第179話 『《森》エリア探索』
MMW (メイちゃん・めっちゃ・ワクワク)
トーカ達一行は、木々が生い茂る『森』に足を踏み入れる。
草原の東側にあるこの『森』は、ほとんどのプレイヤーが【始まりの町】から出て最初に足を踏み入れる《長閑な草原》から行ける、あの大亀が出てくる池のある《木漏れ日の森》に近い環境をしていた。
未だに敵性生物の出現は確認されていないが、そこまで深くもなく気軽に散策できるという意味ではこのふたつの『森』はとても似通っていた。
そして、この『森』に行く事を提案したメイはと言うと……
「うはぁ……!思った通りだ……!これはすごい……!」
恍惚とした顔でキョロキョロガサガサと辺りを見回し、物色していた。
一行が……というよりメイが『森』に入って最初に行ったのは、当然といえば当然だかこの『森』から素材が入手できるかの確認だった。
そして、その結果はこのメイの反応を見てわかる通りである。
そう、この【島】での素材の採取が出来てしまったのだ。
記念すべきこの【島】最初の収集素材は、ほとんどのフィールドに生えている『雑草』というアイテムだったが、メイ曰く「《EBO》の雑草は『雑に生えてる草』ではなく『雑に強い草』。いくらあっても困らないしむしろ無限の可能性の第1歩としてはこれ以上ないくらいふさわしい素晴らしい素材アイテムなんだよ。作ろうと思えば『雑草』だけで防具一式作れちゃうんだから(早口)」とのこと。
かつて、トーカが薬草を求めてそこら辺の草を毟ってもちぎった草が消滅するだけで何も手に入れられなかったことがあった。
そうなった理由は単純で、《EBO》においては薬草などの特殊な草を除き、その他大多数の草は全て『雑草』であり、特殊な草は『収集』を持たないプレイヤーが素手でも採取出来るが、『雑草』は『収集』スキルを持っている上で道具を使うか丁寧に抜くかしないと採取できないから、らしい。
この話を聞いて、メイ以外の全員が「なんで薬草とかより『雑草』の方が採取難度高いの……?」と思ったとか思わなかったとか。
「あー、メイ?テンション上がってるのは分かるけど、そろそろ進みたいから『雑草』の採取はまた今度にしてもらってもいいか……?」
「あっ!ごめん!ちょっとワクワクが止まらなくて……!」
放っておいたら延々と草むしりをしていそうなメイに声をかけて、トーカ達はさらに森の中へと進んでいく。
そこまで深くはない、とは言ったが、さすがに『森』の奥へ進めばある程度の険しさは付きまとう。
「結構深い……ってか手付かず過ぎて動くだけでもだいぶキツイなこのも……うぺっ!」
葉を連ねた枝をくぐり抜けたと思ったらそのすぐ後ろにもあった枝に顔を直撃させたリクルスが鬱陶しげに顔に当たった枝をへし折る。
「森系のフィールドならいくつか行ったことあるけどよ、ここまで生い茂ってなかったぜ?」
「そりゃそうだろ。森って言ってもあくまでフィールドだ。ある程度の道はある。けどこっちはそんな事はお構い無しの、本物の手付かずの森だ。規模が小さい分これでもマシな方だと思うぞ」
「わぁーってるけどよぉ……ウザイもんはウザ「待った!」
森の環境に愚痴ってトーカにたしなめられたリクルスは、それでもまだぼやきながらへし折って持っていた枝を放り投げようとして、メイにストップを受ける。
「リクルス、その枝捨てないで僕にちょうだい。多分それもアイテムだから」
「え?マジで?……うわマジだ『細い枝』……ってこんなん何に使うんだよ」
メイの言葉にキョトンとしたリクルスがウィンドウのアイテムリストを調べると、確かにそこには先程まではなかった『細い枝×1』の文字があった。
それに驚きつつ、深い考えもなく何となくで口走ったその一言が、メイの生産職魂に火を付けた。
「何言ってるの!この世に使えないアイテムなんてないんだよ!もし使えないならそれはそのアイテムに使い道がないんじゃなくてこっちが使ってあげられてないだけなんだよ。それに『細い枝』は武器防具から薬品類まで幅広い用途があっていくらあっても困らない素材のひとつだよ。まぁ沢山あって困る素材なんてないんだけど。現にサクラちゃんの装備だって『細い枝』をかなりの量使ってるんだから。それにね、『細い枝』は名前も同じだし同一にスタックされるけど採取時に『切り落として採る』か『手で折って採る』かで若干性質が変わるんだ。切り落とした場合は切断面が滑らかだからなのか繊維にして布にするのに向いてて、手で折った場合は切断面が荒いからか煮込んだりしてポーション系にするのに向いてるんだ。他にも……」
「わかったわかった!無駄なアイテムなんて無いって事だろ!ほら、『細い枝』!」
「そう?『細い枝』についてもまだまだ色々あるけど……まぁいいや。ありがとうね」
「それはまたの機会に!」(トーカが聞くから)ボソッ
