第190話 『【祭壇】』
ついに明かされる『聲』の謎!
突如出現した謎の東屋。
5m四方のそこそこな大きさを持つ東屋は、確かに一瞬前までは存在しなかった物だ。それが、急に出現した。
しかも、リクルスとカレットが手に持つノイズ塊がその東屋を示すように激しく荒ぶっているというおまけ付きで。
「……アレが目的地、だよな?」
「あ、あぁ。そのはず……だ。ノイズ塊も限界まで荒ぶってるしな」
「……うん。やっぱりあの東屋、ちょうど【島】の中心にあるっぽいよ。それに、さっきの何かに触った様な感覚……多分、あそこが境目だったんじゃないかな」
警戒心と好奇心が綯い交ぜになった様子で、トーカ達は言葉を交わす。地図を確認していたメイの言葉で、それらの感情が大きくなって行く。
あそこに何があるのか、謎のノイズ塊や【島】の獣達とはどんな関連があるのか。
興味は尽きないが、またしても理不尽な強さの敵とのイベント戦闘が始まらないとも限らない。
こういう時こそ、慎ち「よっし行くか!」「うむ!何があるのか楽しみだ!」
リクルスとカレットに慎重にという考えは無いようだ。
「……お前らなぁ。もうちょっと警戒とかしないのか?」
「んー、まぁビビっても結局行かなきゃいけないだろ?だったらとっとと行きてぇし」
「もしあの【蛇】とか【狼】みたいな敵が出て来てもそれはそれでもう1戦するだけだからな!」
「……まぁ、それもそうか」
潔い、ある意味覚悟の決まった2人の発言に後押しされて、残りの5人も東屋の中へ足を踏み入れる。
トーカやリベットは元から慎重になり過ぎるきらいがあるし、リーシャも『未知』に対しては慎重になるところがある。メイやサクラもその性格からガンガン未知のものに突き進んでいくタイプではない。
メイは生産系に限っていえば未知の方へ喜々として進んで行くが、戦闘系の場合は別だ。
そんな、ヒャッハーでありながらも大多数がどこか慎重派なところがある【カグラ】にとって、リクルスやカレットのような慎重のしの字も知らないようなタイプは事態の停滞を防いでくれるありがたい存在だ。
そして、その分しっぺ返しを食らうことも多く、トーカに泣き付くことも少なくないが。
そして全員が東屋に入ると、これで3度目となる逆再生されたような『聲』が響いた。
『隱崎ィシ荳ュ』
突き刺すような鋭さを孕んだ【蛇】の『聲』や、重く響くような迫力を纏った【狼】の『聲』と違い、機械のような無機質な『聲』。
「やっぱりか!【バフセット:カグラ】!」
やはり敵か!と、ヒャッハー達は臨戦態勢を取る。
だが、『聲』の主は姿を表さず、短い一言を最後に『聲』は沈黙を貫く。
「……バフが、かからない?いや、そもそも魔法が発動してないのか?」
だが、『聲』は何らかの効果を発揮していたようで、トーカが使おうとした【バフセット:カグラ】が発動すらしない。
今までの『聲』は、特定種類以外のバフの解除だったが、ここに来てそのパターンが外れた。
バフをかけられず、敵の姿も見えない。そんな、戦闘にすらなっていないストレスだけが溜まる沈黙。
それでも、ヒャッハー達は無言で臨戦態勢を取り続ける。
そのまま数分、なんの動きもなく、リクルスやカレットがさすがに焦れてきた頃。
再び『聲』が鳴り響いた。
『縲千・ュ螢�代∈縺ョ蛻ー驕斐r遒コ隱�』
『螳晉匠縺ョ謇謖√r遒コ隱�』
『隧ヲ邱エ縺ョ遯∫�エ閠�r遒コ隱�』
『隧ヲ邱エ縺ョ驕守ィ玖ィ倬鹸縺ョ髢イ隕ァ螳御コ�』
『蜈ィ蜩。縺ォ雉��シ縺ゅj縺ィ蛻、譁ュ』
『隱崎ィシ螳御コ�』
数分の沈黙を埋めるように立て続けに投げかけられる『聲』の数々に圧倒され、誰一人として動く事が出来ないでいる。
もっとも、動けたところで何をすればいいのかすら分かっていないのが現状なのだが。
そんな膠着を打ち破ったのは、やはりトーカ達ではなかった。
「なんだ!?」
「うおゎっ!?」
トーカ、カレット、メイ、リーシャ、リベット
サクラ、リクルス
実際に音として発されていた『聲』とは違い、システムアナウンスのような、脳内に直接響く声で1人ずつ名前を呼ばれていく。
そして、その直後。その名指しに呼応するように、全員の身体を薄光が包み込む。
『権限付与完了』
