んだのは何故か霊脈結晶を持ってたちびっ子でアイツは起動しただけだって。どこまで根に持ってるんだよ」
心地よい風と柔らかな草に包まれながら生を噛み締めているヒャッハー達の元に、圧倒的なステータスと耐衝撃体勢のおかげで一足先に衝撃から復帰した【試練の獣】達が集まってくる。
【蛇】はけらけらと笑い、【鴉】は『岩山』が消し飛ぶ光景を思い出し、【狐】は何がなんでもトーカに噛み付き、【狼】がそれを諌めている。
「吹っ飛ぶなら……事前に言いなさいよ……」
「内臓がひゅんって……内臓がひゅんって……フリーフォール系はだけは苦手なんだよ……」
「おぉ!雲が近い!心做しか空気が薄い!ちょっと寒い!本当に飛んでいるのだな!」
「この感覚だと……かなりの高所だな。ゲームでそこまで心配するのもナンセンスだが、高山病とか心配になるな」
少しの間寝っ転がった状態で【試練の獣】達の会話を聞いていたヒャッハー達もようやく衝撃から回復してきた。
フリーフォール系のアトラクションを苦手としているリクルスだけは未だにうずくまっているが、リーシャは【蛇】に対する恨み言を呟き、カレットは既に楽しむモードに切り替わっている。
逆に、趣味が旅で色々なところに行っているリベットは急激な高度上昇による影響を気にしているようだ。
「本来なら上昇と一緒に環境適応もしてくれるんやけどなぁ。今回は一気に上昇したせいで追いついてないんやろ。ま、すぐに地上と変わらんくなるから安心せぇや」
「そうか、なら安心だ」
リベットと【蛇】の会話からまたしても想定外の挙動の片鱗が見え隠れしていたが、ヒャッハー達は気にしない事にした様だ。
過ぎたことは仕方が無いのである。
「って、あれ?メイとトーカは?」
「む?そう言えばこっちに居ないな。まだ【祭壇】にいるのか?」
「おーい。こっちだこっち。メイが目を回しちまって」
今更ながら2人の姿が見えない事にリーシャとカレットが気付いく。すると、タイミング良く【祭壇】にいるトーカの声が聞こえてきた。
声のした方に目を向ければ、急上昇の衝撃に耐えられなかったのか目を回して倒れたメイとそれを抱き留めているトーカの姿があった。
急上昇の原因になったメイだけが倒れている事になんとも言えない表情になるリーシャ。
メイに文句のひとつでも言ってやろうと思っていたが、既に倒れていてこれ以上何か出来る感じじゃなかったがゆえのもどかしさが全力で現れている、いっそ芸術的な表情だ。
こんな評価をされても嬉しくはないだろうが。
「満タンまで霊脈結晶を溜めたなら飛行時間は1時間ってとこやな。もっと飛行時間を伸ばしたいなら随時霊脈結晶を砕いてエネルギーを補充すればええ。新しい霊脈結晶は『地下洞窟』から採掘出来るんやけど、入口は……まぁ何ヶ所かあるから自力で探してや」
「拳大の霊脈結晶20個で1時間か……なぁ、消費した霊脈結晶は補充されるのか?埋蔵量が有限だと下手しなくてもメイが掘り尽くすぞ?」
「そこは安心してええよ。消費された霊脈結晶はその瞬間『地下洞窟』のどこかに同量のエネルギーを持って再精製されるから、使わずに溜め込んだりしなければ掘り尽くすなんて事態は起こらんよ」
「そうか……というか、それだと飛行自体には一切エネルギーを使ってないのか?」
「んー、そこら辺はちょいと説明が難しいなぁ。まず、この【島】は溜め込んだエネルギーを放出して飛ぶんや。そんでもって、【島】には周囲のエネルギーを集めて結晶化して蓄える性質もあるんや。それで放出した端から吸収して結晶化してるって訳なんやけど……まぁここら辺の仕組みは詳しく理解せんでも『そういうもん』で覚えとけばいいわ」
「なるほど……」
