第19話 岩蜥蜴現る
戦闘描写の難しさと来たら……
初レビューいただきました!本当にありがとうございます!
あまりに突然の事で3人とも呆気に取られ逃げていく《ケイブ・リザード》の後ろ姿を見送るしか出来なかった。
「な……なんで逃げたしたんだ?」
「分からん……」
どういう事だ?モンスターが逃げ出すことなんて今まで1度も無かったぞ?
ズンッ! ズンッ!
《ケイブ・リザード》に逃げられ困惑していると今まで聞きたことの無い重い足音が洞窟内に響き渡る。
「なんだこれ……?」
「分からん……けど、近付いてくる」
リクルスの言う通り重い足音は段々とこちらに近付いてくる。断続的に響いてくる足音にメイは採掘を中断しこちらへ来る。
メイを庇う様に立ち、辺りを警戒するがその姿は一向に見えてこない。ただ足音だけが近付いてくる。
「一体何なんだこれは!?」
カレットが声を荒げる。しかし分からない以上「分からない」と返すしか無く、カレットもそれは分かっているのだろう。ただ言わずにはいられなかったと言った様子だ。
「なぁ、みんな……あんな所に岩なんてあったか?」
リクルスがそう言って指指さした場所には確かに先程まで無かったハズの岩が鎮座していた。否、鎮座と言うのは語弊があるか、その岩は微かに動いている。
「なんだ……あれ」
「分からない……けど、すっごい嫌な予感がする」
「奇遇だな私もだ」
「ボ、ボクもなんか嫌な予感が……」
物凄い嫌な予感に駆られ撤退しようと後ずさった瞬間。
『グガアァァァ!』
岩が、岩を身にまとったナニカが咆哮をあげる。ビリビリと空気が震え洞窟が軋む音が響き渡り、天井からパラパラと小石や砂が降る。
「や、やばくないか?」
リクルスが言葉を漏らしカレットとメイの2人がコクコクと頷く。
「やばいのは分かるが……あちらさんは逃がしてくれなさそうだぞ」
ソイツは油断のない鋭い視線でこちらを睨み付けており、少しでも隙を見せたらそこで終わりだろう。そう思わせる程の威圧感をソイツは醸し出していた。
「名前は……見えないか」
《EBO》ではモンスターネームは最初から見えるものでは無く、『鑑定』などの解析系のスキルを使うか現地人から教えてもらう、実際に倒してみるなど、いくつかの方法で知る必要がある。
リクルスとカレット、もちろん俺も『鑑定』は持っていないし、事前に知っていた訳では無い(そもそも洞窟で出現するモンスターは4種類しか知られていない)。なので出現した岩達磨の名前は分からない。
「メイ!名前見えるか!?」
「ごめん!私これでも『鑑定』ならLv.4なんだけど、それでも見えない」
鑑定のLv.4で見えないとなると相当な強敵だな、相当気合い入れないとヤバイな。
「2人とも、本気で行くぞ」
「おうっ!」
「了解だ!」
メイには後方へ避難してもらい改めて相手を観察する。
全体のフォルムとしては先程逃げていった《ケイブ・リザード》と似ている。ただその体はゴツゴツと岩石で覆われていて斬撃ではロクなダメージにならないだろう。
言うなれば……《ロック・リザード》ーー岩蜥蜴と言う所だろうか。
更に《ケイブ・リザード》と比べても二回り以上は大きい。《ケイブ・リザード》の時点で大型犬程の大きさはあったが、それを優に越す。そしてその巨体からは《ケイブ・リザード》が逃げ出すのも仕方ないだろうと思わせる程の恐ろしい威圧感を感じる。
「リクルス、多分だけど斬撃じゃダメージ通らないと思うから籠手で行ってくれ。あとは一撃離脱で頼む」
「了解!」
「カレットはメイの近くで遠距離攻撃頼む。あんまりヘイトを稼ぎすぎないように」
「分かった!」
今回は俺も前衛で行こうと思っている。武器がメイスなので後ろで支援してるだけよりもそちらの方がいいだろう、と言う判断だ。
忘れずに『鼓舞』を発動し、自身に【マジックアップ】、【アタックアップ】、【ディフェンスアップ】、【アジリティアップ】を付与する。
「おっ!トーカも来るか!」
「あぁ、今回ばかりは俺も前に出た方が良さそうだ」
リクルスは装備した籠手をガンッ!と打ち鳴らし気合い充分の様だ。なのでリクルスには俺が『隠密』を使う際のおと……ゲフンゲフン陽動の為にあえて大声を出してもらう事にした。
「いよっしゃぁぁぁ!」
「無駄に元気だな」
俺が頼んだからと言うのもあるだろうが、岩蜥蜴が放つ威圧感に気圧されないようにという気持ちも大きいだろう。それほどアイツが放つ威圧感は強大だった。
ガギィン!
