第180話 『【蛇】』
予約投稿忘れてましたの巻
トーカ達が100万コインで交換した【島】の『森』エリアの深部には、蜷局を巻いた大蛇が待ち構えていた。
汚れひとつない純白の鱗と、対になるようなどこまでも深い漆黒の瞳。そして血のように鮮やかな紅い舌。
サイズはジャジャよりも一回り小さいくらいだろうか。だが、その身に纏う威圧感は決して劣ってはいない。
そんな大蛇との遭遇は、素材は採取できるものの一切敵が湧かなくて退屈だなぁと(メイを除く)誰もが程度の差こそあれど思い始めた矢先だった。
ぽっかりと、不自然に木々の開けたこの空間を作ったのが目の前にいる大蛇だということは、なぎ倒されバラバラに砕かれた木々の残骸を見れば一目瞭然だろう。
遠目から木々の切れ目を見つけて『森』エリアの終わりを予想して進んだ先行していたカレットとサクラは、突如遭遇した大蛇に、より正確にはその大蛇が放つ圧倒的な威圧感に思わず悲鳴を上げてしまった程だ。
すぐにリーシャとリベットも追い付いたが、ふたりと同じように大蛇の存在感に圧倒されてしまった。
そして、それから少し空けてトーカとリクルスも大蛇の前にやってきた。
そして同じように、その存在に気圧される。
まるで人物だけが違うリプレイのように、同じような光景が3度続いた。
尻もちをついてしまったサクラと、動けずにいながらも臨戦態勢を取ったトーカ達の違いは、単純な経験の差だろう。
池の主と戦ったとはいえ、サクラとトーカ達の間にはその一戦だけでは埋められない経験の差があるのだ。
ちなみに、トーカとリクルスからさらに遅れて追い付いたメイは突如聞こえてきた悲鳴に何があったのかとその時ちょうどいた木の後ろからひょこっと顔を出し、大蛇の姿を見ると同時に即座に顔を引っ込めた。
そんな、様々な動きがあっても、大蛇は動かなかった。
別に、その大蛇が死骸だとか抜け殻だったという訳では無い。
間違いなく生きている。だからと言ってこちらになんの興味も示していないのかと言うと、それも違う。
大蛇が纏う威圧感は、一向に収まる気配は無く、トーカ達を威圧し続けている。
しりもちを着くサクラや、臨戦態勢に入るトーカ達、そしてチラッと顔を出してすぐに引っ込めたメイも、間違いなく大蛇の意識に捉えられている。
にもかかわらず、チロチロと血のように赤い舌を揺らすだけでなにかアクションを起こす気配を見せない。
だが、その目はしっかりとトーカ達ひとりひとりを捉えている。当然、即座に隠れたメイの事も見逃していない。
チロチロと舌を揺らしながら、まるで見定める様に大蛇はトーカ達を睨め付ける。
そんな肌のピリ付く様な重い状況が数秒、あるいは数分続き……
『謌代′譛帙∩縺ッ縲蝉ク肴サ�代�
豎コ縺励※貊��縺薙→縺ョ辟。縺�ーク驕�縺ョ蜀�腸縲�
縲蝉ク肴サ�代r遉コ縺帙ら函縺榊サカ縺ウ繧�』
突如、まるで逆再生された音声のような、所々にノイズの走った耳障りな『聲』を大蛇が発する。
そしてーーーーー
ズダンッ!
間違いなくこの《EBO》において、トップクラスのプレイヤーであるトーカ達が反応すら出来ないような速度で、大蛇が尾を叩き付ける。
「っぁ……!」
狙われたのは、リーシャだ。
だが、前動作もほとんどなく瞬時に振るわれた尾による一撃を、リーシャは紙一重で回避していた。
ほぼ無意識の、染み付いた経験による反射的な回避。
避けた後のことを考えない、その時だけを乗り切る泥臭い必死の回避によって、リーシャは散乱する木屑の仲間入りする未来を回避した。
「クソッ!よくわかんねぇがコイツは敵だ!」
この大蛇はなんなのか、あの『聲』は何を意味していたのか、どうしてこの【島】にこんな化け物がいるのか。
そんな、諸々の疑問は浮かぶ余地すら無い。
目の前の化け物からどうにかして生き延びる。
それだけに、意識の全てを集中させる。
「メイはそのまま隠れてろ!サクラは急いで立て!【バフセット:カグラ】!【バフセット:サクラ】!」
「っそが!んだよコイツは!?【鬼人化】ッ!」
「ちょっと!ここにこんなヤツがいるなんて聞いてないわよ!?【扇射ち・待】!」
「今まで戦ってきたどんな敵より強いということ以外何も分からん!【魔法強化・猛撃】!」
「クソ強い蛇とか劣地竜を思い出すなぁ!地味にトラウマなんだよ!【槍演乱舞・構】!」
サクラの特訓に付き合っていたとはいえ、トーカ達も自身の事を疎かにしていた訳では無い。
池の主と戦った時よりも、少しばかり強くなった【カグラ】の全力の臨戦態勢。
今の彼等なら、より簡単に池の主すら倒せる事だろう。
