第194話 『【鴉】』
今回から【島の獣】の『聲』の文字化けはなくなりますが、ヒャッハー達には依然として『意味だけがわかる逆再生の音』というふうに聞こえています
「これはあれだな。勝ったな」
未知なる【島の獣】が残した羽でいくつかの検証を行った結果、カレットは確信を得たようだ。
すなわち、勝ったと。
「いや、まぁそう言いたくなる気持ちは分からなくもないけど。油断はするなよ……?」
腕組みしながら胸を張り、不敵な笑みを浮かべ勝利を確信しているカレットにトーカが苦笑気味に釘を刺す。
だが、トーカが言うようにカレットがそうなるのも無理はないだろう。
なぜなら、あの羽は『強い衝撃に対しては硬くなり、弱い衝撃に対しては柔らかくなる』という性質ゆえに物理的な攻撃にはかなりの耐性があるようだったが、逆に魔法的な攻撃……特に火属性とは相性が悪いらしく、カレットが何発か【ファイアランス】を撃ち込んだところ、比較的簡単に燃え上がったのだ。
また、物理的な攻撃には耐性があるとは言ってもトーカやリクルスなら力押しで砕く事が出来たし、リーシャの弓やリベットの槍等の刺突も羽に穴を開けることに成功した。
つまり、一定以上の威力ならばしっかりと物理的な攻撃が通用する事も判明している。
普通なら厳しい条件なのかもしれないが、ヒャッハー達にとってはこの程度の障害ならばないも同然だ。
「そこそこの硬さはあるけど【蛇】の攻撃力や【狼】の速さの異常さに比べたら大した事は無いな。サンプルが一枚しかないから確実とは言えないが、防御系の試練では無さそうだ」
「色々調べたせいでばらっばらになったこの羽、どうする?」
リーシャが指さしたのは、リベットとリーシャに穴を空けられトーカとリクルスに砕かれてカレットに燃やされた羽の残骸。
今までは【島の獣】の体の一部など、こうのようにじっくりと観察する機会は無かったので基準は分からないが、【不滅】と【疾風】の2つの試練を乗り越えたヒャッハー達からするとこの羽への評価は『厄介っちゃ厄介だけど特別警戒するほどの物でも無い』である。
「インベントリに入れられるなら確保して後でメイに見せても良かったんだが……どうにもそれは出来ないっぽいからな。カレット」
「あいあい!【三重火球】!」
「あー燃えていく……未知の素材が燃えていく……カレット!やるなら徹底的によ!ちょっとでも残ってたらメイの採掘時間が伸びるわ!」
トーカの指示に脊髄反射レベルで応えたカレットが放った3発の【ファイアボール】を受けて、黒い羽は激しく燃え上がる。
これは確かにマジックハッピーのカレットが勝ちを確信しても仕方ないだろうと、そう思える程の激しい燃え上がり方だった。
そして、燃え盛る羽を見てリーシャが念入りに焼き尽くすようカレットに促す。
鉱石採掘のお預けだけでなく未知の素材を調べる機会すら奪われたと知ったら、メイのヤケ採掘の時間がどれだけ伸びる事か……
付き合いの長いリーシャは、本能レベルでその危機を察知しているのだ。
「さて、景気付けのお焚き上げもした事だしいくぞ!」
お焚き上げの意味を勘違いしているらしいカレットの号令に合わせて、ヒャッハー達は【島の獣】が待つ山頂へと向かう。
だいたい10分程山道を登った頃だろうか。
ついに、ヒャッハー達は『岩山』の頂上に足を踏み入れた。
「山の頂上ってもう少しとんがってるものだと思っていたぞ」
「別に全部の山がそうだとは言わないが、さすがにここまでのものは普通じゃありえないな……」
大まかに見て直径5メートル程の円形のようになっている頂上は、しかしそのエリア一帯が不自然すぎる程に滑らかな平面だった。
まるで、元々あった頂上をある程度の広さが確保出来る程度に切り取ったかのような滑らかな地面……もはや切り口と呼ぶべきか。
その切り口は、岩特有の硬質な感触を保ちつつも凹凸の無いなだらかな平面となっていた。
『お、ようやく来たか。遅かったな!』