「硬ってぇぇぇ!」
硬質な音を響かせながら籠手で思いっきり岩蜥蜴を殴りつけたリクルスが離脱してから思いっきり声をあげる。
HPはロクに減っていないが大声と先制攻撃のおかげもありしっかり岩蜥蜴の注意は引き付けられた様だ。
『グロロロッ!』
岩蜥蜴が石臼をするような声をあげながらリクルスに向き直る。
「【ロックバッシュ】!」
左後ろ足の人間で言うスネ辺りに亀甲棍を叩きつける。
【ロックバッシュ】は『棍術Lv.4』で使用可能になるアーツで攻撃力自体は【インパクトショット】よりも少し劣るが『岩石特攻』があり、岩石系のモンスターや破壊可能オブジェクトで『岩石属性』を持っているものに対してのダメージ増加と言う効果がある。
『一撃粉砕』、『不意打ち』、『外道』、加えて『ジャイアントキリング』や『通り魔』、更には【ロックバッシュ】の『岩石特攻』の効果もあり相当な威力を叩き出したはずだが、岩蜥蜴のHPは1.5割程しか減っていなかった。
「ヤバイな今ので全然減らないとなると……」
予想外の一撃を喰らった岩蜥蜴はリクルスに定めていた狙いを俺に変更し、岩石が連なった硬そうな尾をしならせながらこちらに向き直る。
『グロロ……』
『隠密』を発動し戦線離脱を試みるが岩蜥蜴の水晶の様な無機質な瞳は俺を見失わず視線が張り付いてくる。
『グロロ、グロッ!』
岩蜥蜴が突進しようと足に力を入れ、岩蜥蜴の足元が放射状に砕ける。そして飛び出そうとする瞬間。
『グロロッ!?』
岩蜥蜴の足元で小爆発が起こり体制を崩す。
完全な不意打ちの上、今まさに飛び出そうとした瞬間に足元を崩されたため、上手く飛び出せずその巨体が崩れ落ちる。
「シャオラッ!」
その隙にリクルスが先程俺が【ロックバッシュ】を叩き付けた位置に正確に拳を打ち込む。流石に傷口を殴られるのは堪えるのか咆哮をあげ、起き上がろうともがき始める。
その瞬間を狙い左前足の肘に当たる部分に【インパクトショット】を叩き下ろす。『不意打ち』、そしてしっかりと『外道』が発動し少量、だが確かに目に見える量の岩蜥蜴のHPを削る。
『グロロロッ!』
起き上がろうとする行為を尽く邪魔され、もどかしいそうな声をあげる岩蜥蜴は次の瞬間、転がり出した。
単純な攻撃だが岩蜥蜴の巨体と質量でそれをやられると厄介極まりなく、軽く轢かれそうになりながらなんとか回避する。
見ればリクルスも似たような状況だったが軽戦士の身軽さを活かし、飛び退いて回避する。
俺達がいなくなったのを見計らって岩蜥蜴が起き上がろうとする。その際に何発かカレットの魔法が飛んでいくがまるで意に介さず起き上がる。
「ちょっとコイツ、強すぎない?」
「それは俺も思ってるからリクルスも言うな」
リクルスが愚痴るのも分かる。何せこの攻防で与えられたダメージはたったのと言うべきか“も”と言うべきか3割程のHPが削れている。甘く見積もってもこの攻防を後2回+αしなければ倒れない。馬鹿げた硬さとHPに愚痴りたくもなる。
「どっかに弱点は無いもんかね」
「あるといい……よ、な」
あった、最初からの弱点と言う訳では無いが、弱点になりうる箇所がある。
「リクルス、アイツへの攻撃は出来る限りでいいから左側を狙え」
「なん……あぁ、そゆこと」
リクルスも理解したようだ。ついでにカレットにも左側を狙うように指示を出す。
今の岩蜥蜴は前後の左足に俺渾身の一撃を受けた状態だ。特に後ろ足はダメージが大きく加えてリクルスの追撃もあるので、部位ダメージは相当なものだろう(そんな物があればだが)。
