第191話 『例えるならイタズラする子供を見守る親のような感情』
頭を使わない方のわくわく探検記!
頭を使う方のヒャッハー達が話し合っている間、頭を使わない方のヒャッハー達は【祭壇】にある、腰程の高さしかない石柱に心奪われていた。
正確にはこの石柱が【祭壇】であり、東屋はあくまで【祭壇】を祀っている社なのだが、そんな事は誰一人として気にしてはいなかった。
「(とりあえず、近付いてみよっか)」
「(だな。探索しねぇと)」
「(トーカ達はまだ話しているしな!仕方がないな!)」
頭を使わない方のヒャッハー達はちらりと頭を使う方のヒャッハー達の方を見ると、直ぐに視線を戻し目を輝かせたまま石柱……【祭壇】に近づいて行く。
間近で見る【祭壇】は、その形状やサイズ感から学校で校長先生が話をする時等に前に置いてある演台を連想させる。
「(お!ビンゴ。それっぽいくぼみがあるぞ)」
そして、その【祭壇】の天板部分にはひし形のような図形が描かれており、その各頂点の位置が明らかに宝珠をはめられそうな感じにくぼんでいる。
リクルスの持っている【疾風の宝珠】とサクラの持っている【不滅の宝珠】の他にも、あと2つの宝珠がこの【島】にあるという事だろう。
そこまで分かれば、直感的に生きている頭を使わない方のヒャッハー達であってもその可能性に気付く。
ヒャッハー達が『森』と『海岸』で試練を受けて手に入れた宝珠と同等と思われる物が、あとふたつある。
すなわち、未探索の『岩山』と『砂丘』にも試練を与えてくる【島】の獣がいるということに。
「(なぁなぁ。これさ、どうする?)」
「(やっぱ、くぼみに置いてみる?)」
「(だがもうひとつはサクラが持っているぞ……?トーカ達か実体化させて観察してるからこっそり貰うとかは出来そうにないぞ)」
「(じゃあとりあえず俺が持ってるやつだけ置いてみるか)」
そして、頭を使わない方のヒャッハー達は何を思ったのか、頭を使う方に無断で【祭壇】のくぼみのひとつにリクルスの持っている【疾風】の宝珠を納める。
「「「………………」」」
しかし、なにもおこらなかった!
「(無反応、だな)」
「(やっぱ他の3つも置かなきゃ行けないんじゃない?)」
「(うむ。思い付くのはそれしかないな)」
「(あ、ていうかテキスト確認してねぇ)」
大きな変化はなくとも何かは起こるだろうと思っていた頭を使わない方のヒャッハー達は、肩透かしを食らったような気分になっていた。
さらに、今更ながら読めるようになったであろう宝珠のテキストを読んでいないことにも気が付いた。
「なぁ。さっきから、お前らこそこそ何やってんだ?」
「のわぁっ!!」
「うひゃぁ!!」
「わへぇっ!!」
なんだよつまんないなーという気分になっていた頭を使わない方のヒャッハー達は、突然声をかけられて素っ頓狂な悲鳴を上げる。
その反応は、親にイタズラを仕掛けているのがバレた子供のような、どこか微笑ましいものだった。
子などいないトーカ達にはその微笑ましさはいまいち分からなかったが。
「い、いや。ほら。トーカ達ってまだなんか話しってそだったからさ?」
「そうそう、代わりに私たちがこの【祭壇】を探索しとこうかなーって」
「う、うむ!そらで私たちは【祭壇】にくぼみがあるのを見つけたぞ!」
彼らにも、トーカ達に黙ってこっそりと動いていた後ろめたさがあるのだろう。
咎めるつもりもないトーカの普通の質問に、ありもしない非難のニュアンスを感じ取って噛みながらも必死に弁明している。
「へぇ、くぼみか。って事は、普通に考えればこの【祭壇】は試練で宝珠を置く……この場合は捧げるか?まぁとにかく、宝珠を使う場所なんだろうな」
「お……怒って、ないのか?」
「別に怒ることでも無いだろ。最悪、バカみたいに強い敵が出て来ても1回全滅するだけだ」
所詮はゲーム。という言い方をすると悪い意味に聞こえるが、大部分のやり直しが効くのがこの世界のいいところだ。
正解でなければいけないという考えに固執してもいいことは無いだろう。
「なんなら、こっちではリクルス達がこっそり何かやってるから見守ってみようって話になってたからな」
「「「あれぇ!?」」」
そもそも、頭を使わない方のヒャッハー達のこそこそ行動は頭を使う方のヒャッハー達にはバレバレだったらしい。
「で、リクルスがもう置いた宝珠って回収出来たりするか?」
「あ、あぁ。……っと、回収できたぞ」
「置いといてもいいんだけど、万が一窃盗イベントみたいなのがあったら困るからな。全部揃うまでは各々が持ってた方がいいだろうな」
