第201話 『砂の海の底より』
安定のメイくおりてぃ
「あっぢぃ……ぐぢんながじゃりじゃりずるぅ……」
「あっつぅ……砂の上って歩くの結構大変ね……」
「このローブ、『着てると通常より暖かい』から『体感温度を一定に保つ』に進化していたのか!メイ、いつの間に……!」
「植物がほとんど無いな……『砂丘』ってよりは『砂漠』の方が近いなこりゃ。リアルの砂漠ほどキツくはないが、それでもなかなかのもんだ」
リクルスとリーシャは暑さと砂に喘ぎ、カレットはいつの間にか機能強化されている事に驚いている。
リベットは経験からかそこまで苦労しているようには見えないが、それでも相応の疲労はあるだろう。
『砂丘』改めて『砂漠』エリアに到達したヒャッハー達は、早速砂の洗礼を受けていた。
エリア全体の気温は暑く、細かな砂を含んだ風は熱く、陽光を受ける砂も熱い。
一般的にイメージされるような『砂漠』としての厳しさを持って、この『砂漠』エリアはヒャッハー達を出迎えていた。
「サクラ、結構着込んでるけど暑くないのか?」
「うん。なんか、内部気温調節機能も付いてたみたいでむしろ快適!」
桜色の全身鎧に加え、同色のフェイスアーマーまで付けて全身を防具に包んだサクラは、心配して声をかけたトーカの予想に反してとても元気そうだ。
メイ的には説明するまでもない当然の配慮としてつけられた『鎧を着込んでも暑くない仕掛け』が、防熱装置として役立った結果だ。
ちなみに、この防熱機能だが外部環境的要因による温度変化にまで対応しているのはメイお手製の装備だからこそだ。
普通の装備にも調節機能はデフォルトで付いているが、『装備を身に付けることで不快にならない程度の調節』に抑えられている。
普通の全身鎧を着込んで『砂漠』エリアになんの対策もなく来ようものなら、鎧内部はサウナに早変わりである。
「はは、羨ましいな」
現状、装備にこのレベルの気温調節が着いているのはサクラとカレットのものだけである。
リクルスとリーシャ、そしてトーカの装備にもデフォルトよりも強力な調節機能こそ付いているがここまでの物ではないし、リベットに至ってはメイではなく彼の親友であるウォルカスが作成した物なので、デフォルトの調節機能しか付いていない。
これについてはウォルカスの腕が悪いのでは無く、現状調節機能をいじれるメイがおかしいのだ。
普通の生産職にはこんな事は出来ない。
ウォルカスも十分最高峰の生産職であり、こと槍に限っていえばメイすら凌駕する腕前を誇っている。
メイのカバー範囲とクオリティがおかしいだけなのだ。
もしこの場にそんなメイが居れば、即座に気温調節用の何かを作った事だろう。
だが、彼女はただいま絶賛行方不明中である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「掘っても掘っても無限に見つかる未知の素材……!さいっっっっこう!あれ、なんか忘れてるような気あ!あそこにもある!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
行方不明中である。
「あぢぃ……あぢぃ……」
「なんだなんだ、情けないぞリクルス!お前は先にこっちがいいと言ってたではないか!」
「んだどもごんなあぢぃなんでぎぃでねぇよぉ……」
暑さにやられてバテバテのリクルスと、ローブのおかげでまだまだ余裕のあるカレットのやり取りがヒャッハー達の歩みを彩る。
緑がほとんど無い枯れ果てたキメ細やかな砂の海を行くヒャッハー達は、装備の差に比例するようにテンションの差が違っていた。
先程からちらちらとサボテンやサソリ、小動物などの素材になりそうな物が見つかってはいるのものの、メイがいないためいまいち盛り上がりに欠けている。
サンプル程度に確保したらマップを埋める作業に戻る。
だが、その作業は遅々として進まない。
このエリアが広いと言うよりは、過酷な環境のせいで行動が遅くなってしまっているからだ。
「……こう、砂漠とか真夏とかで空間がゆらゆら揺れて見えるのってなんだっけ、陽炎?」