その証拠に岩蜥蜴の重心は少し左側に偏っている。これは右側ほどしっかりと体を支えられていないからだろう。
「そういやトーカ、『咆哮』ってどんなスキルだ?」
「『咆哮』取れたのか!?」
「あぁ、さっきな」
これはいいぞ。早速次からは『咆哮』も使う様にと言い足し、それ以外は先程と同じ方法で行くと2人にも伝える。狙うのはもちろん左側だ。
「ウォォォォォ!!」
リクルスが『咆哮』のおかげで先程よりも大きな雄叫びをあげながら岩蜥蜴に突撃する。先程と全く同じ方法だが傷がある箇所を狙われている以上無視するわけにもいかず、咆哮をあげて迎え撃つ。
「【ファイアボール】!」
そして咆哮をあげる際に開けていた口にカレットが【ファイアボール】を投げ入れる。アドリブの動きだが初期の頃の様にリクルスの背中に誤爆するということも無く、スポッと擬音がなりそうな程綺麗に岩蜥蜴の口に【ファイアボール】が入っていく。
『グロッ!?』
突然口内に飛び込んできた異物に岩蜥蜴は驚き仰け反る。その隙を見逃さずリクルスが岩蜥蜴の鼻っ面に拳を打ち込む。
バゴォォン!と言う衝撃音と共に岩蜥蜴のHPバーの上にに盾が砕ける様なアイコンが現れ、『防御力低下』のデバフが付いた事を示す。
「なんで鼻っ面に行った……だがナイス判断だ!」
鼻っ面を強打された事で岩蜥蜴が一瞬怯みそのタイミングでリクルスが飛び退く。丁度リクルスと入れ替わる形で岩蜥蜴の懐に入り込んだ俺は左後ろ足の先程と全く同じ位置に2度目の【ロックバッシュ】をお見舞いする。
一撃粉砕の効果は乗らないがそれでも一部位に与えるダメージとしては充分だった様でバキィッ!と言う音と共に岩蜥蜴の足が砕ける。
「足一本!」
戦果を叫びながら撤退する俺のすぐ横を通り抜けていったカレットの【ウィンドランス】が岩蜥蜴の左前足の傷口に突き刺さる。
『グロロガァッ!』
堪らず雄叫びをあげた岩蜥蜴のHPは今ので1割、合計で4割ほど削れていた。これだけやってもまだ半分も削れない硬さに頬を引き攣らせる。
岩蜥蜴は砕かれた左後ろ足を引き摺りながらこちらに向かってガリガリ、ガリガリと岩同士が擦れる音を立てながら一歩一歩近付いてくる。
『グロッグロロッ!』
左後ろ足を砕かれたのは流石に頭に来たのか唸り声に怒りがこもっているような気がする。
あまりの面倒くささにリクルスが「うっへぇ……」と零しているか正直俺も「うっへぇ……」と言いたい気分だ。
「アイツ硬すぎるだろ……」
「口に出すと辛くなるから思ってても言うなよリクルス」
「分かってるけどさぁ……」
『グロロロッ!グロガァッ!』
1拍置いて岩蜥蜴が轟音を立てながら突進してくる。
リクルスと俺が慌てて飛び退くの数秒前まで俺達が居た場所に岩蜥蜴の巨体が突き刺さっていた。
「のわっ!?」
岩蜥蜴がビュオッ!と風切り音をあげてムチのように尾を薙ぎ払う。リクルスを狙ったその一撃を真上に跳躍する事でなんとか回避する。
「あんなん当たったら一溜りもないぞ!」
「足は一本砕いた!次は尻尾引きちぎるぞ!」
「おお、怖えぇ怖えぇ」
リクルスが冗談めかして俺の宣言に震える振りをし、すぐに籠手を打ち鳴らしやる気を見せる。
既に岩蜥蜴の左後ろ足は使い物にならない。証拠に先程までより突進の勢いが弱かったし尾を振るった際に体勢が崩れている。
体勢を持ち直した岩蜥蜴にリクルスが何度目かの奇声+突貫コンボで急接近し、岩蜥蜴は迎え撃とうとリクルスを鋭く見据える。
「そんなに見つめられたら照れるぞ!【鎧砕き】!」
リクルスが軽口を叩きながら(通じているかは分からないが)体術のアーツ【鎧砕き】を使い殴りつける。【鎧砕き】は相手の防御力を下げる効果のある、体術Lv.3で使用可能になるアーツだ。
