第185話 『【狼】』
【狼】登場!
あと、展開に特に影響はないけどこの話から今まで大蛇と書いていた森で遭遇した蛇のことを、【蛇】と記載するようにしています
先程の蛇と同じような感じの狼。
確証は無いが、勘の鋭いリクルスとカレットの2人が揃ってそう断言するという事は、そう考えるに値する何かを感じ取ったのだろう。
ピクニックのような穏やかな時間を挟んだとはいえ、突如遭遇した【蛇】に手も足も出ずに瞬殺されたのは記憶に新しい。
当然、4人の体は半ば無意識的に臨戦態勢に移っていた。
メイは調査に『没入』しているのか2人の声に気付いた様子は無いが、距離は離れているので問題ないだろう。
未知の強敵ならともかくとして、理不尽極まりないイベントギミックのような存在が相手となればさすがのヒャッハー達と言えど緊張に身体が強ばる。
何があってもおかしくないと突然の奇襲に警戒しつつリクルス、カレットの2人と合流すると、2人もさすがの切り替えの速さで既に装備を構え臨戦態勢に入っていた。
「リクルス、その狼ってのはどこにいる?」
「あぁ、まだ結構遠いけど、あっちのーーー」
緊張のためか少し早口になりながらトーカがリクルスからその【狼】の居場所を聞き、リクルスがそれに答えるため指を指そうとしたその瞬間。
ソイツは既にそこに居た。
体高2m近い巨躯を覆う、黒と見まごう程の濃い暗灰色の毛皮は地面の色と同化しており、その輪郭を捉えにくくしている。
暗色なのは全身のみならず、口から覗く牙すら黒く染まっており、それでいてナイフのように鋭い。
全身に黒を纏ったその巨狼は、しかしその瞳だけを鮮血のように紅く輝かせていた。
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あの【蛇】と同じ、逆再生されたような聞き取れない『聲』。
【蛇】の声が鋭く突き刺すような『聲』だったのに対し、【狼】の『聲』は獣の唸り声のような、重く臓腑に響く恐ろしさを纏っていた。
だが、決してただの唸り声でない事は分かる。
内容は理解出来なくとも、その『聲』が何か意味を持って発された『言葉』である事は分かる。
その、『内容が分からない事』自体が問題点ではあるのだが。
「っ……!【バフセット:カグラ】ッ!」
突如目の前に現れたイレギュラー級の存在に対して、真っ先に行動出来たのはトーカだった。
前回【蛇】に謎の『聲』で剥がされたバフだが、今回も同じようなことになる可能性を考慮してもなお、『そうならない可能性』に賭けてバフをかけざるを得ない圧倒的存在感を、【狼】は纏っていた。
たとえ、【狼】と【蛇】の出会う順番が逆でも、トーカは同じようにバフをかけただろう。
それほどまでに、この【島】にいるイレギュラーな存在は強大な存在なのだ。
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そして、案の定謎の『聲』によってトーカがかけたバフが剥がされる。
しかし、これは決して無駄ではない。『この謎の獣達には、恐らく共通してバフを無効化する能力がある』という事だけは分かった。
「やっぱバフは剥がされるか……!」
「んん?待てトーカ!俺のバフ一部残ってるぞ!?」
「本当か?なんでリクルスだけ……いや、前回はサクラのが残ってたな……サクラ!お前にかけたバフは?」
「ダメ、消されちゃってる」
「どういう事だ……?」
バフを無効化する謎の『聲』と、それでも継続するバフ。
それによって、多少理解しかけていた『聲』の性質について余計に分からなくなる。
「んん?よく見りゃ残ってるのはAGIのバフだけだな。STRのバフは剥がされてるぞ」
「AGIだけ……?そういや、サクラにかけたのもVITへのバフだけだったな……そこら辺に、ヒントがある……のか?」
