第189話 『こんなの無かった』
ヒャッハー達が【島】に移動して、早速異変が発生した。
リクルスとサクラの2人が、【島】に着くなり顔を顰めて耳を塞いだのだ。
「2人とも、どうした?」
「……?すまん。もう1回デカい声で言ってくれ」
別に極端に小さな声という訳ではなかったが、リクルスは聞き取れなかったようだ。サクラも同じようで、こっちはそもそも話しかけられた事にも気付いていないらしい。
耳を抑えるジェスチャーといい、この反応といい、原因は分からないが、リクルスとサクラは聴覚に何らかの影響を受けているのだろう。
「2人とも、どうした?」
もう一度、大きな声でハッキリと尋ねる。
今度は、サクラも話しかけられた事を認識したようだ。
「……あぁ、なんか、こっち来てから急に雑音が聞こえて来てな。ザザッザザッて砂嵐みたいなノイズ音で他が聞き取り難くて……って、ノイズ音?」
言ってから、リクルスも何かに気付いたらしい。
「まさか……お、やっぱりか。治まった……っぽいな?」
リクルスがインベントリから【狼】を相手にした時に手に入れたノイズ塊を取り出す。
それを見たサクラも同じようにノイズ塊を取り出すと、顰めていた顔が元に戻る。
2人とも謎の雑音は治まったらしい。
「なんだこれ。昨日見た時はノイズ塊なだけでこんな荒ぶってなかったよな?」
「しかもこれだいぶうるさいぞ!リクルスとサクラはこんなの聞いてたというのか……!?」
「ううん。音は同じだけどさっきはもっと大きかったよ」
「だよなぁ。なんか、耳元でずっとザーザー鳴ってんの」
今度は、雑音が全員に聞こえるようになっだけとも言えるが。
さらに、昨日まではノイズの塊と称するしか無いにせよその形状は安定していたそれが、今やノイズが走るという表現がピッタリ当てはまるほどに纏ったノイズを荒ぶらせている。
そこまで音は大きくなく、会話に支障は無いとはいえ、このノイズ塊が不快なノイズ音を撒き散らしているのは間違いない。
かと言って、インベントリにしまえば先程の2人と同じように耳元でノイズ音が響き続けるのだろう。
「朝の目覚まし時計みたいなウザさだなこの雑音」
「うーん。見た事ないアイテムだから断言は出来ないけど、アイテムは意味もなく性質が変化したりしないからね。もしかしたら手に入れてから今までで何かの条件を満たしたのかも」
「なんかの条件?2人が別々に持ってたのが同時に鳴り始めたんだから、2人が一緒に条件を満たしたって事よね……?うーん。何かあるかしら」
「この2人が昨日してなくて今日した事……刺身?はさすがに違うよな」
「え?刺身ってなに?」
意味不明のノイズ塊が原因不明のノイズ音を撒き散らし始めたせいで、【島】探索2日目は思いっ切り出鼻をくじかれた形になってしまった。
「この【島】で手に入れた物だから多分【島】関連の案件だろ……?となると、昨日解散してからは特になんもしてねぇしなぁ。ここに来たら急にこうなったぞ」
「うん……?ちょっと待って。ここに来たらって事は、それが条件なんじゃない?」
何も分からんと腕を組んで首を傾げるリクルスとは対照的に、サクラはその可能性に気が付いた。
「【島】にいること……それなら手に入れてすぐにならないとおかしいな。【島】に再来島するって線もあるが……」
「あるいは、条件はこのノイズ塊を持って『草原』に来ること……か?」
そして、ひとつ方向性が見えればさらに掘り進めることは可能だ。トーカとリベットが同時にその結論に行き着く。
「あれ、これサクラちゃんのとリクルスので荒れ方が違うっぽい?リクルスの持ってるやつの方が荒ぶってるように見える」
「うーん。もしかしてこれ、コンパスというかダウジングマシンというか、そういう道標系のアイテムなんじゃ?荒れが治まったらなのか限界まで激しくなったらなのかは分からないけど」
そして、ノイズ塊をじっと観察していたリーシャとメイも微妙な違いからその可能性を導き出した。
「うむ。全く分からん!」
「隣に同じく」
「……こんなちょっとの違い、よく分かるね……」