「だったはず……だ」
「おん?おんおん?なぁなぁ、もしかしてアレって、アレじゃね?」
あまりの暑さにうなだれながらヒャッハー達が歩いていると、リクルスが何か見つけたようで少し興奮した声を上げる。
語彙力が貧弱なのは、暑さでバテているからだろう。
きっとおそらく多分メイビー。
「あー……あ!煌めく水面、生い茂る緑!間違いないわ、オアシスよ!」
この中で1番『目』がいいリーシャがリクルスの指さす方向をじっと見据える。
その声は、ようやく訪れた変化によって嬉しそうに弾んでいる。
「オアシス!助かった……おでばだずがっだんだ……!」
「休憩スポットか、罠か。試練の始まり……じゃないといいな」
「緑に囲まれた池……。で、でも、森じゃないし……大丈夫だよね……!」
「むん。景色に味気が無さ過ぎて飽きてきていたところだ!変化バンザイ何でも来いだ!」
早速、ヒャッハー達は遠目に見えたオアシスに向かって駆け出していく。
特に、暑さにやられていたリクルスは脇目も振らず全力疾走だ。『砂漠』の気候がだいぶ苦手なようだ。
「んー……」
と、誰もがようやく訪れた変化に浮き足立っている中で、その目の良さで唯一この場所からオアシスを十分に見通せるリーシャだけは最後尾について行きながらも訝しげな顔をしたままだ。
「どうしたんだ?何か、気になる事でもあったか?」
「水面の青、木々の緑は分かるんだけど、ちっちゃい赤い何かも見える気がして……」
「赤い……なにか?……ダメだ、俺の『遠見』じゃそこまで見えないな……」
リーシャに言われてトーカも目を凝らすが、最近は狩人としての活動を全くと言っていいほどしていないため『遠見』のスキルレベルが上がっておらず、リーシャの言う『ちっちゃい赤い何か』を見つける事は出来なかった。
「アレは……鳥居?」
久しぶりに狩人の方を使ってみるか……と、こっそりトーカが反省していると、ある程度近付いたところでようやくリーシャがソレを認識する。
オアシスにある池の中心にポツンと立った鳥居は、なにかかおかしい。
場所を除けば形も大きさも何もおかしい所が無いことは何度も確認して、それでも消えない違和感がリーシャを満たす。
「みんな、気を付けて!」
嫌な予感に突き動かされるままリーシャが叫ぶ。
それに合わせた訳では無いのだろう。
だが、事実としてリーシャが叫んだ瞬間にソレは始まった。
足の裏に伝わる微かな振動。
カリカリと、ガリガリと、ゴリゴリと、何かを削るような振動が、足元……地中から響いてくる。
「まさか……試練か!?」
縦横無尽に動き回る戦法上、足場の察知に長けているリクルスが真っ先にそれに気付き、慌ててその場を離れる。
その数秒後には、地中から伝わる振動が他のヒャッハー達にも感じ取れる程に大きく、明瞭になる。
ナニカが地中から這い上がって来ている。
ヒャッハー達がそれを理解するのと、地面の砂が動き出すのはほぼ同時だった。
「なんなのだ!?もしや蟻地獄!?」
「分かんねぇけど非常事態だ!砂に流されるなよ!」
少し前までリクルスがいた地点の、さらに少し先。
オアシスに向かおうとするヒャッハー達の行く手を遮るように、『砂漠』の砂がすり鉢状に陥没していく。
底に穴でも空いているのか周囲の砂を飲み込みながら姿を現すすり鉢状の大穴から、巨大な影が這い出してくる。
「おいおい……なんだよコレ……」
大穴から這い出てきたソレは、硬質な殻を纏ったモグラのような見た目をしていた。
両手に備えた見るからに硬そうな黒色の爪からはパラパラと石片がこぼれ、自らの身体で穴をこじ開けて進んでいるのだろうか、同色のまるで鎧のような表皮は所々に削れたような跡が見て取れる。
まとわりつく砂を鬱陶しげに払い除け地の底から姿を表した異形のモグラは、今まで相対した全ての存在のどれにも当てはまらない異様な気配を放っている。
ヒャッハー達は最大の警戒と共に、各々の武器を構えた。
謎の鳥居と地下から現れた異形モグラ!
いったい何物なんだ……!?
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