剥がされるバフと剥がされないバフ。その違いを探るトーカと、そのまわりで臨戦態勢のまま攻め込めずにいる5人を、【狼】は何をするでもなくじっと見つめている。
待たれている。こちらがどう出るか、まるで品定めされているようだと、全員がそう感じた。
「【狼】は……動かない、な。観察されてるみてぇだ」
「あぁ……これもあの【蛇】と同系統なら、一種のイベント戦って事だ。変に刺激するなよ。間違いなく今の俺らじゃ勝てない」
「今なら【白龍砲】を……むぅ、ダメだな。当たる気がしない」
(【蛇】と【狼】……剥がされなかったバフはそれぞれサクラにかけたVIT系とリクルスにかけたAGI……【蛇】はめちゃくちゃな攻撃力でサクラが1発耐えたら消えた……)
「カト姉、無茶な事はしないでね?」
「私だってさすがにそこまで考え無しでは無いぞ!?」
「けど、向こうも動かないしこっちからなんかしないとずっとこうだしな……」
「ねぇ、【狼】2人の話ではもっと遠くにいたんじゃなかった?それが一瞬で目の前に来るってことは、ワープしてくるかめちゃくちゃ速いって事でしょ?どうにかして撃退しないと逃げらんなくない?」
「それもそう、だが……」
(いや、待て。『速い』……?攻撃力の高い【蛇】の『聲』ではVIT系のバフだけ残って、サクラが攻撃を耐えたら【蛇】は消えた……そして【狼】が残すのはAGI……まさか……そういう事、なのか?)
「リクルス!あの【狼】を捕まえろ!」
「あいよ!」
それは、説明も一切していない、トーカの中で自己完結しただけの『仮説』に基づく指示。
しかし、リクルスは何故と問う事も戸惑うことも無く、瞬時に指示に従い駆け出した。
「【加速強化】ッ!サクラはリクルスにAGIバフを頼む!」
「う、うん!【アジリティアップ】!」
トーカとサクラの『付与魔法』による【アジリティアップ】とトーカの自分以外に強力なバフをかける『支援魔法』による【加速強化】を受けたリクルスは、まるで弾丸のような速度で【狼】に向かって突撃した。
「チィッ!アイツ、クソ速ぇ!」
だが、まだ足りない。
今この場にいる中で最もAGIが高いリクルスが3重のバフを受け、とてつもない速度で突撃するも、【狼】は余裕で回避する。
「けど!」
「あぁ!避けた!って事は、これでいい!カレット!当てなくていいから【狼】の足元狙ってぶっぱなせ!」
「あいあい!【風爆槍】!」
リクルスを避けた【狼】の移動先の足元目掛けて、カレットの魔法が撃ち込まれる。
いつも使っている『風魔法』で『火魔法』の威力を底上げした【風炎】系の魔法ではなく、『火魔法』を『風魔法』で包み込み速度と着弾時の爆発による妨害寄りの攻撃に主眼を置いた【風爆】系を使ったのは、カレット自身も自分の役割を説明されるまでもなく理解しているからだろう。
カレットの放った【風爆槍】は、狙い違わず【狼】の足元に着弾し、足場を大きく抉った。
当然のように【狼】はその攻撃も直前で避けていたが、咄嗟の回避だったからか、先程に比べて僅かに遅い。
そして、【狼】が避けた先には既に、リクルスが回り込んでいる。
初日にはトーカ無しではまともに連携も取れないヘボプレイを晒したカレットとリクルスではあるが、時間をかけて経験を積む事で幼馴染としての息の合い様もあって既に連携は阿吽の呼吸とでも言うべき物にまで成長している。
「クソァ!めちゃくちゃな速度で動くクセに足音が全くしねぇ!んだこ……サクラァ!右から来るぞ!」
「えっ?あっ、【ブロッ
ぽーん。と、サクラの首が飛んだ。
残像すら残さない超高速の移動で一気に接近されたサクラは、経験の差故かリクルスの警告に反応が間に合わず、そのまま【狼】の漆黒に染った爪で首を跳ね飛ばされて、そのHPを空にした。
サクラがやられたか……他が奴はヒャッハーの中でも(総合力的な意味で)最弱!
だから他のヒャッハー達が報復に行くね……
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