『条件を満たしたため、特定の情報へのアクセスが許可されます』
先程の『聲』と同じ、無機質な合成音声のような声。
だが、今度はしっかりと聞き取ることが出来た。
それだけでなく、記憶を遡るように過去に聞いた『聲』の内容もしっかりとした『意味のある言葉』として思い出す事が出来るようになっている事に最初に気が付いたのはトーカだった。
少し記憶を掘り返せば、今まで聞いてきた『聲』がなんと言っていたのかが分かる。
この東屋で聞こえた『聲』を例に上げれば、この一連の流れで無機質な機械音声はそれぞれこう告げていた事がはっきりと分かる。
『認証中』
『【祭壇】への到達を確認』
『宝珠の所持を確認』
『試練の突破者を確認』
『試練の過程記録の閲覧完了』
『全員に資格ありと判断』
『認証完了』
そして、【蛇】にしても【狼】にしても、遭遇して最初に何かしらを語りかけてきている。
その言葉を今思い出せば、【蛇】は『我が望みは【不滅】。決して滅ぶことの無い永遠の円環。【不滅】を示せ。生き延びよ』と、【狼】は『我が望みは【疾風】。何者も追い付くことの叶わぬ神速の風。【疾風】を示せ。我を捕らえよ』と言っていた事が分かる。
この【祭壇】が語りかけてきた文言と、『権限付与』とやらによって理解出来るようになった【島】の獣達の言葉から察せられるとおり、やはりあの【蛇】や【狼】は自らの元を訪れた者たちに試練を与えていたようだ。
とてつもない威力の【蛇】の一撃を耐える【不滅】の試練。
とてつもない速度の【狼】を捉える【疾風】の試練。
トーカ達はこれらの試練を偶然に、あるいは仮説に基づいてクリアしていたのだ。
そして、変化はそれだけではなかった。
この『聲』が言う『特定の情報』とは、やはり【島】に関係する物の事を表しているのだろう。
リクルスとサクラが持っていたノイズ塊も、その形状を変えている。より正確に言えば、本来の姿を認識出来るようになった。
サクラの手にあるのは『白と黒の明滅をゆっくりと繰り返す拳大の球体』リクルスが持っているのは『渦巻く風のように微かに揺れる薄緑色の拳大の球体』だ。
【祭壇】の『聲』が言う、宝珠というのがこれなのだろう。
恐らく、今ノイズ塊……球体の説明欄を開けば、文字化けしていたテキストも読めるようになっているはずだ。
ヒャッハー達は、この【島】の謎について、かなり大きなヒント……というより、もはや答えに限りなく近い情報を得た。
その後は、現状行える全ての行動をし終わったのか、しばらく待機していても【祭壇】から『聲』が聞こえる事はなかった。
この段階で、ヒャッハー達はようやく臨戦態勢を解くことが出来た。それほどまでに【島】の獣との戦い……試練は彼らにとっても大きな壁になっているのだ。
「……なんか、すごい事になって来たね。いや、すごい事を乗り越えて来たね?」
「あぁ、本来なら、宝珠をひとつ手に入れたら真っ先に草原に来るべきだったんだろうな。正確には初めて【島】の獣の試練に挑んだ後で別エリアまで行くべきじゃなかったというか」
「たぶん、そうなんだと思う。休憩でも撤退でも1回『草原』まで行けばノイズ塊状態の宝珠が反応するだろうし。そうすれば多分次からは『聲』を聞き取れる状態で試練に挑めるからね」
「『聲』の意味が理解できない最初の1回で色んなヒントから試練内容を導き出してクリアするのが1番大変そうだな。俺らはそれを2回やった訳だが」
新たに与えられた情報に、サクラ、トーカ、メイ、リベットの、ヒャッハー達の中でも比較的頭を使う4人が与えられた情報を噛み砕こうと言葉を交わす。
「(なぁなぁ。アレ、なんだと思う?)」
『(分からん!が、トーカ達は何か話しているしな……)』
『(ここが【祭壇】って言うくらいだから、何か捧げるんじゃない?例えば、その宝珠とか)』
「「((なるほど!))」」
そんな4人の横では、頭を使わない方のヒャッハー達が東屋状になっている【祭壇】の 中心にある1m程の低い石柱に興味を示していた。
石柱を見つめる3人の顔は、親の目を盗んで探検ごっこをする子供のように輝いていた。
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