カレット、リクルスは少し考えて思考を放棄していた。サクラはリーシャに指摘されてふたつのノイズ塊を見比べているが、違いが分からないらしい。
「んー、リクルスとサクラちゃんちょっと離れてみて。もう少し離れれば目の錯覚か確認出来るかも」
「あいあい。『縮地』っと」
「……私もあれ欲しいなぁ。そうすればある程度機動力を補えそう」
リクルスが『縮地』を使って一瞬でサクラから距離をとると、サクラはそれを少し羨ましそうに眺め、サラッと恐ろしい事を言いながらリクルスとは反対側に歩いて行く。
サクラが『縮地』などの機動力を手に入れたら、仲間を庇う時はもちろん【仕返し】を打ち込む時にもかなり有利になるだろう。
ヒャッハー達は、そんな未来を想像して珍しく恐怖を覚えた。
「お?なんかすっげぇ荒ぶり始めたぞ」
「私の方は逆に結構静かになったよ」
結果は、リーシャの予想通りだったようだ。
リクルスが持つノイズ塊は激しく荒ぶり、逆にサクラの持つノイズ塊は静かになっていた。
ここまで差が開けば見間違いようがない。
明確に、このノイズ塊は座標によって反応を変えている。
念の為サクラとリクルスの位置を入れ替えても見たが、しっかり反応も入れ替わったため、見た目じゃ分からない個別の反応をしていた訳では無い事も分かった。
「地図で見ると、ノイズ塊が激しく反応した時には『草原』の……というより【島】の中心に近付いてるね。中心に何かあるのかな?」
ふたつのノイズ塊の反応と【島】における座標を見比べていたメイが、【島】の中心に近づくほと荒ぶり方が激しくなるという法則を見つけ出した。
まだ半分くらい埋まってない地図ではあるが、【島】の輪郭だけは確認出来るので中心がどこかくらいなら割り出せるのだ。
メイは生産の他にもこういった調査とかが得意なのかもしれないと、昨日のメイの成果と合わせてそう感じるヒャッハー達であった。
「ってもよ、『草原』ならくまなく探索したろ?そんときゃなんもなかったぜ?」
「もしかしたら条件があるのかもね。そのノイズ塊を持ってないと知覚できないとか」
「むぅ……あのバケモンみたいな強さの【蛇】やら【狼】やらと戦わないと手に入らないノイズ塊が必須のエリアか……嫌な予感も面白そうな予感もするが、どっちに転ぶかまるで分からんな」
「まぁ行ってみるしかないんじゃないか?ノイズ塊が反応してるってことは、間違いなくそれ関連の何かだろうしな」
そんなこんなで、ふたつのノイズ塊をダウジングマシン代わりに一行は【島】の中心にあると思われる謎のエリアを探す事に決めた。
本来の予定だった『岩山』と『砂丘』の探索は後回しだ。
場所すら分からない未知のエリアを小さなヒントを頼りに調べる。と、そういうと大変そうに聞こえるが、実際は全く苦労する事はなかった。
ノイズの荒ぶり具合で大雑把な方向が分かる上に、そのノイズ塊の中でもどちら側の方が荒れ方が大きいかで細かい向きもカバーしてくれていたからだ。
難しかった点と言えば、その細かい荒れ方の違いを見分ける事くらいだったが、さすがの弓術士と言うべきかリーシャが正確に見分けてくれた。
まるで宝探しのような探索に大なり小なりワクワクしながら進んでいると、変化は突然に現れた。
薄い空気の膜に触れたような、ほんのわずかな抵抗感。
動きを阻害する程でもなく、ただ単に何かに触れたような気がするといった程度の些細なものだった。
それが【境界】を跨いだ合図だったというのは、後から知った事だ。
何せ、彼らはの意識はそんな些細な感触などとは比較にならないほどの現象を目の当たりにしていたのだから。
「……ねぇ」
「あぁ、間違いなくこんなのは無かった、はずだ」
「そもそも、今これ急に目の前に出てきたよな?」
くまなく探索仕切った『草原』で、1歩前までは見えなかった東屋が急に出現するという、異常な現象を。
次回でとりあえず大きな謎は1つ解けるかな?
ノイズ塊くんのお知らせ方法が所持者への騒音しかないのはまぁご愛嬌
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