『グロロァッ!』
リクルスの放った拳はガシャァン!とガラスが割れる様な音を立て岩蜥蜴の顔面を捉える。それにより点滅していた『防御力低下』のデバフが再度岩蜥蜴に付与される。
「今だッ!【スマッシュシェイク】!」
リクルスの攻撃で岩蜥蜴の行動が一瞬停止する。その隙を逃さず岩蜥蜴の胴体に棍術Lv.4で使用可能になるアーツ【スマッシュシェイク】を打ち込む。
【スマッシュシェイク】は武器系アーツには珍しく攻撃技ではない。本来なら地面等にメイスを叩き付け地面を揺らし相手の動きを阻害する土魔法の【アースシェイク】と似通った性質のアーツである。
今回は岩蜥蜴の巨体を地面に見立て【スマッシュシェイク】を打ち込む。結果は岩蜥蜴のスタンと言う形で現れた。
『グロ……グロロ……』
「今だ!リクルスは尻尾!カレットは顔を狙え!」
すぐに指示を出し、自分はリクルスが駆け付けてくる前に『縮地』で尻尾まで移動し、付け根から少しした辺りに【ロックバッシュ】を振り下ろす。
ズガァァン!
激しい音を立てて岩蜥蜴の尻尾の一部が陥没しひび割れる。そこにリクルスが駆け付け、1m程手前で跳躍したかと思うといつの間に装備を変えたのか両手で大剣を振りかぶり、『斬る』と言うよりは『叩き付ける』と言った感じの一撃が正確にひび割れた箇所に打ち込まれる。
「単純な破壊力なら最強ォォォ!」
「そういや重戦士でもあったっけ」
リクルスが大剣を叩き付けた事で一気にヒビが広がり、その岩の下にあるであろう肉をも切り裂き地面にまで大剣の刃が到達する。
『グロガァッ、グガァッ!?』
尻尾を切断された事で咆哮をあげよとした岩蜥蜴の口内に再び【ファイアボール】が侵入する。するともちろん大変な事になる訳で、岩蜥蜴が悲痛な叫びをあげる。
今の攻撃で岩蜥蜴のHPが5割を切る、HPバーが黄色くなったその瞬間。
『グロァァァァァッ!!!』
岩蜥蜴が今までのとは比較にならないほどの咆哮を張り上げる。もはや衝撃すら伴うその咆哮は若干のダメージ判定があるらしく至近距離でそれを喰らった俺達のHPがゴリゴリと削れていく。更には結構離れた位置に居るカレットとメイにもその衝撃は届いたらしくHPを減らしていた。
「うひゃぁ!」
「トーカ!リクルス!大丈夫か!?」
カレットの声に「大丈夫だ!」と返し岩蜥蜴の側から離脱する。
リクルスもしっかりとこちらに逃げてきているがそのHPは5割を下回っている。
「叫んだだけにしては強すぎないか?」
「俺達のHPが低いのもあるんだろ、【エリアヒール】!」
リクルスの疑問に予想を返しながら『回復魔法Lv.3』で使用可能になる【エリアヒール】を発動する。【エリアヒール】は一定範囲内の対象を回復させる範囲回復技だ。
【エリアヒール】を発動すると俺を中心に半径2m程の範囲が円状に光り出す。そして、その光に当たったみんなのHPが回復していき、程なくして全員のHPが全回復する。
「アイツのHPも残り半分だ、気合い入れてくぞ!」
「おうっ!」
「了解だっ!」
「が、頑張って!」
リクルスとカレット、そして自身に付与をかけ直し岩蜥蜴に亀甲棍を構える。リクルスも大剣を籠手に直しファイティングポーズを取る。カレットも準備万端の様だ。
さぁ、第2ラウンドの始まりだ!
明日辺りから更新が不安定になりそうです……
本当にすいません……
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