正直に言えば、拳大の霊脈結晶20個で満タンになる程度の消費量ならメイの採掘速度の方が上回りそうな気はしているが、そこは気を付けても仕方の無い部分なので黙っておく事にしたトーカであった。
ちなみに、トーカ以上にメイの採掘に付き合わされているリーシャは完全に諦めの表情をしている。メイなら絶対に掘り尽くすと信頼すらしている顔だ。
エネルギー循環については深く突っ込まない方が良さそうな雰囲気を感じたので【蛇】の言う通り『そういうもん』で納得する事にした。
ゲーム的ファンタジーに理屈を求め過ぎても興醒めだろう。
「なら次の質問だ。飛行時間を伸ばしたいなら随時霊脈結晶でエネルギーを注ぎ込み続けろと言っていたが、それは飛行中も霊脈結晶によるエネルギー補填が出来ると考えていいのか?」
「そういう事やな。減った分だけ補充し続ければ理論上は無限に飛んでいられる。まぁそんな事しようと思ったら不眠不休で延々と採掘と補充をし続けなアカンから所詮は“理論上は可能”ってだけやけどな」
「そうか。次の質問だ。この【島】の真の力……飛行機能の解放前にメイがいくつか霊脈結晶を破壊したらしいが、その時に放出されたエネルギーはどうなった?」
「即時再精製されたはずや。霊脈結晶を砕いてもそのエネルギーを核水晶が吸収出来るのは社の中だけ、出来ても核水晶から半径5m位の範囲内でだけや。それ以外の場所で砕けてもすぐに再精製されるだけやろなぁ」
質問を重ねながら、トーカはチリチリと首筋がチリつくような感覚を覚えていた。劣地竜やジャジャ、池の主と戦った時のような緊張感。
その理由は、今もなお腕の中で目を回しているはずのメイだ。
いや、別にメイが気絶しながらもそんなプレッシャーを放っている訳では無い。
トーカの頭の中で色々な点と点が繋がり、その想像……あるいは嫌な予感がそう感じさせているだけの錯覚。
それでも、強大なボスクラスの敵を相手にする時のような緊張感をトーカが覚えているのは間違いない。
「……最後の、質問だ」
「あんさん大丈夫か?めっちゃ顔怖くなっとるで?」
「平気だ。それより、最後の質問するぞ。飛行させるための核水晶の起動や霊脈結晶を砕く事によるエネルギーのチャージは全て人の……プレイヤーの手で行われなければならないのか?」
「半分そうで半分ちゃうな。核水晶の起動は権利を持つ人物が行う必要があるけど、エネルギーの補填は別に誰がどうやってもかまへん。プレイヤーがやっても【試練の獣】がやっても、なんなら何かしらの外的要因による予期せぬ破壊でもかまへん。重要なのは『吸収可能範囲内で霊脈結晶が砕けた』という事実だけやからな。ちなみに、エネルギーが余ってても権利者が停止させれば【島】の飛行は終わるんで、事故って降りられない……なんて事はないから安心しぃや」
と、【蛇】がそこまで言った瞬間。
「繋がった!!!!!」
目を回していたはずのメイが飛び起きた。
「繋げちゃダメ!まだ寝てなさい!」
目をキラッキラとさせてワクワクが止まんねぇ!な雰囲気を纏っているメイの様子に、リーシャが慌ててメイを寝かし付けようと駆け寄る。
しかし、そんな必死とも言える親友の声も届いていないようで、メイは自分を抱き抱えているトーカの顔を覗き込む。
楽しいことを思い付いたと雄弁に語る、純粋無垢な子供のようにキラッキラした瞳に至近距離から見つめられ、トーカは思わず一歩後退る。
しかしメイを抱き抱えたままのため、距離が離れることは無い。
そして、ワクワクが止まらないメイは、気迫に押されてたじたじになっているトーカに思いの丈をぶつけた。
「トーカ!僕に『地下洞窟』を下さい!」
メイ……一体何をやらかす気なんだ……
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