第198話 『もしかして召された?』
感想欄から救いの手が舞い降りたのでリーシャの秘境鉱床勤務が短くなったぞ!
良かったねリーシャちゃん!(無くなりはしない模様)
「あんのクソ【鴉】……!次会ったら泣かす。ガッチガチに縛って生きたままメイの工房に送り込んでやる……!」
「カレット……全力でやれ、好きにやれとは言ったけどさ……これはさすがにさ……な?」
「いや、こう……あの時はものすごくハイテンションだったと言いますか……その……」
結局【鴉】に逃げ切られてしまい荒れるリーシャを横目に、試練が終わった事で復活したトーカは周囲を見てすぐにまともに報告できる人から事情を聞き『言ってしまった手前あまり強くは言えないけどさすがにこれは……』という雰囲気でカレットを諭している。
脳内麻薬が切れたカレットもさすがにやり過ぎたという自覚はあるのか、普段よりもだいぶ大人しい。
だが、また同じような状況になれば同じ事をやるのがカレットだ。トーカは半ば諦めの境地に達していた。
「…………………………………………………………………………」
そして、問題のメイはと言うと、かれこれ数十分は更地になった『岩山』跡を無言で見つめている。
リーシャが未だに荒れているのも、トーカがなんとも言えない顔でカレットを諭しているのも、カレットがいつになくしおらしいのも、メイがこんな様子になっている事が理由の少なくない割合を占めている。
一言で言えば、非常に気まずい。
そして、リクルス、サクラ、リベットの3人は触らぬ神に祟りなしとばかりに変わってしまった地図を眺めている。
「…………あ」
そんな気まずい空気の中心にいたメイが、小さく声を漏らす。
瞬間、全員の意識がそちらに向かう。
「あれは……なんだろ」
しかし、自身に集中した視線にも気付かない様子でメイがふらふらと『岩山』跡地は歩みを進める。
さすがに心配になったヒャッハー達が後をついて行っても、やはり気が付いていないようだ。
そして少し歩き地面にかがみ込むと、ぺたぺたと地面に触れたり様々な角度からじっと観察し、何を思ったのか地面にツルハシを叩き付ける。
ヒャッハー達の目には普通の地面にしか見えないが、メイにはなにか別の物に見てているのだろうか。
「『溶合金』……?超高熱で原石のまま溶けた鉱石が混ざりあって冷却された特殊な鉱石?その性質は元となった鉱石の量と種類によって変化する……?」
そして、何かを手に入れたらしいメイは半ば無意識にそのテキストを読み上げる。
次第に言葉に熱が入っていくのが、間近で聞いていたヒャッハー達には分かった。
「なにこれ!?僕コレ知らない!!!!すごい!!!!こんなものがあったなんて!!!!」
そして、数秒前までの落ち込みようはどこへやら。思わぬ未知の素材との出会いにテンションがV字回復するメイの姿がそこにはあった。
「うわぁー!!すごい!5センチズレただけで性質が全然違う!?なにこれ!?なにこれ!?採っていいの?採るよ?採り尽くすよ?うわぁぁぁぁぁい!!!!」
0か100しかないのかと言いたくなるほどのハイテンションぶりで『溶合金』を採掘していくメイは、とても生き生きとしていた。
「……うん。メイはあんなだし、とりあえずメイには好きに採掘させとこうか」
「賛成!これで満足してくれれば助かる可能性がある……!」
「うわぁぁぁ!すごい!これ凄いよ!」
いつもは幼馴染2人に向ける苦笑をメイに向けながら、トーカが切り出すと瞬時にリーシャが追随する。
思わぬ長期秘境鉱床勤務回避ルートに、そのチャンスを逃すまいと必死なリーシャであった。
「カレット、多分お前が【宝珠】を貰ってると思うんだがどうだ?」
「やっばい!ここやっばい!」
「あぁ、貰っているぞ!【蹂躙】の宝珠だ!」
そう言ってカレットが取り出したのは、黒い塊だった。
カレットの手のひらに乗るソレが【宝珠】なのだと、一瞬分からなかった。
確かに、サイズは既に手に入れた2つと同じく拳大の球体だ。
だが、あまりにも黒過ぎる。
それが色としての『黒』なのか、そこに何も無いから黒く見えているだけなのか、それすら分からなくなるような深い深い漆黒がそこにはあった。
「磁石にくっつく金!?延性のある水晶!?うわぁぁぁあ!!てんごくぅぅぅぅ!!」
「それ……持ててるのか?」
「……?うむ。普通に持てるぞ?」
夜に落としたら絶対に見つからなそうな純黒の宝珠を持ったカレットは、視覚情報以外に触覚情報もあるからか、トーカ達よりもしっかりとその存在を認識していた。
「ま、まぁそうだよな……。テキスト見せてもらっていいか?」
「うむ!任せろり!」
「お前セロリ嫌いだったろ」
「うわぁ!火属性宝石と風属性宝石の混合宝石!?え、これすごい!!カレットの杖がもっと強くなるよ!?」
「なにっ!?」
「はいはい。話は後で聞こうな。それよりテキスト頼む」
今まで後ろで聴こえるメイの声をスルーしていたくせに、自分に……正確には自分の魔法に関するフレーズにはしっかり食いついて脱線しかけたカレットをトーカが引き戻す。
今宝珠の所有者に居なくなられると確認が出来なくて地味に困るのだ。
自分の杖がもっと強くなるというとても魅力的なセリフにかなり気を持っていかれつつも、カレットはそこにあるかも不安になるような宝珠に躊躇なく触れてテキストを呼び出す。
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【蹂躙の宝珠】
生きとし生けるもの全てが死に絶えた世界のように一切の輝きが無い純黒の拳大の宝珠
鴉の求める【蹂躙】の試練を乗り越えた証
全ての宝珠を集め、祭壇に捧げる事で
【島】の真の力を引き出す事が出来る
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「書いてある事が物騒だな」
テキストを読み終えたリクルスが真っ先にそう呟く。
「試練の名前からしてそうだしな。しかし、それで真っ黒……テキストに沿うなら純黒なのか」
「うわぁぁぁっ!?」
「物陰にでも行こうものなら絶対に見つけられない自信があるぞ!」
「自信満々に言うことじゃないだろ……ま、何はともあれこれで残す宝珠……試練もあとひとつだ。次は『砂丘』だな」
本当ならもう少し『岩山』を探索したかったが、無くなっちまったしな。と言わないのはトーカの優しさだろう。
未だ採掘に夢中のメイ以外は全員これ以上ここでやりたい事もないようなので、次のエリアへ向かう事に決まった。
メイには悪いが、また後で来てもらうことになりそうだ。
「メイーそろそ……ろ行く、わよ……?」
テキストの確認も終わり、次なるエリアに向かうためメイに声をかけながらリーシャが振り向く。
そして、その声が次第に尻すぼみになって消えていく。
代わりに増えたのは疑問のニュアンス。
つい先程まで確かに『岩山』跡地で採掘していたはずのメイがいない。
絶えず響いていた感嘆の声すら、今はもう聞こえない。
「ッ!メイ!?どこに行ったの!?」
親友が消えた事に、半ばパニックになって声を荒らげるリーシャ。
だが、どんなにリーシャが、トーカ達が呼びかけても、メイからの返事は無い。
つい先程まで間違いなく『岩山』跡地で採掘を行っていたはずのメイが、影も形も無くまるで煙のように消えてしまった。
メイ……どこに行ったんだ!?(作者も知らない失踪現象に困惑する顔)
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