早口で延々とまくし立てるメイに、リクルスが早々に白旗を上げた。話の発端となった『細い枝』をメイに押し付けて、無理矢理話を中断させる。
ちなみに、この間誰もリクルスを助けてくれはしなかった。
触らぬ神に祟りなしである。
「なーんかメイの奴今日はテンション高くないか?」
「あー、それなんだけどね。メイってば昨日『世界の職人大集合!衝撃の凄技特集!』みたいな内容の番組をテレビで見たらしくて。元から高い生産欲求がさらに高まってた上にこの未開の【島】だからね。色々混ざりあってスーパーハイテンションモードなのよ」
メイから逃げ出しつつ普段のメイとの差に首を傾げていたリクルスに、恐らくはトーカ達と合流する前から延々と話を聞かされていたのだろう少しげっそりした様子でリーシャが教えてくれた。
メイとリアルでも繋がりのあるリーシャは、普段大人しい分弾ける時はとことん弾けるメイの被害を真っ先に受けるポジションなのだ。
「ちなみに……小声で言ったんだろうけど、ちゃんとキコエテタカラナ?」
「ひぃっ!」
ちなみに、トーカを勝手に身代わりにした事も本人にしっかりとバレていた。
そっと肩に手を置かれて(柔らかい動作とは裏腹に手に込められた力はとても強かった)抑揚の無い声でそう告げるトーカに、リクルスは強い恐怖を覚えた。
「ご、ごべんなざい……」
こうなったらもう残された手段はとっとと謝るしかない。
そんな判断に基き、リクルスは即座に謝った。恐怖か緊張か、若干声は震えていたが。
「いやまぁ別に俺だってちょっとは生産系もかじってるからな。全く興味が無いわけじゃないし、たまにメイに色々教えて貰ってはいるんだが……」
「あー、そういやトーカ『料理』とか『調合』とか持ってたな。『調合』はお前が使ってるとこ見たことないけど。ポーションとかほとんどメイが作ってくれてるし。お前ってこういう細かい設定とか好きだもんなぁ」
リクルスの言う通り、トーカは言わゆる説明書とかまでしっかりと読み込むタイプの人間である。
そして、元から読まないタイプな上に身近に読み込むタイプのトーカがいるからか、リクルスとカレットは説明書とかは全く読まずに四苦八苦するタイプ。そしてトーカに泣き付く。
同じ携帯ゲーム機のソフトを買って一緒に遊んでいた幼少期にはよく見られた光景だ。
「ってあれ?ならなんでそんな乗り気じゃないんだ?むしろ嬉々として語り合うタイプだろ」
「いや、うん。そうなんだけどさ……メイって熱中すると周りが見えなくなるタイプでさ、俺もそんな感じの所あるから。気が付いたらめちゃくちゃ時間経ってた……とか割とあってな」
そう言いながら思い出すのは『味付きポーション』をメイと一緒に作成した時のこと。
今でこそ【カグラ】に取って美味しい『味付きポーション』はごく普通の物となっているが、他のプレイヤーにとって『ポーション』とは未だに味のしないとろみのある液体なのだ。
そんな『味付きポーション』という貴重品を2人で作成した時の事。熱中に熱中を重ねた結果、時たま迷走しつつ平然と十数時間近く実験やら検証やらをひたすら繰り返していたのだ。
他にも、素材やら何やらの明記されない特性だったり、より高品質な物を手に入れる方法だったりの論議で翌日は平日だと言うのに平然と午前3時過ぎまで語り明かす事などもあった。
つまり、『メイと語り明かすのは嫌じゃないが、嫌じゃないゆえに大変なことになる』という事なのだ。
……と、そんな事をつらつらとリクルスに説明したらよく分からないものを見るような目で「お、おう……そうなんだ……」と言われたのだった。
「「うわぁぁぁぁっ!?」」
そんな他愛もない話をしながら先に進んでいたみんなの後を追っていると、前方から完璧にハモったカレットとサクラの悲鳴が聞こえてきた。
「ッ!どうした!」
「サクラ!カレット!」
少し話し込んでいたために最前列にいる2人と空いてしまった距離を、トーカとリクルスは慌てて駆け抜ける。
そして彼女達に追い付いた2人が目にしたのは……
「「なん、だ……コイツ」」
先行していた5人の前に立ち塞がる、蜷局を巻いた大蛇の姿だった。
話中に出てきたポーションの話はだいたいPvP大会イベントが始まる直前の閑話『死活問題』の事ですね
ところで……作者この蛇知らないのですが。
どうして作者が知らないイベントが発生するの……?(必死にプロットを組み直す音)
もうひとつ、活動報告でもちらっと言いましたが作者Twitter始めました
執筆中の嘆きだったり活動報告に書く程でもない報告(3〜10日くらいの投稿感覚の空きについてなど)をぽろぽろ呟いたり呟かなかったりします
感想&アイディアをいただけると作者は泣いて喜びます
あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します