ヒャッハー達が明らかに何らかの意思が介入している山頂に到達すると、待っていましたとばかりに楽しげな『聲』が響いてくる。
つい先程も聞いたばかりの、無邪気な子供のような軽い『聲』。
「来るぞ!」
未だに姿を見せぬ第三の【島の獣】の気配に、ヒャッハー達は警戒を強める。
この山頂は障害物も何も無い平面であり、全方位に見晴らしがいい。
そんな場所で、相手の位置だけが分からない。
かなり危険な状況に、ヒャッハー達は背中合わせになって全方位を警戒する。
しかし、少し考えが硬かったようだ。
『よしよし。やる気は十分みたいだな』
はらり、はらり
漆黒の羽が、ヒャッハー達の頭上から舞い落ちる。
つられてそちらに目を向ければ、そこには悠々と空を泳ぐように飛んでいる1羽のカラスの姿が。
メイを仕留めた羽から、今回の【島の獣】は鳥系統であろう事は容易に想像がつく。
なのに、なぜ既に上にいるという考えが思い浮かばなかったのか。
フライングの不意打ちといい、『聲』は聞こえど姿は見えぬ状況といい、これまでとは何もかもが違う未知の状況に少し冷静さを欠いていた部分もあったのだろう。
しかし、そんな事を今更考えてももう遅い。
幸運な事に、攻撃より先に【島の獣】が『聲』をかけてきたため、不意打ちで最初から陣形を崩されずに済んだ。
ならば、これ以上過ぎた事に思考を割くのは無駄でしかない。
ヒャッハー達は反省は後回しに警戒心を強める。
ここで出てくるということは、間違いなくこのカラスがこの『岩山』の試練を担当する【島の獣】なのだろう。
だが、ついに垣間見えた三体目の【島の獣】に、ヒャッハー達は警戒を続けつつも困惑を隠せなかった。
「ちい……さい?」
「うむ……ちいさいな」
「下手したら街中で見かけるのよりちっさくない?」
そう。ついに姿を表した【島の獣】は、明らかに小さかったのだ。
これまでの【島の獣】は、【蛇】にしろ【狼】にしろかなりの巨躯を誇っていた。
そして、この『岩山』での試練を担当する【島の獣】が放ったと思われるメイを一撃で仕留めた羽も、その例に漏れずかなりの大きさだったのを確認している。
だからこそ、今目の前にいるカラスの小ささには違和感を拭えない。
このカラスは本物の【島の獣】ではないのではないか。そもそも、さっき調べた羽より全然小さいだろお前。【島の獣】の子供かなにかか?
そんな考えが、ヒャッハー達の脳裏に過ぎる。
『それじゃあ。始めるとしようか』
しかし、そんな考えは次の瞬間には消し飛んだ。
小さなカラスはそう言うと、ふるりと小さく体を震わせる。
そうすれば、呼応するように小鳥と成鳥の中間程だったカラスの体が膨張するように膨れ上がり、最初の数十倍近くにまでその身を巨大化していく。
その巨躯は山頂に大きな影を落とし、バサりバサりと巨大化したカラスが羽ばたく度にその余波が強風となって山頂を舐める。
なるほど。確かにこのサイズの巨大鴉ならば、試練を課す【島の獣】と言われて疑う者はいないだろう。
成鳥にも満たない小さな姿から、視界に全身を映す事すら叶わない巨鳥へと。
そんなあまりにも大きな変化に、ヒャッハー達はゴクリと喉を鳴らす。
そして、変化は見た目だけではない。
今までの楽しげな子供のような『聲』から一転。
『我が望みは【蹂躙】。
一切合切討ち滅ぼす純粋な力。
【蹂躙】を示せ。消し尽くせ』
夜闇に輝く月の如き金色の瞳で挑戦者達を見据え、まるで嘲るような軽薄な『聲』で、カラスは……否、【鴉】は、今までで1番物騒な名前の試練の始まりを告げる。
次の瞬間。
空が、黒く染まった。
という訳で第三の【島の獣】は【鴉】くんでした!
【蛇】と【狼】の試練がクリアされたと知ってわくわくが止まらなくてフライングしちゃうおちゃめ(被害:死者1名)な【鴉】くんだよ!
作者も知らないフォームチェンジを発動した【鴉】くんだよ!だから事前申告して!!!!
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