「あ、あとテキストも見せて欲しいかな。サクラちゃんの【不滅】の宝珠はさっき確認したから、念の為だけど」
「あれ?くぼみが4つあるとかまだテキスト確認してないとか言ったっけ?」
まだ共有していないはずの情報をトーカ達が知っている事に、頭を使わない方のヒャッハー達は首を傾げる。
「いや、普通に聞き耳立ててた」
「これ以上ないシンプルな答え!」
だが、その答えは単純明快。予想を立てたとか別の場所で情報を得ていたとかではなく、単純に聞いていただけである。
小声で話しているとはいえ、耳をすませば聞き取れなくもない声量だったため、頭を使わない方のヒャッハー達が繰り広げていた会話は頭を使う方に全て筒抜けだったのだ。
「えっと、俺が持ってる【疾風の宝珠】のテキストはこれだな」
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【疾風の宝珠】
吹き抜ける風を閉じ込めたような
薄緑色の拳大の宝珠
狼の求める【疾風】の試練を乗り越えた証
全ての宝珠を集め、【祭壇】に捧げる事で
【島】の真の力を引き出す事が出来る
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「真の……力?」
「まだ何かあるというのか……?」
「宝珠4つで【島】に変化が現れるってこと……?」
「あ、その話はもうこっちでし終わったから後で何話してたか教えるぞ」
「お、おぅ……」
テキストを読んだ頭を使わない方がシリアスな顔で呟いたはいいものの、その話は既に頭を使う方が話し合った後だ。
ちなみに、彼らは頭を使う方の呼び名に恥じない考察を繰り広げたが、最終的には『ヒントが少な過ぎて書いてある事しか分からない』という結論に落ち着いていた。
ここまでヒントがないと、『何が起きるかは集め切ってからのお・た・の・し・み♪』と妖精ちゃんに言われたような気分にすらなる。
もちろんヒャッハー達はイラッとした。
「うん。やっぱりだいたい書いてあることは同じだね。こっちがサクラちゃんの【不滅の宝珠】」
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【不滅の宝珠】
白から黒、黒から白へと
生まれては消え生まれては消えを繰り返すように
ゆっくり色が変わり続ける拳大の宝珠
蛇の求める【不滅】の試練を乗り越えた証
全ての宝珠を集め、祭壇に捧げる事で
【島】の真の力を引き出す事が出来る
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その内容は、メイが言った通りほとんど【疾風の宝珠】と同じ内容が記されていた。
前半が各宝珠個別のテキストで、後半が宝珠という枠組みに対するテキストだと言うことは分かるが、それだけだ。
「んで、俺らの方で話してた事と合わせて、宝珠くぼみの数から推測して4個あって、この【祭壇】がある『草原』を除いて【島】もざっくりと4エリア。それぞれに【蛇】や【狼】みたいな試練を課してくる奴がいるんだろうって結論になる」
トーカが頭を使う方と使わない方の行動から得た情報をざっくりとまとめ、全員と共有する。
そして、そこまで言われれば動き出したくなるのが頭を使わない方のヒャッハー達の心理である。
となれば、当然。
「なら次のエリアに行こうぜ!俺『砂丘』行きてぇ!」
「なら次のエリアに行くべきだな!『岩山』がいいぞ!」
「あぁん?」
「おぉん?」
ある意味息ぴったりなやり取りを繰り広げるリクルスとカレットに、サクラは呆れたような、トーカは微笑ましいものを見るような顔で見守っている。
メイは鉱脈があるかもしれないという理由から『岩山』に、リーシャはサンドスキーがしたいという理由から『砂丘』に1票入れ、リベットは決まった方に合わせると言っている。
これは、自主性が無いのではなく、無駄に話が拗れるのを防ぐための気遣いだろう。
トーカは高所から【島】の全体図を確認出来る事を期待して『岩山』派、サクラはリーシャのサンドスキー発言に惹かれて『砂丘』派だったので、『岩山』派と『砂丘』派が3対3になってせめぎ合っているのはたまたまだろう。
結局、リクルスとカレットの決闘によって、次なる行先は『岩山』に決定した。
多分ジャンケンは1発勝負だったけどさすがに1発じゃ不安なリクルスとカレットが「1発……!いややっぱ3本先取にしよう!」ってチキった結果だと思うの
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