第199話 『出現率2.3%』
新キャラ……?なぜ新キャラが……?
突如行方不明になったメイをしばらくの間探していたヒャッハー達だったが、依然として手がかりを見つけられずにいた。
メイの捜索開始からしばらくして、しゅんっと小さな音を立てて1度ログアウトして現実側で確認してきたリーシャが戻って来る。
だが、その顔を見れば芳しくない結果だったのは聞かずとも分かるというものだ。
「ダメ。向こうで確認してきたけど、ログアウトもしてないみたい。メイ……どこいっちゃったの……?」
「そうか……。こっちでもメッセージを送ってみたけど返信はまだ無いな」
フレンド欄のメイの名前はグレーアウトしており、フレンドの位置検索機能は使えない。
ならばとメッセージ送ってみたが、こちらも特に反応は無い。
「にしても地面がすごいボコボコだな……メイの奴、かなり掘り返したな?」
「む!そこそこ深い所もあるし、夢中で掘ってるうちに戻れなくなったのではないか!?」
「ならメッセージに答えないのはおか……いや、採掘に夢中でメッセージに気付いていないとしても、位置検索が出来ないのはおかしい。【島】にいても位置検索が出来るのは確認済みだしな」
トーカの言う通り、【島】にいても位置検索は正常に作動する。
両者が【島】にいるなら【島】での位置が、一方のみが【島】にいるなら、こことは別のエリアにいるという旨の反応が得られる。
しかし、その反応もなく所在地不明というのは、明らかに異常事態である。
「位置検索に反応しないのはどういう事なの……?」
「んー、んー、なんか覚えがあるんだよな……」
すっかり憔悴し切った様子のリーシャの横で、リクルスが腕を組んで唸っている。
どうやら、リクルスには何かしら心当たりがあるらしい。
「位置検索……引っかかんない……メッセージも送れない……あぁ!路地裏!」
「路地裏……?【トルダン】の魔境のことか?」
「そうそう!路地裏とか迷いの森とかの一部マップって外部から内部への干渉と内部から外部への干渉が出来なかったはず!」
リクルスの心当たりとは、トーカも初日に迷い込んだトルダンにある路地裏とリクルスとカレットのふたりが木材探しに訪れていた迷いの森の事だったようだ。
確かに、そういった地図機能が制限されるマップでは相互連絡が取れなくなり、お互いに位置検索が出来なくなる仕組みがあったはずだ。
「……って事は、メイは目を離してる隙にそういうマップに行っちまったって事か?」
「……だと、思う。ただ、場所が場所だからこの【島】にそう言うマップがあるのか何らかの異常なのかが少し怪しいな……一応運営にも連絡を入れておくか」
「ならそれは私がやる」
ある程度の目処が立ったからか、少しばかり気持ちを持ち直したリーシャが、全員に聞こえるようにスピーカーモードにしてGMコールをかける。
『…………あぃ。こちらGMこーる担当用AI、ネツ……じゃないや。マーシャです……本日はどーいったご用件で?』
そのまま数秒ほど待った後、いつもの妖精ちゃんとは別の担当用AIがコールに出てきた。
なにげに、リーリア以外のGMコール担当用AIとヒャッハー達が初めて遭遇した瞬間である。だからどうしたという話だが。
「はぁ……!?」
心底かったるそうな声音と微妙に舌っ足らずな発音が、多少落ち着いたとはいえ切迫した状況に置かれたリーシャの神経を逆撫でする。
普段なら別になんとも思わなかった事だろう。
だが、焦る気持ちもあってかその喋り方が妙に癇に障り、リーシャは荒ぶる感情を叩き付けそうになる。
しかし、今は状況が状況だ。
「……ッ!ふぅ………………っ。まぁいいわ、それよりも、コインで交換した【島】でメイがいなくなったのよ!これはそっちの把握してる仕様なの?それとも何かしらのバグなの?」
深呼吸をして無理やり感情を飲み込んだリーシャが、それでも多少語気を強めに、マーシャに尋ねる。
『【島】……?あー【カグラ】案件ね……。ちょっとまってねー』
ヒャッハー達の動向は運営側にひとつの案件としてカテゴライズされているらしい。
消し飛んだ『岩山』だった場所を見て、トーカは仕方ないか……と苦笑を浮かべる。
『ティファいるー?ティ……あー、リーリアなんだっけ?まぁいいや。リアー?いないのー?担当でしょー?』
少し声が遠くなり、誰かを呼ぶマーシャ。
どうやら、リーリアは妖精たちの間で半ば【カグラ】担当になっているようだ。