だが、それでもなお、目の前の大蛇を相手にするには足りない。
そう、直感的に理解する。
勝てる勝てないでは無く、生き延びられるか死ぬかの2択。
勝つなんて不可能だと、どうしようもなく分かってしまう。
だからと言って、それで諦めるヒャッハー達では無いが。
しかし、臨戦態勢に入った彼等を大蛇は感情の伺えない漆黒の瞳でトーカ達を見据えている。
『蜷ヲ縲よ�縺梧悍縺ソ縺ッ髣倅コ峨↓縺ゅi縺壹�
謌代′譛帙∩縺ッ縲蝉ク肴サ�代�縺ソ縲�
縲蝉ク肴サ�代r遉コ縺帙ら函縺榊サカ縺ウ繧�』
そして、大蛇が再び『聲』を発する。
「「「「「なっ!?」」」」」
たったそれだけで、トーカ達が身にまとっていた強化が全て解除される。
しかも、ただ解除されただけでなく、それらに消費したMP等も全て回復しており、まるで最初から強化などしていなかったかのように全てが数秒前まで巻き戻っていた。
「どうい
まるで理解の追い付かない現象に、カレットが困惑の言葉を言いかけて、言い切る前に大蛇の尾に叩き潰されて死んだ。
深紅のダメージエフェクトを血のように撒き散らしながら、カレットのHPが呆気なくゼロになる。
「ッ!カレッ
次に、カレットの死に一瞬意識を取られたトーカが尾に横薙ぎに殴り飛ばされて死んだ。
「むちゃくちゃだ!なんなんだテ
次に、一緒で幼馴染2人を殺された事に激昂したリクルスが大蛇に殴りかかり、拳を届かせること無く噛み殺された。
トーカの指示があってから、サクラが立ち上がるまでの数秒で、カレット、トーカ、リクルスの3人が殺された。
「え……これ……どういう事?なんかのイベント……?」
「分からん……が、コイツが理不尽極まりない存在だと言うことは間違いない」
一瞬にして3人が殺されたという状況に、何も分からずいきなり戦闘が始まったという状況に、こちらのバフは全て剥がされるという状況に、いくつものイレギュラーが重なり、リーシャとリベットの思考も纏まらない。
リーシャは弓を、リベットは槍を構えてはいるものの、それ以上動く事が出来ずにいる。
「よく分からない……けど、どうにかしないといけないんだよね?【仕返し】【ガードアップ】」
そんな中で、同じように理解不能な状況に困惑しながらも叩き上げ故に『理解のおよばない現象』について2人よりも耐性のあるサクラは行動を放棄すること無く臨戦態勢に入る。
半月の特訓で染み付いた『とりあえず守りを固める』一連の動作を、半ば無意識に行う。
「っ!ダメ!サクラ、この蛇よくわかんないけどバフは剥がして……くる……あれ?」
そんなサクラを見て、直前にバフを剥がされたばかりのリーシャがサクラに無意味だと告げようとして、気付く。
サクラにかかっているバフは消えていない事に。
今サクラが自分でかけた【仕返し】と【ガードアップ】が剥がされるどころか、バフ総剥がしを食らった時にトーカがサクラにかけた攻撃を一切捨て防御系バフだけを詰め込んだ【バフセット:サクラ】も剥がされていないことに。
「え?サクラのは平気……?どういう事?」
自分達のバフは剥がされて、サクラのバフは剥がされていない。
タダでさえ理解出来ない状況に加わった新たな現象に、タダでさえフリーズ気味だったリーシャの脳が完全にフリーズした。
そう。リーシャは、考えるのをやめた。
「分からないものは分からない!これでい
そして、開き直り切る前に大蛇の尾によってトーカ達の後を追った。
「クッソ!そうだよな!リーシャの言うとおり分からんもんは分からん!今この瞬間を切り抜けることだけを考えろ!」
しかし、言いたいことはしっかりと伝わったようだ。
リベットは自らの頬を叩き、気合いを入れ直す。
純アタッカーのカレットも、バッファー兼ヒーラー兼アタッカーのトーカも、回避盾兼アタッカーのリクルスも、サポーター兼アタッカーのリーシャも死んだ。
不幸中の幸いと言うべきか、残っているのは耐久はそこそこ出来るが火力は1歩劣るリベットと、スロースターターだが最高潮に達すればとてつもない防御力を誇るサクラの2人。
目の前に立ち塞がる大蛇を倒すのが目的なら絶望的だが、生き延びるだけなら最も可能性の高い布陣だ。
「相手はバカみたいな攻撃力と攻撃速度を持ってる、最初の方はどうにか俺が凌ぐから後半の守りは任せたぞ!」
「う、うん!分かった!」
てーれってれー
さくしゃ は あらたなひょうげんほうほう を てにいれた!
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