GMコール担当の3割ちょっとも彼女だし、イベントにも顔を出している。かなり多忙なリーリアであった。
『あーそういえば打ち合わせって言ってたっけ……。じゃあしょうがないかぁ……』
「マーシャ……だったか?ガッツリ聞こえてるからな」
一応聞こえないようにボヤいているつもりなのだろうが、ガッツリ聞こえてきてしまっている。
『えっ……?あ、あー。ごめんね?』
さすがに伝えた方がいいかとトーカが伝えると、一瞬固まった後に何に対してかは分からないが謝ってくるマーシャ。
個性的なのはいいが、GMコール担当用AIとしてそれでいいのかと問いただしたくなるような担当用AIだった。
『えっと……【島】でプレーヤーが行方不明だっけ?えっと、ログログ……。これは【クラウン】の惨分クッキングのログ、こっちは大会の決勝のやつ。こっちは……連盟の活動記録?なんで私これ取ってあるの……?じゃなくて、えっと……』
そんなモタモタした様子に、リーシャのイラ付きが際限なく上昇していくのがヒャッハー達には手に取るように分かる。
「あんたねぇ……!」
『あーもうめんどくさい。行った方が早いや』
ついにキレたリーシャが何かを言おうとする直前に、マーシャがそう呟くとブツッとGMコールが終了する。
事態が解決してないどころかなんの進展も無いまま向こうから切られた事にヒャッハー達が呆気に取られていると、目の前の空間が歪み小さな人影その向こうから姿を表す。
それは、リーリアと同じような手のひら大の少女った。
GMコール担当用AIを妖精と称している通り、これがGMコール担当用AIの基本サイズなのだろう。
だが、見た目はだいぶ違う。
鮮やかな緑髪は雑然と伸ばされたせいか所々で跳ねており、透き通るような橙の瞳は眠たげに半分閉じられている。
そんな、全体的にだらしない、あるいはダラけた様な印象を与えてくる妖精だが、最大の特徴はそこでは無い。
「……それで出てきて、大丈夫なの?」
マーシャには、感情を荒ぶらせていたリーシャでさえそう指摘せざるを得ない最大の特徴があったのだ。
気だるげに出現したマーシャは、服を着ていない。
一糸纏わぬ。生まれたままの。そんな言葉で飾ろうとも、意味する事はただ1つ。
全裸であった。
女性型の姿形をしているのにそれで大丈夫なのかと問いただしたくなるのも仕方の無いことだろう。
しかも、手のひらサイズの割に無駄にメリハリのある裸体に危険な部分は髪で隠しているという、まるでマンガのような全裸姿である。
「……?あー、忘れてた……。すぐ着るね」
指摘されて初めて気付いたマーシャがそう言ってパチンと指を鳴らすと、眩い光に包まれて彼女の姿が見えなくなる。
「世界観ぶち壊しだけどそれはそれで大丈夫か……?」
次に現れた時には、マーシャは確かに服を着ていた。
世界観などガン無視した、言わいる芋ジャージと言われるタイプの野暮ったい濃緑色のジャージだったが。
左胸にあて布で白地を作り、縦書きで『まーしゃ』と書かれているなど凝ってはいるが、世界観を壊している姿な事に変わりはない。
メイも世界観をガン無視したファッション装備をいくつも作っているが、それを普段使いはしていないので同列視するのは違うだろう。
「ここならすぐログ漁れるからちょっとまってねー」
緑ジャージに身を包んだマーシャは、世界観を危惧するトーカの質問をガン無視して、彼女にしか見えないウィンドウを操作してログを漁り始める。
一応作業が始まったのでこれ以上関係ない話を進める訳にも行かず、トーカ達は困惑しながらマーシャのログ漁りの結果を待つのであった。
2人目のGMコール担当用AIのマーシャちゃんです!
《EBO》においてGMコール担当用AIの事を『妖精』と呼び、全部で10人います
そして、プレイヤー達のいるフィールとは隔絶した場所にある、大きな木の幹の中をくり抜いて作られた妖精の居住区のような場所で全員で暮らし仕事が無い時はそこで自由気ままに過ごしています
例えば、マーシャは趣味でプレイヤー達の面白いログを読み漁って気に入った物を保存しているし、リーリアはうろついては他の姉妹達(妖精)にイタズラをしては怒られたりしています
他の妖精たちも機会があれば出したいですね
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